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医療経営情報(2016年11月3日号)

2016/11/9

◆「遠隔診療」の診療報酬を対面と同等に引き上げ
禁煙外来や引きこもりなどの初診にも適用を検討

――経済産業省
経済産業省は、11月2日に開いた産業構造審議会新産業構造部会で、「遠隔診療」のさらなる活用を促す考えを明らかにした。診療報酬を対面診療と同等に引き上げるほか、禁煙外来や引きこもりなども遠隔診療と適用したい方針だ。

遠隔診療とは、インターネットなどを利用してビデオチャットなどで診察を行うこと。以前は原則禁止とされ、離島や僻地の患者など「やむを得ない場合」にのみ適用されてきた。
しかし、昨年8月に厚生労働省が「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」と題した通達を各都道府県知事に対して実施。事実上、遠隔診療は解禁となっている。

とはいえ、解禁後1年以上が経過したものの、医療機関側に遠隔診療を推進する目立った動きは見られない。なぜならば、現行の診療報酬制度が、遠隔診療の利用を考慮したものとなっていないからだ。「遠隔診療は、対面診療と比べて診療報酬加算が少ない」と、医療機関にとって負担が増えることを危惧する指摘も相次いでいた。そうした意味で、対面診療の診療報酬と同等に引き上げる今回の方針は、注目に値する。

また、どこまでが遠隔診療の対象なのかも、これまでの議論の対象だったが、「禁煙外来」「引きこもり」と具体的なキーワードを盛り込んだことで、今回の方針は一本の道筋を示したと言えよう。同部会では、「『禁煙外来』は目的・診断が明らかであり、『引きこもり』は初診の通院も困難」とその理由も明らかにしており、これら以外の場合でも、同様の理由があれば適用される可能性をにじませている。

さらに、プライバシー確保を前提としながらも、「医療機関の施設外」でも遠隔診療を行うことが可能か否かの検討も開始。民間企業とのコラボレーションなど、柔軟な体制で実施できる可能性も見えてきている。実際、インターネットやスマートフォンアプリを活用した医療相談サービスを行う民間企業は続々と増えてきており、オンライン医療事業の実施は具体的な検討段階に入ってきていると言えよう。すでに、中長期的な医療機関の運営戦略を考えるうえで、「遠隔診療」は検討すべき課題となってきているのではないだろうか。

◆医療機関や飲食店、「禁煙規制」に反対意見相次ぐ
厚労相は「スモークフリー社会」実現へ強い決意を

――厚生労働省
10月31日、厚生労働省の受動喫煙防止対策強化検討チームワーキンググループは、第1回の公開ヒアリングを開催。消費者や飲食業界など10の団体から意見を聞いたが、経営への影響を考慮した業界団体から反対意見が相次いだ。しかし、塩崎恭久厚生労働大臣は2019年までに「スモークフリー社会」を実現すると明言。全面禁煙化は避けられない情勢だ。

受動喫煙防止策が強化される背景には、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催がある。世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピック・パラリンピック開催都市に、たばこの煙がない「スモークフリー」を求めているため、今年8月には「喫煙と健康影響に関する報告書(たばこ白書)」を15年ぶりに改訂。10月12日には規制強化案を発表し、医療機関には敷地内のすべてを禁煙とする「敷地内禁煙」を、飲食店やホテル、駅、空港などは建物内に壁などで完全に仕切られた喫煙室の設置を求めた。禁止場所で喫煙した場合は、該当する個人だけでなく施設管理者にも罰金を課す厳しい方針を示していた。

しかし、10月31日の公開ヒアリングでは、外食産業が顧客離れを危惧したほか、日本私立大学団体連合会は「喫煙室の設置は経営を圧迫する」と主張。四病院団体協議会も、「療養病床は患者にとって生活の場に近い」とし、敷地内すべてを禁煙とするのではなく、屋外に喫煙室を設けるなどの緩和策提示を求めた。

一方、塩崎厚生労働大臣は公開ヒアリング翌日の記者会見で「病院団体などでも、個別の配慮を求めつつも、規制強化についての方向性はご理解いただいた」と発言。そのうえで「日本の受動喫煙防止対策は世界最低レベル。それを重く受け止めたうえで、東京オリンピック・パラリンピック前年の2019年ラグビーワールドカップまでに、スモークフリー社会実現に向けた必要な準備を進めたい」とした。
今年9月、10月には、禁煙外来を実施している病院の屋外で職員が喫煙したことを理由に、過去にさかのぼっての診療報酬返還が求められたこともあり、同省が並々ならぬ決意で禁煙規制に取り組んでいることが窺える。そのため、四病院団体協議会の主張通りに「例外」が認められる見込みは薄い。現時点から職員はもちろん、患者にも「医療機関は敷地内も含めて全面禁煙」である旨を周知徹底させることを考えたほうが良さそうだ。

