ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2018年1月19日号)
◆昨年の介護関連倒産件数、111件と過去最多を更新
「事業上の失敗」を原因とする事業者が増加
――株式会社東京商工リサーチ
信用調査大手の東京商工リサーチは、1月5日に「2017年(1~12月)『医療、福祉事業』の倒産状況」を発表。速報値で249件と、2000年以降で最多に達していたことがわかった。業種別でもっとも多かったのが「老人福祉・介護事業」で、111件と過去最多を更新している。
「医療、福祉事業」とは、病院、医院、マッサージ業や鍼灸院などの療術業、老人福祉・介護事業を含むもの。2011年以降、6年連続で前年を上回っている。負債総額は363億8,100万円で、前年比18.7%増。負債1億円未満での倒産が211件と84.7%を占めており、2016年に比べて17.8%増えている。
「老人福祉・介護事業」の倒産原因でもっとも多かったのは「販売不振」だが、2016年は69件が該当したのに比べて51件と減少。代わって増えたのが「事業上の失敗」で、2016年が18件だったのに対し26件となった。このことについて東京商工リサーチは、「安易な起業や本業不振のため異業種からの参入など、事前準備や事業計画が甘い小・零細規模の業者が思惑通りに業績を上げられず経営に行き詰ったケースが多いとみられる」と分析している。
倒産の形態としては「事業消滅型の破産」が225件と全体の9割以上を占めており、業績不振に陥った場合再建が難しい状況が明らかになっている。ちなみに、民事再生法の適用を受けて再建を目指している事業者は、2016年より増えたもののわずか17件。そのうち「老人福祉・介護事業」は4件のみだ。
地区別に見ていくと、最多は近畿の87件(前年65件)。次いで関東73件(同72件)、九州26件(同28件)、中部26件(同23件)と続く。関東・中部・近畿・中国・四国の5地区が2016年より上回っており、北海道・東北・北陸・九州の4地区は2016年よりも減少した。
なお、東京商工リサーチは全国の医療・福祉事業者1万4,834社の2017年3月期決算の状況にも言及。それによれば、増収増益企業が33.1%、減収減益企業が29.1%。減益企業は51.4%と半数を超えており、収益確保に苦しむ業界の状況が透けて見える。東京商工リサーチは人件費の向上が収益を悪化させていると分析しており、人件費のマネジメントが生き残りのカギを握ると言えそうだ。
◆経産省、「ロボット介護機器開発・標準化事業」に11億円の予算
国内市場規模約500億円を目指す 海外展開も視野に
――経済産業省
経済産業省は、2018年度予算に「ロボット介護機器開発・標準化事業」を新規で盛り込んだ。金額は11億円。2018年度から2020年度までの3年間の事業で、国内市場規模を約500億円へ拡大することを目指す。
今回、経産省が新たに「ロボット介護機器開発」に予算を割いたのは、介護需要の増加が背景にある。2025年にはいわゆる団塊の世代が全員75歳以上となり、高齢者人口が約3,500万人にまで達する見込み。一方で、介護人材は38万人が不足すると推計されており、早急な対策が必要となっている。人口減少社会を迎えつつある状況も踏まえ、ロボット技術を活用して人手不足を解決しようというわけだ。さらに、自立支援を促す機能を持つロボットを開発し、標準化させていけば、要介護度を全体的に押し下げて効率的な介護を実現させることもできる。
また、「日本型介護」をグローバル展開させることで、産業を活性化させる狙いもある。アジアの高齢化は日本以上のスピードで進んでおり、たとえば韓国の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は2015年が13.1%だったのに対し、2035年には27.4%まで上昇する見通し。シンガポールは2015年の11.7%が2035年に26.7%へ、中国は9.6%が21.3%になるとされている。しかし、これらの国々では日本ほど介護施設が充実しておらず、介護人材も育っていない現状があるため、昨年2月には官民連携の「国際・アジア健康構想協議会」も発足。ロボット介護機器とともに事業者の海外進出をサポートする環境が整いつつあり、今回の経産省の予算はそれを後押しするものだと言える。
