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介護経営情報(2016年11月4日号)

2016/11/9

◆AI活用で世界一の医療介護先進国を目指す 経産省のロードマップ
2030年以降「人に代わって作業できる」介護ロボットの実用化へ

――未来投資会議 構造改革徹底推進会合
11月2日に首相官邸で開かれた未来投資会議の構造改革徹底推進会合で、人工知能(AI)の研究開発目標と産業化へのロードマップが発表された。介護分野では、人が見ていなくても利用者の行動が見守られるシステムや、会話可能な介護ロボットの実現を目標に掲げている。人手不足を解消するとともに、年々増加し続けている社会保障費を抑制するのが大きな狙いだ。

このロードマップを作成しているのは、AI技術開発を行う産学官連携の「人工知能技術戦略会議」。「本年度中にAI産業化へのロードマップを策定する」と今年4月に安倍晋三首相が発言したことを受け、縦割りを排した形で創設された。官庁も総務省、文部科学省、経済産業省の3省が連携。「医療・介護」を始め「健康」「生産性」「空間の移動」「セキュリティ」の分野を対象に、具体案を挙げている。

医療・介護分野では、膨大な情報をビッグデータ化することを前提に、AIを活用して世界一の医療・介護先進国を構築することを目指すとしている。ロードマップは、2020年まで、2020年から2030年まで、2030年以降と3段階に分け、それぞれ具体的な実現イメージを明らかにした。

たとえば、実質3年後の2020年までには、「センサを利用した緊急通報」の普及とともに、マニピュレーションやパワーアシストなどの技術を利用して移乗や歩行、コミュニケーションを支援する介護ロボットの実用化をスタートさせたい意向。2030年までには、脳信号の読み取りを行うBMI技術(ブレイン・マシン・インタフェース)や筋肉を動かすときに生じる筋電位を活用し、「利用者の意思で動く」介護ロボットの実現を目指す。そして、2030年以降には、人間の意思を予測し、制御して行動に移すことで「人に代わって一定の技術が行える」介護ロボットを実用化したいとしている。

実質15年弱と非常な短期間で、介護システム・ロボットの開発および実用化は決して簡単ではないだろう。そこで、「人工知能技術戦略会議」はグローバルかつオープンなイノベーション拠点の構築も提案。海外から、優秀な研究者を世界水準の報酬で招聘することも計画に盛り込んでおり、政府が意欲的に取り組んでいることが窺える。ロードマップどおりに工程が進めば、この10~15年で劇的に介護現場を取り巻く環境が変わることが予想されるだけに、事業者側も、介護ロボットをいかに活用するのか、情報収集を含めて今からしっかりと準備をしておく必要があるのではないだろうか。

◆老人福祉・介護事業への新規参入、3年連続で減少か
特養やケアハウスの減少率の大きさが目立つ

――東京商工リサーチ
大手信用調査会社の東京商工リサーチは、10月28日に2015年の新設法人調査を発表した。全体では前年比4.5%増と6年連続で増加しているものの、老人福祉・介護事業者に限ると2014年に続いて2年連続で減少。2012年には、前年比77.9%増と大幅な新設法人数増加を記録していた老人福祉・介護市場だが、現在は「安易に新規参入できないマーケット」と認識されつつあることが明らかになったと言えよう。

2015年に新設された老人福祉・介護サービスの法人は3,116社。2014年は3,627社だったため、減少率は14.0%となる。2014年の減少率は4.4%と微減にとどまっただけに、昨年の減少ぶりが目立つ。しかも、全国を9エリアに分けた場合、そのすべてで減少を記録。地域によっての偏りが原因ではなく、全国的に減少傾向にあることがわかる。

※東京商工リサーチは「北海道」「東北」「関東」「中部」「北陸」「近畿」「中国」「四国」「九州」の9エリアに分けたデータを公表している。

とりわけ、注目したいのは四国。2014年には10.1%増と、全国でも数少ない新設法人数増加エリアだったが、2015年には一転して落ち込み、29.2%減と全国トップの減少率をマーク。前年の新規参入ラッシュで飽和状態になったとの見方もできるが、細かく参入業種を見ると、低資本での参入が多い「訪問介護事業」が大幅に減少しており、“事業者予備軍”が慎重に検討するようになったとも読み取れる。

業種別に見ると、その「訪問介護事業」が全体の82.5%とやはりトップ。資本金100万円~500万円未満の法人が全体の56.3%と6割近くあり、資本金1000万円未満の法人は全体の89.9%と約9割を占めていることからも、低資本・少人数で訪問介護事業をスタートさせる事業者が多いことが窺える。
逆に、減少した業種は「特別養護老人ホーム」など。2014年は122社の新設法人があったが、2015年は43社と64.8%の大幅減。減少率の高さの順で並べると、次は「認知症老人グループホーム」の56.0%減、養護老人ホームやケアハウスなどを含む「その他の老人福祉・介護事業」の49.2%減と続く。ある程度まとまった人手とノウハウが必要なこれらの事業への参入が減っている事実は、介護分野全体の人手不足の深刻さを表している。

