ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報 2015年6月11日号
◆医療費総額を地域ごとに算定、総額制の検討を
医療費抑制へたばこ・酒・砂糖の課税強化も
――厚生労働省
2035年までの中長期的な健康対策や医療制度の将来像を描く厚生労働省の「『保健医療2035』策定懇談会」(座長・渋谷健司東大大学院医学系研究科教授)は6月9日、「医療費の総額を地域ごとに算定し、総額を上回った場合は診療報酬を引き下げる仕組み」~「医療費総額制」案をとりまとめた。
2035年には、「団塊ジュニア」の先頭が65歳に達し始める初年とみなしている。これまで「『保健医療2035』策定懇談会」は医療費の抑制に向けて、いわゆる団塊ジュニアが65歳に達し始める2035年までに実現すべき対策を取りまとめる作業を行ってきた。
『保健医療2035』策定懇談会」がまとめた提言案は、「医療費の抑制に向けて、人口構成などをもとに医療費の総額を地域ごとに算定し、総額を上回った場合は、地域全体の医療機関に支払う診療報酬を引き下げる仕組みの導入を検討する」などとした対策を柱としている。国民が医療機関で病気やケガの治療を受けるのにかかった費用の総額を示す「国民医療費」は、毎年6,000億円以上のペースで増え続けており、平成24年度には39兆2,000億円余りに達している。医療費抑制は喫緊のテーマとなっている。
提言案は、都道府県単位で見ると、1人当たりの医療費におよそ1.6倍のばらつきがあることなどから、人口構成などをもとに、医療費の総額を地域ごとに算定し、総額を上回った場合は、地域全体の医療機関に支払う診療報酬を引き下げる仕組みの導入を検討するとした。たとえば重病や難病は軽くする一方で、かぜなどの軽い症状では患者の自己負担の割合を高くすることも盛り込んだ。総じて入院患者の自己負担を引き上げる一方、在宅で治療を受ける患者の自己負担は引き下げ、入院の長期化を抑えることも検討する。
価格の安いジェネリック医薬品(後発薬)の使用拡大目標について、厚労省は5月に公表した「2020年度末に80%以上」から転換し、2020年度達成といった「前倒し」の方針を固めた。当面は20年度末との目標を維持するが、17年度末に後発薬の使用状況などを検証して判断する。これも後発薬の使用拡大が広がらず医療現場には「掛け声」だけのようにしか響いてない現状に国は業を煮やしている。
また健康に影響するたばこやアルコールに加え、マーガリンなどに比較的多く含まれ、取りすぎると心筋梗塞などのリスクを高めるとされる「トランス脂肪酸」を含む食品などへの課税強化を検討すべきだとしている。現在の課税は、たばこ1本約12円、酒は種類で異なるがビールなら1缶(350ミリ・リットル)で77円、砂糖は消費税のみだ。提言案は、具体的な課税方法などには言及していないが、「あらゆる財源確保策を検討していくべきだ」と指摘した。課税強化で、酒の飲み過ぎや砂糖の取りすぎの防止などにつなげたいとしている。提言案の本意は、具体的な課税方法などには言及していないが、「あらゆる財源確保策を検討していくべきだ」と指摘しているところにあり、課税強化は不可避の情勢といえる。
これを受けて厚労省は今後、関係団体から幅広く意見を聞くなどして、政策の具体化を進めたいとしている。 提言案を近く正式決定し、塩崎厚生労働相に提出する。厚労省は、提言を実行するため、省内に推進本部を設置し、関係する財務省などとの調整を進める方針だ。
◆東京圏は急激な高齢化で介護深刻、「高齢者に地方移住を」
日本創成会議が提言 2025年には介護人材90万人不足
――日本創成会議
産業界、大学、元官僚の有識者、研究者らによる民間主体の日本創成会議(座長:増田寛也氏・元総務相)の首都圏問題検討分科会は6月4日、近い将来、東京圏全体で介護施設等の不足が深刻化するおそれがあり、東京圏(一都三県―東京、神奈川、埼玉、千葉)の高齢者が希望に沿って地方へ移住できるようにすべきなどとする提言「東京圏高齢化危機回避戦略」を公表した。
