ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2016年11月24日号)
◆マイナンバーを活用した医療保険の制度設計を検討
高齢者も、所得だけでなく資産を考慮した仕組みへ
――財政制度等審議会
財務相の諮問機関である財政制度等審議会は、11月17日に「平成29年度予算の編成等に関する建議」を麻生太郎財務相に提出。その中で、医療費は年齢ではなく負担能力に応じた負担とするべきだと提言。所得水準だけでなく、預貯金などの金融資産を考慮した医療保険の制度設計をすべきだとした。
現在、医療保険は所得水準に応じて負担割合が異なる。とりわけ、70歳以上の場合は原則として1割負担であるものの、「現役並みの所得」がある場合は3割負担となっている。しかし、財政制度等審議会は「高齢者は平均的に所得水準が低い一方、貯蓄額は多い」として、公平な負担を求める観点から、「預貯金などの金融資産も勘案して負担能力を判定する必要がある」と明言。預金情報の照会を可能とする改正マイナンバー法が施行予定であることを踏まえ、金融資産の保有状況によって負担割合を変えていくべきだとした。
改正マイナンバー法は、2018年9月までに施行されることとなっているため、早急に対応可能な現行制度のもとでの取り組みについても言及。入院時生活療養費などの負担能力の判定に、介護保険の補足給付の仕組みを取り入れたい意向を示した。昨年の介護保険改正で、単身なら1,000万円以上、夫婦で2,000万円以上の預貯金や有価証券などの金融資産がある場合は介護保険の補足給付の対象外となったため、同様の基準を取り入れる方向となることが予測される。
また、財政制度等審議会は、後期高齢者医療制度の保険料軽減特例についても、速やかな廃止を求めるなど、高齢者の医療費を削減する強い姿勢を示している。消費税率引き上げが延期された現在、財政健全化を進めるためには社会保障費の抑制が必要なことは確かで、同審議会でも来年度予算(平成29年度予算)での社会保障費の伸びは5,000億円以内に抑えるべきだとしており、今後厚生労働省がどのように対応していくか注目される。
◆財政審、生活習慣病治療薬の高額化に懸念を表明
薬価制度の見直しとともに、処方ルールの設定を求める
――財政制度等審議会
財政制度等審議会は、11月17日に麻生太郎財務相へ提出した「平成29年度予算の編成等に関する建議」の中で、高額薬剤の薬価を適切に見直すとともに、薬価制度の抜本的な見直しを求めた。とりわけ、生活習慣病の治療薬について、世界全体と比べて高価な医薬品が多く処方されている現状を指摘。処方ルールを設定する必要性について提言した。
同審議会が生活習慣病治療薬に対して特に言及したのは、国内の医薬品売上高の上位10品目に関連薬が多く含まれているからだ。1位のプラビックスは心筋梗塞予防に用いられており、2位から4位までは高血圧薬のARB系が占める(ミカルディスファミリー、オルメテックファミリー、ブロプレスファミリー)。6位には糖尿病治療薬のジャヌビアが入り、9位のネキシウムはプロトンポンプ阻害薬だが、低用量アスピリンを長期服用している生活習慣病患者のために処方されるケースが多いため、広義の意味では生活習慣病治療薬の一種と言えよう。
とりわけ、同審議会は高価とされるARB系が多く処方されていることを問題視している。世界の医薬品売上高の上位10品目にARB系の薬は入っていないこともあり、膨らみ続ける医療費抑制の観点からも、処方ルールを設けることでARB系の処方を減らしたい意向だ。
生活習慣病は、今や日本人の死因の6割を占めていると言われている。それだけに、処方ルールを設定することは、当然のことながら診療の現場にも大きな影響を及ぼす。ルールが設定されれば、生活習慣病の治療のあり方にまで影響してくることは間違いないため、厚生労働省がどのような動きを見せるか注目したいところだ。
なお、同審議会は現在の薬価制度にも問題があると指摘。50%の緊急薬価引き下げが決定したオプジーボの問題も挙げつつ、当初の想定よりも大幅に適応が拡大される可能性に対して対応できる仕組みとなっていないとし、早急な制度見直しを求めた。同時に、イギリスやフランス、ドイツ、オーストラリアなどで費用対効果評価を実施して保険償還の対象とするか否かを決めていることを挙げ、薬価算定においては費用対効果の観点を反映するべきとしている。厚生労働省も、薬価制度の抜本的な見直しは急務としているため、今後はどのような制度設計が行われるかが焦点となるだろう。
◆「かかりつけ医」以外の外来受診での定額負担は見送り
