ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2018年6月1日号)
◆「医療情報ネット」、QI指標や口コミの掲載を検討 諸外国の事例を参考に 低認知度からの脱却を目指す
―厚生労働省 医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会
厚生労働省は、5月31日の「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」で、各都道府県が運用している「医療情報ネット」の見直し案を提示。医療の質を示すQI指標(Quality Indicator)や口コミの掲載を検討していることが明らかとなった。諸外国の事例を参考に、有用性の高い医療機関検索サイトを目指していく方針だ。
「医療情報ネット」は、2006年の第五次医療法改正によって導入された医療機能情報提供制度に基づき開設された。医療機関の基本情報(診療科目、診療日、診療時間など)のほか、対応可能な疾患・治療内容などが検索できるようになっているが、広く知られているとは言い難いのが現状だ。実際、地域医療基盤開発推進研究事業でのアンケート調査結果によれば、認知度はわずか11%に留まっている。
しかし、利用したことがある人への調査では「役立った」との回答が9割を超えており、医療機関を選ぶ際の重要な情報源のひとつであることは間違いない。認知度を高めるには有用度を高めることが早道であり、厚労省はその手立てとしてQI指標の掲載を打ち出したというわけである。
厚労省がこうした提案をしたのは、諸外国でも同様にQI指標を公開しているからだ。この日の会合では、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランスの事例が提示された。たとえばアメリカでは「死亡率」「再入院率」「患者の声」「治療の効果」など58項目を公開。イギリスでは、医療記録などなんと1,925項目を公開。サイトでは口コミの評価が医療機関名のすぐ横に表示され、星の数によって一目でわかるようになっているほか、誰でも口コミを投稿できる仕組みになっている。厚労省の提示資料では「QI指標の公開」と記すに留まっているが、いわゆる口コミサイトの仕組みを取り入れることを視野に入れていることは明らかだ。
そもそも、「医療情報ネット」が1割程度の認知度しか獲得できていないのは、魅力ある検索サイトとして機能していないことの証でもある。東京都の医療機関情報システム「ひまわり」の昨年度のアクセス数は約440万PV。1日あたり1万PVちょっとというのは寂しい数字だが、これでも一昨年度に比べれば倍近く増えている。5年前の2013年度は約120万PVであり、1日あたり3,000PV強。スマートフォンやタブレットが急速に普及しているため単純比較はできないが、少なくとも医療機関を探すときの第一の選択肢にはなっていないといえるだろう。QI指標や口コミ情報が加われば、“病院選び”サイトとしての有用性が高まることは確実であり、情報の中立性が疑わしい民間のポータルサイトに患者が惑わされるリスクも減らすことが期待できる。どのような指標を選ぶかは議論の必要があるだろうが、早期に見直しの方向性を決めるべき事案なのではないだろうか。
◆「次世代ヘルスケア・システムの構築プロジェクト」を推進
オンライン医療充実のため薬機法改正も視野 「骨太の方針」原案
―経済財政諮問会議
政府は、6月5日の経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針2018)の原案を示した。医療関係では、「次世代ヘルスケア・システムの構築プロジェクト」の推進を掲げ、オンライン医療を充実させるため医薬品医療機器等法(薬機法)の改正も検討する方針を明らかにしている。
「次世代ヘルスケア・システムの構築プロジェクト」は、IoTやロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れてイノベーションを創出し、一人ひとりのニーズに合わせて社会的課題を解決する新たな社会「Society5.0」の実現に向けて取り組む「フラッグシップ・プロジェクト」のうちの1つとして盛り込まれた。オンライン医療は、今年度の診療報酬改定で初めて保険適用され、「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」などが新設されたが、服薬指導や調剤を対面で行わなければならないため、「一気通貫の在宅医療」が実現できていない。その点を問題視している規制改革推進会議は、オンライン服薬指導および処方せんの完全電子化の早期実現を今期の最重要課題と位置づけていた。
しかし、厚生労働省はオンライン服薬指導の実現に消極的な姿勢を見せており、5月15日に開かれた規制改革推進会議医療・介護ワーキング・グループの会合で、条件付きの実施としたい意向を示している。医薬品の副作用などの情報提供や、多剤併用の防止、残薬管理を徹底するため「原則対面」としたいというのが理由で、オンライン服薬指導の対象は「必要性に迫られた医療資源の乏しい地域に居住する患者」に限定したうえで、制度の見直しをするべきだとしていた。
そうした状況を踏まえると、政府が薬機法改正に言及した意味は重い。少なくとも現状の規制が緩和される方向に進むのは間違いなく、「条件付き」をどこまで盛り込むかが今後の焦点となってくるだろう。