同会議は政策発信を目的とする組織で、国の地方創生施策への影響力もあり、2011年の東日本大震災を機に発足。2014年には「ストップ少子化・地方元気戦略」を発表している。首都圏問題検討分科会の座長には本会議と同様、増田寛也座長がついている。今回まとめた「東京圏高齢化危機回避戦略」は安倍首相、閣僚のなかでも地方創生に深くかかわる担当者たちに報告される。
報告のポイントは2925年の介護需要が現在(2015年)に比べ45%増え、172万人に上ると試算した。これは全国平均(32%増)を大きく上回り、他地域に比べ突出している。入院需要も21.8%増加する。これに対して東京圏の1都3県では今後、団塊の世代が大量に高齢化。医療・介護の受け入れ能力が全国平均よりも低く、介護施設・人材等の不足が起こり、したがい今から地方移住を促す施策の推進などを提言している。
推計値によると2020年には高齢化率が26%超となり、後期高齢者は今後10年間で175万人増と、全国の増加数の3分の1を占める。これにともない、深刻化する東京圏全体で介護施設の不足。2015年は都区部の不足を周辺地域が補っているが、2025年以降、東京圏全地域でマイナスとなり、2025年時点では1都3県で13万人分余りのベッド数が不足する。また、2025年度においては医療介護職員も東京圏で必要な人材を全国の3分の1程度と見込むと、80万~90万人の増員が必要と見込んでいる。
分科会は、東京圏の高齢化問題への対処は日本全体の将来像を左右するとして、次のような方向性を打ち出した。
(1)医療介護サービスの「人材依存度」を引き下げる構造改革、
(2)地域医療介護体制の整備と高齢者の集住化の一体的促進、
(3)1都3県の連携・広域対応が不可欠、
(4)東京圏の高齢者の地方移住環境の整備。
(3)では、1都3県と5指定都市の連携による、高齢者について地域医療介護体制の整備と住まいの確保に関する広域的な対策を盛り込んだ「東京圏高齢者ケア・すまい総合プラン(仮称)」の策定を提唱。(4)では、移住関心者に対し、ワンストップ相談窓口の整備や移住に伴う費用の支援、お試し移住支援などを推進。さらに、定年前からの勤務地選択制度や地方移住(二地域居住を含む)を視野に置いた老後生活の設計の支援などを提言している。
◇移住候補の41地域(各地域の中心都市)
道府県 各地域の中心都市
【北海道】函館、室蘭、旭川、北見、帯広、釧路
【青 森】弘前、青森
【岩 手】盛岡
【秋 田】秋田
【山 形】山形
【新 潟】上越
【富 山】富山、高岡
【石 川】金沢
【福 井】福井
【京 都】福知山
【和歌山】和歌山
【鳥 取】鳥取、米子
【島 根】松江
【岡 山】岡山
【山 口】山口、宇部、下関
【徳 島】徳島
【香 川】高松、坂出、三豊
【愛 媛】新居浜、松山
【高 知】高知
【福 岡】大牟田、北九州
【佐 賀】鳥栖
【長 崎】長崎
【熊 本】熊本、八代
【大 分】別府
【鹿児島】鹿児島
【沖 縄】宮古島
◆薬局の役割とは?健康情報拠点薬局の検討会始動
今夏めどに新たな可能性の方向性を定める
――厚生労働省
厚生労働省は6月4日、「健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会」の初会合を開催した。検討会の座長には昭和薬科大学学長の西島正弘氏がついた。今後1か月に2回くらいの割合で4、5回開催し、今夏ごろまでに方向性を取りまとめる方針という。
町中に点在する薬局に、健康情報拠点という冠をつけて新たな機能の可能性を探るのが検討会の役目。この日は初会合で、言葉に新鮮な響きがある反面、もともとの狙いであるセルフメディケーション(自己治療―広範囲な健康管理)の推進がどこまで進んでいくのか、推進力の源となる国、薬局、薬剤師、消費者などが共通課題に向け、どこまで深耕できるのか、たとえば「残薬問題」一つとってみても、患者の意向もあって適切な答えが出ないなど検討会の責務は消して軽くはない。
