大阪市中央区 上田公認会計士事務所の上田です。
少しずつ暑さが本格化してまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、本日は 佐藤 優氏のご著書 『知性とは何か』という本をご紹介します。
『知性を軽視する現下日本の風潮は、社会を弱くする。』
書店でふと目にした一文から、「知性」とは何か、ということを改めて考えさせられ、この作品を手に取りました。
在ロシア大使館三等書記官を務めた著者佐藤氏は、「知性」の重要性を1991年ソ連崩壊前後のロシアで実感したと記しています。
ソ連体制の掲げていた科学的共産主義が国民の心をとらえなくなっているにもかかわらず、ソ連共産党の面々はその状況を認識することができなかった。それは、自らが欲するように世界を理解してしまう『反知性主義』の罠にとらわれてしまったからである。(本書あとがきより)
佐藤氏の定義する「反知性主義」とは、「実証性と客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」という意味です。本書では、反知性主義の具体的な危険性の例として、様々な国家規模の問題が挙げられていました。
この反知性主義のもたらす問題は、決して、国家のような大規模な場合にのみ当てはまるものではないと私は感じました。合理的・客観的視点に欠けてしまうこと、他者との関係性を等身大に見つめる努力を怠ってしまうこと、自分が属する環境にとって都合の良いように物事を解釈してしまうこと。いずれも、「自分は大丈夫だろうか」と考えさせられる問題でした。
では、いかにして「反知性主義」を克服するか、もしくは反知性主義の罠に陥らないよう知性を復権させるか。この点について考えていきます。
1. 「話し言葉」の思考ではなく、「書き言葉」の思考を身に付ける
ネットメディア、特にSNSの普及とともに、伝達される言葉の量は増加をたどる一方です。加えて、テキストに対する瞬時の判断を求めることが流行りになりつつあります。そこで用いられる言葉は、書き言葉のように見えても、実際は、話者も聞き手も感情的になりがちな話し言葉である場合が多くあります。書き言葉が弱っている、と本作では指摘されていました。
知性は、自立的な思考に基づいています。決して感情的になりすぎず、少しでも内省することが、重要なのではないでしょうか。そのためには、頭の中で書き言葉として思索する習慣を身に付ける必要があります。
2. 「読む力」を身に付ける
続いて、「読む」という視点から考えていきます。知性を身に付けるための効率的な手段として、多くの人が思い浮かべるのが、読書ではないでしょうか。様々な人が開拓した知的営為を知るということは、学ぶという行為に欠かせません。
本作で紹介されているのは、単に本を読むだけでなく、本を仕分けするという方法でした。
まず、読んで理解できる本と理解できない本を仕分けします。前者については、読むにあたって特段のノウハウは必要ありません。後者については、更にそれを二種類に分ける必要があります。一つ目は、言葉の定義がなされていない、あるいは定義が恣意的な、独創的な本です。こういった本を読むことは、感動には繋がっても、知力の効率的な向上には繋がりません。二つ目は、積み重ね式の知識が必要とされる本です。四則演算に不安がある人が高校数学のテキストを読み進められないように、基礎知識が欠けていると理解できない、というケースもあります。これらの本を理解するためには、自分に欠けている知識を埋める必要があります。
反知性主義者の特徴の一つに、「自らが理解できていない事柄であっても、自分が欲する形で真理をつかんでいると確信してしまう点」があります。自分の理解できることと出来ないことの仕分けは、知性を実践的に身に付けるために有用な方法と言えるでしょう。
以上、今回は知性をテーマにして本書をご紹介しました。
日常の中で陥りやすい「反知性主義の罠」というものを、これをきっかけに意識し、自分を客観的に考えることができました。加えて、日々の頭の動かし方一つで、自分と自分が置かれている環境についてより良い働きかけができるようにも感じました。皆様も是非、「知性」について、ご自身のお立場に合わせて考えてみてはいかがでしょうか。