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医療経営情報(2017年1月5日号)

2017/1/10

◆ レセプト請求前に、医療機関が事前チェックできるシステム構築へ
返戻を極小化させることで、事務作業の負荷軽減を目指す

――厚生労働省
昨年12月26日、厚生労働省の「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」が開かれ、昨年4月から議論されてきたレセプト審査業務の効率化および審査基準の統一化などについての提言が取りまとめられた。

提言の中では、審査支払機関である社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)でシステム刷新の時期が差し迫っていることを受けて、新たなシステムの方向性が議論されてきたが、医療機関が事前にコンピュータチェックできる仕様とする方針が決まった。

事前のチェックでエラーが出た場合は、修正したうえでレセプト請求ができるため、支払基金からの返戻が格段に減ることが見込まれる。自ずと、事務作業量の軽減が期待できるため、審査業務を行う支払基金と医療機関の双方にとって、大幅な効率化が実現できることとなりそうだ。

コンピュータチェックのルールをどのように定めるか気になるところだが、支払基金が一元的に構築して統一ルールのもとで医療機関が活用できる仕組みにする方針。そうすることで、各医療機関のシステムベンダがルールを独自に構築する必要がなくなるため、医療機関にとっては新たなシステム構築および保守にかかるコストを抑えることができる。

また、レセプトの形式も、一元化したコンピュータチェックルールに適した内容へと見直す。具体的には、コンピュータチェックでエラーとなった請求項目のうち、詳細記述項目の内容をテキスト解析し、頻繁に記述される項目については、オプションとして選択式項目を用意。医療行為を行った理由や対象部位などを選択して送付できるシステムとすることで、処理時間の短縮を目指す。

もちろん、すべての項目を選択式にすることは困難であるため、項目化が容易だったり、請求件数および付箋の多かったりする請求項目を選択式にする方向だ。同検討会では、レセプトの傷病名にICD-10(国際疾病分類第10版)の病名コードを用いるべきとの意見も挙げられており、いずれにしても利便性向上に向けた施策が実行されることは間違いない。医療機関としては、同検討会の議論の動向を注視したうえで、新たなシステムおよびレセプト形式へ移行したタイミングでスムーズに対応できる準備を進めておくべきではないだろうか。
◆ 厚労省、事務次官クラスの新ポスト「医務技官」を創設
医師免許を持つ人材を登用し、医療・保健政策の充実を図る

――厚生労働省
昨年12月22日、厚生労働省は2017年度の機構・定員査定を発表。新たに「医務技官」を創設するとした。事務次官級のポストとなる。大臣官房の技術・国際保健総括審議官は廃止される。

同省によれば、次官級の新ポストを創設した理由は「医療・保健の技術分野で部局連携による対応が必要な重要課題が多数」あるからだという。そうした重要施策について、専門的観点から統合的、包括的にマネジメントする立場となる。そのため、医師免許を持つ医系技官を登用する方針だ。

具体的には、AI(人工知能)やICT、ゲノムなど医療イノベーションをリードし、現場での実用化推進が求められるほか、医療関係者とのハイレベルな調整を行う必要もある。また、医療・保健分野に関しては、感染症対策など、海外当局との折衝が必要な場面も多いため、国際保健外交で日本が貢献するための中心的機能を果たさなくてはならない。また、パンデミックのような広範囲の健康危機事態が起こった場合は、内閣官房とも連携して対応するとともに、国民に対して正確な情報発信を実施しなければならない立場とも成る。そのため、経験・能力ともにハイレベルな人材の登用が望まれることは言うまでもない。

とりわけ、医療イノベーションに関しては、大臣官房厚生科学課に医療イノベーション企画官も設置。医務技官をはじめ、厚生労働省内を横断的に調整できる体制に整備する。早期のICTの導入が求められる医療界にとっては朗報であり、どのような施策が打ち出されるか注視していく必要があるだろう。

このほか、政府の重要課題である「働き方改革」「少子化対策・子育て支援」「生産性向上」を実現するため、「雇用環境・均等局」「子ども家庭局」「人材開発統括官」も新設。これによってどのような施策が進められるかは、医療現場にも密接に関連してくるだけに、今後の推移から目が離せない状況が続く。
◆ エーザイ、慶應義塾大学と新たな産・医連携拠点を設立
認知症の次世代治療薬・予防薬の開発を共同で進める

