ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2018年11月16日号)
◆来年10月の「更なる処遇改善」、現行加算I~IIIの取得が要件に 「経験・技能のある介護職員が多いサービス」に高い加算率を設定
―厚生労働省
社会保障審議会介護給付費分科会
厚生労働省は、11月22日に開かれた社会保障審議会介護給付費分科会で、来年10月に実施される「更なる処遇改善」について、現行の処遇改善加算のI、II、IIIの取得を要件とする考えを示した。また、介護職員を確保・定着させることを目的に、「経験・技能のある介護職員が多いサービス」が高く評価されるよう加算率を高く設定する方針も明らかにした。
現行の処遇改善加算はI~Vの5段階。このうち、IVとVはマイナス加算であり、IVは加算III×0.9、Vは加算III×0.8(今後廃止される予定)。実質的な処遇改善を受けられるのは加算I~IIIで、加算IIIは月額1.5万円相当、加算IIは月額2.7万円相当、加算Iは月額3.7万円相当が加算される。昨年度末時点で、約90%の事業所が加算I~IIIのいずれかを取得している。
これらの加算を取得するには、「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」の双方を満たさなければならない。もっとも加算額が大きい加算Iの場合、「キャリアパス要件」として「(1)職位・職責・職位・職責・職務内容等に応じた任⽤要件と賃⾦体系を整備すること」「(2)資質向上のための計画を策定して研修の実施⼜は研修の機会を確保すること」「(3)経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること」のすべてと「職場環境等要件」を満たす必要がある。加算IIは(1)(2)と「職場環境等要件」、加算IIIは(1)(2)のいずれかと「職場環境等要件」を満たすことが求められている。ちなみに加算IVは(1)もしくは(2)もしくは「職場環境等要件」を満たした場合が該当し、加算Vはいずれも満たしていない事業所が対象で、それぞれに該当する事業所は、いずれも全体の0.8%となっている。
現状約90%の事業所が該当していることを考えれば、今回設けられた取得要件は非常にハードルが低い。むしろ、従事する人材にとって、必要最低限の職場環境が整えられているともいえるため、人材マネジメントに関して介護業界全体の底上げを図るのが目的とも捉えることが可能だ。
なお「更なる処遇改善」は、来年10月に予定されている消費税率引き上げに伴って行われる。昨年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」では、「勤続年数10年以上の介護福祉士」に対して「月額平均8万円相当」の処遇改善を行うため、2,000億円(うち、公費は1,000億円程度)を投じるとしている。消費税率を2%引き上げることで生まれた財源を人材確保策に活かそうというわけだが、「経験・技能のある介護職員が多いサービス」が高く評価されるよう加算率を高く設定することも踏まえると、“当たり外れ”が生じかねないのも事実だろう。果たしてどのサービスを手厚く評価するのか、今後の推移に引き続き注目する必要がある。
◆「補足給付」の要件見直しを提言 財政審「秋の建議」 全体的に利用者負担を引き上げ現役世代の負担を軽減する方向へ
―財務省 財政制度等審議会
財務省の財政制度等審議会(財政審)は11月20日、2019年度予算編成へ向けた「秋の建議」を取りまとめ、麻生太郎財務相へ提出した。介護分野では、「補足給付」の要件見直しを提言するなど、全体的に利用者負担を引き上げて現役世代の負担を軽減する意向で貫かれている。
「補足給付」とは、低所得の介護保険サービス利用者に対し、介護保険の財源からその額を負担する仕組み。しかし、高齢者の所得水準は平均的に低いものの「貯蓄現在高」は高い傾向にあるほか、所得が低くても相当の金融資産を保有しているケースもある。財政審は、経済力のある高齢者の負担を軽減することは「補足給付」の本来の姿ではないとし、現役世代の保険料負担を高めることは世代間の不公平を拡大すると指摘。2015年度の介護報酬改定で、一定以上の預貯金や有価証券などの金融資産を有する利用者には補足給付を行わないとする要件の見直しを行ったが、さらなる見直しが必要だと主張している。具体的には、「預貯金1,000万円未満(夫婦世帯2,000万円未満)」となっている現在の要件が、65歳以上の預貯金の中央値以上であるとして、さらに高い水準に設定すべきだとした。
また、同様の提言を「多床室の室料負担」においても行っている。2015年度の介護報酬改定では、特別養護老人ホーム(特養)の多床室の室料負担を基本サービス費から除く見直しを行ったが、介護老人保健施設や介護療養病床、介護医療院では依然として室料負担が基本サービス費に含まれているとして、これらの施設でも基本サービス費から除外する見直しを行うべきだと主張している。
また、現在進められている「軽度者へのサービスの地域支援事業への移行」について、利用者負担のあり方を見直すべきだとしているほか、介護保険サービスの利用者負担を現行の1割から原則2割に引き上げるべきだとし、ケアマネジメントに利用者負担を導入するべきとの提言も改めて行った。
これらの提言に共通しているのが、現役世代および将来世代に負担を先送りさせないという考え方。「平成という時代は、こうした厳しい財政状況を後世に押し付けてしまう格好となっている」としたうえで、「負担先送りの罪深さはかつての比ではない」と明言。現在の世代が「共有地」のように財政資源に安易に依存し、それを自分たちのために費消してしまえば、将来世代はそのツケを負わされ財政資源が枯渇すると危機感をあらわにしている。「悲劇の主人公は将来の世代であり、現在の世代は将来の世代に大きな責任を負っている」とまとめている。
◆消費者庁、介護ベッド用手すりについて注意喚起 2007年度以降、12年間で43件の死亡事故が発生
―消費者庁
消費者庁は11月16日、介護ベッド用手すりの事故がこの12年間で79件発生していることを明らかにした。うち、死亡事故は43件にのぼる。同庁は介護ベッド用手すりについての注意喚起を発するとともに、介護従事者へ再発防止を呼びかけている。
公表されたデータは、消費生活用製品安全法の重大製品事故報告・公表制度に基づくもの。同制度は2007年5月に施行されており、それ以降今年11月16日までの事故発生件数が79件(うち死亡事故43件)ということだ。今回注意喚起に至ったのは、介護施設で事故が発生したことが理由。80歳代の使用者が、手すりと介護ベッドの間に頸部が挟まった状態で発見され、病院に搬送後死亡が確認された。
消費者庁は、これまでも同様の注意喚起を繰り返してきた。直近では今年1月上旬にも実施している。その効果あってか、重大製品事故報告・公表制度が開始してから2012年度までの6年間で65件(うち死亡事故34件)起きていた事故は減少傾向にある。
事故の減少に貢献しているのが、2009年3月のJIS規格改正だろう。介護ベッド用手すりでは、手すりと手すりの隙間および手すりとヘッドボードの隙間の基準が強化されたため、安全性が向上した。さらに2012年、経済産業省と厚生労働省が病院や介護施設、福祉用具レンタル事業者に事故防止のための安全点検を依頼したことも効果を挙げているといえる。
しかし、件数は減少しているものの事故が起き続けているのが実情。また、事故の50%以上が死亡に至っていることからもわかるように、頸部を挟み込むリスクが高いことから、件数は少なくても注意を払うべき事案であることは間違いない。今年度も他に事故は起きていなかったが、初となる事故が死亡に至っている。予算上の問題などから、新JIS規格に適合した製品へ取り替えられない施設があることも想定されるため、消費者庁は「隙間を塞ぐ対策を確実に」とるように呼びかけている。