ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2016年3月10日号)
◆最先端の医療技術を希望する患者申し出制度の概要発表
4月1日施行に向けて留意事項などを周知 厚労省
――厚生労働省
厚生労働省は3月4日、「患者申出療養の実施上の留意事項及び申出等の取扱い」に関する通知を発出・公表した。
「健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律」に規定する患者申出療養は、安倍首相が創設を決めた新たな保険外併用療養制度。患者が最先端の医療技術などを希望した場合に、安全性・有効性等を確認したうえで、保険外の診療と保険診療との併用を認めるもので、患者の申出により、身近な医療機関で迅速に受けられるようにする制度。先端医療は現在、保険外併用療養の評価療養で実施されている。
厚労省は、患者申出療養の基本的な考え方に関し、「日本では国民皆保険の理念の下、必要・適切な医療は保険収載しているが、保険収載されていないものの、将来的な保険収載を目指す先進的な医療等については、保険外併用療養費制度として、安全性・有効性等を確認する」などとして、自己負担10割ではなく、一定のルールにより保険診療との併用を認めていると説明した。
その上で国は、患者申出療養の安全性・有効性等を確認し、さらに保険収載に向けた実施計画の作成や実施状況などの報告を臨床研究中核病院に求めることも確認する。ただし保険外併用療養費制度の中に位置づけるものであるため、いわゆる「混合診療」を無制限に解禁するものではなく、国民皆保険の堅持を前提とするものであるとしている。
また同意書を求める際、リスクを患者に一方的に押し付けることのないよう、患者にていねいな説明が行われるよう注視していく必要性も強調している。
患者申出療養の申出対象となる医療技術は(1)未承認等の医薬品・医療機器・再生医療等製品の使用や医薬品等の適応外使用を伴わない医療技術、(2)未承認等の医薬品等の使用・医薬品等の適応外使用を伴う医療技術。また、留意事項として、(a)臨床研究中核病院、(b)実施にあたり必要な緊急時の対応が可能な体制、医療安全管理委員会の設置など医療安全対策に必要な体制、倫理審査委員会による審査体制、医療機器の保守管理体制のすべてを持つ保険医療機関――のいずれかでのみ行うこととしている。
◆2016年度薬価制度改正で新設 「特例拡大再算定」の医薬品決定
年間販売額1500億円超のソバルディなど4成分・6品目対象
――中央社会保険医療協議会薬価専門部会
2016年度の診療報酬改定を審議していた中央社会保険医療協議会薬価専門部会は、2016年度薬価制度改正で新設される「特例拡大再算定」の対象品目を決定した。これまでの「市場拡大再算定」制度(当初予想された売上規模の2倍以上の売り上げとなり、かつ売り上げ規模が150億円を超えた場合)に加え、2016年度診療報酬改定では、年間販売額がきわめて大きい品目の薬価を引き下げる「特例拡大再算定」制度が新設された。なお当初は巨額再算定、特例再算定とされていた名称が、中医協に提示された資料では、特例拡大再算定に改められた。
決定した「特例拡大再算定」の対象品目は4成分(6品目)で、「年間販売額1500億円超」となるC型肝炎治療薬ソバルディ錠(一般名ソホスブビル)とその類似薬のハーボニー配合錠(同レジパスビル アセトン付加物・ソホスブビル)、「年間販売額1000億円超」の抗血小板薬のプラビックス錠(同クロピドグレル)と抗がん剤のアバスチン点滴静注用(同ベバシズマブ)。プラビックス錠については、その後発医薬品も引き下げ対象になる。
「特例拡大再算定」は、2016年度から新規に導入され、「年間販売額1000億円超、かつ予想販売額1.5倍以上」では最大25%、「年間販売額1500億円超、かつ予想販売額1.3倍以上」では最大50%、それぞれ引き下げる仕組み。今回対象となった品目では、年間販売額が1500億円超だったのはソバルディ錠。類似品としてハーボニー配合錠も対象となる。年間販売額1000〜1500億円の販売額だったのは、プラビックス錠、アバスチン点滴静注用の2剤となる。
2016年度の薬価は、(1)特例拡大再算定による算定額、(2)市場実勢価格に基づく薬価改定などによる算定額――のうち、低い方になる。ただし、アバスチンについては一定の臨床上の有用性を評価し、補正加算(5%)を付け、薬価下げ幅は緩和される。昨年末の2016年度予算編成段階では、「特例拡大再算定」の引き下げ分として、国費ベースで約280億円が想定され、この薬価引き下げ分が診療報酬本体プラス改定の財源の一つとなった。
従来の「市場拡大再算定」(年間販売額150億円超、かつ予想販売額1.5倍以上)の2016年度の対象品目も、20成分(45品目)に決定。ただし、オ―ファンの適応追加などの3成分については、補正加算(5%)の対象とする。「効能変化再算定」は1成分(3品目)。
「特例拡大再算定」の対象品目となった新規C型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」「ソバルディ錠」の1錠薬価は8万円と6万1799円と高額。ソバルディ錠は12週間服用すれば、治癒までに要する薬剤費は併用薬を含めて約546万円。
インターフェロンを使った治療の薬剤費は約223万円なので、倍以上に相当する。両剤とも公的医療費補助の対象となり、患者の負担は月1万~2万円となる。C型肝炎を治療できれば、中長期では肝臓がんなどにかかる医療費を節減できる可能性がある。
一方で、高額な薬をすべて公的保険や助成の対象にすると、国民負担が過重になる。仮に50万人の患者が利用したとすると、薬剤費だけで2兆円を超えてしまう。これが、今回の「特例拡大再算定」が導入されることになった大きな要因である。