そもそも健康情報拠点薬局とは、2013年6月14日に閣議決定した「日本再興戦略」のなかで、「セルフメディケーションの推進のために薬局・薬剤師の活用を促進する」と示された。2014年1月に日本医療薬学会が、厚生労働科学研究費補助事業としてまとめた「薬局の求められる機能とあるべき姿」を公表している。描かれた姿は薬局・薬剤師を活用したセルフメディケーションの推進が盛り込まれたことに由来し、地域に密着した、健康情報拠点としてふさわしい薬局を意味するとされた。
次に2014年6月24日に閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2014」の中短期工程表では、2015年度中に、充実した設備などを有する薬局を住民に公表する仕組みを検討するとされている。それを受けてこの検討会では、健康情報拠点薬局について検討することを目的に討議を進めていこうという狙いある。
厚労省は、2014年度は2億4000万円の予算を計上し、「薬局の認定制度」(高知県)、「高齢者等の残薬 対策事業」(埼玉県)、「在宅患者マッチング事業」(東京都)などのモデル事業を実施した。2015年度もモデル事業や基準策定のために2億2000万円を計上している。
初会合では、健康情報拠点薬局に関して、次の「検討事項」が示され、次の4項目で話し合うことが決まった。
(1)健康情報拠点薬局(仮称)定義(日本再興戦略や地域包括ケアシステムにおいて、薬局・薬剤師に求められている役割をふまえることなど)。
(2)同薬局の基準(2014年度の健康情報拠点事業の好事例、薬局における健康情報提供状況に関する実態、地域包括ケアへの薬局の参画状況に関する実態をふまえることなど)。
(3)同薬局の公表の仕組み(薬局機能情報提供制度といった既存の枠組みを利用した公表の仕組みをふまえる)。
(4)名称(上記すべての検討事項をふまえたうえで、国民にわかりやすい名称の検討が必要と考えられる)。
この日の初回は各委員が自由に意見を述べ、「薬局の本来業務とは何か」「薬局は儲け主義から離れてほしい」などの意見が出た。日本医師会常任理事の羽鳥裕氏は、モデル事業として例示された埼玉県の残薬対策事業について「薬局の本来の仕事なので、取り立てて素晴らしいというのはおかしい」と指摘。
座長の西島氏は「臨床薬学分野では、調剤も重要だが、医師を超えるような医薬品情報を薬剤師がしっかり持つことが重要。薬剤師は情報提供者として活躍しなくてはならない」と指摘した。事務局である厚労省医薬食品局の担当者は「薬局の基本的な機能をしっかり議論し、その機能を果たしてもらった上で、健康相談に対応できるようにしていきたい」と答えた。
NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏は、「患者の声を聞くと、薬の相談でも薬剤師ではなくドクター相手が多い。薬局が自由に選べるということや、処方せんが4日間有効ということも知らない。薬剤師の役割の見える化が必要」と述べた。
なお前出の日本医療薬学会が、厚生労働科学研究費補助事業としてまとめた「薬局の求められる機能とあるべき姿」が参考となろう。その研究では、 健康情報拠点として果たすべき役割として、(1)薬局利用者本人、またはその家族等からの健康や介護等に関する相談を受け、解決策の提案や適当な行政・関係機関への連絡・紹介を行っている、(2)栄養・食生活、身体活動・運動、休養、こころの健康づくり、飲酒、喫煙など生活習慣全般に係る相談についても応需・対応し、地域住民の生活習慣の改善、疾病の予防に資する取組を行っている――が提示されている。これらが今後の検討会でベースになる可能性もある。
◆国民健康保険の財政基盤の強化へ“国保再建一括法”
入院食事代など患者の負担増も―医療保険改革法成立
国民健康保険(国保)の財政基盤を強化することを柱とする医療保険制度改革関連法が5月27日に成立したが、これは国民健康保険法など5本の改正法をまとめた一括法で、「国保再建を狙う」を旗印に自民、公明、維新の党などの賛成多数で可決され、成立したもの。ただし患者の負担増につながる見直しが盛り込まれている。
