ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2016年9月2日号)
◆筋梗塞や脳卒中の発症率は死亡率から予測可能 JPHC研究日本人40~59歳の男女 9.5万人の大規模調査で判明
日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている「JPHC研究」―多目的コホート研究(JPHC Study)。研究目的は「厚生労働省がん研究班」によるコホート(群れ・集団)研究で、現在は国立がん研究センターの主管で進められている。コホートは人口学用語で、特定の期間に出生や結婚のような出来事を経験した集団の意味。
今年8月に愛媛大学大学院医学系研究科や筑波大学人間総合科学研究科公衆衛生学コースなどの研究チームがまとめた結果が、心臓・循環器系の医学専門誌「International Journal of Cardiology」に発表された。 今回の研究チームは、岩手県二戸(にのへ)、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島(かみごとう)、沖縄県宮古の8保健所管内に在住していた40~59歳の男女9万4,657人を対象に、2009年(コホートI)あるいは、2010年(コホートII)まで平均18.5年間の追跡を行った。
調査結果は「心筋梗塞や脳卒中の発症率は死亡率から予測できる」ことが、9.5万人の日本人を対象に行った調査で明らかになった。「心筋梗塞や脳卒中の死亡率の高い地域は、より積極的に対策することが重要」と、研究者は述べている。
心臓の太い血管が詰まり血液の流れが悪くなり、十分な血液を供給できなくなる心筋梗塞や、脳の血管が詰まったり破れたりする脳卒中は、日本人に多い病気だ。心筋梗塞を含む心疾患は、日本人の死亡原因の第2位、脳卒中などの脳血管疾患は第4位と、いずれも上位を占める。
そんな中、これまで分かっていなかった心筋梗塞や脳卒中の発症率を死亡率から予測することが可能であることが、多目的コホート研究「JPHC研究」で判明した。調査結果は医学誌「International Journal of Cardiology」に発表された。
心筋梗塞や脳卒中を発症すると、死に至る危険が高くなる。たとえ一命を取り留めたとしても重い後遺症が残ったり行動が制限されるなど、生活の質(QOL)が著しく低下し、社会の負担増につながる。脳卒中は、寝たきりになる原因疾患の第1位だ。 しかし心筋梗塞や脳卒中が社会環境に与える影響を把握し対策を考える上で、病気の発症率は非常に重要な指標となるが、心筋梗塞や脳卒中の発症を予測するのは難しい。 一方で、死亡率は厚生労働省から毎年報告されている。病気の発症率との関連が分かれば、効果的な対策を施せるようになる可能性がある。
研究チームは、全国8ヵ所の保健所の管轄区域内に在住する40~59歳の男女9万4657人を、平均18.5年間追跡した。1985年の日本の人口構成を用いて、年齢構成の影響を調整した。 心筋梗塞と脳卒中の死亡率および発症率を算出したところ、両疾患の死亡率と発症率には関連があることが明らかになった。 年齢階級別の死亡率、年齢階級、地域から、年齢階級別の発症率を予測する式を作成したところ、死亡率から発症率を予測することが可能であることが分かった。
追跡期間中に、967人が心筋梗塞を発症し、637人が心筋梗塞で死亡した。一方、脳卒中の発症数は4,613人、死亡数は1,292人だった。 発症率と死亡率との関連性について分析したところ、死亡率が高い区域ほど発症率も高い傾向が見られ、特に脳卒中ではその傾向が強かった。
心筋梗塞の発症率は、男性で死亡率の1.7倍、女性で1.4倍だった。また脳卒中の場合は、男性で3.7倍、女性で4.3倍だった。 心筋梗塞については、男性では沖縄、岩手で死亡率が高く、女性では沖縄、茨城で死亡率が高かった。脳卒中については、男女ともに岩手で死亡率が高かった。
心筋梗塞と脳卒中の発症率を比べたところ、脳卒中の発症率は、心筋梗塞に比べて、男性で3.7倍、女性では9.6倍高く、日本の循環器疾患予防は、脳卒中対策が重視されていることが示唆されている。
この結果から研究チームは「死亡率から心筋梗塞や脳卒中の発症率を見積もることが可能なことが分かった。心筋梗塞や脳卒中の死亡率の高い地域は、より積極的に循環器疾患対策を推進していくことが重要だ」と述べている。
