ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2016年2月19日号)
◆軽度者向けサービスの地域支援事業移行に懸念表明 老施協
「特に認知症の独居高齢者の家事援助が困難」と主張
――全国老人福祉施設協議会(老施協)
全国老人福祉施設協議会(老施協)は2月15日、「軽度者向け介護保険サービスにおける地域支援事業への移行について」とする意見書を塩崎恭久厚生労働大臣と自由民主党・稲田政調会長に提出した。
軽度者(要介護2以下)サービスの移行とは、財務省の財政制度等審議会から提案された軽度者向け介護保険サービスを地域支援事業へ移行するもの。政府は要介護2以下の軽度者に対する生活援助サービスや福祉用具貸与などについて、給付の見直しや地域支援事業への移行を検討しはじめている。
これに対して老施協は軽度者を介護保険制度のデイサービスの対象から除外することは、認知症利用者への対応を希薄化させるばかりか、家族介護を前提としかねない制度的リスクがあると批判。そのうえで、「改革が財政論に偏ったものになることに強い懸念と不安感を持っている」として「軽度者向けサービスを軽視することは、財政健全化の観点にそぐわない」と述べている。
また、軽度者向けのサービスの必要に関して、愛知県大府市での認知症の高齢者が線路に進入して列車にはねられ死亡した事案をあげ、「亡くなった男性が要介護度4で介護者の配偶者も要介護度1と認定されており、双方が十分な介護保険サービスを受けられたなら、ある程度のリスク軽減は図ることができた」と指摘。
さらに、生活支援部分を保険給付から切り離すことは早期対応を阻む可能性があるとして、特に認知症の独居高齢者の家事援助が期待できなくなり、在宅生活の維持が難しくなると懸念を表明している。このため、国民誰もが安心して健康な暮らしを送るため、セーフテイネットを国民皆保険制度の介護保険サービスのなかで確保することを要望。また、地域支援事業への移行は今以上の自己負担を求めることになるとして、「福祉国家として低所得者にも安心の介護サービスを」と求めている。
老施協は、地域支援事業への移行の前に、要介護認定のあり方を整理することが必要だと訴え、「レスパイト機能こそが介護離職ゼロの本丸」と唱え、利用者がプロの介護を受けることで、家族は安心して仕事などに専念することができる」と訴えている。レスパイト機能は「預かり機能」の意味で、老施協は、この充実策を目論んでいる。しかし政府の評価低減が決まっている。
政府の試算によると、要支援者のサービスにかかる費用は0・4兆円で、介護サービス全体の費用である7・8兆円の約5パーセントにとどまる。しかし、団塊世代が75歳以上となる2025年度には、総費用は約21兆円に膨らみ、現在、全国平均で月約5000円の介護保険料も、8200円程度になる見込み。
このため厚労省は、介護保険料の上昇を抑え、重度者のサービスに財源を回すには、軽度者向けのサービスについて、将来は介護保険制度から切り離して市町村の事業として提供することも含めて見直す方針を決めた。
しかし介護の専門家会議では軽度者に対する給付を縮小する案への慎重論が根強い。「要介護1、2を単純に切り捨てるべきではない」「一口に軽度者と言っても多様であり、給付が必要な人だっている」「重度化を早めることになる」といった声があがっている。
介護する人材の確保に関する意見も続出している。大胆な施策の展開が不可欠という主張が目立ち、「既存の手段だけでは厳しい。根本の原因は処遇だ」「介護職員の離職ゼロを目指すべき」「生産性を上げる近道は職員の定着。処遇改善を考えるべき」などの発言が相次いでいる。「軽度者を見捨てるな!」が本音の意見書である。
◆国有地を特養施設に10年半額で賃貸 政府の緊急対策
財務省 東京・世田谷区で【特に緊急対応】施策の初事例
――財務省
財務省は2月10日、「財政制度等審議会」の分科会を開催、政府の「介護離職ゼロ」に直結する緊急対策の一環として東京都世田谷区にある国有地を社会福祉法人に半額で貸すことが決まったと発表した。「介護離職ゼロ」に直結する、特に緊急対応で実際に契約まで至ったのは今回のケースが初めて。施策は昨年11月、「1億総活躍社会」に向けた「緊急対策」の中で打ち出していた。デイサービスなどを併設した複合形態も認められる。対象は地方公共団体か社会福祉法人。
