ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2015年12月18日号)
◆高齢者の地方移住、拠点整備の自治体支援へ政府が法整備
「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」構想 有識者会議開く
元気に働ける移住高齢者でつくる地域共同体「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」構想を検討している政府の有識者会議は12月11日、最終報告書を取りまとめ、石破茂地方創生相に提出した。
石破茂地方創生相は同日、内閣官房に「生涯活躍のまち支援チーム(仮称)」を発足させる方針を決めた。政府が進める地方創生策の一環として、高齢者が地方都市などに移り住んで共同生活する地域共同体(日本版CCRC)の実現をめざす。
報告書の柱は共同体を定着させるため、国に法制化や政策支援を講じるよう提言したことで、共同体の整備を目指す市町村にも、高齢者の住居確保などの計画策定を求めた。
構想は安倍晋三首相が掲げる地方創生の目玉となる。政府は報告書を踏まえ、地域再生法の改正など必要な法整備を検討する。また来年度から、共同体事業に取り組む自治体に対し、新型交付金による本格的な財政支援を始める。
政府は高齢者が希望する移住先で自立して暮らせる拠点の整備に取り組む自治体を財政面、人材面で支援する。必要な法整備を検討し、早ければ来年1月4日召集の通常国会への提出を目指す。
生涯活躍のまちは、主に都市部の高齢者に地方の共同体へ移住してもらい、周辺住民との交流を通じて地域活性化を図る構想だ。将来予想される首都圏の介護施設不足を補う狙いがある。政府の調査では11月1日時点で、263自治体が推進の意向を示している。
政府は来年1月にも省庁横断で自治体を支援するチーム「生涯活躍のまち支援チーム」(仮称)をつくり、構想実現に取り組む自治体を全国から10〜20ほど選んで重点的に支援する。その際、税制や規制緩和などの支援策も今後検討し、必要な法整備をめざす。
報告書は共同体の居住施設について、高齢者が安否確認を受けながら暮らせるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の活用を明記。地域で活躍できる健康な50代以上の入居と、地域住民との交流を促す専門人材の配置を想定している。
共同体の運営は社会福祉法人や企業などが担う予定。しかし、円滑な事業運営につなげるため、国に共同体の法制化と財政・政策面での継続的な支援を求めている。移住高齢者を受け入れる市町村にも運営事業者などと連携して計画を作ってもらうことがキーポイントといえよう。
◇高齢者移住構想のポイント
一、政府が「生涯活躍のまち」構想を法制化
一、移住高齢者を受け入れる市町村が計画を策定
一、来年度から自治体向けに財政支援を開始
一、居住施設はサービス付き高齢者向け住宅を活用
一、入居者は50代以上
一、共同体に地域交流を促す専門人材を配置
自治体側は50代以上が構想の主な対象としている。健康で、厚生年金などで暮らせることが前提になる。受け入れ先となる新たなコミュニティー作りの手法としては、地域を限定して集中的に整備する「エリア型」や、地域資源を総合的に活用する「タウン型」などを選択し、地方自治体が民間事業者らと取り組むことを想定している。
政府に対しては、近年増えている空き家など中古住宅の流通促進や、移住先の自治体が介護保険などで財政負担が増えないような仕組みの検討を求めた。
事業主体は企業、社会福祉法人やNPO法人などを想定する。15年度中に各自治体がまとめる地方創生のための総合戦略に拠点の整備計画を盛り込んだ場合、16年度に創設する新型交付金で支援する。
*CCRCとは、米国生まれの「Continuing Care Retirement Community」の頭文字の略。老後、まだ健康な間に入居し、人生最期の時までを過ごす高齢者のための生活共同体のこと。2010年現在、米国には1,867ある。
◆診療報酬改定、診療・支払い側の意見相違で「両論併記」
中医協 塩崎厚労相に2016年度改定の意見書提出
2016年度診療報酬改定で大詰めを迎えている中央社会保険医療協議会(中医協)の総会は12月11日、来年の診療報酬改定に向けた意見書をとりまとめ、塩崎恭久厚労相宛てに提出した。「診療側はプラス、支払側はマイナスを要望」とする意見書は前回改正と同じく両論併記の形となった。公益代表の田辺国昭中医協会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は両者の意見の隔たりが大きいと判断、両論を併記するに至った。したがい肝心の改定率も隠れたままだ。
両論併記の意見書は厚労省保険局の唐澤剛局長が代理受領して塩崎厚労相に提出された。この後、塩崎厚労相は、この意見書も踏まえて年末の予算編成(改定率はここで決定)に臨むという工程になる。
今回、厚労相に意見を述べるため、公益委員が12月2日の中医協総会で支払・診療側双方が示した社会保障審議会の、「医療機能の分化・強化、連携を進める」とした「診療報酬改定に関する基本的な見解」に関する議論をもとに、公益委員が「2016年度診療報酬改定についての意見案」を整理し提示した。