◆60代以上のIT利用率向上狙いサービス開発NTT東日本 介護施設向けロボットサービス参入
――NTT東日本
NTT東日本は8月30日、クラウド型ロボットプラットフォームサービス「ロボコネクト」の提供を9月1日に全国で開始すると発表した。第一弾として、同サービス対応ロボット(コミュニケーションロボット「Sota」<ソータ>。ヴイストン社製)を提供し、本格的な介護施設向けサービスに参入する。
ロボコネクトは、ロボットメーカー各社が提供するコミュニケーションロボットを利用して、会話機能やカメラ撮影機能などのアプリケーションサービスをクラウド上(インターネット・サービス)で提供するもの。ロボコネクトは、NTTグループの音声認識・合成技術「corevo」(コレボ)を利用した会話機能をロボットに追加できる。例えば、利用者が「今日の東京の天気は?」と質問すると、ロボットが「今日の東京の天気は晴れだよ」と 答えてくれる。
NTT東日本ではシニア層へ光サービスを普及すべく、介護事業者を通じたICT利活用を促進する取り組みを進めている。ロボコネクトもその一環で、同社ではコミュニケーションロボットの会話機能、カメラ撮影機能などのアプリケーションサービスをクラウド上で提供していく事業に力点を置く。
30日の発表会にはNTT東日本ビジネス開発本部 未利用層開拓担当課長 菅 光介氏が当たった。菅氏は、年齢階層別のインターネット利用状況グラフを示し、60歳以降の利用率が徐々に下がっていることを説明。このインターネット未利用層に対し、利用を促していくのが菅氏の所属する未利用層開拓課のミッションとなる。インターネット未利用層のうち、IT利用には不慣れだが、趣味や学習、交流に強い関心を持って積極的に活動する「アクティブシニア層」には、すでにNTT東日本が6月20日より、タブレット端末を直感的に操作できる「かんたんタブレットサービス」の提供を開始している。
一方、健康上の理由などから介護・介護支援が必要な層に向けては、介護施設経由でのアプローチを前提にサービス開発を行っているのだという。介護事業者が抱える課題の1つに挙げられるのが、介護レクリエーションの企画・運営だ。主な企画としては歌や体操、ゲームなどが考えられるが、リハビリ効果なども期待して日々実施されるものであるため、新たな企画考案にかかる労力はもちろん、参加する施設利用者の集中力を持続させることが難しいといった悩みがあるという。
「担当する職員の負担が大きく、介護業界の人材流出の一因にもなっています。こうした課題を、ロボットと映像を組み合わせたサービスで解消できるのではないかと考え、昨年の7月から10月にかけて4つの介護施設でトライアルを実施しました」(菅氏)。
具体的には、介護レクリエーションコンテンツを映像で流し、レクリエーションの司会進行役としてSota(ソータ)を活用したのだという。例えば、画面に画像が表示されると、連動してSotaが「これは何?」と利用者に語りかけるといった具合だ。その結果、職員の約9割が業務の負担軽減と、利用者の介護レクリエーション参加に対する積極性の向上を実感したという結果が得られた。また、第三者機関の調査では、特に認知症患者への効果として、映像のみでレクリエーションを行った際と、ロボットも併用して行った場合とでは、後者のほうがME値(認知症患者の状態を表す値。数値が大きいほど良い状態)が2倍に増加する結果となった。
ロボコネクトの基本機能として、コミュニケーション機能、カメラ撮影機能、遠隔対話機能、ユーザ管理機能などを搭載する。付加アプリケーションとして、キューアンドエー社が提供する介護レクリエーション「Sota レク」を追加することもできる。Sotaの本体価格は10万円(税抜)。ロボコネクトの初期費用は1ユーザーあたりの契約料800円+1ライセンスあたりのサーバ登録料1,000円で、毎月の利用料金として1ライセンスあたり3,000円が発生する。なおSota レクの利用には別途費用が発生する。
◆成長戦略に予算増額目立つ 17年度概算要求101兆円台に厚労省 介護離職防止に重点 一般会計31兆1,217億円
――厚生労働省
