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医療経営情報(2017年5月11日号)

2017/5/17

◆次世代医療基盤法成立 医療情報がビッグデータとして活用可能に 新たな治療法や副作用の研究、新薬の開発などの活性化へ

4月28日、参議院本会議で次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律案)が可決され、成立した。2018年春までに施行される見通し。

気になるセキュリティ面に関しては、個人を特定できないようにデータを匿名加工する。もちろん、患者本人が情報提供を拒否すれば、そのデータはビッグデータ化されることはない。匿名加工を担うのは、個人情報保護の安全基準を満たす「認定事業者」に限定される。

これまで、患者の医療情報は、受診した各医療機関が独自に保有。製薬や医療機器メーカーなどの民間企業は当然のことながら、医療機関同士が情報を共有することもできなかった。個人情報保護の観点から見れば至極当然のことではあったが、せっかくの医療データも各医療機関に散逸しているのでは“宝の持ち腐れ”。膨大なデータを集積してビッグデータ化し、利活用することで、新たな治療法や副作用の研究、新薬の開発に役立てられることは明らかである。

また、医療情報の共有を進めることで、効率的な医療の実現が期待できるのも大きい。40兆円超と、一派会計予算の4割以上となっている医療費の適正化を図ることが政府の大きな課題だからだ。そのため、2014年11月には産官学連携で「医療ビッグデータ・コンソーシアム」を設立。京都大学大学院医学研究科や国立循環器病研究センターのほか、アステラス製薬や武田薬品、日立製作所、三菱総合研究所など18社が参加し、安倍晋三首相に対して政策提言を行ってきた。それを受けて安倍首相も、医療ビッグデータの推進に向けて積極的な発言を繰り返している。昨年11月の未来投資会議では「ビッグデータや人口知能を最大限活用し、『予防・健康管理』や『遠隔診療』を進め、質の高い医療を実現していきます」と言及。今回の法案成立によって、今後急ピッチで具体的な運用方法が詰められていくことは間違いない。

ただし、問題もまだ残されている。医療情報をビッグデータ化するためには、医療機関が電子カルテを導入しているのが前提となるからだ。日本国内の電子カルテ普及率は3割程度にとどまっており、この普及率をいかに上げていくかが、医療ビッグデータを有効に利活用できるかどうかのカギを握っていると言えよう。すでに、電子的に文書を送受する場合は診療報酬の算定対象となっているが、普及率を上げるためにさらなる加算が検討されるなど、導入を後押しする施策が講じられる可能性がある。まだ電子カルテを導入していない医療機関にとっては、導入の好機となるのではないだろうか。

◆日医ORCA管理機構、「メディカルICTリーダー養成講座」を開講
システム関連コストを適正化させるための体制構築をサポート

――日本医師会ORCA管理機構株式会社
5月1日、日本医師会標準レセプトソフトのORCAプロジェクトを運営する日本医師会ORCA管理機構株式会社(日医ORCA管理機構)は、「メディカルICTリーダー養成講座」を開設すると発表。ICT Information Communication Technology=情報伝達技術)リテラシーの高い人材を養成し、各医療機関におけるICTシステム関連コストの費用対効果向上をサポートしたいとしている。

政府は、医療現場のICT化の推進に大きな力を注いでいる。今年度予算では「医療のICT化・保険者機能の強化」に250億円を計上。昨年度が7億円だったため、実に35倍以上の増額となった。

しかし、果たして医療現場の人材はICT化の流れに対応できているのだろうか。日医ORCA管理機構は否定的な見解を示す。「システムメーカー側とのICTに関する知識格差が大きい」結果として、「多くのケースでは受注者側に言われるがままで、医療機関側としての評価・判断が十分に行われていない」と断じている。要するに、ICTリテラシーが低いがゆえに、適正価格よりも高コストな医療ICTシステムを導入してしまい、言わば“ボッタクリ被害”を受けているというわけだ。

そうした状況を打破するため、「メディカルICTリーダー養成講座」ではICTリテラシーを高められるカリキュラムを組んでいる。教科は「クリニカルICT概論」「情報システム連携学・ICT用語解説」「医療情報法務学」「ICT購買学」の4つ。「クリニカルICT概論」では、ハードウェア故障の対処法や予防策、機器・ソフト管理や定期点検の方法、提案依頼書(RFP)の作成手順を含めた電子カルテ導入の適切な道筋まで学ぶことができ、「情報システム連携学・ICT用語解説」ではネットワーク管理や障害対応の方法まで習得可能。「医療情報法務学」では医療システムを契約する際の注意点や、トラブル回避法まで、「ICT購買学」では具体的な機器購買のハウツーを教えてくれる。

