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医療経営情報(2018年8月23日号)

2018/9/6

◆「データヘルス改革」、2020年度までに8つのサービスの提供を目指す 医療情報共有や健康スコアリング、がんゲノム、科学的介護、AIなど

―厚生労働省 データヘルス改革推進本部
厚生労働省は、7月30日にデータヘルス改革推進本部を開催。2020年度までに8つのサービス提供を開始することを目指すとした。8つのサービスは「保険医療記録共有」「救急時医療情報共有」「健康スコアリング」「データヘルス分析サービス」「科学的介護サービス」「乳児期・学童期の健康情報」「がんゲノム」「AI」。

現状、医療保険や介護保険を実施しているため、健康・医療・介護に関するデータは膨大な量が存在する。しかし、別々に管理しているため、たとえば医療と介護の領域にまたがったサービスの提供は難しい。そこで、関連データの連結を行い、適切な分析を行うことで医療・介護に関する施策を最適化していくのが政府および厚労省の狙いだ。当然、膨張し続ける社会保障費を抑制することにつなげたい思惑もある。

たとえば、複数の医療機関や薬局で患者の診療情報・服薬情報を共有する「保険医療記録共有」は、無駄な検査や投薬を減らすことが目的。各医療機関・薬局からのデータは、マルチベンダー対応を行ったうえで自動的に収集し、クラウド保存する。閲覧ビューアを共通化することで、広域連携できるネットワークを構築することを目指している。「救急時医療情報共有」では、医療的ケア児へ適切な医療提供を行うことも視野に入れている。

「健康スコアリング」は、健康寿命延伸のための取り組み。企業の健康経営との連携を推進することで、従業員の健康状態や医療費の「見える化」を実現。自治体と企業で健康課題を共有し、予防・健康づくりに取り組むことで、生活習慣病患者などを減らし、社会保障費の抑制につなげる。さらに、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)
と介護データベース(介護DB)との連結解析を目指す「データヘルス分析サービス」を展開することで、効率的な医療・介護の提供体制を整備する。「科学的介護サービス」「乳児期・学童期の健康情報」を組み合わせることで、全世代の健康管理が可能となる。

「がんゲノム」は、死因第1位のがん対策として実施。「個人に最適化された患者本位のがん医療」を目指す。ゲノム情報や臨床情報を収集・分析することで、革新的医薬品の開発も推進する。2020年度までにがんゲノム情報管理センターを本格始動させる意向も明らかとなっている。

「AI」に関しては、重点6領域(ゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援)を中心に、社会実装へ向けた取り組みを進める。同時に、研究者や民間企業が利活用できるように、AI開発のためのクラウド環境も整備。製薬企業とIT企業とのマッチングを進めるほか、画像データベースの構築なども具体的な方針としてあげられている。

◆2016年度の特定健診実施率、51.4%と目標値に届かず
特定保健指導実施率も依然として20%以下にとどまる

―厚生労働省
厚生労働省は、7月30日に「2016年度特定健康診査・特定保健指導の実施状況」を公表。特定健康診査(特定健診)の実施率は51.4%で、2015年度と比べ1.3ポイント上昇した。特定保健指導の実施率は18.8%と、こちらも2015年度と比べて1.3ポイント上昇している。

特定健診の対象者数は約5,360万人で、そのうち受診者数は2,756万人。受診者数は2015年度に比べて約50万人増加している。しかし、政府は2023年度までに実施率70%を目指している目標にはほど遠い。2008年度には38.9%だったため、8年間で12.5ポイントしか上がっておらず、2023年度の目標達成には黄信号が灯ったといえる。

特定保健指導の実施率はより深刻な状態だ。約469万人の対象者のうち、指導終了まで至ったのは約88万人。実施率は18.8%と20%を割っている。政府は2023年までに実施率45%を達成することを目指しているが、こちらも厳しい状況と言わざるを得ない。

特定健康診査は、2006年からメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者とその予備軍の減少を目的として開始された。該当者および予備軍とされた人に対して行うのが特定保健指導。医師や保健師により、個々の特性やリスクに応じた「動機付け支援」や「積極的支援」を行っている。「動機付け支援」は、個別面接またはグループ支援を原則1回行い、対象者が自らの生活習慣を振り返りつつ行動目標を立てるもの。その評価は半年後に電話やメール、ファックス、手紙などの通信で行う。「積極的支援」は、「動機付け支援」に加えて3カ月以上定期的かつ継続的な支援を実施するものだ。

昨年、厚労省は実施率を向上させるため、運用の見直しを検討。ICTを活用した遠隔での初回面接を推進するなど、受診者の利便性を図る方針を掲げている。一方で、保健師の絶対数が足りないという現実もあり、特定保健指導の積極的な推進が難しいというのが現場レベルの認識でもあろう。とはいえ、翻って考えると、医療機関にとってはビジネスチャンスでもある。予防医療が診療報酬で手厚く評価されるようになってきていることもあり、事業拡大の選択肢に入れておくべきではないか。