用地確保が困難な都市部等において、賃料減額といった国有地の更なる活用や用地確保に係る負担を軽減するための支援を充実させ、併せて施設に係る規制を緩和することにより介護施設等の整備を促進する。複数の介護サービス基盤の合築等による規模の効率性を働かせた施設整備や既存資源を有効活用するための建物の改修を支援する。施設の初期投資を抑えられるようにして整備を後押しし、高齢者を支える受け皿の充実につなげる狙いがある。
財務省の施策は、特別養護老人ホームやグループホーム、小規模多機能型居宅介護などを運営することを条件として、都市部の国有地を10年間にわたり半額で貸し出すもの。都市部とは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県を指す。
今回の世田谷区のケースでは、広さが約4,180平方メートルの物件を貸す。期間は今年から2068年までの52年間。11年目以降の賃料は時価になる。借りた社会福祉法人は、特養や都市型軽費老人ホームを建設する計画。開設は2017年6月の予定。
財務省は今後、こうした契約をさらに増やしていきたい考え。利用できる国有地のリストを自治体に渡し、社会福祉法人と積極的に調整を進めるよう要請している。担当者は、「国家公務員宿舎の削減計画を進めるなかで、今後は比較的まとまった跡地が利用可能になる見込み。自治体などへ情報を前広に提供していきたい」としている。
●介護施設整備に係る国有地活用策の内容(骨子)
1.対象期間 平成28年1月1日から平成33年3月31日
(注)上記期間内において新規に契約を締結するもの。
2.対象地域 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、 大阪府、兵庫県及び福岡県
3.対象施設 (別添参照―地図等省略) 別添【第1】に定める施設を対象とする。なお、当該施設に別添【第2】に定める施設が併設される場合は、当該施設を対象施設に含める。
4.貸付条件等
イ)定期借地権による貸付料―地方公共団体又は社会福祉法人を貸付相手方とし、対象期間内に対象地域において対象施設の用に供するため定期借地権による貸付契約を締結する場合は、貸付始期から10年間に限り、国有財産特別措置法(昭和27年法律第219号)第3条に基づき、貸付料を減額
(注)
①減額貸付の対象となる敷地規模、減額率については、昭和48年12月26日付蔵理第5722号「国有財産特別措置法の規定により普通財産 の減額譲渡又は減額貸付けをする場合の取扱いについて」に定めるところによる。
②貸付始期から10年を超える期間の貸付料については、時価によるものとなる。
③地方公共団体が借受けし社会福祉法人に転貸する場合、貸付料は時価によるものとなる。
④上記「3.対象施設」に規定する対象施設に社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条に規定する社会福祉事業の用に供する施設で対象施設以外の施設が併設される場合、当該併設施設に係る貸付料は、時価によるものとなる。
ロ)一時金の取扱い (イ)契約保証金―定期借地権に係る貸付契約締結にあたって、地方公共団体に加え、社会福祉法人も契約保証金の納付を免除(ロ)前納貸付料―減額貸付を行わないとした場合の貸付期間における貸付料合計額(貸付当初の貸付料年額×貸付期間)の2分の1を限度額として、貸付料の前納可。
(参考)
前納貸付料は、地域における医療及び介護の総合的な確保の推進に関する法律に基づき設けられる地域医療介護総合確保基金における定期借地権設定のための一時金の支援事業の対象(路線価の1/2が上限)となる。
◆看護師の特定行為38行為に係る手順書例集作成、公表
厚労省 作成に当たっての標準的な留意事項まとめる
――厚生労働省
厚生労働省は2月5日、2015年度の看護職員確保対策特別事業の一環として、「特定行為に関する『手順書例集』」を作成、公表した。研修制度を円滑に実施し、医療現場において手順書を作成する際の参考となる、標準的なものとして作成されている。作成の実施団体は、公益社団法人・全日本病院協会(看護師特定行為研修検討プロジェクト委員会)。38の特定行為すべてについて具体的な手順を明記してある。