なお支払側と診療側が見解を持ち寄り、公益代表が意見書案をまとめる作業は特別なことではなく意見調整がまとまった今回のようなケースで、内閣に意見を述べることができる。
意見案では、社会保障審議会医療保険部会・医療部会で決定した「2016年度診療報酬改定の基本方針」で、重点課題として、医療機能の分化・強化、連携を含め、在宅医療や訪問看護の整備を進め、地域包括ケアシステムを構築することが示されたと指摘。中央社会保険医療協議会は、この基本方針に基づき、「全国民が質の高い医療を受け続けるため、協議を真摯に進める基本認識に関して、支払側委員と診療側委員の意見の一致をみた」と、両者の基本的認識の一致を強調している。
しかし両者の意見案は、「基本認識の下で、どのように2016年度診療報酬改定に臨むべきかについては、相違が見られた」として、支払側と診療側の意見を両論併記した、その内容の要旨は次の通り。
まず、支払側は、医療経済実態調査結果から「(中長期的に)医療機関などの経緯が概ね順調に推移している」と判断、医療保険者の財政は深刻な状況に陥っている一方で、医療機関等の経営は全体としてはおおむね堅調に推移していることなどを指摘。
診療報酬はマイナス改定とすべきで、2014年度改定と同様、薬価・特定保険医療材料価格の引き下げ分を診療報酬本体に充当せず、国民に還元すべきとの意見だったとまとめている。11月20日の総会でも幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、一般病院のうち50~299床の中小病院(公立除く)は「黒字を維持」、療養病床60%以上の一般病院も「黒字」とする意見を述べていた。健保連は「ネット(全体)でマイナス改定」との意見を表明している。これは支払い側団体の総意を「代行」した形ともいえる。
一方、診療側は、診療側は、医療経済実態調査結果から「医療機関などは総じて経営悪化となった」と判断し「経営悪化」を強調した。さらに国民の安心・安全の基盤を整備するため、過不足ない財源投入が必要であることなどを指摘。診療報酬本体は必要な財源を確保してプラス改定とすべきで、薬剤と診察等とは不可分一体で財源を切り分けは適当でなく、薬価等の引き下げ分は本体改定財源に充当すべきとの意見だったとまとめた。
松本純一委員(日本医師会常任理事)は「すべての規模で赤字、または赤字幅が大きい」と前回述べていた。日医は今回「設備投資を行って医療設提供体制を維持できる状況にはない」」と表明している。
この日、(意見書に)「長年にわたり賃金・物価の伸びを上回る診療報酬改定が行われている」との記載について「起算点がリーマンショックの前後、いずれかで異なる」旨を意見としたが、結局、公益委員案でまとまった。
◆医療・介護保険も相互利用する仕組みを検討すべき
医療等分野の番号制度に関し報告書公表 番号制度研究会
――厚生労働省
厚生労働省は12月10日、「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」の報告書を公表した。
この研究会では、医療等分野の情報連携に用いる識別子(ID)について、具体的な利用場面やマイナンバー制度のインフラの活用の考え方などの検討を2014年5月から開始し、2014年12月に「中間まとめ」を行った。
今回公表された報告書の内容は、(1)医療等分野の個人情報の情報連携のあり方、(2)マイナンバー制度のインフラとの関係、(3)医療保険のオンライン資格確認の仕組み 、(4)医療等分野の情報連携に用いる識別子(ID)の体系(具体的な制度設計)、(5)医療等分野の識別子(ID)の普及に向けた取り組み――を柱として構成されている。11月18日に開催された同研究会での報告書案とほぼ同じであるが、新たに加筆や補足がある。
たとえば(4)では、「医療保険の資格確認用番号(仮称)とレセプト情報の活用」の項目で、次のような内容が追加されている。
医療保険の請求用の番号を介護保険でも利用できるようにすることで、国保データベースシステム(KDBシステム)では、国保のレセプト情報、特定健診情報および介護給付情報のデータの突合を確実かつ効率的にできるようになる。要介護状態になる原因の疾病の把握も容易になるなど、地域の保健指導でデータのきめ細かな活用が可能になり、生活習慣病予防や重症化予防、介護予防などの飛躍的な推進が期待できることから、「資格確認用番号(仮称)」を医療保険だけでなく介護保険でも利用する仕組みを検討すべきとの意見があった
◆これまでの検討会の意見を報告 介護キャリア段位制度検討会
制度・仕組みとして簡便化などの工夫が必要との声
――厚生労働省
介護のプロを育てようという目論見で始まった「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」。この制度のあり方を見直そうと有識者による検討会を開いている厚生労働省は12月10日、これまでの検討会における意見をまとめて議論した。