たとえば入院時の食事代値上げについて厚生労働省は、対象者を年間70万人と見積もる。保険給付の削減効果は2018年度に約1,200億円になると見込む。いま全国一律で原則1食640円。自己負担は260円だ。この自己負担額が難病などの患者を除いて2016年度から360円、2018年度からは460円に上がる。住民税非課税の低所得者はいまの負担額(210円か100円)のままとする。
紹介状なしで大病院を受診する人は、2016年度から新たに定額負担が必要になる。対象は大学病院を中心とした「特定機能病院」やベッド数500床以上の病院を想定する。
負担増の主因は大企業の会社員らが加入する健康保険組合(健保組合)による後期高齢者医療制度への拠出金負担が増えるため、保険料率を引き上げる健保組合が相次ぐと予想されるからだ。入院時の食事代引き上げなどの患者負担増加も盛り込まれたのは、改正法の典型例ともいわれる。
自営業者や無職、非正規労働者ら約3,500万人が加入する国保は、高齢者の増加で医療費の支出が増える一方、加入者の平均所得が低いために保険料収入が伸びないという構造的な問題を長年抱えている。同法では、大幅な赤字を抱える国保の制度を安定させるため、2018年度から運営主体を現在の市町村から都道府県に移管する。公費による財政支援を拡充し、17年度から年1,700億円、18年度以降は年3,400億円を投入する。
●持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案の概要(厚生労働省)
【施行期日】平成30年4月1日(4①は平成27年4月1日、2は平成27年4月1日及び平成29年4月1日、3及び4②~④は平成28年4月1日)
1.国民健康保険の安定化
○国保への財政支援の拡充により、財政基盤を強化
○平成30年度から、都道府県が財政運営の責任主体となり、安定的な財政運営や効率的な事業の確保等の国保運営に中心的な役割を担い、制度を安定化
2.後期高齢者支援金の全面総報酬割の導入
○被用者保険者の後期高齢者支援金について、段階的に全面総報酬割を実施
(現行:1/3総報酬割→27年度:1/2総報酬割→28年度:2/3総報酬割→29年度:全面総報酬割)
3.負担の公平化等
①入院時の食事代について、在宅療養との公平等の観点から、調理費が含まれるよう段階的に引上げ(低所得者、難病・小児慢性特定疾病患者の負担は引き上げない)
②特定機能病院等は、医療機関の機能分担のため、必要に応じて患者に病状に応じた適切な医療機関を紹介する等の措置を講ずることとする(紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入)
③健康保険の保険料の算定の基礎となる標準報酬月額の上限額を引き上げ(121万円から139万円に)
4.その他
①協会けんぽの国庫補助率を「当分の間16.4%」と定めるとともに、法定準備金を超える準備金に係る国庫補助額の特例的な減額措置を講ずる
②被保険者の所得水準の高い国保組合の国庫補助について、所得水準に応じた補助率に見直し(被保険者の所得水準の低い組合に影響が生じないよう、調整補助金を増額)
③医療費適正化計画の見直し、予防・健康づくりの促進
・都道府県が地域医療構想と整合的な目標(医療費の水準、医療の効率的な提供の推進)を計画の中に設定
・保険者が行う保健事業に、予防・健康づくりに関する被保険者の自助努力への支援を追加
④患者申出療養を創設(患者からの申出を起点とする新たな保険外併用療養の仕組み)。持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく措置として、持続可能な医療保険制度を構築するため、国保をはじめとする医療保険制度の財政基盤の安定化、負担の公平化、医療費適正化の推進、患者申出療養の創設等の措置を講ずる。