ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2018年10月19日号)
◆介護予防、事業者へのインセンティブを強化 デイサービスを対象に 介護報酬の加算で
―未来投資会議
安倍晋三首相は、10月22日に開催された未来投資会議で、介護予防を推進するため事業者のインセンティブを強化すると明言。デイサービスを対象に、日常生活動作(ADL)の維持または改善度合いに応じたものとし、インセンティブは介護報酬の加算で反映する意向だ。今後の介護行政が予防を軸にして進められることが改めて打ち出された形となる。
政府が躍起になって介護予防に取り組むのは、介護費のみならず医療費の削減を見据えているからだ。医療分野では、糖尿病予備群が1,000万人以上存在することから、多額の医療費がかかる人工透析患者にさせないことを目指している。一方で、運動機能や認知機能が低下し、要介護者予備軍ともいえる「フレイル高齢者」の増加も問題となっており、日本老年医学会および国立長寿医療研究センターは「地域在住高齢者の10%前後」との推計結果を発表済み。加齢とともに増加する傾向があるほか、女性のほうが多いことも明らかになっている。
平均寿命が男性よりも女性のほうが「フレイル」になりやすいということは、介護サービスを必要とする人が増えることを意味している。深刻な人手不足に悩まされ、受け皿不足の問題も顕在化している今の介護業界で対応できるか疑問視される状況であるため、予防を推進することで少しでも要介護者を減らそうというのが政府の狙いだ。
介護報酬におけるデイサービスの関連インセンティブとしては、今年度の改定で新設されたADL維持等加算がある。単位数の上乗せとなるのか、要件が緩和されるかは未知数だが、いずれにしてもADLの維持・改善に取り組むことがより重視されることとなりそうだ。ちなみに、ADL維持等加算(I)は1カ月あたり3単位、ADL維持等加算(II)は1カ月あたり6単位となっている。
◆介護予防推進に向けて「通いの場」を多機能化
スポーツジムとも連携してフレイル対策を強める
―厚生労働省
高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議
厚生労働省は10月24日、「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」で、「通いの場」を多機能化させる考えを示した。介護保険サービスの範疇のみならず、スポーツジムなど民間と連携してフレイル対策を強化していく方針だ。有識者からも賛同の声があがっており、スポーツビジネスとの協働が今後の介護事業の軸のひとつとなっていく可能性が出てきた。
そもそも介護予防事業は、要支援および要介護1の軽度な認定者が大幅に増えたことをきっかけとして、2006年に創設された。しかし、具体的な事業は機能回復訓練に偏りがちで、その後のフォローが不十分という問題があったため、「通いの場」を有効活用する方針を導入。2013年度には約4万3000カ所だったが、2016年度には7万6492カ所と増えている。
とはいえ、参加者数は高齢者人口の5%未満となる約140万人程度と伸びていないのが現状。実際に高齢者が集まり、フレイル予防につながる場所として、スポーツジムに着目したというわけだ。スポーツジムを介護予防の枠組みに加え、医師や保健師が関わる仕組みを構築すれば、「フレイルの前の段階での気付き」を促す効果も期待できる。さらに、薬局や栄養士との連携も図ることで、有効なサプリメントや食事指導、セルフケア指導の提供も可能となるため、医療費・介護費の抑制にもつながる。
いわゆる無関心層や閉じこもりがちな高齢者への対応としては、ショッピングセンターやコンビニエンスストアを媒介として情報発信していく取り組みも検討。「フレイルは可逆性がある」との啓発を進めることも含め、スポーツジムなど多様性を増した「通いの場」を受け皿とする仕組みを推進していくことで、健康寿命の延伸につなげていくことを目指すとしている。
これらの構想を一歩進めて考えれば、訪問介護やデイサービスなどの介護事業所とスポーツジムが連携することで、「フレイル予備軍」を囲い込みできる可能性が出てきたともいえる。単なる多角化ではなく、介護予防からフレイル対策、機能回復訓練、日常生活支援まで包括的に利用者をサポートする経営ができるため、従来と違った経営スタイルを持つ事業者が頭角を表しやすくなるのではないか。
