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残暑が厳しい折り、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、本日は 水無田気流氏のご著書 『「居場所」のない男、「時間」がない女』をご紹介します。
著者の水無田氏は、社会学者であり、また詩人としてもご活躍されています。
本書では、家族や地域社会とのかかわりが薄い男性と、家事や育児に追われる女性、というような現代日本の家庭が抱える男女それぞれの問題について具体例を交えながら書かれています。すっきりとまとまった文章展開が印象的な良書と感じました。今回は、サラリーマンの夫と妻の間に横たわる溝について書かれた本作について、ご紹介させて頂きます。
居場所のない男
日本の男性は、仕事以外の人間関係が極度に乏しく、「世界で一番孤独」とされています。仕事上の人間関係が豊かであっても、リタイア後もその関係は続くでしょうか。仕事以外の場での友好関係が希薄だ、という男性が日本には多いのです。
就業以外の社会参加についても、男性は孤独であると記されています。労働時間が長く、家族や地域社会とのかかわり合いも希薄な日本人男性は、就業以外の社会参加に乏しいと言えます。友人や同僚と業務外で外出したり、サークル活動などに参加したりした経験を問う調査において、日本人男性の17%が「一度もない」「ほとんどない」と答えていました。日本の男性は国際比較からみても、「孤立化リスク」が高いのです。
このような男性にとって、妻からのサポートは非常に大きいでしょう。男性は、何か弱音を吐きたくなるような時、誰に癒してもらうのか。妻以外の相手では、サポートの代替はできません。一方、女性は夫からのサポートが得られなくとも、他の相手で一部代替が可能です。同姓の友人や母親などに愚痴をこぼしたりすれば、ある程度気持ちが癒されてしまうのです。
時間のない女
女性に時間がない、という表現に、疑問を抱かれる方が多いかもしれません。「暇な主婦」という言葉もあるように、家の中で家事や育児をすることは、忙しいという認識にはなり得ないのかと思います。
しかし、女性の時間が女性個人のものではなく、家族の共有財産であると考えられているのではないか、という指摘が本書ではなされています。基本的に、家族が家にいる時間や、家事を行う間は、女性にとっては家にいたとしても労働時間なのです。しかし、その時間が「働いている」とみなされないことが、大きな問題なのです。
働いているのに仕事として認識されない。当たり前のように、評価もされない。それに加え現代の日本は、女性に対し、「家事育児専従」から「仕事も家事も育児も」へと新たな役割を課そうとしています。日本の既婚女性はすでに、家事育児を含めた総労働時間が男性よりも長く、睡眠時間は短いという現状に立っています。これ以上女性から時間を奪うとなると、いくら女性の平均寿命が男性よりも長いといえども、「生涯のうちで自由に使い得る時間」は男性よりもずっと短いように思えてなりません。これらの事情が、少子化、晩婚化、非婚化、さらに近年の若年女性の専業主婦志向の背景にあるのではないでしょうか。
日本人男性は、仕事以外の人生の選択肢に乏しく、“世界一孤独”である。また、日本人女性は、家事や育児も含めた総労働時間が長いために家庭でも自分の時間を確保できない。本書に書かれているこの問題は、どちらも現代日本の夫妻が陥りやすい、非常に身近なものと感じます。双方が幸福になるために、一体いま、何が必要なのか。是非皆様も、この一冊から読み解かれてみてはいかがでしょうか。