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医療経営情報(2018年9月13日号)

2018/10/1

◆テ地域医療介護総合確保基金、医療分の未執行分は982億円       「施設設備整備事業の進捗に伴い解消される見込み」と厚労省 

―医療介護総合確保促進会議
厚生労働省は9月14日の医療介護総合確保促進会議で、2014年度から2016年度の地域医療介護総合確保基金の執行状況を報告。医療分に交付された2,711億円のうち、執行されたのは1,729億円であることが明らかとなった。未執行分は982億円。

厚労省は、未執行額が生じている主な要因として、複数年度にわたって実施中もしくは今後実施予定である施設設備整備事業の「後年度の負担分を確保しているため」とし、「整備の進捗に伴い、未執行額は次第に解消される見込み」と説明している。

地域医療介護総合確保基金は、医療と介護の受け皿整備と人材確保のため、2014年度から各都道府県に設置された財政支援制度。国が3分の2、都道府県が3分の1を負担している。ちなみに2014年度に計上されたのは医療分のみで904億円、2015年度は当初予算として医療分904億円、介護分724億円、補正予算として介護分1,561億円が計上された。2016年度、2017年度は医療分904億円、介護分724億円で当初予算のみ。今年度は医療分が30億円増えて934億円となった(介護分は前年度と同様に724億円)。30億円は「居宅等における医療の提供」と「医療従事者の確保」の事業に使われる。

では、これらの基金はどのような事業に使われているのか。2017年度分の事業区分別の交付額割合を見ると、55.7%が「医療機関の施設・設備の整備」、40.0%が「医療従事者の確保・養成」、そして残り4.3%は「居宅等における医療の提供」となっている。しかし、今回明らかになったように、3年間で未執行分が982億円も残っていることから考えると、効率的な運用がなされているとは言い難い。そうなっている大きな理由は、補助や助成を受けている事業に充当できないルールがあり、柔軟な活用ができないからだ。ルールの見直しを含め、適宜必要に応じた運用をすることが求められるのではないか。

また、この日の会議では事業評価結果も報告されたが、具体的な目標を設定していない都道府県があるほか、具体的な成果についてのデータがないなど、国側のマネジメントに疑問符がつく状況となっている。厚労省は、定量的な目標を設定・報告する設定にする方針を明らかにしたが、その姿勢そのものが、財政支援のみを進めて適切な運用がなされていない実態を浮き彫りにしたといえよう。「基金の性格が曖昧だ」と国立社会保障・人口問題研究所の論文でも指摘を受けている地域医療介護総合確保基金。来年10月の消費税増税でさらに財源が確保されるだけに、今後厚労省がどのように立て直していくか着目したい。

◆「オンライン診療には疾患別のガイドラインが必要」
規制改革推進会議で日本オンライン診療研究会が提言

―規制改革推進会議 医療・介護ワーキング・グループ
規制改革推進会議の医療・介護ワーキング・グループは、9月18日に日本オンライン診療研究会からヒアリングを実施。同研究会会長の黒木春郎氏は、オンライン診療を保険制度に着地させるため「オンライン診療には疾患別のガイドラインが必要」と提言した。

日本オンライン診療研究会は、今年4月に立ち上げられたオンライン診療を実施する臨床医による有志の研究会。勉強会の開催や、オンライン診療の普及に向けた情報発信を行っている。会長の黒木春郎氏は、千葉県いすみ市にある外房こどもクリニックの院長。同クリニックのオンライン診療患者数は383名。千葉県内のみならず東京や神奈川、埼玉、茨城、兵庫から受診している患者もいるという。

ヒアリングでは、同研究会がまとめた「臨床におけるオンライン診療の手引き」の内容も紹介された。疾患ごとに、実際の診療における適切なオンライン診療の活用例をまとめたもので、「厚労省の指針や診療報酬の要件では言及しきれないような、実際の診療レベルでの基準を示し、医師にとっての臨床面での拠り所を作成する」ことを目的としている。

また、オンライン利用者に行ったインタビューの結果についても触れた。「仕事や学校を休まなくて済む」「待ち時間がない」といった利便性や「子どもが対面診療時よりリラックスしている」といったメリットを享受している一方で、「処方箋が郵送されることが不便」「自宅近くの薬局では薬がない」「逆に恥ずかしがる子どももいる」といったデメリットを感じている実態も明らかにした。さらに、オンライン診療と対面診療が違うものであることが認識されていることや、必要に応じて使い分けたい希望があることも示した。厚生労働省は、オンライン診療に偏ることで対面診療が軽視されることを憂慮しているが、患者サイドが冷静に判断していることが示されたことの意味は大きいだろう。また、インタビュー協力者全員が、オンライン診療の継続を希望している点も見逃せない。

 最後に、黒木氏は「オンライン診療は入院・外来・在宅に続く第4の医療となる可能性を有している」とし、その適応は疾患によるのではなく患者の状態によるとした。しかし、保険点数の仕組みは病名(疾患)別であるとして、オンライン診療のガイドラインは疾患別に策定するべきだと訴えた。こうした現場の声を厚労省がどのように受け止めるのか、今後の反応に注目したいところだ。