◆厚労省、社会福祉法人と医療法人の経営統合を推進へ 「経営の大規模化・協働化」を旗印に連携の方策も検討
―厚生労働省
2040年を展望した社会保障・働き方改革本部
厚生労働省は、根本匠厚生労働相を本部長とする「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」を立ち上げ、10月22日に第1回会合を開いた。「現役世代」が減少する2040年を見据え、社会保障の持続可能性確保を検討するため、部局横断的な政策課題に取り組む。そのひとつとして「医療・福祉サービス改革」を掲げ、社会福祉法人と医療法人の経営統合を推進する方針を明らかにした。「経営の大規模化・協働化」を目指し、運営共同化や多角化、連携などの方策も検討する。
介護事業者の経営統合に関しては、財務省の財政制度等審議会が、4月に小規模介護事業者の統合を促すべきと提言。人事・経営管理などの統合や連携事業への参加を指定・更新の要件にすることも考慮すべきとまで踏み込んだ。医療法人との連携についても触れており、それぞれの人事交流や備品の一括購入をNPO法人に担わせるといったスキームまで示していた。
これらの構想の背景にあるのは、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年問題によって膨張を余儀なくされている介護費だ。経営の効率化を図ることで、人材の確保や育成をよりスムーズにするとともに、介護職員の待遇改善を促すのが狙いだろう。さらに、資本的な意味で体力がある社会福祉法人が増えれば、多数の拠点を設置してもスケールメリットでカバーできるため、施設数の地域格差を解消できる可能性も生じる。どの程度まで自治体が関与するかは未知数だが、介護業界の活性化を促し、質の高いサービスを展開する環境づくりにつながる期待が持てるといえよう。
また、厚労省が経営統合を推進する姿勢を打ち出したことは、介護報酬で当該事業者が手厚い評価を受ける可能性が高まったともいえる。今後の戦略を構築するうえで、少なくとも経営統合を視野に入れておくほか、NPO法人立ち上げに必要な手続きを調べておくなど、ある程度の準備を進めておくべきではないか。
◆介護慰労金、対象外世帯に約8億9,000万円支給 国の交付金は約3億4,000万円 厚労相に改善要求
―会計検査院
会計検査院は10月17日、厚生労働相あてに「介護慰労金」について改善を要求する文書を提出。それによれば、「介護慰労金」が対象外世帯に約8億9,000万円支給されていることが明らかとなった。そのうち国の交付金は約3億4,000万円にのぼる。
「介護慰労金」とは、要介護者を介護している家族を慰労するために支給されているもの。地域支援事業の中の任意事業として行われている介護自立支援事業で行われている。以前は、「介護の慰労のための金品の贈呈」と規定されているのみだったため、介護サービスを受けている要介護者の家族でも受け取れた。しかし、厚労省は2015年度に実施要項を改正。介護慰労金の対象を「介護サービスを受けていない中重度の要介護者を現に介護している家族」と限定している。
このように改正した理由は、要介護者本人に対する保険給付と同一家族内での重複を避けるためで、介護自立支援事業と介護サービスの整合性をとっていた。ただ、例外として年に10日以内の介護サービス利用であれば支給対象としており、それが今回明るみに出た“誤支給”の遠因となったと思われる。2015年度と2016年度に会計検査院が行った調査(18府県157市町村が対象)によれば、16府県66市町村で延べ6万7,732人の対象外家族に慰労金を支給しており、うち延べ1万6,284人が受けていた介護サービスの平均日数は140日だったというのだ。この件に関して自治体のガバナンスが効いていないことは明白で、制度の改正があったことが周知徹底されておらず、「介護サービスを受けていても慰労金が受け取れる」との誤解を生んでいた可能性もあるのではないか。
その点を踏まえ、会計検査院は「要介護者が一時的に受けることができる介護サービスの範囲を実施要項に明記」して市町村に周知するよう厚労相へ要求した。行政マターではあるものの、とりわけ訪問介護やデイサービスの場合は利用者が慰労金を受け取っているケースもあると考えられるため、事業者側としても必要に応じて正しい情報を伝えるべきだろう。