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医療経営情報(2016年6月9日号)

2016/6/13

◆骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2016)を閣議決定
内容に加筆、修正 医師偏在対策「規制的手法」の文言削除

――政府
政府は6月2日、政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2016)を閣議決定した。骨太方針とは、同日に開催された経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で取りまとめられた経済再生と財政再建を目指す政府の基本方針のこと。今回の骨太方針には、副題に「経済再生なくして財政健全化なし」との文言を入れた上で、新たな財政健全化計画が盛り込まれた。
なお、成長戦略(日本再興戦略2016)も同日、閣議決定された。

骨太方針では、「消費税率の10%への引上げを2019年10月まで2年半延期するとともに、2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を黒字化する目標を堅持する」と明記。また、社会保障の基本的な考え方として「世界に冠たる国民皆保険・皆年金を維持し、次世代に引き渡すことを目指す」と加筆されている。

社会保障関係費は、過去3年間の安倍政権の実質増加額とほぼ同ペースの年5000億円に抑える方針も掲げたが、歳出総額に上限目標を設けることは見送られた。
医療分野では、推進する取り組みとして(1)医療費適正化計画の策定、地域医療構想の策定等による取り組み推進、(2)医療費の増加要因や地域差の更なる分析、医療・介護データを連結した分析、(3)データヘルスの強化、(4)健康づくり・疾病予防・重症化予防等の取り組み推進、(5)人生の最終段階における医療のあり方――の5項目が打ち出された。また、後発医薬品の数量シェアを18年度から20年度の間、なるべく早期に80%以上とする目標も示している。
このほか、健康づくり・疾病予防等の取り組み推進に関して、「がん検診受診率のさらに高い目標を設定し、特に国際的にも受診率の低い女性特有のがん等に関する検診の受診率向上図る」と加筆した。

現在論議の的になっている新・専門医制度――医師需給対策問題。これに関しては、5月18日の諮問会議で議論された素案の「規制的手法も含めた地域偏在・診療科偏在対策を検討する」との記載から「規制的手法を含めた」の文言が削除された。記載は最終的に「実効性のある地域偏在・診療科偏在対策を検討する」と修正されている。

安倍首相は会議後、「財政再建の旗は降ろさない。『経済再生なくして財政健全化なし』との基本方針に変わりはなく、2020年度の財政健全化目標をしっかりと堅持する。歳出、歳入両面の改革を強力に進めたい」と述べている。地方経済の活性化を目指すローカル・アベノミクスを推進する方針も盛り込んだ

◆医師偏在問題、「学会専門医の維持を」、日医など政府へ要望
「新・専門医構想」急ブレーキ 政府、対応に追われる

――政府
政府は6月2日、「経済財政運営と改革の基本方針2016」(骨太方針2016)のほか、「日本再興戦略2016」、「規制改革実施計画」、「ニッポン一億総活躍プラン」の計4つを閣議決定した。
「骨太方針2016」の医療分野においては、「医師偏在」問題を取り上げた箇所について、5月18日の素案の段階で「規制的手法も含めた」となっていた医師の地域偏在・診療科偏在対策が、「実効性のある地域偏在…」などに文案変更された。

新専門医制度は「(各学会の定める)“専門医”の質を担保し公的な資格とすべく、中立的な第三者機関である一般社団法人日本専門医機構が設置する19分野の専門医を認定する」というもの。これが医療界の、特に若手医師から「2段階(二重)の研修を重ねるような制度」で、大学病院など「大手(大都会)の研修所」に医師が集中する――などといった猛反発の声が上がった。

一方、緊縮財政を勧めたい財務省は、5月の財政制度等審議会で「医師偏在解消に都道府県の権限強化を」と火ぶたを切った。
今回の財政審の建議では、消費税率10%への引き上げなどを求めた総論の後に、「社会保障」「文教・科学技術」「社会資本整備」「地方財政」の4分野について具体的な要望を出している。
財政審の建議を受けた麻生太郎財務大臣は、「医療分野では地域医療構想や医療費適正化計画の早期策定、都道府県の権限強化などを求めたい」とコメントした。このコメントの内容が、やがて「規制的手法も含めた医師偏在是正策の検討」と過激に変質し、医療界全体に火種が飛ぶこととなった。

