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医療経営情報(2018年10月27日号)

2018/11/14

◆財政審、公立病院の経営改革を促す提言         「著しく収益状況の悪い病院が存在」と指摘

――財務省
財政制度等審議会財政制度分科会
財務省は、10月30日の財政制度等審議会財政制度分科会で、公立病院の経営改革を促す提言を行った。相応の病床数があり、離島やへき地といった不採算地区ではないのに「著しく経営状況の悪い病院が存在」すると厳しく指摘。地方財政健全化の観点からも、各病院が一層の経営改革・コスト削減に取り組むよう促すことが不可欠だとした。

公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関。地域医療を確保するうえで重要な役割を担っているが、収益状況は思わしくない。一般的には、病床数が増えれば収益が改善する傾向がある中で、その例に当てはまらない病院もあるのが実態だ。財務省は、「公立病院には自治体の一般会計等が経費の一部を負担している以上、持続可能な医療提供体制の確保」が必要だと指摘。経営不振の病院には経営努力が足りないと断じている。

そもそも、公立病院を含む地方公営企業は、独立採算制が原則。ただし、繰出基準を満たす一定の経費は地方公共団体の一般会計が負担しており、地方財政計画に「公営企業繰出金」として計上。地方交付税の基準財政需要額へ算入するなどの財政措置がとられている。公立病院の場合、2016年度は6,911億円の繰り出しが行われているほか、基準外の繰り出しも1,030億円ある。財務省は「その理由を見ると、各病院の経営効率化に向けたインセンティブを阻害しかねないようなものも含まれている」とし、基準外繰出の必要性を精査するべきと主張している。

ちなみに、公立病院の基準外繰出の理由を見ていくと、「用地取得費、医師住宅建設改良費に係る企業償元利償還金等の全額」「病院経営維持に要する経費」「収支不足額の全額」「当該年度に発生した欠損金」といったものが並ぶ。財務省が槍玉に挙げるのも納得のものばかりで、早急な対策が必要であることは確かだ。

財務省は改善例として、神奈川の三浦市立病院の事例をピックアップ。同病院は2004年の設立時から赤字経営が続き、2007年度決算では地方財政上の資金不足が52億円となっていた。そこで、2010年度から地方公営企業法全部適用に転換。人事・予算などの権限を病院長に付与し、自立的な経営へと切り替えた。事務長に民間病院経営経験者を抜擢し、独自採用の職員も確保。そして、地域包括ケアの中核としての役割を明確化し、2次救急などの急性期医療は維持しつつ、リハビリや在宅医療に注力。超急性期医療に関しては、近隣の中核病院とのネットワークを強化してカバーした。また、病床を改変し専門外来を開設することで収益を向上。医療職給与は国家公務員給与に準拠させた。その結果、早くも翌2011年度から経常黒字化を実現。2015年度決算まで黒字状態を維持している。この事例を紹介する財務省の意図が、事実上の民営化を促すものであることは明らかであり、公立病院のあり方そのものを変えるよう迫っているともいえる。地域医療構想にも大きな影響を与えるだけに、この提言がどのような形で各方面に受け止められるか、今後の推移を見守りたい。

◆厚労省、医療機関にサイバーセキュリティ対策強化を呼びかけ
ランサムウェア「WannaCry」による被害を受けて

――厚生労働省
医政局研究開発振興課
厚生労働省医政局研究開発振興課は10月30日、「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の強化について」と題した事務連絡を各都道府県および保健所設置市、特別区の医政主管部あてに発出。「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を周知徹底するとともに、個人情報漏洩や医療提供体制に支障をきたすような被害を受けた場合、速やかに国へ報告するよう求めた。

今回の厚労省通知の背景にあるのは、昨年5月に発生した世界的なランサムウェア「WannaCry」。世界150カ国、23万台以上のコンピュータが感染した。日本でも日立製作所やJR東日本、本田技研工業といった有名企業など600カ所以上で被害が確認され、一時操業停止の事態に追い込まれたところもあった。医療関係でも、医療提供体制に支障が生じた事例が報告されている。

これまで厚労省は、主に医療関係団体と連携してサイバーセキュリティ対策に取り組んできたが、今後は都道府県や保健所設置市、特別区とも連携を強化する方針。具体的には、コンピュータウイルスの感染などによるサイバー攻撃を受けた医療機関に対し、被害状況や対応・復旧状況、再発防止策に関する調査と指導を展開するよう都道府県などに要請している。必要に応じて厚労省も情報収集や調査、指導に乗り出すとしている。

また、日本医師会の医療セプター事務局とも積極的に連携。医療セプターはIT障害の未然防止や発生時の被害拡大防止、迅速な復旧について、政府から提供される情報を重要インフラ事業者に提供する役割を担っているが、今後はよりその存在が重視されることになりそうだ。

