ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2019年1月31日号)
◆ オンライン診療の「適切な実施」をQ&A方式で通知 対面初診なしのED薬処方は不適切 患者の書面への署名も義務化
――厚生労働省医政局
厚生労働省医政局は12月26日、「『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に関するQ&Aについて」と題した通知を各都道府県衛生主管部あてに発出。対面初診なしでのED(勃起障害、勃起不全)治療薬の処方は不適切と明記したほか、患者の書面への署名を義務化する内容となっている。
オンライン診療は、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」と題したガイドラインを3月に策定。4月の診療報酬改定でオンライン診療料が新設され、本格的に解禁された。しかし、10月に一部メディアで、対面での診察を一度も行わずにED薬が処方されている事例が多いことが報じられ、10月30日には根本匠厚労相が「本指針(ガイドライン)から逸脱し医師法違反の疑いもある事案については、関係する保健所において指導」すると言及していた。今回の通知は、この厚労相発言を受けてのものだ。
Q&Aは9項目。EDに対する診療については、禁忌の確認をするのみでED薬処方している傾向があるが、明確にそれを不適切と断じた。ED診療ガイドラインで「心血管・神経学的異常の有無の確認や血糖値・尿の検査を行う必要がある」としていることを挙げ、対面での診察が不可欠であるとし、処方も「対面診療における診察の上」で行うよう指示している。
患者合意については、ガイドラインで「医師は、患者がオンライン診療を希望する旨を明示的に確認すること」とされているが、留意事項の説明を記した文書に、「患者がオンライン診療を希望する旨を書面において署名」としている。オンライン診療は、初診を原則的に対面診療とすることと定めているが、その前提に基づいた条件であり、再診以降にしか適用しないことを改めて明示した格好だ。
一方で、ガイドラインでは直接の対面診療を組み合わせないオンライン診療も例外として許容しているため、その場合に患者合意をどのように取り付けるかは不透明だ。署名した文書をメールやFAXで送信してもいいのかどうか、現時点では触れられていない。ちなみに、直接の対面診療を組み合わせないオンライン診療については、今回のQ&Aで適用条件を「健康診断等において定期的に医師の診察を受けており、診断や治療方針が確定し、悪化が予測されない場合等に限られる」と改めて明記。これに該当するのは現状では禁煙外来のみと限定している。ただ、今後医学の発展やICTの進歩によって適用できる症状を増やしていく可能性にも触れ、都度例示していく考えを明らかにしている。
◆ 厚労省「外来医師多数区域」での新規開業に「条件」をつける方針
地域の「不足医療機能」を担うことへの合意を求める 在宅医療など
――厚生労働省
医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会
厚生労働省は、12月26日に開かれた「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」で、「外来医師多数区域」での新規開業者に対し、地域で定めた不足医療機能を担うことに合意させる方針を明らかにした。新規開業の届出様式に、その旨を記載する欄を設け、記載がない場合や拒否する場合は、協議の場を臨時に設けて出席要請を行うとしている。具体的には在宅医療や初期救急医療などが求められることになる見込みだ。
今回の厚労省方針の背景にあるのは、都市部で無床診療所の新規開設が集中していることや、救急医療の提供体制が偏在化している実情がある。つまり、医師不足の地域がありながら都市部で供給過剰となっているため、是正策として一定の条件を課すことで限られた医療資源を有効に活用しようというわけだ。もちろん、営業の自由は法的に担保されているため、行政側で新規開業者をコントロールすることはできない。しかし、「事情を説明して協力を依頼」するとともに、面倒な手続きが必要なことを示すことで、都市部での開業意欲を減退させようという狙いが透けて見える。
いわば外堀を埋めることで「自主的」な分散を促そうという施策であり、それを後押しする取り組みも進めている。まずは、どの地域にどのような医療機能が不足しているかを可視化。地域別の診療所数、医師数などさまざまなデータを取りまとめて新規開業者に提示し、医療計画に定めた方針も提供する。事実上、都市部での新規開業に「圧力」をかけることになる施策だが、この日の分科会では了承の方向で議論が進んでいる。2020年度から開始する方針となっているため、それ以降に都市部での開業を検討している医師や医療法人などは計画の前倒しや見直しを図る必要があるのではないか。
◆ 「病理診断報告書の確認忘れ」、5年半で35件発生 うち26件が上部消化管内視鏡検査 死亡事例も
――公益財団法人日本医療機能評価機構
公益財団法人日本医療機能評価機構は、12月26日に「医療事故情報収集等事業 第55回報告書」を公表。病理検査を行った際に検査結果の報告書を確認しなかったことで治療が遅れた「病理診断報告書の確認忘れ」が、2012年9月以降で35件報告されていることを明らかにした。そのうち約3分の1の11件が2018年に発生しており、注意喚起を促している。なお、この件に関して厚生労働省は、医政局総務課医療安全推進課長と医薬・生活衛生局安全対策課長の連名で通知を発出した。