学習はeラーニングで行うため、日々の業務をこなしながらでも受講できる。6カ月で全教科を学ぶスケジュールで、教科ごとに演習問題が出題され、学習の進捗に応じた復習も可能。eラーニングシステムを通じて、いつでも各教科に対する質問ができるのも魅力だ。受講料は日本医師会会員のいる医療機関の職員ならば20,000円(税別)、それ以外の場合は30,000円(税別)。前述したとおり6カ月のカリキュラムだが、最大12カ月まで延長することもできる。職員のICTリテラシーに自信がない医療機関は、受講を検討する価値があると言えよう。申し込み期限は5月31日(水)、講座開始日は6月1日(木)。申し込みは日医ORCA管理機構のホームページから。(https://www.orcamo.co.jp/products/medict.html)

◆愛知医科大と日本臓器製薬「疼痛診療支援AIシステム」の共同研究を開始
一般的な医療機関でも効率的かつ的確な慢性痛診療が可能に

――株式会社FRONTEOヘルスケア
5月8日、株式会社FRONTEOヘルスケアは、愛知医科大学および日本臓器製薬株式会社と「疼痛診療支援AIシステム」の開発に向けて共同研究を開始したと発表。一般的な病院や診療所でも効率的かつ的確な慢性痛診療が実現できることを目指すとした。

FRONTEOヘルスケアは、人工知能エンジン「KIBIT(キビット)」を独自開発した株式会社FRONTEOの子会社。「痛み」に関して、国内初となる集学的な治療・研究施設「学際的痛みセンター」を創設し、年間のべ7,000人近くに治療を提供している愛知医科大学に蓄積されたデータとノウハウを活用することで、迅速に痛みを改善する適切な治療を支援するAIシステムを構築する方針だ。日本臓器製薬は、帯状疱疹後神経痛の第一選択薬として日本ペインクリニック学会のガイドラインに推奨されているノイロトロピンの製造・販売を行っており、同社が共同研究に携わる意義も大きいと言えよう。

原因不明な慢性痛は、長期にわたって患者の生活の質を著しく低下させる。しかし、原因が不明なだけに検査値などを用いた客観的な評価を行うのは困難で、医師の経験や主観に依存せざるを得ないほか、看護師や臨床心理士、理学療法士、作業療法士、社会福祉士などの医療チームで集学的・総合的に診療する必要がある。どうしても時間を要するため、対応できる医療機関が限られているのが大きな課題となっていた。

そうした意味で、今回共同研究を開始した「疼痛診療支援AIシステム」にかかる期待は大きい。適切で効率的な診療が可能になれば、医療チームを組むことなく一般的な病院や診療所でも痛みの診療が可能になるからだ。当然のことながら、医療スタッフの負担軽減につながるため、医療機関にとってはコストが抑制できるメリットがある。ひいては、国の医療費の削減も期待でき、社会的な意義も大きい。同研究は1年をメドに完了させ、診断支援機器としての製品化へ向けた開発へと歩を進める方針だという。今後の推移にもぜひ注目したい。

◆福岡市で遠隔診療の実証がスタート
ICT化による「かかりつけ医」機能の強化が目的

――株式会社インテグリティ・ヘルスケア
4月25日、株式会社インテグリティ・ヘルスケアは福岡県福岡市で「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」の実証実験を開始したと発表した。福岡市のほか福岡市医師会が全面協力。福岡市内の11の医療機関で試行運用をスタートさせる。

福岡市は、2017年3月に「福岡市健康先進都市戦略」を策定。柱のひとつとして「デジタル時代の医療サービスが実現されるまち」を掲げており、その実現のため今回の事業を開始する。インテグリティ・ヘルスケアの代表取締役会長は、未来投資会議などにも出席して遠隔診療について各種提言を行っている武藤真祐氏。同社が開発したオンライン診療システム「YaDoc」を活用することで、患者とのコミュニケーションを密接にし、「かかりつけ医」としての役割を高めることが目的だ。

オンライン診療のメリットは、患者が自宅にいながら健康を気遣うことができる点にある。直近の状態を正確に伝えることができるインフラとして機能すれば、各種疾患の予防にもつなげることが可能だ。たとえば、初診は対面で診療し、経過観察にあたる部分をオンラインで補うといった運用が考えられるだろう。

医師にとっても、オンライン診療は患者の情報を補完するのに適している。他の患者が多数待っている状況では患者も話しづらく、短い時間では十分に伝えきれない可能性もあるからだ。ビデオチャットで顔を合わせれば、そうした情報不足を補うことが可能であり、診察の質を高める役割も期待できる。

また、いわゆる「遠隔診療」に対する期待が高まっている現状も見逃せない。4月14日の未来投資会議では、安倍晋三首相が「重症化を防ぎ回復を早めるため、かかりつけ医による継続的な経過観察が大切。対面診療とオンラインでの遠隔診療を組み合わせれば、無理なく効果的に受けられるようになる」と発言。現行の診療報酬制度は遠隔診療を考慮した内容になっていないが、安倍首相は2018年度の次期診療報酬改定でしっかり評価すると明言している。未来投資会議に出席している武藤氏が関わっていることからも、今回の福岡市での事業は、そうした遠隔診療が注目されている状況を踏まえてのものであることは明らかだ。次世代の健康医療インフラとしてオンライン診療がどのような役割を果たすのか、今回の実証実験の成果が大いに注目されることは間違いない。株式

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