ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2017年10月13日号)
◆技能実習「介護」開設3年以上の事業所のみ受入可能
夜勤や緊急時の対応も条件付きで容認 訪問系サービスは対象外
――厚生労働省 社会・援護局
9月29日、厚生労働省社会・援護局は外国人技能実習の「介護」について、実習生および実証実習者や実習内容についての要件を公表した。技能実習計画の認定申請は11月1日から外国人技能実習機構で受付を開始。認定申請後、約4カ月後から受け入れが可能となる。
外国人が自国の経済発展に生かすため日本で知識や技術を学ぶ「外国人技能実習制度」が導入されたのは1993年。しかし、海外から労働力を確保するための制度として利用されてきた側面もあったため、実習生を保護するために法整備を実施。外国人実習生が通報・申告できる窓口を整備したほか、人権侵害行為には罰則も設けられている。
特に、介護業界は深刻な人材不足に悩まされ続けているため、安易な人材確保策として利用されないよう、技能実習制度本体の要件以外にも細かく要件が設定された。まず、技能実習指導員のうち1名以上は介護福祉士の資格者(もしくは同等以上の専門的知識および技術を有すると認められる者)でなければならない。そして、技能実習指導員は実習生5名に1名以上を選任することが要件となっている。また、実習を行う事業所は開設から3年以上経過していなければならず、実習生が訪問系のサービスに従事することも認められていない。
夜勤や緊急時の対応を実習生に行わせることは容認しているが、「技能実習生以外の介護職員と複数名」で業務を行わなければならないとしている。また、夜勤は2年目以降の実習生に限定することを努力義務とした。
さらに、注意しなければならないのは入国後講習だ。日本語学習は240時間(ただし、「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」日本語能力試験N3の取得者は80時間)、そして42時間の介護導入講習を受講しなければならない。講習の講師にも要件が設定されており、日本語に関しては「大学又は大学院で日本語教育課程を履修し、卒業又は修了した者」、介護は「介護福祉士養成施設の教員として介護領域の講義を享受した経験を有する者」となっている。
事業者にとっては厳しい要件だが、政府が今後「日本型介護」の輸出を目指していることもあり、海外とのパイプを築くことはビジネスチャンスにつながる可能性が極めて高い。人材確保策としてだけでなく、事業拡大を狙うならばこの機会に実習生受け入れを検討し、優良実習実施者の認定を目指すのもひとつの方法ではないだろうか。
◆介護職員の専門性を伸ばすため得意分野の「見える化」を推進
利用者の納得感向上や適正マッチングにもつながると判断 内閣府
――内閣府 高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会
10月2日、内閣府の「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」が開かれ、これまでの議論を取りまとめた報告書案が示された。その中で、介護職員ごとに得意分野の「見える化」を図る方針が明らかにされている。
これは、安倍政権が取り組む「ニッポン一億総活躍プラン」の柱のひとつである「介護離職ゼロ」に向けた施策。介護離職を防ぐため、介護人材を増やしていくことが必要であり、そのために専門性を高めて処遇改善を促す狙いがある。専門分野として報告書案に挙げられたのは、リハビリ援助に認知症高齢者対応。これらの業務を区分けし、どの人材が何を得意としているかを「見える化」することで、利用者にとっての納得感を向上させるとともに、マッチングの適正化を図りたい意向だ。
処遇改善についても、もちろん言及。「生活維持の点からも就業継続意欲の点からも適正な水準であることが必要」としており、さらなる賃金引き上げを視野に入れているものと思われる。この点については、9月25日に安倍晋三首相が衆議院解散を表明した会見でも「他の産業との賃金格差を解消したい」と意欲を見せている。これまで安倍政権は月額にして約4万7,000円の賃金引き上げを実現してきたが、未だ全産業平均の賃金と比べると10万円以上の開きがあるのが現状であり、どのタイミングで賃金引き上げに踏み切るのかが注目される。