具体的には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)を通じて民間企業を補助。上限額は1億円となっており、「移動支援」「排泄支援(排泄予測、動作支援)」「見守り・コミュニケーション」「介護業務支援」での開発を補助していく。さらに、ロボット介護機器の効果に関わる評価を行うとともに、新たに機器の安全基準を策定。安全性に関する国際規格(ISO13482)とEUの基準適合マーク(CEマーク)との連携も進め、海外展開につなげるための環境を整備していく予定だ。
◆東京・豊島区の「混合介護」、まずは訪問介護を軸にスタート
利用料金は月額制 1回あたりの提供時間も相談可能
――東京都豊島区 選択的介護モデル事業に関する有識者会議
東京都豊島区は、昨年12月26日に「選択的介護モデル事業に関する有識者会議」を開催。2018年度からスタートさせる同事業の内容を明らかにした。
現在、介護保険サービスと介護保険外のサービスを同時に提供する、いわゆる「混合介護」(豊島区は選択的介護と呼称)は原則として禁止されている。しかし、昨年2月の国家戦略特別区域会議で、東京都の小池百合子都知事がモデル事業に取り組むと発言。国家戦略特区の仕組みを活用することで、法改正の前に事業化を成立させようとしている。
モデル事業の実施には、国家戦略特区の認定を得る必要があるが、豊島区は2018年度初頭、つまり今年4月からスタートさせたい意向。2021年3月末までの3年間、豊島区全域で実施する計画だ。
提供する介護サービスは、訪問介護を軸とした生活支援がメイン。自費の保険外サービスが自由に選択できるように、メニュー一覧を用意し、利用料金は月額制とする。1回当たりの提供時間も相談可能とするなど、利便性の高さを意識しているのが特徴だ。
これまでの介護サービスとは異なった内容となるため、利用者への周知徹底も重要となる。具体的には、パンフレットを作成するほか、豊島区の広報誌やホームページといった情報媒体を利用して広報に努める。もちろん、ケアマネジャーやモデル事業に参画する事業者向けのガイドライン作成や説明会も開催する予定となっている。また、利用者との契約は書面で行う予定。契約書の標準的な様式については、モデル事業に参画する事業者と協議して決定するとしている。
サービス事業者にとって初めての試みとなるため、まさに「混合介護のモデル」として注目される豊島区の取り組み。サービス事業者との契約とサービス計画との整合性を保つ必要があるため、ケアマネジャーの役割も非常に重要なものとなる。国家戦略特区の認定がいつ得られるかにもよるが、今後の動きを引き続き注視していく必要があるだろう。
◆介護施設の事故実態調査、全国規模で実施する方針
「2016年度に944人事故死」「国への報告1割」と報道を受けて
――厚生労働省
加藤勝信厚生労働相は1月5日の大臣会見で、介護施設の事故実態調査を全国規模で実施する方針を表明した。前日の1月4日に読売新聞が報じた内容を受け、所見を示した形だ。
読売新聞が1月4日に報じたのは、全国の有料老人ホームから自治体に報告された事故死者数の調査結果。2016年度の死者数が944人にのぼったことのほか、国が全国集計をしていない事実も明らかとなった。同新聞によれば、自治体から国への死亡事故の報告は約1割にとどまっているという。
この報道に対して加藤厚労相は、「入居者の生命・財産等が脅かされた場合に関しては、速やかに厚生労働省に情報提供するよう」自治体に要請しているとし、「都道府県等からの情報提供が徹底されるよう、引き続き様々な機会を通じて要請していきたい」とした。さらに、昨年12月18日の社会保障審議会介護給付費分科会で「介護保険施設におけるリスクマネジメントについてどのような対応を図ることが適当なのかを検討するべき」とされたことを挙げ、介護保険施設や有料老人ホームを含む老人福祉施設における事故実態の把握を行うと明言。そのうえで、事故を未然に防ぐために必要な対策を検討したいとしている。
読売新聞の調査によれば、2016年度に起こった死亡事故の原因でもっとも多かったのは「誤飲・誤嚥」で183件。次いで「転倒・転落」の49件、「溺死」の17件と続く。いずれも要介護者に細心の注意を払える体制を整えていれば防止率を上げることが可能と考えられるだけに、深刻化している人手不足の問題が大きく影響していると言えよう。そうした意味では、介護職員の処遇改善を含めた人材確保策が急がれる。しかし、窮余の策として講じた外国人技能実習制度への「介護」の追加も、昨年末時点で未だ申請ゼロという報道もあり、効果をあげているとは言い難い。事故の実態を把握したのち、果たしてどのような策を打つのか、厚労省の動きに今後も注目していく必要があるだろう。