国の2017年度予算編成に向けた各省庁の概算要求が8月31日に一斉にスタート。「分捕り合戦」の秋の陣が始まった。総額は3年連続で100兆円を超え101兆円台にのぼる見通しだ。計4兆円の「特別枠」では、国の成長戦略にかかわる観光事業などでの増額要求が目立っている。
厚生労働省は「概算要求」の概要を公表した。一般会計(年金や労働保険などの特別会計は含まない)の要求・要望額は、31兆1,217億円と、2016年度当初予算額に比べて、2.7%増にあたる8,108億円の増加。実質的に過去最大規模となる。そのうち6400億円は高齢化による自然増。年金・医療などに関する経費は、29兆1,060億円で、前年度比2.3%増の6,601億円増となっている。
特に老健局の予算に注目すると、介護離職防止に向け相談機能強化に1億9,000万円などを要求した。 老健局の2017年度概算要求額は2兆9,993億円で、前年度に比べて1,103億円・3.8%の増額要求となっている。
主な内訳は、(1)介護保険制度による、介護サービスの確保:2兆9,183億円、(2)保険者機能の強化:6億2,000万円、(3)次世代介護技術の活用による生産性向上:5億4,000万円、(4)介護離職防止のための相談機能の強化:1億9,000万円、(5)認知症高齢者などにやさしい地域づくりのための施策の推進:90億円――など9項目にわたっており、特に新規事項として追加されたのが(4)で注目される。
(1)では、(ⅰ)介護給付費負担金:1兆8,444億円、(ⅱ)調整交付金:5,027億円、(ⅲ)2号保険料国庫負担金:4,573億円、(ⅳ)地域支援事業の推進:1,030億円――などが要求されている。
(iv)は、地域包括ケアシステムの実現に向けて、高齢者の社会参加や介護予防に向けた取り組みや在宅生活を支える医療と介護の連携、認知症の人への支援などを一体的に推進しながら、高齢者を地域で支えていく体制を構築するもの。
(5)では、(a)認知症に係る地域支援事業の充実:事項要求(政策が細部まで決定されていないため、個別政策の予算額の明示なし)、(b)認知症施策の総合的な取り組み:19億円、(c)認知症研究の推進:14億円―などが要求されている。
17年度予算は社会保障費関連で全体を俯瞰すると、31兆円超の概算要求が目を引く。
高齢化が進み、医療や介護など社会保障費の概算要求は、過去最大の31兆円超。今年度当初予算より6400億円増えているが、財務省は制度改革などで、増加分を5千億円程度に抑える方針だ。「1億総活躍社会」では、厚生労働省が「保育士や介護職員の処遇改善」、文部科学省が「給付型奨学金」を要求したが、財源が決まっていないため金額を示していない。財務省は今後、査定作業に入り、各省庁との折衝を経て年末に予算案を決める。16年度の当初予算の一般会計総額は、概算要求の102兆4099億円から5兆7千億円削って、96兆7218億円だった。
安倍政権が最大の課題に掲げるのが非正規の待遇改善をめざす「働き方改革」だ。厚労省は非正規社員らの賃金を底上げしたり、育児と仕事を両立しやすくしたりする予算を求め、「1億総活躍社会」の実現につなげたい考えだ。
非正規社員と正社員の賃金格差を縮める「同一労働同一賃金」の実現に向け、全都道府県に「非正規雇用労働者待遇改善支援センター」(仮称)を設置するため11億円を計上。設備投資で生産性を高めて賃金を底上げした中小企業への支援などには29億円を計上し、「最低賃金の全国加重平均1千円」の実現をめざす。待機児童対策では、子供が1歳になったら認可保育施設に入れるように「入園予約制」の導入支援に7億9千万円をあてた。
「国土強靱化」、防災教育推進を掲げる国土交通省は、予算の多くを占める公共事業費について、3年連続で6兆円超を求めた。災害から国民を守る「国土強靱化」や、公共投資による経済成長などを掲げている。堤防のかさ上げ、防災教育の推進など「災害対策の推進」に5673億円、道路補強などの「災害時の物流確保」に5437億円などを求めた。東京五輪に向け羽田空港の発着回数を増やすための予算も増やした。一方、復興庁は東日本大震災の復興・創生期間(16~20年度)の2年目、1.9兆円余りを要求。公共事業の多くがピークを越すため、前年度の2.4兆円から減少する。
観光庁は外国客増狙いで予算を58%増要求した。2020年に訪日外国人(インバウンド)4千万人の目標達成に向けて大幅要求。
