ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2018年5月11日号)
◆訪問介護の生活援助中心型サービス、利用回数の基準を公布
「利用制限ではない」との見解も示す パブコメは反対意見多数
――厚生労働省
5月2日、「厚生労働大臣が定める回数及び訪問介護」が公布された。これは、訪問介護の生活援助中心型サービスの1カ月あたりの利用回数の基準を示すもの。要介護度別に異なる回数となっており、要介護1は27回、要介護2は34回、要介護3は43回、要介護4は38回、要介護5は31回。利用回数がこれらを上回った場合は、ケアマネジャーが市区町村に対してその内容を届ける必要がある。今年10月1日から施行される。
現在、介護報酬は1日に複数回の算定が可能な体系となっているため、サービス提供回数を増やすことで報酬を上乗せできる。とりわけ、生活援助中心型サービスは月31回以上の利用者が2万5,000人以上いることが明らかとなっており、ケアプランとかけ離れているとの指摘が相次いでいた。介護費を抑制する狙いもあり、今年度から一定以上の訪問回数となる場合は、市区町村にケアプランを提出することが義務付けられた。ケアプラン提出が義務付けられる訪問回数は、「全国平均利用回数+2標準偏差(2SD)」となっており、その最大値となる月の利用回数が、今回示されたものとなる。
現在、訪問介護の大半を占めているのが生活援助中心型サービスだ。2016年度の受給者数を見ると、「身体介護中心型」のみの受給者が約51万1,000人、「生活援助中心型」のみの受給者は約50万3,000人、「身体介護中心型」「生活援助中心型」の併用が約29万5,000人となっており、生活援助中心型が制限されることは、訪問介護事業に多大な影響を及ぼす。そのため、4月17日から募集されたパブリックコメントでは、165件の意見が集まったが、その大半が反対意見だったようだ。
ちなみに、公開された「ご意見の内容」は以下の3種類にとどまった(いずれも筆者の要約)。
1)個々の利用者の生活実態を考慮したケアプランの作成を阻害し、関係者の負担が増えるだけでなくケアマネジャーの専門性の否定や裁量権の侵害にあたる。
2)具体的な数値が示されることで保険者の画一的な指導が懸念される。
3)生活援助の回数だけでなく、身体介護も含めた訪問介護の回数が多いケアプランについて提出を求めるべき。
その意見に対し「厚生労働省としての考え方」は以下のとおり。
1)あくまでも、より良いケアプランとするために内容の是正、再検討を促すものであり、利用回数を超えたことによって一律に利用制限を行うものではない。
2)市町村が適切にケアプランの検証を行えるよう、マニュアルを作成・周知することを予定。
3)利用者の自立支援にとってより良いサービスとするため、ケアマネジャーの視点だけでなく多職種協同による検証を行い、必要に応じてケアプラン内容の是正を促す。
3)については意見内容に対する回答になっていないが、いずれにしても生活援助中心型サービスの利用回数を抑制することが前提となっている内容で、近い将来介護保険サービスから切り離す布石とする意図も感じさせる。生活援助中心型サービスの提供量が多い事業者にとっては、経営戦略の見直しを含め、対応策を講じていく必要があるだろう。
◆「東京圏は膨大な医療・介護サービスが必要」総務省
一都三県の介護サービス利用者数は2040年に219万人へ
――総務省 自治体戦略2040構想研究会
総務省は、5月10日に開かれた自治体戦略2040構想研究会で「2040年頃には東京圏で膨大な医療・介護サービスが必要となる」と発表。2040年に、一都三県(東京、埼玉、千葉、神奈川)の介護サービス利用者は219万人に到達するとした。2015年の一都三県の介護サービス利用者は118万人であるため、倍増に近い数字となる。
介護ニーズの増加は全国的な傾向。2015年の全国の介護サービス利用者数は521万人だったが、2025年には689万人に、2040年には834万人に増えると総務省は試算。一都三県は219万人と見込んでいるため、4分の1近くを占める計算だ。これは当然、介護人材が偏在化することも意味している。地方から東京圏をはじめとする三大都市圏への人材流入が進めば、地方での介護の担い手が圧倒的に不足していく可能性も高い。
総務省は、こうした状況を「若者を吸収しながら老いていく東京圏と支え手を失う地方圏」と表現。人材の偏在化を防ぎ、介護ニーズに応えられる体制を整備するため、「行政のフルセット主義を排し」、圏域単位のみならず圏域を越えた自治体の有機的な連携によって、都市機能を維持確保するべきだとした。とりわけ東京圏に関しては、介護ニーズだけでなく首都直下地震への対応も考慮し、埼玉や千葉、神奈川を含めたサービス供給体制を構築していく必要があるとしている。