「特定行為にかかわる看護師の研修制度」は、2015年10月1日に施行された。医師などの判断を待たず、手順書にもとづいて、一定の診療の補助(特定行為)を実施する場合の研修を通じ、今後の在宅医療などをささえる看護師を、計画的に養成していくことが目的。特定行為としては、38行為21区分が指定されている。
「特定行為にかかわる看護師の研修制度」を修了した看護師は、医師又は歯科医師の判断を待たずに、手順書により、一定の診療の補助を行うので、読みやすく、携行しやすいものである必要がある。そこで、フローチャート形式とし、A4版、縦 1枚に収まるようにしたのが特徴になっている。
手順書とは、診療行為の内容のひとつひとつの“手順”が記載されたものではなく、医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるためにその指示として作成する文書(又 は電磁的記録)であって、特定行為研修省令で示されている下記6項目を含むものである。
(ア)当該手順書に係る特定行為の対象となる患者(以下、「患者の特定」)
(イ)看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲(以下、「病状の範囲」)
(ウ)診療の補助の内容(以下、「診療の補助の内容」)
(エ)特定行為を行うときに確認すべき事項(以下、「確認すべき事項」)
(オ)医療の安全を確保するために医師または歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制(以下、「連絡体制」)
(カ)特定行為を行った後の医師または歯科医師に対する報告の方法(以下、「報告方法」)。
作成の実施団体である全日本病院協会は手順書例集作成にあたって工夫や注意した点、さらに医療現場での忠告として次のように指摘している(要旨)。
「この手順書例集では、本研修制度の施行直後ということもあり、安全を第一に考え、病状の範囲を設定した。その結果、医師が患者の病状を踏まえた上で判断し出される指示とほぼ変わらないものもあるので、看護師のレベルに応じて、範囲を拡大してもらって良い。また、数値による範囲指定を細かくし過ぎると、従来の直接指示と同じになるので、質的判断の余地がある記載となるように留意した。範囲外のものは、病状が不安定で緊急性がある場合があるので、迅速に担当医に連絡し、指示を仰ぐべきである。しかし、状況によっては、緊急性があるからこそ、タイミング良く実施することが望ましい場合がある。この場合の“青信号”(渡ってよいとの判断)とは、「鑑別すべき病態が他になく、医師に相談しても行うべきことが変わらない」という状況に限定されると考える」。
(「診療の補助の内容」は、特定行為の名称としている。その医療現場で行う手技の手順(物品の準備から包交等まで)は手順書例集には含めていない。一部、補足という形で手順書例集内に記載したものもあるが、この部分は、各医療現場での作成をお願いしたい)。
「手順書例集」は、38ある特定行為区分・特定行為区分に含まれる行為すべてについて、具体的な手順を明記している。主な項目は次の通り。
経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置の調整/非侵襲的陽圧換気の設定の変更/人工呼吸器からの離脱(自発覚醒トライアル)/気管カニューレの交換(在宅・特別支援学校用)/一時的ペースメーカーの操作および管理/経皮的心肺補助装置の操作および管理/心嚢ドレーンの抜去/胸腔ドレーンの抜去(その1)/腹腔ドレーンの抜去(手術時に留置したドレーン)/胃ろうカテーテルまたは胃ろうボタンの交換(その1)/中心静脈カテーテルの抜去/褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去(その1)/創部ドレーンの抜去(その1)/橈骨動脈ラインの確保/持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整/脱水症状に対する輸液による補正/感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与/硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与および投与量の調整/持続点滴中のナトリウム、カリウムまたはクロールの投与量の調整/持続点滴中の糖質輸液または電解質輸液の投与量の調整/抗けいれん剤の臨時の投与(けいれん発作中のジアゼパムの経静脈投与)/抗不安薬の臨時の投与。(資料出所―厚生労働省)