日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」は、医療機関に向けて医療安全対策に有用な情報を共有するため2004年10月から実施されている。「病理診断報告書の確認遅れ」については、2012年10月に注意喚起を行った。しかし、2018年7~9月で8件と、その前の1年間で報告された数を上回る件数が報告されたため、改めて注意喚起を行うに至ったという。
診療科別に「病理診断報告書を確認していなかった診療科」を見ると、「消化器科・消化器内科」が18件で最多。次いで「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」の6件、「外科・消化器一般外科」の5件、「内科」の4件と続く。残りは「泌尿器科」「歯科口腔外科」が各2件ずつ、「血液内科」「呼吸器内科」「内分泌代謝内科」「腎代謝内科」「神経内科」「皮膚科」「呼吸器外科」が各1件ずつとなっている。
「消化器科・消化器内科」が多いのは、実施される病理検査のほとんどが内視鏡検査であることに起因している。2012年9月以降で発生した35件のうち、「内視鏡検査の生検組織診断」は27件であり、そのほとんどである26件はいわゆる胃カメラに該当する上部消化管内視鏡検査だった。そこで日本医療機能評価機構は、上部消化管内視鏡検査に絞ってより詳細な調査を実施。その結果、「死亡」が1件、「障害残存の可能性がある(高い)」が3件、「障害残存の可能性がある(低い)」が9件と、半数が何らかの事故に至っており、「濃厚な治療」を必要としたことが明らかとなっている。
また、興味深いのは報告された事例の当事者の職種経験年数だ。当事者はすべて医師もしくは歯科医師。その職種での経験年数は「0~5年」が11件、「6~10年」が10件と多い。しかし、経験の浅さがネックとなっていると思いきや、「11~15年」が8件、「16~20年」が6件、「21~25年」が3件、「26年以上」が6件とまんべんなく分布しており、経験の有無よりも、検査フローに問題があることが窺える。一歩進めて考えれば、組織マネジメントに瑕疵があったと見ることもでき、起こってしまった事故は防ぎようがあったと判断できよう。
医療過誤が経営に大きなダメージを与えるのは言うまでもない。昨年、名古屋大学大学院医学系研究科は、医療過誤によって費やされる医療費は全国で年間約35億円にものぼるとの試算を発表した。これは訴訟や賠償の費用は含んでいないため、実質的にはさらに多額の費用を要する。そして、医療費がこれだけ嵩むということは、社会保障費全体にも影響することは明らかで、回り回って診療報酬の単価にも影響しかねない。もちろん、患者からの信頼も失うことになるため、「病理診断報告書の確認」といった細かい作業も怠らないよう現場をマネジメントする必要があるのではないか。
◆ 厚労省、2017年の医療施設調査・病院報告の結果を公表 歯科診療所は331施設、小児科標榜の診療所は1,225施設減少
――厚生労働省
厚生労働省は12月27日、2017年の「医療施設(静態・動態)調査・病院報告」の結果を公表。2016年と比べて歯科診療所が331施設、小児科を標榜する診療所は1,225施設減少したことがわかった。飽和状態といわれて久しい歯科診療所や、少子化の影響を受けている小児科診療所が淘汰されている現状が浮き彫りとなっている。産婦人科または産科を標榜する診療所は142施設、分娩を実施した診療所は99施設減少。
医療施設数・病床数は病院・一般診療所・歯科診療所ともに減少(歯科診療所の病床数 は増減なしだが、全国で69床しかない)。病院は30施設・6,126床、一般診療所は58施設・5,096床減少している。また、2017年の1年間に病床の規模を変更した病院は621施設あり、増床が172施設、減床が449施設。有床診療所では502施設が病床規模を変更し、増床が57施設に対して減床が445施設、そのうち無床診療所に変更したのが372施設にのぼっている。「効率的な医療」を実現するため、政府は病床過剰地域のダウンサイジングを推し進めているが、少なくとも数字上ではそれが実現しつつあることがわかる。
ただし、病院の平均在院日数は28.2日と、2016年と比べて0.3日短縮したのみにとどまっており、1日平均在院患者数は0.1%とわずかながら増加。病床数が減る一方で、入院患者数は減っていないことを示しており、「効率的な医療」につながっているかは疑問が残る。他方で、病院の1日平均外来患者数は0.7%減少。200床以上の病院は特定妥結率初診料が算定できるが、特別料金がかかることが一般に周知されたためだと思われる。
「医療施設調査」は、全国の医療施設から提出された開設・廃止などの申請・届け出をもとに、医療施設数や病床数、診療科目などの動向を把握する目的で実施されている。「動態調査」は毎月、「静態調査」は3年ごとに行われている(2017年は「静態調査」の実施年にあたる)。一方、「病院報告」は1日平均在院・外来患者数および病床利用率、平均在院日数を毎月集計しており、今回は2017年1年間分のデータが公表された。