まずは「かかりつけ医」の明確な定義付けを進める方針
――厚生労働省
11月18日、厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会の医療保険部会が開かれ、「かかりつけ医」以外で外来受診をした場合、一定の額を自己負担とする制度の導入は見送られることが決まった。外来受診先を「かかりつけ医」のみに促すことで、余分な検査費用や薬代を減らし、膨らみ続ける医療費を抑制するのが厚生労働省の狙いだったが、仕切り直しを余儀なくされた格好だ。
見送りとなった最大の原因は、「かかりつけ医」の定義が不明確なところにある。字義通りであれば「かかりつけ医」は1人であるべきだが、内科、耳鼻咽喉科、眼科など複数の診療科を別々の医療機関で受診している患者も多いのが実情。どの診療科を「かかりつけ医」とするのか、その選択の基準をどこに置くのかを定めなければ、現場で混乱することは必至だ。また、若年層の場合は医療機関の受診頻度自体が少なく、事実上「かかりつけ医」を持たないケースも考えられ、1回の受診での負担額が不当に大きくなる可能性もある。
18日の会合では、これらの問題点を踏まえたうえで、限りある医療資源を効率的に活用するために、医療機関の特性を生かして明確に役割分担を図ることの重要性を指摘。「大病院の外来は紹介患者を中心」とし、一般的な外来受診は「かかりつけ医」に相談することを基本とするシステムを普及させていく方針が改めて確認された。
そのため、今後は「かかりつけ医」について、プライマリ・ケアのあり方を含めて明確な定義付けを行う必要性があるが、同会合では検討に一定の時間を要するとし、当初予定されていた年末までの制度改正案取りまとめは厳しいと判断。検討課題として先送りされることになった次第だ。
「かかりつけ医以外」の医療機関を受診した場合の定額負担案は、昨年末に内閣府の経済財政諮問会議が「経済・財政再生計画」に明記していたほか、財務省も10月4日の財政制度等審議会で導入を提言。そこまで強力に推し進めてきた背景にあるのは、40兆円を超える医療費の抑制が喫緊の課題だからにほかならない。
しかし、前述したように「かかりつけ医」の定義付けは簡単に行える問題ではない。2011年に財務省がすべての医療機関を受診するごとに100円程度を徴収する提案を行ったことがあるが、医療費抑制を実現するため、「かかりつけ医」に限定しない定額負担案を改めて検討課題として持ち出してくる可能性もあるのではないだろうか。
◆AIを活用した4カ国語対応のメディカルコールセンターで
深夜や早朝などの受付業務を自動化 人手不足解消の一手に
――株式会社インテリム 株式会社U-NEXTマーケティング
11月15日、内閣府の規制改革推進会議が開かれ、「診療報酬の審査の効率化と統一性の確保」について議論が展開された。その中で、診療報酬の審査のあり方の見直し案について、今年末までに固める方針を改めて確認した。
社会保険診療報酬支払基金では、すでにレセプトの電子化はほぼ完了。ICTを活用した診療報酬の審査自動化・オンライン化が可能な環境が整っているが、紙レセプト時代と同様に、人が目視で再審査する非効率な取り組みを行っている。
そこで、今年6月の閣議で今年中に見直し案を固めることを決定。診療報酬審査においては、ICTを最大限に活用し、人手が必要な事務作業を極小化するとともに、精度を高めて透明性を確保することが求められてきた。
具体的には、まず明確な審査判断基準を全国統一レベルで策定。コンピューターチェックでも高精度な審査ができる状態にする。そのため、レセプト自体もコンピューターチェックに適した形式に見直し、同時に請求段階での記載漏れや誤記などの防止措置も構築することとなっている。
同会議によれば、こうした見直しを行うことで、社会保険診療報酬支払基金の職員や審査委員のみならず、医療機関の負荷軽減にもつながるとしている。また、ICT化を徹底することで審査結果の通知が効率的に行えるのも、双方にとって大きなメリットだ。2018年度からは、医療保険のオンライン資格確認などのシステム運営も社会保険診療報酬支払基金が担うことになっている。この運営をスムーズに行うためにも、早期の審査改革が求められる状況であることは言うまでもない。
また、これらの取り組みが実現することで、レセプトデータを積極的に活用できる仕組みができあがることも見逃せない。より質の高い医療を早期に実現させるためにも、政府および関係機関の迅速な取り組みが必要であり、今後の推移にもぜひ注目したいところだ。