ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2016年10月20日号)
◆ ICT導入で患者の治療歴を一元管理
効率化を推進して医療費削減を目指す
――厚生労働省
10月19日、厚生労働省の有識者懇談会は、情報通信技術(ICT)の医療分野などへの導入に向けた構想を明らかにした。患者の同意をもとに、治療歴をデータベース化して一元管理し、全国の医療機関が共有できるように提言。2020年度の運用開始を目指すとした。個々に最適な医療を迅速に提供できる環境整備を進めるとともに、検査や投薬の重複を避け、医療費の抑制につなげたい狙いがある。
現在、治療や健康診断、予防接種などの記録は、それらを受診した医療機関や自治体が個別に保管している。そのため、複数の医療機関を受診した際には、同じ検査を行うケースもあり、医療費の膨張を助長しているとの指摘がある。
そこで有識者懇談会ではICTの活用を提言。既往歴や副作用などの情報に全国の医療機関がアクセスできるようにすることで、かかりつけ医以外の医療機関に救急搬送された場合でも適切な治療を迅速に受けられるとした。医療だけでなく、介護との連携を図ることもできるため、高齢者の健康管理や災害時の治療にも役立てることができる。
この提言を受け、厚生労働省はデータベースを「PeOPLe」(仮称)とし、2020年度の運用開始を目指す方針を固めた。集めた情報は匿名化したうえでビッグデータ化させ、自治体や研究機関、製薬企業に提供。政策立案や新薬の開発などに役立てたい意向だ。
課題は、治療歴が慎重な扱いを必要とする個人情報である点。データを保護するための環境整備や、情報が流出した場合の対策を立てておく必要がある。また、医療機関だけでなく、患者本人もデータベースにアクセスできることを視野に入れているため、より適切なプラットフォーム設計も求められよう。
同懇談会では、がん検診のMRI画像や診療データを人工知能で分析し、診断や治療法選択に役立てる仕組みの整備も提言。今後、本格的なICT導入に向けて、より慎重な議論と情報保護を徹底できる環境整備が求められることになりそうだ。
◆ 2018年度までに薬価制度を抜本的に見直す
医療費の地域差半減の取り組みにも注力 厚労相
――経済財政諮問会議
10月14日、内閣府の経済財政諮問会議が開かれ、2018年度に薬価制度を抜本的に見直す方針が明らかにされた。同時に、1人当たり医療費の地域差半減に向けての取り組みを進めるほか、高額がん治療薬「オプジーボ」(小野薬品工業)の薬価を国民負担軽減の観点から緊急に引き下げるとした。
この日の会議では、「経済社会・科学技術イノベーションの創造に向けた制度改革」と「メリハリを効かせた歳出改革の推進」が議事にあげられた。後者の議論の冒頭で、同会議の民間議員である日本総合研究所理事長の高橋進氏が「医療費の伸びのうち、高齢化要因を除くと薬剤料の増加でその半分超が説明できる」と発言。同時に、オプジーボの適用が肺がんへと新たに広がったことで、患者数が当初想定の32倍以上になっていることを指摘し、大胆な薬価引き下げが不可欠だとした。
この発言を受け、塩崎恭久厚生労働大臣は「オプジーボは緊急的に薬価を引き下げる」と明言。そして、「イノベーションを阻害しないように配慮しながら平成30年度(2018年度)に薬価制度を抜本的に見直していく」と述べた。
また、前出の高橋氏は都道府県別の1人当たり医療費の地域差についても言及。全国の平均が51万円であるのに対し、上位の福岡県と下位の新潟県では約16万円もの差があることを示した。そのうえで、「地域差の主な原因は入院費だが、厚生労働省からヒアリングしたところ、半減目標に入院費は入れないと聞いた。入院費を考慮しないと議論にならないので、厚労大臣には入院費を含めて半減目標に取り組んでほしい」と訴えた。
これに対して塩崎大臣は、「入院医療費の問題はもっともだ」と受け止め、今年末までに結論を出すように検討を進めるとした。
会議の終盤では、安倍晋三総理大臣からもこれらの取り組みについて対応策を具体化するよう指示が出た。これは、歳出改革を加速させる決意を示している。増え続ける医療費を抑制するため、さまざまな要素の見直しが進められているが、大きな部分を占めている薬価や入院費に大なたが振るわれる可能性が高まったと言えよう。
◆ 産婦人科医が7年ぶりに減少
全国で年間300名が分娩取扱いを休止
――日本産婦人科医会
日本産婦人科医会は10月13日、「産婦人科医師の動向」を公表。2009年以降は増加傾向だった産婦人科医師の数が、今年1月に減少に転じたとした。