この段位制度は介護分野の実践的キャリアアップの仕組みの構築を通じて、介護職員の定着や新規参入の促進を目指すもので内閣府からの補助を得て2012年にスタートした。制度の検討・立ち上げなど2014年度までの事業は内閣府において実施した。事業目標は、「レベル認定者2万人達成」であった。レベル認定者とは、一般の公的資格合格者に相当する、または同格と思われがちだが、狙いは介護現場で「知識と実践の両立」が叶った独自のプログラムである。
内閣府の補助が終わった2015年度からは「介護職員資質向上促進事業」(国庫補助事業)として、厚労省に移管した。厚労省は同制度を「実践における評価基準がなかった」と猛省し、そこで現在の「介護プロフェッショナルキャリア段位制度の在り方に関する検討会」を厚労省で立ち上げ、目下、制度充実策、いわば力量判断の“物差し”を練りあげている最中なのだ。
同制度のここまでの進捗状況(実績)をみると、2015年度までに、47都道府県で、1万1,863人のアセッサー(評価者)を養成(2015年度は4,046人)。また、2013年11月に初のレベル認定者が誕生してから、2015年11月までにレベル認定者の総数は904人となっている。つまり2万人目標が1千人未満という「落差」が問題となっている。逆にいえば2万人が達成できれば認定手数料だけで制度運営ができると踏んでいた。
今回、厚労省は「これまでの検討会における意見」として、(1)介護キャリア段位の活用による効果、(2)内部評価・レベル認定、(3)外部評価、(4)制度的な位置付け、(5)目標――などの項目をあげ、主に次のような内容を報告した。
(1)レベル認定取得者がある程度存在する施設が増えれば、本来の意味で介護サービスの質を評価できる仕組みになる。
(2)内部評価やレベル認定に大変な手間がかかる。時間外勤務や業務が増え、現場の負担が大きいため、仕組みとして簡便化などの工夫が必要。
(3)被評価者とアセッサーが働いている職場を評価するが、外部評価審査員の外部評価結果を、レベル認定委員会で適正かどうか判断するのは困難。方向性を示す必要がある。
(4)キャリアパスの導入は独自にやるところに各法人の特徴が出てくるのであって、キャリア段位をそのまま活用して、単純に統一して全国共通にすればよいというものではない。
(5)量を優先して質をおろそかにしては、介護キャリア段位のもともとの意図から外れてくる。目標は現実的なところで見直すべき、など、検討会では次のような意見がでている。
これまでの検討会における主な意見
1.介護キャリア段位の活用による効果等について
○レベル認定取得者がある程度いる施設が存在するようになれば、本来の意味で介護サービスの質というのを 評価できる唯一の仕組みになるのではないか。
※ヒアリングでの主な意見
・キャリア段位は介護職の役割を明確化するための共通の物差しとなるメリットがあり、総合的な人事制度を構築することができる団体にとっては有効なシステムである。
・アセッサーとして内部評価に取り組んだ者から、自身の技術(スキルや知識)を再確認することができたこと、職員の 技術レベルの把握ができたこと、現場職員の指導基準が明確となったこと等の意見があった。
・介護キャリア段位に取り組んだことにより、介護職員全体が自らの介護方法が正しいのか介護の質について考える ようになった、介護職員としてのプロ意識が促進された。
○現場の実践度が低いだけでなく、多忙な現場ではついていけなくなっている例も多い。したがいこの制度の「認定」に価値を見出せないでいる。
2.内部評価・レベル認定について
○実際に職員が介護を行っているところを確認して評価するという仕組みであるが、職員がベテランになっていく中で怠慢になっていくということも現実場面としてあるが、そのような点をどう考えていくのか。
○内部評価やレベル認定に大変な手間がかかっている。時間外勤務が増え、また、普段の業務に上乗せされる業務が 増えてしまい現場の負担が大きいため、仕組みとして簡便化等の工夫が必要ではないか。
○現行の評価方式は、特に現認については利用者の状態像に対して行われた介護内容を記述するということにおいて、 エビデンスに基づいたケアということが言える。この評価方式は大変優れた仕組みであるが、アセッサーの負担や レベル認定においても負担が大きいのが実態であるので、効率化できる仕組みを考える必要がある。
○アセッサーの提出した評価票は実施団体と何度も調整を行った上で、レベル認定委員会にあげられるが、委員会で も事前の読み込み、事後の点検を経て、認定をしており、1ヶ月のうちにこれ以上多くの認定を出すことは厳しい状況 にある。
※ヒアリングでの主な意見
・アセッサーによる評価開始からレベル認定までに要する時間が長く、より効率のよい仕組みとすることが必要。
・「評価対象の利用者が欠席すると評価ができない等の支障があること」、「アセッサーと評価を受ける者のシフト・業務を合わせるのが困難であること」、「作成する書類・評価項目が多く、定められた期間で評価を終えるのが困難であること」…等の課題があり改善が必要。
・レベル認定を取得しやすい環境に向けて、①評価項目の簡略化による事務作業の軽減、②評価期間の短縮、③通所介護等 サービス種別ごとに合った評価項目の設定、④評価項目を分割して単位ごとにレベル認定ができるよう検討することが必要。