観光庁は今年度当初予算を58%上回る316億円を要求。観光案内所や公衆無線LAN整備のほか、駅のバリアフリー化なども盛った。規制緩和が検討されている民泊サービス普及のための費用も求めた。政権が成長戦略の柱に位置づけたこともあり、前年は要求の1.4倍の予算が付き、「大盤振る舞い」と話題になったが、東京五輪に向け観光路線は国の大黒柱。また成長戦略では、経済産業省が、ドローン(無人飛行機)やロボットが宅配や災害救助などで大量に投入される将来を見据え、技術開発や導入促進に105億円を要求した
◆厚労省 配食事業者のガイドラインを年度内策定1食分を単位とする調理済み食品の継続的な宅配事業
――厚生労働省
厚生労働省は配食事業者向けのガイドラインを策定、来年度運用を開始する。現在、16年度内の策定を目指し作業を急いでいる。今年7月に「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方検討会」の初会合を開き、座長に女子栄養大学大学院研究科長・武見ゆかり氏を選任した。同検討会では、まず、議論の対象となる配食事業を定義。主に在宅での食事用に主食・主菜・副菜の組合せを基本とする1食分を単位とした調理済み食品を継続的に宅配する事業とした。外食、宅配ピザなどは対象外。
ガイドラインへの検討項目としては①配食事業の栄養指導管理②配食を活用した健康管理支援③配食サービスの情報発信――の3点。①については▽献立の作り方▽利用者の栄養状態に応じたエネルギーやたんぱく質の量などの設定▽献立による栄養素のばらつきの範囲▽メニューサイクルの程度――が挙げられた。
委員からは「摂食嚥下機能の低下も低栄養の一因。常食以外の食形態の対応状況も把握すべきだ」(江頭文江・地域栄養ケアPEACH厚木代表)との意見が挙がり、検討項目への追加が了承された。この他、配食を継続利用するための仕組みや、配食の事業内容の見える化についての検討も行う。
次回検討会では、配食事業者へヒアリングを行い、▽献立作成者の資格有無▽対象者や栄養価の設定方法▽嚥下調整食の取扱――などサービスの実態をより具体的に把握する。さらに、利用者への支援として商品選択におけるアセスメント、モニタリングとその実施、かかりつけ医への情報提供など、健康支援の取組みについても聞く予定。委員からは商品の価格や委託の割合、自治体との関わりなども重要との指摘もあった。
なお、6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」の中でも、事業者向けのガイドラインを作成し、17年度より配食サービスの普及を目指すと示されている。矢野経済研究所の調査によると、配食の市場規模は14年度が1050億円。09年度から5年間で、1.8倍に伸びている。
▽日本介護食品協議会 UDFマーク変更 区分番号を削除
日本介護食品協議会はユニバーサルデザインフード(UDF)の普及啓発に向け、UDFマークを変更する方針を示した。ユニバーサルデザインフード」とは、日常の食事から介護食まで幅広くお使いいただける、食べやすさに配慮した食品。その種類も豊富で、レトルト食品や冷凍食品などの調理加工食品をはじめ、飲み物やお食事にとろみをつける「とろみ調整食品」などがある。ユニバーサルデザインフードのパッケージには、必ずUDFマークが記載されている。
16年度の事業計画では農林水産省が推進する介護食品の新たな規格として「スマイルケア食」の運用が始まったことを受け、商品選択時に利用者の混乱を避けるため、UDFマークをよりわかりやすく変更することが提案、承認された。区分をあらわす番号を削除し、利用者が商品選択時に参考にしている「舌でつぶせる」などの食品の状態を示す表示のみに統一する。
また、従来は同協議会への加盟には日本缶詰びん詰レトルト食品協会への加入が義務となっていたが、UDFが常温食品だけではなく、冷凍やチルドなど多様化したことから、要件としないと会則の変更を行うことが報告され、いずれの議案も承認された。
この他、任期満了に伴う役員の改選で森佳光会長(キユーピー執行役員)、森田勉副会長(明治常務執行役員)が再選され、岡村秀次郎氏(東洋製罐執行役員)が新理事に選ばれた。森会長は「UDF製品登録数は5月時点で1784品目と1年間で260品目増え、介護食品への関心や理解が着実に進んでいるといえる。今後も介護従事者や一般消費者への普及、市場の発展を目指していく」と話した。