同医会の調査結果によると、産婦人科医の数は2007年に9458人にまで減少。2009年以降は増加に転じ、以降はわずかながら年々増え続けていた。2015年には1万1483人となったが、今年1月には1万1461人と22名減少している。
教育体制の変化も、この問題の背景にある。2009年には医学部の定員が700名増員したものの、産婦人科が必修科目から選択科目に変わった。2012年以降は新たに産婦人科を専攻する医師も減少している。
また、産婦人科が他の診療科と比べて激務であることも大きい。とりわけ分娩を取り扱っている場合、24時間365日いつ呼び出しがあるかわからず、緊急手術に至るケースも少なくない。それでいて、患者からの「訴訟リスク」があることも、産婦人科医希望者の減少を促している。
実際、同医会によると、全国で年間300名の医師が分娩取扱いをやめているという。それによって起こっているのが、分娩取扱い施設の集中化だ。一般病院は2006年に1003カ所あったのが、今年は607カ所と約400カ所も減少。診療所(クリニック)も2006年に1818カ所あったのが1382カ所と同じく約400カ所減っている。
逆に、総合病院は78カ所から105カ所へ、地域の中核病院である地域医療支援病院は199カ所から298カ所へと増えているが、減少数に増加数が追いついていないため、全体的には分娩施設自体が減っている事態となっている。
激務状態を改善する狙いもあり、施設あたりの医師数は年々増加している。中でも総合病院は、施設あたりの医師数が14.5人と10年前の10.9人に対して4人近く増加しており、周産期センターの体制が充実の傾向にあることがうかがえる。取扱い分娩数も、一般病院が10年前の76%まで落ち込んでいるものの、総合病院は10年前と比べて167%に達しており、周産期センターでの取扱いが進んでいることを示している。
しかし、未だ取扱い分娩数の48%は診療所であることを考慮すると、現在は診療所と周産期センターの二極化が進んでいる状況であることがわかる。つまり、地域医療を支える診療所の維持と、周産期センターをより充実させるための人材確保が求められている状況だ。特に、妊婦が多い大都市近郊では、分娩1000件あたりの医師数が埼玉5.5人、千葉6.2人と大きい。もっとも負担が少ない山形が14.7人であることを踏まえると、今後さらに大都市での産婦人科医の確保が課題となるだろう。
◆ 全国の医師の知見を共有し、互助医療を実現する
“知恵袋”サービス「クスリバ」がスタート
――株式会社エクスメディオ
10月17日、ITを利用して医療支援サービスを展開している株式会社エクスメディオが、全国の医師の知見を共有できるサービス「クスリバ」をスタートさせた。多彩な環境で医療業務に携わる医師にとって、格好の相談場所になりそうだ。
同社は、すでに無料で利用できる医師間臨床支援アプリ「ヒフミル」を展開中。「クスリバ」は同アプリ内のいわゆる「知恵袋サービス」として機能させる。
「ヒフミル」は、医師の知識や経験を共有することで、臨床に役立てるための互助プラットフォームを目指している。具体的には、問診情報を入力して疾患画像をアップすれば12時間以内に専門医からのアドバイスが受けられるというもの。プラットフォーム上のやりとりの中で、他の医師にも役立つと判断されればデータベース化され、ユーザー医師がシェアできる。カンファレンスでは出しにくい些細な質問ができるほか、日常的に相談できる医師が少ない個人クリニックおよび僻地の医療機関に勤務する医師にとって役立つサービスと言えよう。
エクスメディオ社の代表取締役である物部真一郎氏は、高知医科大学出身で自身も医療機関の臨床経験がある精神科医。精神科の単科医療機関に勤務していたが、皮膚や眼の疾患を持つ患者には自身で診察する必要があったという。その際、LINEやFacebookなどのSNSを利用して友人医師に相談していたところ、他の医師も同様にSNSやメールで診療の相談をしていることを知った。そこで、スタンフォード大学のビジネススクールやメディカルスクールに留学し、ITヘルスケアの最新動向を学んだうえで同社の起業に至った。
そうした経緯から、当初は皮膚科、眼科の専門医からアドバイスが得られる「ヒフミル君」「メミルちゃん」を展開。「ヒフミル」は、これらも取り込んだ総合的な臨床支援サービスとして展開させたい意向。今回の「クスリバ」も、より幅広い医師が参加できるプラットフォームにするための戦略だ。
また、同サービスは、総務省からの補助金や寄付によって運営することで無料での提供を実現。スマートフォンなどのモバイル端末をはじめ、パソコンでも利用ができる。モバイルはAndroidとAppStoreに対応。