――エーザイ株式会社
昨年12月22日、製薬大手のエーザイ株式会社は、慶應義塾大学と新たな共同研究の実施について合意したと発表。双方の研究者が参画する研究ラボを設立し、認知症の次世代治療薬・予防薬の新規開発を進めていく。

研究ラボは、「エーザイ・慶應義塾大学 認知症イノベーションラボ」と名付けられる予定。慶應義塾大学の臨床医学と基礎医学の研究集積地である信濃町キャンパス(東京・新宿区)内に設立される。

エーザイは、認知症分野の創薬活動を30年以上にわたって行ってきた。低分子化合物、天然物由来中分子、抗体を生み出す創薬技術を基盤としているほか、「アリセプト」(一般名:ドネペジル塩酸塩)に関する情報提供活動を通じ、豊富な経験と知識を培っている。

一方、慶應義塾大学は「百寿総合研究センター」をはじめ、基礎臨床一体型の医学・医療研究に力を注いでいる。ヒトiPS細胞に関して、世界トップクラスの研究成果を数多く発表しているのも特徴。「エーザイ・慶應義塾大学 認知症イノベーションラボ」では、これら両者の強みを結集して、健康長寿をベースに「遺伝的背景」「環境因子」「防御機構」に焦点を当てたアプローチを行い、認知症に対する新しいバイオマーカーおよび創薬標的探索の研究スピードを加速し、新薬創出の成功確率の向上を目指す。

研究ラボの機能としては、先端質量分析技術を駆使した「臨床オミクス分析機能」や、AI(人工知能)などを活用して創薬標的候補特定につなげる「データ解析機能」、iPS細胞技術などを活用して創薬ターゲットバイオロジーを進める「バイオロジカルバリデーション機能」を持つ。

認知症は経過の長い病気であるため、プライマリ・ケアの重要性が以前より指摘されている。しかし、専門医の絶対数が少ないことに加え、経過が長いため他の症状と合わせて診療しなければならないケースも多い。そんな状況を鑑みると、新薬の開発が進むことで、認知症へのアプローチ方法が増えることが想定されるため、医療ニーズの掘り起こしにもつながることも期待できる。そうした意味でも、今回のエーザイおよび慶應義塾大学の共同開発の行方に注目したいところだ。
◆ 医療用手袋のパウダーフリー化を徹底
2年以内の供給切り替え目指す

――厚生労働省
厚生労働省は昨年12月27日、医療用手袋をパウダー付きからパウダーフリーのものへ2年以内に切り替えるよう促すと発表。各都道府県の衛生主管部(局)を通じ、供給を行っている医療機器製造販売業者へと通知される。実際にどのような対応が行われたかは、今後、薬事・食品衛生審議会の薬事分科会医療機器・再生医療等製品安全対策部会で報告される予定。

この発表の背景にあるのは、米国食品医薬品局(FDA)の動きだ。昨年12月19日にFDAは、医療用手袋に付いているコーンスターチなどのパウダーが安全性上のリスク要因になり得るとして、1月18日よりパウダー付き医療用手袋の流通を差し止める措置を行うと発表している。

日本では、2006年にパウダー付き医療用手袋によるアナフィラキシーショックの報告が1件ある(パウダーがアレルギーを誘発したかどうかは不明)。最近8年間では医療用手袋によるアレルギー関連の不具合や有害事象は報告されていないが、万一のリスクを回避するため、厚生労働省がアメリカの動きを見て迅速に対応した形となった。

なお、厚生労働省の推定によれば、2015年度の日本の手術用手袋市場において、パウダーフリー手袋は全体の63%を占めている。2000年にはわずか9%だったため、15年間で54%も伸びた計算だ。とはいえ、同じ2015年度の世界のパウダーフリー化率を見れば、アメリカが90%、ヨーロッパが87%、オセアニアが86%と9割近い数字になっており、医療界においてはパウダーフリーがスタンダードであることは明らか。日本が立ち遅れていることがよくわかる。現在でも、日本国内では手術用のパウダー付き医療用手袋が20製品程度流通しているとされるため、早い段階で供給切り替えの対応を行うことが求められる。

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