南相馬市立総合病院(福島県)や仙台厚生病院(宮城県)などに勤務する若手医師ら12人が6月1日、塩崎恭久厚労相に対し、2017年度開始予定の新専門医制度は、日本の医療全体に大きな負の影響を及ぼすため、もう一度議論をし直すことを求める、「新専門医制度に関する陳述書」を提出した。
医師12人の大半は、卒後2年目から卒後5年目前後で、これから専門医取得を目指す立場にある。陳述書は、新専門医制度について「女性にとって非常に不利な制度」と問題視されることや、女性医師が出産もしながら仕事を続けるとなると、今後のキャリアに大きな課題と不安が横たわると訴えた。

「拙速にスタートしようとする姿勢」が問題 日医など会見
日本医師会と四病院団体協議会(四病協=日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会)は6月7日、緊急記者会見を開き、「新たな専門医の仕組みへの懸念について」と題する「要望」を、日本専門医機構と基本領域の各学会に対して出したと発表した。
日医会長の横倉義武氏は「懸念が残るプログラムは2017年度からの開始を延期し、現行の学会専門医の制度を維持することを求める」と説明。問題が指摘される日本専門医機構のガバナンス(統治体制)については執行部の体制など抜本的な見直しを求めた。

塩崎厚労相、関係者による対応を要望
塩崎恭久厚労相は6月7日、新専門医制度について、プロフェッショナルオートノミー(医師の専門的自立性)の理念の下、医療関係者、日本専門医機構、各学会がお互いの立場を超えて協力し合い、国民のニーズに応えることができる医師養成に貢献するよう求める談話を公表した。この談話は、同日付の日本医師会、四病院団体協議会の「新たな専門医の仕組みへの懸念について」を受けたもので、その趣旨は十分に理解できるとしている。

◆「保育や介護の受け皿50万人分の確保、整備は予定通り」
「消費税増税の延期」に関しコメント 塩崎厚労相

――厚生労働省
塩崎恭久厚生労働大臣は、6月2日の閣議後の記者会見で消費税増税の延期と社会保障への影響に関して質問に答えた。
塩崎厚労相は、「消費税増税の延期が決まったが、社会保障の充実への影響をどのように考えるか」との質問に対し、「(安倍首相が発言したように)給付と負担のバランスを考えれば、10パーセントへの引き上げを延期する以上、その間、引き上げた場合と同じことを全て行うことはできない。一方で、保育の受け皿50万人分の確保、介護の受け皿50万人分の整備などはスケジュールどおりやる。アベノミクスの果実も使って、可能な限り社会保障を充実させる。厚労省としては、首相の方針に従って、予算編成過程で社会保障の根幹について、さらに詰める作業をしっかりとしていくことが大事だ」と答えた。

また、記者からの「高齢化が進む中で増税を延期すると、社会保障の恒久的な財源の確保が遅れるのではないか」との指摘に、塩崎厚労相は「財源をきちんと用意し、それに基づき社会保障をやっていくことが基本。財源を確保するためには、成長と分配の好循環と言っているように、成長していくこと、アベノミクスをさらに加速することが大事」と述べた。

