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月刊歯科医院経営ワンポイントアドバイス  2013年12月号

2013/12/9

訪問診療 + IT

 ■1.訪問診療の位置づけ

 昨今、訪問診療の重要性が取り沙汰されています。それは、「クリニックにとっての増患増収のため」ということも理由の一つに挙がりますが、何よりも環境の変化によって、訪問診療に重きを置き始めるクリニックが増えてきているためです。地域包括ケアシステムの枠組みで超高齢化社会を支えようとする国の施策に応じるべく、訪問診療を検討し始めているのです。この地域包括ケアシステムとは、「高齢者が住みなれた自宅・地域で住み続けられるように、ニーズに応じた地域医療サービスを提供する仕組み」のことを指します。その構築に合わせて、近年の診療報酬・介護報酬改定においては、訪問診療への優遇措置が採られている傾向が見受けられます。

 病院について言うのであれば、今まで出来高で診療報酬を計算していましたが、これが徐々に包括評価での計算に切り替わってきています。これは、ケースによっては、長期の入院療養が、出来高制に比べ収入減となるため、病院としては必然的に患者さんを一定期間内に退院させなければならなくなります。その患者さんの受け皿となるのが、訪問診療が可能なクリニックという訳です。病院は、これらのクリニックとの連携が必要になってくるため、こういった意味でも訪問診療は重要性を増していると言えます。

 歯科については、超高齢社会の進展とともに、需要が従来の「歯の形態の回復」から高齢者型の「口腔機能の回復」にスイッチされてきています。歯科医療のニーズが、外来患者のみならず在宅・入院患者へと変わってきているのです。

 

■2.訪問診療の効率化 

 訪問診療を行うクリニックの状況をみていると、業務時間内に効率よく診療を行っているケースは多くなく、それが保険診療収入に響いています。業務上のネックは「カルテ等の資料の作成」です。従来の紙媒体で患者情報の管理を行う場合、訪問先では患者さんの診療にあたり、クリニックに戻ってから報告書の作成という形を取らざるを得ず、診療時に報告書作成までを完結できないのが現状です。つまり、従来の診療よりも患者管理に時間を要してしまうのです。これでは、先生もスタッフも疲弊してしまいます。また、リアルタイムでの情報共有が難しく、なかなか効率のいい充実した訪問診療には至っていないようです。

 そこで今注目されているのが、訪問を行う医師等がiPad等のタブレット端末や、スマートフォンを持参し、患者さんの管理・報告書の作成等を行う方法です。今年の1月には日本訪問歯科協会が、iPadを全会員に無償配布したことが話題になりました。

 この方法のメリットとしては、患者さんの情報、報告書等全ての情報をクラウド上で一元管理することができるため、訪問先で急に特定の情報が必要になった場合でも、対応ができるようになります。また、クリニックの外来患者さんについても同システムを利用すれば、在宅だけではなく、外来の患者さんの情報も持ち歩くことができるようになります。

 報告書等の書類作成が簡単にできるソフトが増えてきており、タブレット等のIT端末に抵抗のある職員にも受け入れやすく、資料の作成が誰でもできる、というメリットもあります。これらのメリットにより、訪問先で事務周りを完結させることができ、診療の効率化が進むこととなります。

 派生して、従来の紙媒体ではできなかった、従業員の時間管理ができる、という側面もあります。診療の状況がクラウド上で、リアルタイムで共有できるため、従業員が定められた時間通りに診療を行っているかどうかのチェックもできるようになります。上述のメリットをまとめると、下記の通りになります。 

 ① 情報の一元化ができる 

 ② 事務作業の簡便化を図ることができる 

 ③ 従業員の時間管理ができる

 

■3.訪問診療の今後

 訪問診療の重要性とは裏腹に、地域包括ケアシステムに対する具体的なバックアップ体制が、追いついているとはまだまだ言い難いのが現状ではないでしょうか。上述したように、ITの導入が訪問診療の強い味方になることが期待されますが、最終的な目的は、在宅の患者さんが気持ちよく治療を受けることができる仕組みの構築です。冒頭でも述べたように、昨今の診療報酬の改定は訪問診療に対して、優遇措置が採られてきています。次期改定においても、その流れは変わらないでしょう。それは国を挙げて、在宅の患者さんの余生を充実させる、という目的があるからです。 

 厚生労働省の調査でも、歯科医療の受療率は70歳をピークに減少している、という実態があります。高齢者ほど、虫歯のリスク・歯の喪失のリスクは高まりますので、より治療が必要な状況にはなるのですが、年齢を重ねるごとに身体に不安を抱える方が増えてくるため、思い通りに診療を受けることが自然と難しくなってしまいます。しかし、それを補完する訪問診療を、本格的に導入しているクリニックは、まだまだ少ないのが現状です。 

 上述したようなITの導入が進むことが、地域包括ケアシステムの目指す地域医療の提供を実現するための、一端を担うことになるのではないでしょうか。

 

税理士法人 総合経営サービス

         中川 祥瑛

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