ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2017年2月17日号)
◆介護福祉士国家試験「実務経験ルート」受験要件は変更しない方針
最大450時間の実務者研修は必要との認識示す
2月10日、政府は介護福祉士国家試験のいわゆる「実務経験ルート」の受験資格要件について、最大450時間必要な実務者研修の時間を見直す考えがないことを明らかにした。その理由として、介護サービスに対するニーズが多様化・高度化していることを挙げ、介護福祉士の資質向上が必要だとの認識を示した。
これは、現在開かれている通常国会において、2月1日に民進党の初鹿明博衆議院議員から提出された質問への答弁に記載されたもの。初鹿議員は、1月29日に実施された介護福祉士国家試験の受験申込者数が昨年の約16万人から、半減の約7万9000人となったことを挙げ、実務者研修の受講が新たに義務付けられたことが原因だとして、政府の見解を求めた。
初鹿議員は、受験申込者数半減の原因が実務者研修の受講であるとした理由について、介護職員として働きながら長時間の研修時間を確保することは非常に難しいとし、研修費用が事業者負担になるとは限らないため、経済的にも重い負担になっていると指摘。介護人材不足に拍車をかける結果になるとして、研修時間の見直しを検討するべきだと迫ったが、政府は、介護福祉士として必要な知識は、通常の介護業務だけでは修得困難だとし、研修時間の見直しは考えていないと明言している。
実務者研修は、「たん吸引」や「経管栄養」といった医療行為を含めた内容で、受講時間は介護系の資格を持っていない場合は450時間が必要。介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)の資格を持っていれば130時間免除されるが、それでも320時間の研修を受けなければならない。
研修の費用も、決して安くはない。研修業者によって差があるが、最低でも10万円前後が必要とされている。介護職員の給与水準は、月額平均25万円程度とされており、無資格の場合はもう少し下がるため、研修費用を自腹で捻出するのは簡単ではないだろう。
しかし、政府が触れているように、介護福祉士のレベル向上が必要とされているのは確かであり、実務者研修を受講する必要がないと意見は乱暴なものとも言える。今後、希望者が過大な負担を感じることなく、実務者研修を受けられるようにするためには、国からの補助も含めた支援が必要になってくるのは間違いない。レベルの高い介護福祉士が増えれば、そのステータスも向上していくため、それに見合った待遇を用意することも重要だ。介護保険の改定や混合介護の導入も含め、介護施設がどのようにして収益を得られる仕組みにするか、今回の国会質問・答弁をきっかけにして議論を深めていくべきだろう。もちろん、介護事業者にとっては、レベルの高い介護人材を確保するため、研修費用の負担を含めたキャリアパスの仕組みづくりを急ぐ必要があることは言うまでもない。
◆介護保険と障害福祉制度に「共生型サービス」を創設
障害を持つ利用者が65歳以降も同じ施設を利用できるよう配慮
――厚生労働省
2月7日、厚生労働省は「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」を発表。今年の介護保険制度の見直しに際して「共生型サービス」を創設するとした。障害福祉制度にも同名のサービスを設け、同様の適用を行うため、障害者が65歳になっても施設を変わる必要がなくなる。
これは、厚生労働省の「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」が取りまとめたもの。今後、政府は地域共生社会を基本コンセプトに掲げ、地域を基盤とする包括的な支援体制を強化していく。医療・介護のニーズを持つ高齢者だけでなく、障害者や子育て世代、ひとり親家庭、医療的ケアが必要な子ども、がんや難病などの慢性疾患を持つ人などが対象となる。
その取り組みのひとつとして行うのが、「共生型サービス」の創設。背景にあるのは、障害者が高齢者となったとき、障害福祉制度から介護保険に切り替えなければならない現状だ。65歳になると介護保険へと切り替わるため、それまで障害者として支援を受けるために通っていた施設ではサービスが受けられなくなり、介護施設へと移らなければならなかった。
馴染みの薄い施設へ移ることは、障害者にとっても、施設側にとっても負担が大きい。そこで、「共生型サービス」を創設することによって、障害福祉の指定を受けた施設も、介護保険の指定を受けやすくする仕組みだ。
もちろん、2018年度の介護・障害報酬改定においても、「共生型サービス」の創設に伴う基準・報酬の見直しを実施予定。現実に即した整備が進められることは、介護サービス利用者にとっても、介護事業者にとっても朗報であることは言うまでもない。今後、障害福祉サービスの事業所が介護保険サービスの事業所として指定を受けやすくなる方向で調整が進められていることもあり、事業者にとってはビジネスの幅が広がる好機と言えよう。