◆6割の介護者が保険外サービスに関心 日本政策金融公庫
介護者調査 「利用してみたい」の最多はお泊まりデイ
――日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は2月9日、「訪問介護・通所介護に関するアンケート」結果を公表した。この調査は「利用者側は介護サービスをどう選ぶのか」を明らかにするために行われたもの。調査結果では、「約6割の介護者が保険外の介護サービスに関心を持っている」と報告されている。
実際に使ってみたい種類では、いわゆる「お泊りデイサービス」が最多。お泊まりデイをめぐっては、夜間を過ごす環境やケアの質などで様々な課題が指摘されているが、日本公庫の担当者は「低価格の宿泊サービスへのニーズや興味が、やはり一定程度あることがわかる」としている。
他の調査機関と視点が違っているのは「現在、介護報酬が引き下げの傾向にあることを考慮すると、介護保険外サービスへの進出は事業者にとって一考の価値がある」と指摘している点だ。ある意味では事業者には「(経営の)行き詰まり感」を感じている最中だけに「保険外サービス」を検討課題に挙げるのはいい機会ともいえる。
調査は昨年12月にインターネットを通じて行われたもの。何らかの形でネットに関係しながら高齢者の介護に携わっている1,059人から回答を得たという。しかしネット時代でも「調べない」介護者が6割もいたという意外な結果だった。
「インターネットを使って利用する訪問・通所介護についての情報収集」の項目で、結果は、訪問・通所介護ともに、スマホやタブレットなど、PC以外のネット接続機器が増える中においても、インターネットによる情報収集には「消極的」という反応が目立っている。
また、「調べている」という人の中で、どんなサイトなどを使っているのかを見ると、「民間の介護施設検索サービス」や「事業所のHPやFB、ブログ」などが目立つ。これらと比較して、厚労省が立ち上げている「介護サービス情報公表システム」は利用者ニーズとずれているか国民感情から遅れをとっているのか、公的な予算を使いながら、利用者側の活用が低迷しているという状況は、今後課題の一つになりそうだ。
現在、保険外のサービスを既に「利用している」が21.2%、今後は「利用してみたい」が39.7%となっており、これらをあわせると60.9%だった。「利用したいとは思わない」は39.1%。日本公庫はこれを踏まえ、利用者の尊厳や安全、安心を確実に担保していくことを前提として、「介護報酬が引き下げの傾向にあることを考慮すると、保険外サービスへの進出は事業者にとって一考の価値がある」と指摘している。
「利用している」「利用してみたい」とした人に対し、これから使ってみたいと考えているサービスは何か尋ねたところ、トップは35.5%の「お泊りデイサービス」だった。以下、27.1%の「家事代行サービス」、26.9%の「配食サービス」、25.5%の「見守りサービス」などが続いた。お泊りデイの人気が高い背景には、多くの待機者がいて特別養護老人ホームに入所するのが難しく、ショートステイなども満足に活用できない現状があるとみられる。
アンケート結果の概要は次の通り
1 介護者は、利用のしやすさだけではなく、介護サービスの質も重視
介護者のうち4割は、ケアマネジャーや病院等から紹介された訪問・通所介護事業所について、事業所のホームページや介護施設検索サービス等を使って情報収集している。インターネットを使って調べた情報は、事業所の場所や時間帯といった利用のしやすさから、介護方針や介護技術、利用者の評判といった介護の質まで幅広い。とくに女性は介護の質への関心が強い。訪問・通所介護事業者が利用者を獲得するにはインターネットを使って自らの特長をアピールすることが望ましい。
2 介護者の不満には、事業者が改善できるものも多い
介護者がもつ訪問・通所介護への不満には、自己負担額や利用の制限など介護保険制度に対するものもあるが、介護職員の仕事ぶりや引継ぎのミスなど事業者のマネジメントに起因するものも少なくない。
3 介護者の6割が保険外サービスに関心
介護者のうち、介護保険外の介護サービスをすでに利用しているとする人が2割、利用してみたいとする人が4割いる。介護のニーズを満たすには保険外サービスへの進出も検討する価値がある。