自治体戦略2040構想研究会は、65歳以上人口が最大となる2040年頃の自治体が抱える行政課題を整理し、今後の自治体行政の在り方を展望して対応策を検討することを目的とした総務大臣主催の研究会。昨年10月に第1回会合が開かれ、今回の会合は12回目となる。座長は慶應義塾大学商学部教授の清家篤氏、座長代理は東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出氏。
◆「身元保証人なしでの入院拒否は違法」厚労省通知
介護保険施設でも同様の注意喚起を行う方針
――厚生労働省医政局
厚生労働省医政局は、4月27日に「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」と題した通知を発出。各都道府県に対して、身元保証人の有無にかかわらず入院を受け入れるように医療機関へ指導することを求めた。厚労省は、介護保険施設の入院・入所についても、同様の注意喚起を実施する方針だ。
通知では、医師法第19条第1項「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」を示し、この「正当な事由」は医師が不在、または病気などで診療が不可能な場合に限られると定義。入院が必要な状態であるにもかかわらず、受け入れ拒否を行うことは医師法に抵触すると明記した。
現在、医療機関や介護保険施設の多くは、入院・入所の際に身元保証人を求めている。昨年、第二東京弁護士会が実施した調査によれば、東京都内の709施設のうち身元保証人(保証人、連帯保証人、身元引受人などの名称を含む)を求めているのは全体の約91%にあたる648施設が該当した。中でも、介護付き有料老人ホームはすべてが身元保証人を求めており、もはや入院・入所時に身元保証人を提示するのはスタンダードとなりつつある。
第二東京弁護士会の調査によれば、医療機関や介護保険施設が身元保証人を求める理由として挙げているのは、「支払いの保証・担保」や「遺体引取・居室明渡(死後事務)」、「サービス提供方法選択決定相談」など。とりわけ「支払いの保証・担保」は経営状況を左右する問題に発展しかねないため、身元保証人を求めるのは施設にとってのセーフティネット確保手段として致し方ないところだ。
しかし、介護保険施設の運営基準には「正当な理由なくサービスの提供を拒否することはできない」となっており、これまでも厚労省は繰り返し都道府県に要請を行ってきた。今回、医療機関に対する通知ではあるものの、入院拒否が法律違反であることを明示したことで、さらに厳しく注意喚起が行われることが予想される。一方で、未収金の発生を防ぐ手立てが整っていないのも実情であり、実効性が伴わない施策となってしまう可能性は十分にあるといえよう。
◆介護施設で働く看護職員の処遇改善を
日本看護協会が厚労省に要望書を提出
――公益社団法人日本看護協会
公益社団法人日本看護協会は、4月27日に厚生労働省老健局へ要望書を提出。介護施設で働く看護職員にも処遇改善を適用するよう求めた。老健局の濱谷浩樹局長は「看護職員も含めて検討対象にしたいと考えている」と回答し、関係省庁との調整に臨む考えを示した。
日本看護協会が今回、介護施設で働く看護職員の処遇改善を要望したのは、昨年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」に、勤続10年以上の介護福祉士に月額平均8万円相当の処遇改善を盛り込んだのが背景にある。同協会によれば、介護施設で働く看護職員の平均賃金は、病院で働く看護職員に比べて低く、30~34歳の平均賃金は病院勤務の場合33万422円、介護施設勤務の場合28万8,960円となっている。
このような処遇差があることから、日本看護協会では「病院から介護領域へ労働移動が進みにくい」としている。また、賃金だけが理由ではないにせよ、離職率も病院に比べて介護施設勤務のほうが高いことも見逃せない。2014年度のデータによれば、病院の離職率は10.8%。それに比べて特別養護老人ホームの離職率は21.5%と約2倍となっている。常勤介護職員の離職率15.4%よりも高い数値であることも、事態の深刻さを物語っているといえよう。これらを踏まえ、日本看護協会は「介護施設等で働く看護職員の確保にあたり、病院と同等となるよう、賃金について処遇の改善を図られたい」と求めている。
また、要望書では「訪問看護提供体制の推進」および「介護施設・在宅領域における利用者の安全と尊厳を守るための体制整備」も盛り込んだ。「訪問看護提供体制の推進」では、訪問看護ニーズに対応するため訪問看護師の倍増を図るべきとし、そのための具体的な施策の立案を要望。「介護施設・在宅領域における利用者の安全と尊厳を守るための体制整備」では、医療事故の実態を把握し、再発防止につながる仕組み構築の検討と、看護職員へのリスクマネジメントにかかわる研修の充実を求めている。研修に関しては、中小の介護事業所が多く、自社研修や外部研修への派遣が困難なケースも多いため、eラーニングのコンテンツを充実させることも提案。今後、介護施設の医療依存度はますます高まっていくことが予想されるため、看護体制の整備は必須の課題であり、今回の日本看護協会の提案が来年度予算にどのように反映されるか、注目していきたいところだ。