◆医師の応召義務は新たな解釈を示すべき」厚労省研究班        過剰な労働を強いることのないよう体系的に整理する方針

―厚生労働省 医師の働き方改革に関する検討会
 厚生労働省の研究班は、9月19日の「医師の働き方改革に関する検討会」で、医師の「応召義務」は新たな解釈を示すべきだとした。地域の医療提供体制を確保しつつ、医師個人に過剰な労働を強いることのないように、個別ケースごとに体系的な整理を行う方針だ。

 研究班の主任研究者を務めたのは、「医療と法」を研究テーマとしている上智大学法学部の岩田太教授。「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈についての研究」と題した中間取りまとめで、現行の応召義務の解釈は「戦後間もない頃の医療提供体制を念頭に」示されているとし、それだけでは現代の応召義務のあり方にそぐわないと指摘した。

 そもそも医師法に応召義務が規定されたのは、1948年(昭和23年)の医師法制定時。岩田教授によれば、「医療供給体制のシステム化が行われておらず、個々の医師の協力により医療提供体制を確保していた状況」だった。しかし、現在は医療機関が相互に機能分化・連携を進めており、高度化・専門化も進んでいるため、「呼ばれたらいつでも駆けつける」必要はないということだ。

 では、「新たな解釈」はどのような方向性になるのだろうか。岩田教授は、「応召義務の対象・範囲」「『正当な事由』の範囲」に着目して整理していく方針を明らかにした。「応召義務の対象・範囲」については、当事者が誰で、どのような状況に置かれていて、応召義務の問題が問われるか否かといったシチュエーションを踏まえたうえでの整理となる。

 なお、応召義務に違反すると、医師免許に対する行政処分が下されることになっている。しかし、1948年の医師法制定以前には刑事罰の規定があったものの、現行法では罰則が削除されており、実例は確認されていない。岩田教授によれば、地裁の裁判例で、過失が認定され得ると受け取れる判示はいくつかあったものの、地裁の裁判例は「先例拘束性を有さない」ことに注意すべきだとした。そのうえで、「応召義務は、私法上の義務ではなく、医師が患者に対して直接民事上負担する義務ではない」との見方を示している。つまり、現行の応召義務は時代にそぐわず、罰則を受ける理由もないということだ。そうした岩田教授のスタンスを踏まえれば、医師個人のワーク・ライフ・バランスを考慮した解釈の方向性が打ち出される可能性が高いのではないか。

◆国立がん研究センター、2014年のがん罹患数・率を公表 罹患数は過去最多の86.7万例 男性は胃がん、女性は乳がんがトップ

――国立研究開発法人国立がん研究センター
 国立がん研究センターは9月15日、2014年のがん罹患数・がん罹患率を公表。がん罹患数は男性50万1,527例、女性36万5,881例の計86万7,408例。2013年に比べて約1万8,000例増えており、過去最多を更新した。

 部位別では、男性でもっとも多かったのが胃がんで、罹患率(人口10万対)は72.0。次いで肺がん、大腸がん、前立腺がん、肝がんの順となっている。女性は乳がんがもっとも多く、次いで大腸がん、胃がん、肺がん、子宮がんの順。女性の乳がん罹患率は他の部位に比べて圧倒的に高く、82.95となっている。

 年齢階級別に見ると、男性のがん罹患率は50歳代で急上昇。とりわけ肺がんは、年齢が上になればなるほど罹患率も上がる傾向にある。一方、大腸がんは70歳代後半から罹患率上昇のペースが緩やかになり、胃がんや肝がんは80歳代後半になると罹患率が減少する傾向にある。女性の場合は、子宮頸がんが20歳代後半から罹患率が上がり、50歳代後半から上昇ペースが緩やかになる。もっとも多い乳がんは、30歳代後半から急上昇するも、40歳代後半から60歳代まではほぼ横ばいで、その後減少していく傾向がある。

 この年齢階級別の傾向は、がんに関する行政の施策に少なからず影響しそうだ。なぜならば、現在のがん検診は過剰診断が問題視されつつあるからである。胃内視鏡検査による出血や穿孔、胃エックス線検査における誤嚥や腸閉塞、マンモグラフィや胸部エックス線検査、胃エックス検査による放射線被曝などのリスクも知られるようになったほか、生命予後に影響しない微小で進行の遅いがんまで見つけてしまうリスクもある。厚生労働省は、8月に開催された「がん検診のあり方に関する検討会」で、市町村が行うがん検診の推奨年齢引き下げを検討していることを明らかにしており、今回国立がん研究センターが発表したようなエビデンスに基づいて推奨年齢が見直される可能性が高い。

 なお、国立がん研究センターはこの日、2018年のがん統計予測も発表。がん罹患数は男女計で101万3,600例(男性57万4,800例、女性43万8,700例)で、これは101万4,000例とした2017年の予測値とほぼ変わらない。がん死亡数予測は男女計37万9,900人で、これも2017年の予測値(男女計37万8,000人、男性22万2,000人、女性15万6,000人)とほぼ同様の数値となっている。

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