◆厚労省、臨床実習での医学生の医行為を再度整理         昨年の見直しを経て、研究報告を取りまとめ

―厚生労働省
 厚生労働省は、7月30日に医政局長名で「医学部の臨床実習において実施可能な医行為について」と題した通知を発出。医学生が臨床実習で実施できる医行為を「必須項目」「推奨項目」に分類し、一覧表にして例示した。昨年、27年ぶりに見直された医行為を整理検討し、研究報告された内容を取りまとめたものだ。

 一覧表は「診察」「一般手技」「外科手技」「検査手技」「救急」「治療」に分かれている。必須項目を見ていくと、「診察」ではバイタルサインチェックや眼底鏡、乳房診察、直腸診察、前立腺診察、高齢者のADL評価や総合機能評価など、「一般手技」では気道内吸引や末梢静脈確保、胃管挿入、尿道カテーテル挿入・抜去など、「外科手技」では皮膚縫合や抜糸、止血処置、手術助手など、「検査手技」では超音波検査(心血管、腹部)や経皮的酸素飽和度モニタリングなど、「救急」では気道確保や胸骨圧迫など、「治療」では処方薬オーダーや食事指示、酸素投与量の調整などが盛り込まれている。

 推奨項目は、総じて必須項目よりも少ない。「診察」では患者・家族への病状説明や分娩介助、直腸鏡・肛門鏡、「一般手技」ではギプス巻き、小児からの採血、カニューレ交換、浣腸、「外科手技」は膿瘍切開、排膿、嚢胞・膿瘍穿刺(体表)、創傷処置、熱傷処置、「検査手技」は血液型判定、交差適合試験、アレルギー検査(塗布)、発達テスト、知能テスト、心理テスト、「救急」は電気ショック、気管挿管、固定など整形外科的保存療法、「治療」は健康教育となっている。

 臨床実習での医学生の医行為は、1991年に厚労省が策定した「前川リポート」に基づいて行われてきた。27年ぶりに見直しへと踏み切ったのは、診療参加型臨床実習が国際的にスタンダードとなってきているからだ。加えて、医学生が自信を持ってできる医行為があまりにも少ない現状もあった。厚労省の調査によれば、「自信を持って行える」と医学生が回答した医行為は、もっとも多い「皮膚洗浄」でも35.9%、次いで「バイタルサインチェック」の25.6%、「心電図検査」の24.9%。こうした意識の学生が、そのまま医師として現場に出ていくのは、医療の安全性という観点からも望ましいものではない。ただ、たとえば気管挿管が「推奨項目」にとどまっているなど、現場で医師に求められる技能が本当に修得できる臨床実習となっているかどうかは疑問が残る。プロフェッショナルならではの手技が修得できる臨床実習にするため、さらなる見直しが必要となってくるのではないか。

◆国立がん研究センター、がん医療の標準診療実施率を公表 乳がんの乳房切除術後の放射線療法は66.6%と4.5ポイント低下

――国立研究開発法人国立がん研究センター
 国立がん研究センターは8月2日、主要な5つのがん(胃・大腸・肺・乳腺・肝臓)と臓器横断の支持療法で選定したがん医療の標準診療・検査9項目の実施率についての調査結果を発表。ほとんどの項目で大きな変化はなかったものの、乳がんの乳房切除術の再発高リスク症例に対する術後放射線療法の実施率は4.5ポイントも低下。66.6%の実施率にとどまった。放射線療法を不要とする学説が出てきていることも影響していそうだ。

 この調査は、がん診療連携拠点病院を中心とする全国424施設で、2014年にがんと診断された患者56万人を対象に行われたもの。2011年から調査を行っており、今回が4回目となる。がん診療連携拠点病院の調査参加率は68%と前年に比べてほぼ横ばいだったものの、都道府県推薦病院が18施設から131施設と大きく増加。症例数も11万人増えている。

 標準診療実施率は、9項目中6項目で90%以上をマークしており、もっとも実施率が上昇したのは臓器横断指標(制吐剤の使用の有無)で74.0%から76.3%へと2.3ポイント上昇した。一方、著しく実施率が低下したのが前述した乳がんの乳房切除術の再発高リスク症例に対する術後放射線療法の実施率。国立がん研究センターは「標準診療を実施するか否かは、ステージや全身状態だけではなく様々な要素により判断されます」とし、結果についての解釈には注意を払う必要があるとしているが、他の項目の実施率にあまり動きがないことを踏まえると、リスクを回避する傾向が強まったと判断せざるを得ない。

 乳房切除後の放射線療法については、アメリカを中心に否定的な研究が相次いでいる。とりわけ、リンパ節転移が1カ所のみといった早期の乳がんに対しては、再発リスクが低いとの研究結果が多い。今年の米国腫瘍臨床学会年次総会でも、早期乳がん患者の7割は化学療法が不要であるとの臨床試験結果が示されている。

 がん医療水準を向上させるには、国立がん研究センターが示すように、標準診療の実施率を評価していくことも確かに重要だろう。しかし、最新のエビデンスを検証し、迅速に現場での診療に反映させていくことも忘れてはならない。穿った見方をすれば、がん診療連携拠点病院の調査参加率が7割未満と少ないのは、そうした現場の心情があるからとも考えられる。がん医療の「均てん化」にこだわるだけでなく、柔軟に最新医療を吸収し最適化していく仕組みづくりも、今後は求められるのではないだろうか。

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