なお、医療セプターは今年3月から事務局を日本医師会に設置。日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会などを構成員とし、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)や厚生労働省と連携してサイバーセキュリティに関する情報共有や演習参加などの活動を行っている。電子カルテシステムや地域医療情報連携ネットワークなどの普及が進んでいる今、医療機関側もより一層サイバーセキュリティに対する意識を高める必要が出てきたといえよう。

◆歯科医師の勤務実態および「働き方の意向」を調査       「都市部以外で働く意思の有無」を問う設問も

――厚生労働省
 厚生労働省は11月1日、医政局長名で「歯科医師の勤務実態等の調査について(依頼)」と題した通知を発出。歯科医師の勤務実態および働き方の意向について、大規模な全国調査を行うことを明らかにした。調査結果は、同省の「歯科医師の歯質向上等に関する検討会」での議論の土台となる。

 調査票は27の質問項目で構成。実際の勤務の状況について記録を求める質問項目では、11月15日から21日の労働時間を細かく記すようになっている。具体的には、勤務日か休日かを明らかにしたうえで「院内診療」「訪問診療」「教育」「研究・自己研修」「会議・管理業務等」のいずれかを選び、矢印でそれぞれに費やした時間を記す形だ。7日間のうち、それぞれの項目にどのくらいの時間をかけているかを抽出するのが狙いだと思われる。

 さらに、11月21日の勤務内容については、患者数のほか、「患者・家族への説明」「予防処置・歯科保健指導」「医療記録(診療録の記載等)」「医療事務(診療情報提供書等の作成、レセコンの入力等)」にどの程度の時間を費やしたかを答えなければならないようになっている。

 また、注目したいのが「都市部以外で勤務する意思」の有無を問う質問項目があることだ。勤務する意思がない場合、その理由を答えさせるようになっている。この背景にあるのが、歯科医師の地域格差問題だ。歯科医師数は2014年に10万人を超え、過去最高を更新し続けているが、人口10万人あたりの歯科医師数が平均を下回っている地域も少なくない。とりわけ北陸地方は歯科医師不足となっており、全国平均の7割程度しかいないのが現状。歯科医師が今後のキャリアをどのように考えているか把握することで、地域格差問題を解決する糸口をつかみ、今後の医療行政に反映させようという意図が見える。調査結果を受けて「歯科医師の歯質向上等に関する検討会」でどのような議論が展開されるのか、今後の動きから目が離せない。

◆外国人観光客の診療価格引き上げへ 規制改革推進会議 看取りガイドラインの要件緩和も検討

――規制改革推進会議
医療・介護ワーキング・グループ 
規制改革推進会議の医療・介護ワーキング・グループは、10月29日に今期第1回目の会合を開き、林いづみ座長(弁護士・桜坂法律事務所)が主な審議事項を示した。外国人観光客に対する診療価格の見直しや、看取りガイドラインの要件緩和などが検討項目として挙げられている。

政府による積極的なインバウンド対策もあり、外国人観光客は増加中。今年上半期(1~6月)の訪日外国人数は、前年同期比15.6%像の1,589万9,000人となっており、6年連続で過去最高を更新している。1,500万人を突破したのは史上最速で、昨年よりも1カ月早かった。2020年には東京オリンピック・パラリンピックを控えていることもあり、今後も増加していくことが確実視されている。

そうなってくると、医療機関側としては急病時の受け入れ体制を整える必要がある。しかし、医療用語はビジネス英語レベルでも通じにくく、医療通訳士など専門のトレーニングを受けた通訳者が必要だ。とりわけ、社会医療法人のような大規模医療機関は、他のそれよりも多くの外国人が集まってくるため、医療通訳を雇用するなど一定のリソースを割かざるを得ない。

一方で、外国人観光客も対象となる自由診療の料金は、社会医療法人の場合「診療報酬と同一の基準」とすることが、税制優遇の要件となっている。つまり、リソースは割いているのに通常の診療と同様の価格しか請求できず、コストがかかっている分「損をする」ことになりかねない。そうした事態を回避するため、要件緩和を検討して価格の引き上げを可能にしようというわけだ。どの程度の引き上げを適当と判断するのか、今後の推移を見守りたい。

看取りガイドラインとは、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」のこと。死亡診断は医師のみが実施できるが、医療機関ではなく在宅で死亡した場合、医師の到着を待つために遺体を長時間保存もしくは長時間搬送する必要も出てくる。それを回避するため、看護師でも死亡診断ができるよう前述のガイドラインが策定された。しかし、ワーキング・グループいわく「一部の厳格過ぎる要件」が設定されているのが実状であるため、医療現場の実態に即した修正を検討すべきだとしている。在宅医療・在宅介護を促進するうえでも必要な規制緩和であり、医療機関にとっては経営戦略や人材確保にも密接に関わってくる問題であるだけに、どの程度の緩和策を提示してくるか、こちらも注目していきたい。

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