また、2025年には介護人材が約38万人不足すると推計されていることから、高齢者を介護人材として確保するための施策も報告書案には盛り込まれている。具体的には、自治体が一括研修を行うほか、運転、調理など関連分野での高齢者人材の活用を促進したいとしている。
「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」は、今回で6回目。示された報告書案は中間取りまとめとしての扱いであり、この内容を叩き台として今後さらに検討が勧められる。同検討会は年内いっぱいまで開催される予定で、検討結果は新たな高齢社会対策大綱として策定される。
◆財政審、自己負担額引き上げに強い意欲を見せる
「医療費・介護費の伸び放置で実質賃金の伸びが抑制」
――財務省 財政制度等審議会財政制度分科会
10月4日、財務省の財政制度等審議会財政制度分科会が開かれた。財務省は、「医療費および介護費の伸びを放置すれば、今後も保険料負担の増加が免れず、雇用者の実質賃金の伸びは抑制される」として、自己負担額の引き上げに強い意欲を見せた。
財務省が、実質賃金の伸びが抑制されるとしているのは、今後生産年齢人口が減少していくことが明らかだからだ。生産年齢人口が減少すれば、雇用者の総報酬の増加が見込めないため、高齢化による医療費・介護費の伸びをそのままにしておくと賃金も減ってしまうということになる。
そもそも、日本の社会保障制度は、高齢者医療や介護給付費の大半を公費で賄っているのが現状。財務省の試算によれば、今年度の社会保障給付費(介護・福祉費および医療費、年金)は120.4兆円。それに対し、公費は46.3兆円と試算しているため4割近くを占める計算になる(公費のうち地方税等負担は13.6兆円、税財源と国債発行による国庫負担は32.7兆円としている)。
これまで改革の工程表で示されてきた中で、今後、介護分野で具体的に検討が進められる項目としては、軽度者に対する生活援助サービスの報酬引き下げが挙げられる。これは来年度の診療報酬・介護報酬同時改定で俎上に載せられる可能性が高い。そのほか、医療機関を「紹介状なし」で外来受診する際の定額負担を、500床以上の大病院だけでなく200床以上の中小規模病院にまで対象拡大することや、金融資産等を考慮に入れた医療費の自己負担額引き上げも今後の検討事項に含まれている。厚労省との間でどのように調整していくのか、衆院選の結果にも影響されるため、今後の推移を引き続き見守りたい。
◆介護医療院、医療機関から「一部転換」の場合は看板での明示不要
「全部転換」の場合は虚偽広告とならないよう配慮が必要
――厚生労働省 社会保障審議会医療部会
10月5日、厚生労働省の社会保障審議会医療部会が開かれ、医療機関から介護医療院に転換する場合の名称について議論が展開された。厚労省は、医療機関から「一部転換」する場合看板で明示する必要がない方針を示し、了承された。
介護医療院は、慢性期の医療・介護ニーズに対応する介護施設。5月に成立した改正介護保険法によって来年4月から創設されることが正式に決定された。事実上、療養病床(医療保険適用の療養病床および指定介護療養型医療施設)から転換されるケースがほとんどと見られるため、従来の医療機関の名称を継続使用できることが特例で認められており、その要件をどのように設定するかが焦点となっていた。
9月15日の同部会では、実態に合わないものは認めない方針が固められており、「救命救急センター」「救急病院」「地域医療支援病院」などが例として挙げられていた。しかし、「一部転換」の場合は、同じ施設内に医療機関が併設されることになるため、患者および利用者を混乱させる可能性もある。そのため、「病院又は診療所と介護老人保健施設等の区分を可能な限り明確に」するべきとしたものの、あえて「看板で明示する必要はない」と配慮した格好だ。つまり、外の看板を掛け替える必要はなく、院内への張り紙やフロアマップなどの館内表示を変更すれば済むということになり、名称変更については最小限のコストで済みそうだ。
ただし、繰り返しになるが、これは「一部転換」の場合。「全部転換」の場合はこの限りでなく、介護医療院であることを明確に表示する必要があるため、看板にも配慮しなければならない。これは、医療機関としての機能がなくなるからであり、厚労省も従来の病院や診療所の名称のまま表示することが不適当だとしている。とはいえ、地域住民からの信頼・信用などの保護を図るとともに、経営の継続性を確保するため元の医療機関名を「名称に含める」ことは認められており、前述したように「救命救急センター」などの名称でなければ継続使用することも可能となっている。