◆小泉進次郎議員ら、「健康ゴールド免許」の導入を提言
定期的な健康診断受診者の自己負担額を引き下げへ

――自由民主党 2020年以降の経済財政構想小委員会
10月26日、自由民主党の「2020年以降の経済財政構想小委員会」で、「人生100年時代の社会保障へ」と題した提言が発表された。この中で、定期的に健康診断を受けた人に「健康ゴールド免許」を付与し、医療費自己負担額を軽減するなど、自助を促すインセンティブの強化を提案。同時に、湿布薬やうがい薬などを全額自己負担にするなど、公的保険の範囲を見直すことも促した。

同委員会は、自由民主党の若手議員を中心に構成されており、事務局長を小泉進次郎衆院議員が務める。小泉議員は、同委員会を設置したきっかけとして。2015年度の補正予算で高齢者に対する3万円の臨時給付金を決めたことを挙げ、社会保障のあるべき姿に危機感を抱いたと説明。年々増加を続ける社会保障費を抑制することで、一時的には痛みを伴うことになる可能性を踏まえつつ、将来の安心を確かなものとするために社会保障改革が必要だと強調している。

今回の提言も、その考えに則ったもの。「健康ゴールド免許」に該当する人を増やすことで、医療機関にかかる患者数を減らし、結果的に医療費の削減につなげたい考えだ。提言の中では、「現行制度では、健康管理をしっかりやってきた方も、そうではなく生活習慣病になってしまった方も、同じ自己負担で治療が受けられる」ようでは自助を促すことが困難だと指摘。健康診断を徹底し、早い段階から保健指導を受けることが重要だとした。

現在、医療費の自己負担割合は、6歳までは2割、6歳から70歳までは3割、70歳以上は2割、75歳以上は1割となっている。ただし、70歳以上でも「現役並み所得者」は3割となっている。財務省は、10月4日の財政制度等審議会で高齢者の公平負担を求めており、今後は一律3割を視野に入れていると見られる。その中で「健康ゴールド免許」を導入することは、制度の混乱を招く可能性もある。どの程度、健康診断を受けたことで「ゴールド免許」と認めるのか、その基準も明らかにされていない。
しかし、40兆円を超えている医療費を抑制するためには、抜本的な改革が求められており、こうした提言が医療費のあり方を問う一石になることは間違いないだろう。こうした提言を受け、関係省庁がどのような動きを見せていくのか、今後も目が離せない。

◆オプジーボの値下げ幅、50%程度も視野に
新薬開発の歯止めになることが懸念される

――厚生労働省
厚生労働省は、11月9日に開催する中央社会保険医療協議会で、がん治療薬「オプジーボ」(小野薬品工業)の薬価引き下げ幅を拡大する方向で検討に入った。10月初旬には、最大25%の引き下げ方針を明らかにしたが、50%程度まで引き下げることも視野に入れている。すでに、小野薬品工業の株価にも大きな影響が出ており、他の製薬会社から反発が出ることが予測される。

免疫反応を活用してがん細胞に働きかけるオプジーボは、当初の悪性黒色腫(メラノーマ)から肺がん、腎臓がんと使用領域を広げており、対象患者数が数百人から数万人へ増加。体重60キロの男性患者に1年間投与する場合、3500万円かかると試算されているため、医療費をさらに増加させる要因につながるとされている。そこで、来年4月の定期価格改定を待たずに緊急で薬価を引き下げる方針を10月初旬に固めていた。

いったんは、同協議会でも最大25%引き下げの方針を固めたものの、アメリカでは日本の4割程度、イギリスでは2割程度と日本での価格が高額なことから、さらなる引き下げ検討を開始した次第だ。海外の基準に合わせて引き下げるとすると、現状から50%近い引き下げとなる可能性もある。
こうした動きに対して、株式市場も敏感に反応。小野薬品工業の株価は、オプジーボ価格の引き下げ幅が一度は決まった10月7日には3,251円を付けたものの、11月4日時点では2,508円まで下げており、先行きが不安だと市場が判断しているのが窺える。
 
一方で、10月21日の経済財政諮問会議では、ジェネリックの使用割合を17%底上げすることで約6,000億円の医療費抑制が可能と試算。格安な医薬品の使用をさらに促進する方針を明らかにしている。
患者側にとっては、薬価引き下げが実行されても負担額が変わらないだけに、気になるのは小野薬品工業を始めとする製薬会社の反応だ。高額な治療薬がターゲットとなっていることで、新薬開発を忌避する動きが出てくることも十分に予想される。医療費抑制は社会保障改革を行ううえで欠かせないが、薬価引き下げは製薬会社の経営を直撃するだけに、慎重な議論が必要なのではないだろうか。

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