なお、「次世代ヘルスケア・システムの構築プロジェクト」では、個人の健診・診療・投薬情報を医療機関間で共有できる全国的な保健医療情報ネットワークを2020年度から本格稼働させるほか、「認知症の人にやさしい」新たな製品やサービスを生み出す実証フィールドを整備するための官民連携プラットフォームを今年度中に構築させることも盛り込まれた。また、アジア健康構想のもとで、日本のヘルスケア産業の海外展開実施も目指すこととしており、関連企業や医療機関はこうした動きを前提とした経営戦略を立てる必要がありそうだ。
◆患者申出療養制度普及のため、申請書類の簡素化やQ&A策定を目指す 医療機関の負担軽減のため 開始2年で承認技術はわずか4種
――規制改革推進会議
規制改革推進会議は、6月4日に「規制改革推進に関する第3次答申~来るべき新時代へ~」を取りまとめ、公表した。医療分野では、健康寿命の延伸の観点から「患者申出療養制度」の普及に向けた対策を提案。医療機関の負担軽減のため、申請書類の簡素化やQ&Aを策定するなどの案を挙げている。
「患者申出療養制度」は、2016年4月に導入された。患者側が最先端の医療技術や医薬品へ迅速にアクセスできるようにする制度で、未承認薬などの先進医療を「保険外併用療養」として受けることができる。患者申出療養分は10割負担だが、入院基本料やその他の技術料などは保険適用されるという仕組みだ。対象となる医薬品や医療技術の承認が、患者からの相談を起点として審査されるのが画期的だったが、今年2月末までの約2年間で承認された技術はわずか4件に留まっている(※1、※2)
制度が機能しているとは到底いえない状態だが、規制改革推進会議は医療機関側の負担の大きさを原因のひとつとしている。先進医療と同程度の臨床研究計画書が求められるなど、申請のための資料作成の負担が大きいというのである。医療機関の実施体制の不備を理由に「実施困難」と判断された事例もあるため、「患者の気持ちに寄り添う」という制度趣旨に乖離しているというわけだ。
そこで、患者が制度を容易に利用できるように制度の周知を行うほか、医療機関側への支援を強化すべきだとした。具体的には、前述したような医療機関に向けたQ&Aの策定・公表、申請書類の簡素化、すでに実施された患者申出療養や既存の先進医療の臨床研究計画書の提供などを挙げている。
そのほか、取りまとめられた答申には「オンライン医療の普及促進」や「社会保険診療報酬支払基金の見直し」、「医療系ベンチャー支援の取組」、「PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)による審査の効率化」のほか、「食薬区分の運用改善」「機能性表示食品制度の運用改善」なども盛り込まれている。
※1
患者申出療養制度が導入されてから今年2月末までの約2年間で相談件数は91件。そのうち既存の先進医療や治験で対応したのが11件だった。
※2
患者申出療養制度が最初に適用されたのは2016年9月下旬。胃がんの腹膜への転移に対し、抗がん剤の「S-1」と「パクリタキセル」を投与するというもので、制度活用によって全額自己負担だと約170万円だったのが約90万円程度となった。申請したのは東京大学医学部附属病院。
◆CTや血管造影検査、被ばく線量の記録を義務付ける方針 患者への情報提供も実施 DRLに基づいた線量管理も必須化へ
――厚生労働省 社会保障審議会医療部会
厚生労働省は、6月6日に開催された社会保障審議会医療部会で、CTや血管造影検査の際に被ばく線量の記録を義務付ける方針を明らかにした。患者へもその情報を提供するほか、原則としてDRL(Diagnostic Reference Leve、診断参考レベル)に基づいた線量管理を必須化したい意向も示している。
厚労省によれば、日本の医療被ばくの線量は世界平均に比べて高い。国連科学委員会(UNSCEAR)の2008年報告書によると、世界平均では年に0.6mSv(ミリシーベルト)だが、日本の平均は3.87mSV(自然放射線の世界平均は2.4 mSv、日本の平均は2.1 mSv)となっている。10年前のデータであるため、デジタルレントゲンが急速に普及している現在はここまでに開きはないと考えられるが、UNSCEARの報告書によれば、日本の胸部X線撮影件数やCT検査実施件数は世界でもっとも多い。医科、歯科とも多いがとりわけ以下の検査数は多く、厚労省の医療施設調査(平成14年~26年)によれば、CT、血管造影、マンモグラフィ、PET検査(陽電子放射断層撮影)のいずれも増加傾向にある。
被ばくのリスクを最小化するためには、被ばく線量の最適化が必要だ。しかし、これまで被ばく線量を記録するルールは設けられておらず、患者側もどのくらい被ばくしているのか把握できない状態となっている。そこで、まずは被ばく線量が相対的に高い検査だけでも線量を記録しようというわけだ。具体的には「CT検査」「血管造影検査・透視検査(長時間または反復的に実施する場合)」を挙げている。
なお、患者に線量記録の情報を提供するのは、別の医療機関での受診時に活用するため。ただ、患者側が被ばく量の多さに恐れをなし、これ以上検査を受ける必要がないと判断しないように適切な説明を行うべきだとしている。
前述したように、デジタルレントゲンの普及によって、従来よりも手軽にX線検査やCT検査ができるようになっている。撮影料や画像診断料、電子画像管理加算が算定できるため、積極的に撮影する傾向があるのは否めない、裏を返せば、医療費の膨張につながっているともいえるため、線量記録を義務付けることで抑制をかけようという狙いも透けて見える。とはいえ、線量の告知のみを先行させると、患者の不安を煽る可能性もあるため、厚労省にとっては、正確な知識を一般に周知させていくことも課題となっていくのではないか。