東京商工リサーチは10月7日に、今年9月の時点で「老人福祉・介護事業の倒産数」が年間最多記録を更新したと発表したばかり。その一因として、2015年4月の介護報酬改定による基本報酬ダウンと、充実したサービスを行う施設への加算拡充を挙げているが、新設法人数の減少にも同じ要因が当てはまるのは明らか。しかし、裏を返すと、充実したサービスを提供できれば、安定した事業を展開できる可能性が高いとも言える。
10月11日の第2次補正予算では、介護事業主を対象にした複数の助成金制度が創設・拡充されるなど、国や自治体も支援策を強化している。新規の法人設立を考慮する場合は、シビアな事業計画を立てると同時に、可能な限り助成金の交付が受けられる体制を整えるのも、介護ビジネスを展開するうえで欠かせないのではないだろうか。

◆スマホでスタンプを押すだけで介護記録を自動生成
介護業務支援システム「ケアリス」の提供がスタート

――株式会社ACCESS
11月1日、株式会社ACCESSは介護業務支援システム「ケアリス」の提供を開始した。スマートフォンでチャットをする際のスタンプを押す感覚で、簡単に介護記録を自動生成できる。介護現場の負担を軽減できるとともに、介護記録をクラウドで共有できるため、作業の引き継ぎなど、介護職員間のコミュニケーションを円滑にする役割も期待できる。

「ケアリス」は、ACCESSのビジネス向けチャットサービス「Linkit(リンクイット)」をベースに開発された。入浴や食事といった介護作業を行ったときに、スマートフォンやタブレットで専用スタンプを押す。それだけで、リアルタイムに日時、担当者、介護利用者、介護作業の内容などのデータがクラウドに送信され、介護記録書として残る。介護記録書はHTMLで生成されるため、フォーマット変更も簡単にできる。

また、音声や画像、動画も送受信可能なので、日常生活でスマートフォンやタブレットを使う感覚で、介護利用者の補足情報の記録や、業務内容の共有ができる。単なるタスク管理にとどまらず、より詳しい状況を介護職員間で共有できるため、担当者が代わってもスムーズに介護業務を進められる。さらに、Excel、Word、PowerPoint、PDFなどの資料も送受信できるため、「ケアリス」をベースにすれば業務内容の共有も簡単だ。

ACCESSの調べによると、現在、介護記録の作成には1カ月のうち約15%の時間を割かれているという。たとえば訪問介護業務のあと、事務所に戻って作業記録の入力作業を行う必要があったため、労働時間も多くなり、その分の残業代も嵩んでいたのが現実だろう。介護記録ソフトの導入や保守にかかる費用も、経営を圧迫してきた。
しかし「ケアリス」ならば、現場でスタンプを押すだけで記録されるため、労働時間の短縮を実現できる。日時が記録されるため、勤怠管理への応用も可能と、経営側にとってのメリットも大きい。パートタイム勤務や直行直帰勤務など、ワーク・ライフ・バランスを考慮した働き方の支援にもつながり、人材不足解消にも一役買うのではないだろうか。

◆訪問介護ヘルパーと複数の事業所をマッチングさせる
WEBサービス「ユアマネージャー」がオープン 横浜市で

――ヘルスケアマーケット・ジャパン株式会社
11月1日、ヘルスケアマーケット・ジャパン株式会社は、訪問介護ヘルパーと事業所の最適なマッチングを提供するWEBサービス「ユアマネージャー」の提供を、11月2日から開始すると発表した。

このサービスは、仕事を求めるヘルパーが就労希望地域や時間帯を入力すると、AI(人工知能)が複数の訪問介護の仕事を自動でコーディネート。1日の移動ルートや想定収入まで瞬時に表示され、その情報を参考にして、ヘルパーは仕事に応募することができる。1つの事業所のみで働くのではなく、複数の事業所の仕事を横断的に請け負うことで、ヘルパーは収入を高めることができ、事業所は効率的に労働力を確保できる仕組みだ。希望条件や訪問エリアをマッチングした状態で、採用面接を受けることができるため、面接に要する時間と手間を大幅に短縮できるのもメリットと言える。

サービスの利用料金については、ヘルパーは無料。登録する事業者側は、採用したヘルパーの稼働量に応じて支払う従量課金制を採用している。現在の提供エリアは、神奈川県横浜市の18区のうち10区のみだが、来秋以降に全国主要都市圏への展開やモバイルアプリのリリースも予定している。

「ユアマネージャー」を開発したヘルスケアマーケット・ジャパン社の代表取締役、坪井俊憲氏は慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、同大学大学院政策・メディア研究科在学中にホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)を取得。新卒で訪問介護企業に就職し、ヘルパーとして就業中に、訪問介護のニーズに対する人員の配置や移動・待機の非効率さを感じ、「移動距離ゼロ、待機時間ゼロ」で訪問介護を提供したいと考えたのが「ユアマネージャー」の開発に至ったきっかけだという。
今後は、スケジュール管理機能や、仕事のスムーズな移動を支援するための交通情報・天候情報との連携、仕事帰りに役立つスーパーの特売情報の配信、個々の経歴に即したスキルアップ講座の提案などを実装していく予定だ。

ヘルパーに対してはより働きやすい環境を支援し、事業所に対しては経費面でも効率的な労働力を提供できる新たなマッチングサービス、「ユアマネージャー」。現時点では提供エリアが限定されているため、どこでも利用できるわけではないのが大きな課題ではある。しかし、これを契機に他からも同種のサービスが出てくることが期待できるため、介護に関連するベンチャービジネスの動向には、今後も目が離せない。

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