◆産業医制度で企業2社からヒアリング 産業医制度検討会
安衛法改正「法人や事業場の代表者の産業医兼任は禁止」
――産業医制度検討会
厚生労働省は3月7日、「産業医制度のあり方に関する検討会」を開催し、産業医制度に関し、企業関係者からのヒアリングを実施した。この検討会は、2015年12月にストレスチェック制度が導入されたことによって、産業医の職務にストレスチェック・面接指導が追加されたことなどを背景に、労働安全衛生法における産業医の位置づけや役割について改めて見直し、必要に応じて法令の改正も念頭に置いて検討することが目的。
産業医の選任上の取り扱いについて3月8日、法令上の規定を設けるため、厚生労働省では労働安全衛生規則の改正を行うこととし、その改正省令案要綱について労働政策審議会は8日に妥当とする答申を行った。この主旨は「法人や事業場の代表者が自らの事業場の産業医を兼任することを禁止する」という内容。現在進行中の「産業医のあり方検討会」とは直接関連するものではないが、労働政策審議会の責務としても「産業医の役目」には特に注目していることがわかる。
一方、この日の検討会では株式会社千疋屋総本店(東京・日本橋)の事例が紹介された。同社は日本橋にある老舗の果物輸入・販売業者で、飲食店経営が事業の柱。従業員数は「常時50人に満たない」規模だから、産業医の選任義務はないものの「2013年12月より産業医を選任し、全社を対象として活動を開始」しているという稀有な産業医活用事例なのだ。日常的に産業医が稼働している好事例がこの日の検討会では披露された。
8日の労働政策審議会の労働安全衛生規則改正の答申は、「法人や事業場の代表者自らが産業医を兼務している場合、労働者の健康管理よりも事業経営上の利益を優先する観点から、産業医としての職務が適切に遂行されないおそれがあるため、こうしたケースについて厚労省では改善をするよう働き掛けを行ってきた」ことを「選任できないことを妥当と判断した」もの。
改正省令案では、「事業者は、産業医を選任するにあたって、法人の代表者若しくは事業を営む個人(事業場の運営について利害関係を有しない者を除く)又は事業場においてその事業の実施を統括管理する者を選任してはならないこととする」とされている。厚労省では本年4月1日からの施行に向けて、今後速やかに改正作業を進める。
今回、検討会のヒアリングに呼ばれた、(1)株式会社千疋屋総本店、(2)パナソニック株式会社が、それぞれの見解を披歴した。
千疋屋総本店は、具体的な産業医の活用状況として、次の事項などを紹介した。
○前月の超過勤務記録から過重労働者(単月100時間超または3カ月連続80時間超の社員)を抽出し、疲労蓄積度チェックリストに記入してもらう。
○毎月第1木曜日に衛生委員会(メンバーは産業医、取締役、従業員など)を開催し、終了後に「産業医面談」を実施。
○2015年における「産業医面談」の実績は、「過重労働者」14人/「メンタル相談」4人。面談後に「面接指導結果報告書」と「事後措置に関する意見書」を受領している。
パナソニックは、産業医制度などに対する要望事項として、「事業場単位の管理から法人単位の管理へ」などをあげ、産業医の不足を補完する「弾力的な運営」の必要性を訴えた。
◆「紹介状なしの初診5000円」、税込みの最低料金 厚労省説明
一般病床500床以上の地域医療支援病院対象に
――厚生労働省
厚生労働省は3月4日、地方厚生局や都道府県担当者向けに2016年度診療報酬改定に関する説明会を開催した。
2016年4月から、特定機能病院と一般病床500床以上の地域医療支援病院で、紹介状がない初診では最低5000円(歯科では3000円)、再診では最低2500円(同1500円)の定額負担が義務化される。厚労省はこれらの最低額は消費税込みの価格であると説明した。初診に係る定額負担の徴収義務化は、健康保険法等の改正を受けた対応でもある。
医療提供体制の改革の一つが、大病院の外来受診を抑制するため、紹介状を持たない患者に対する定額患者負担制の新設。大病院に対し、「選定療養」を義務化するイメージだ。骨子案では、「特定機能病院と500床以上の病院」が対象で、定額負担の額は「5000円~1万円」となっているが、徴収対象病院や徴収額は中央社会保険医療協議会での検討課題だった。
中医協などで審議していた大病院の定額負担徴収は、200床以上の病院では現在、定率の患者一部負担金とは別に、「選定療養」の仕組みにより、患者負担を求めることができる。これに対して新制度は、法律上は「選定療養の義務化」との文言は用いず、別の新たな仕組みを作ることから始まった。
この制度は一言でいうと、軽い症状でも大学病院に行くようであれば、医師の過重労働を招いてしまう。こうした状況を改善するために政府、厚生労働省は医療機関の役割を明確にする医療政策を進めていた。
制度内容を一覧形式にまとめると定額負担の対象となる医療機関、金額など具体的な内容は次の通り。
▽対象となる医療機関
特定機能病院
一般病床500床以上の地域医療支援病院(高度な医療を提供している大学病院や国立病院機構、複数の診療科がある大きな民間病院など)。
▽定額負担の最低料金
初診時5000円(歯科は3000円)
再診時2500円(歯科は1500円(この金額は最低料金で、実際の金額は病院の裁量で決められる)。
▽例外規定
緊急その他やむを得ない事情がある場合
救急の患者、難病などで公費負担医療の対象になっている患者、無料定額診療事業の対象患者、HIV感染者。
その他、定額負担を求めなくてもよい場合
同じ病院内の他の診療科を受診中の患者、メタボ健診やがん検診などの結果で精密検査を受けるように指示された患者、症状が重くて受診後すぐに入院した患者、その病気を専門に治療する診療所が地域にない場合、新しい薬などの治験に協力している患者、災害で被害を受けた患者、など。