塩崎大臣会見概要
(記者)消費税増税の延期が決まりましたが、社会保障の充実への影響をどのようにお考えでしょうか。
(大臣)このことにつきましては、昨日、総理が御発言されています。特に、給付と負担のバランスを考えれば、10パーセントへの引上げを延期する以上、その間、引き上げた場合と同じことを全て行うことはできない。また、赤字国債を財源に社会保障の充実を行うような無責任なことは行わないということを総理は明確に示されました。
一方で、保育の受け皿50万人分の確保、介護の受け皿50万人分の整備はスケジュールどおりやるということも明確にされました。さらに、保育士や介護職員の皆様方の処遇改善など、一億総活躍プランに関する施策については、アベノミクスの果実の活用も含めて、財源を確保し、優先して実施していく。そして、アベノミクスを一段と加速することによって、税収を一段と増やしていきたい。その果実も使って、可能な限り社会保障を充実させていく。優先順位をつけながら、今後の予算編成の中で最大限努力をしていく考えであるということを、昨日、総理は明確に述べられたところでございます。
厚労省としては、総理の方針に従って、今後、予算編成過程で社会保障の根幹について、さらに詰めていく作業をしっかりとしていくことが大事だと思っております。
(記者)関連ですが、今おっしゃった優先順位をつけてやっていくべきというお話に関しては、大臣はどのようなことを優先してやっていくべきとお考えか、また、高齢化が進む中で増税を延期すると、それだけ社会保障の恒久的な財源の確保が遅れることになりますが、この点についてはいかがお考えでしょうか。
(大臣)今申し上げたように、10パーセント上がってからやると申し上げてきたことを全てやるということは難しいと総理がおっしゃっているわけであります。
一方で、お約束してきた、一億総活躍プランの中で言っているようなことをはじめ、できることはやっていくと。しかし、それには財源がいる。我々は、やはり民進党などとの政治的な考え方の決定的な違いは財源をきちんと用意して、それに基づいて社会保障をやっていくということが基本であるということだと思います。したがって、財源を確保するためには、成長と分配の好循環と言っているように、成長していくことが大事でありますから、アベノミクスをさらに加速することがいかに大事かということで、昨日もお話が出たように、安倍政権になって21兆円税収が増えたということであります。増税分を除いてみても、その前の政権の時とは様変わりの税収増になって、経済が活性化し、有効求人倍率も全県で1倍を超えるところまできた。これは統計を取り始めて、初めて全県1倍を超えるという、沖縄が最後残っていましたが、これも基本は成長と分配の好循環で、我が国の人口減少などの人口問題を克服して、皆様方がそれぞれの地域、地域で納得した生き方ができるようにすることが、私達の考え方の基本だと思います。
(記者)今回の再延期によって、一体改革の枠組が崩壊したという指摘もありますが、これについてはいかがでしょうか。
(大臣)引き続き、30か月後には10パーセントに上げるということにおいては、一体改革は当然実行していくということであると思っております。

◆「アルコール対策基本計画」、政府が初決定
省庁を超え横断的にアルコール障害に対応

――政府
政府は5月31日の閣議で、平成26年施行されたアルコール健康障害対策基本法(アル法ネット)に基づき、アルコール健康障害対策の総合的かつ計画的な推進を図るため初めての「アルコール健康障害対策推進基本計画」を決定した。
日本には、「未成年者飲酒禁止法」「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」など、飲酒の規制や酩酊者の保護に関する法律はあるものの、多岐にわたるアルコール関連問題への包括的な施策を定めた法律はこれまで存在しなかった。また、関連する5省庁もアルコール飲料や飲酒問題に関与する際は、それぞれが個別に動いており、統括する監督官庁が存在しない状態であった。
基本計画は、アルコールによる健康障害を減らすため、今後5年間で生活習慣病のリスクを高める量の飲酒をする男性の割合を13%に、女性の割合を6.4%にそれぞれ減らすことなどを目標に掲げた基本計画が盛り込まれている。
基本計画では、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を徹底し、アルコールによる健康障害の発生を予防することや、予防や相談から治療、回復まで、切れ目のない支援体制を整備することを重点課題に位置づけている。その上で、今後5年間で、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒をする人の割合を、男性は一昨年の15.8%から約3%減に、女性は8.8%から2.4%減にそれぞれ減らすことや、すべての都道府県に相談拠点とアルコール依存症の専門医療機関を設けることを目標に掲げた。
政府は、今後、すべての都道府県が地域の実情に即した基本計画を策定することを促すなどして、地方自治体や事業者、関連団体などとも連携しながら対策を進めることにしている。

アル法ネットの制定までの経緯
平成24年3月、「アル法ネット」制定の要望に応え、超党派による「アルコール問題議員連盟」が基本法の中身の検討に着手した。その後、関連省庁(厚生労働省・国税庁・警察庁・法務省・文部科学省など)や、医療など専門家・当事者・家族・市民団体、酒類業中央団体連絡協議会へのヒアリングを重ね、11月にまとまったのが「アルコール健康障害対策基本法骨子(案)」である。タイトルには「アルコール健康障害」が使われているが、内容はアル法ネットの基本法コンセプトを体現したものになっている。

「アル法ネット」の基本法コンセプトは、WHO(世界保健機関)の「世界戦略」で提唱された対策を実施するための、国としての基本路線を定めることである。そこで、アル法ネットでは、WHOの考え方に沿って「アルコールの有害な使用の低減」をめざし、最新のエビデンスを基本にした対策が行なわれることに決まった。さらに「教育・啓発・研修の充実」と「国によるアルコールの社会規制システムづくり」の実現のため、地域における「関係機関の連携」を重視し、省庁横断的な「総合的で連携した対策」を行っていくことも確認しあった。

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