◆本格的な高齢化を迎えるアジアへ「日本型介護」の輸出を促進
国際・アジア健康構想協議会が第1回の会合を開催
2月9日、国際・アジア健康構想協議会の第1回会合が都内で開催され、アジアに向けて「日本型介護」の積極的な展開を促進していくことが確認された。介護事業者の海外進出を後押しする取り組みとして、今後の動きが注目される。
国際・アジア健康構想協議会は、昨年政府が決定した「アジア健康構想に向けた基本方針」に基づいて発足した官民連携の組織。政府および、三菱商事など100を超える企業や団体が参加し、「日本志木介護技術・サービス等の国際標準策定」や「現地の制度、文化に関する情報の共有」、「アジア地域内の官民ネットワーク構築」、「事業者間の連携、協力関係の円滑化」などに取り組んでいく。9日の会合では、介護大手のリエイによるアジア展開の事例紹介なども行われた。
アジアの高齢化は、日本以上のスピードで進んでいる。たとえば韓国の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は、2015年が13.1%だったのに対し、2035年には27.4%まで上昇する見通し。シンガポールは2015年の11.7%が2035年に26.7%へ、中国は9.6%が21.3%になるとされている。
しかし、アジア各国では日本ほど介護施設が充実していない。当然のことながら、介護人材も育っていない。EPAを締結する3カ国から介護福祉士候補者の受け入れを要請されていることや、外国人技能実習制度に介護職を追加して在留期間を3年から5年に延長することを決定したのは、こうした背景があるからだ。
そうした現状を踏まえると、介護事業者にとっては、まず外国人技能実習生を受け入れることが、海外進出への足がかりになると思われる。塩崎恭久厚労相は、1月10日の定例大臣会見で、優良介護事業所の情報を海外に提供する業務も国際・アジア健康構想協議会が担うと表明。通常の介護業務はもちろん、外国人技能実習生をしっかりと育成した実績も、当然のことながら加味されることになるのではないだろうか。
◆東京・豊島区、「混合介護」のモデル事業を2018年度から実施
ヘルパーの指名料や時間帯の料金変動制なども試行する方針
――国家戦略特別区域会議
2月10日、国家戦略特別区域会議が開かれ、東京都の小池百合子知事は2018年度から豊島区で「混合介護」のモデル事業を開始する意向を示した。ヘルパーの指名料を導入するほか、時間帯によって料金を変動制にするなど、柔軟性の高いシステムを試していく方針で、新たな介護サービスのひな形となる可能性もありそうだ。
小池知事は、同会議でまず「混合介護」を「選択的介護」と呼称することを提案。具体的には、同居家族分の食事の調理や洗濯といったサービスの同時提供を可能にするとした。また、「健康づくりに資する資格や外国語の技能などを有するヘルパー」を指名できる制度を導入。高齢者や家族の不安解消につなげていきたいと力を込めた。ヘルパーの指名に際しては指名料を適用。500円~3000円と具体的な金額も提示している。
これを受けて、同会議に出席した東京都豊島区の高野区長は、「全国初のチャレンジである豊島区モデルを全国に発信してまいりたい」と表明。そうすることで、持続可能な介護保険制度にしていく新たな活路を見出していきたいと述べた。
現行の介護保険制度では、介護保険が適用されるサービスと、介護報酬の対象とならない保険外のサービスを同時に提供する「混合介護」は原則として禁止されている。要介護者のペットの散歩をしてあげたり、本人以外の同居者向けに食事の提供ができなかったりするため、円滑な介護サービスの妨げになっている側面もあった。
さらにネックとなっているのは料金設定だ。保険外の介護サービスは、介護報酬よりも低い料金でなければならないため、介護事業者としては本腰を入れて取り組むことができない。今回、小池知事が提案したヘルパー指名制は、これらの問題点に対する回答のひとつと言えよう。
しかし、政府は「混合介護」の解禁に否定的な姿勢を見せている。利用者の負担が拡大する危険性とともに、自立支援や要介護度重度化を防止する取り組みを妨げる恐れがあるというのがその理由だ。制度を変更することによって必要となる行政コストが多大なものとなることも予想されるため、社会保障費を抑制したい政府としては、慎重にならざるを得ない。
とはいえ、深刻化する介護人材不足や、その解決の糸口となるべき待遇改善の良策がない現在、混合介護は突破口になる可能性も秘めている。ひとまず特区のみの適用を認め、その効果を測定して判断することは意味のあることだと考えられるだけに、政府の判断に注目が集まる。