ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2015年10月15日号)
◆財務省、社会保障改革で工程案示す 法案提出の時期明示
「外来時定額負担」導入など自己負担の仕組みへ切り替え
――財務省
財務省は10月9日、財政制度等審議会の財政制度分科会に、社会保障の改革工程をめぐる独自案を提出した。これは2020年度までの財政健全化計画の期間中に実施すべき社会保障制度改革案となる。6月末に閣議決定した「骨太の方針」で示された44項目の検討課題を精査し、改革の方向性や必要な法案提出の時期などを明示した。
財務省は財政制度等審議会に改革案を示し、大筋で了解を得ている。同省が社会保障制度改革案を策定する背景には、高齢化に伴う社会保障費の急増がある。社会保障関係費は1990年度に11.6兆円で歳出全体の17.5%だったが、15年度は31.5兆円に達し、歳出の32.7%を占めまでに達している。
このため政府は6月に閣議決定した財政健全化計画に「年金・医療等」の伸びを今後3年で1.5兆円に抑える「目安」を盛り込んだ。
安倍政権は改革案を経済財政諮問会議(議長:安倍晋三首相)の専門調査会で進められている議論に反映させ必要な法改正を進めたい考えを示している。
今回の改革案は、最大の懸案である医療費の抑制をめぐっては、かかりつけ医以外を受診した場合に、現行の定率負担に加え個人が日常生活で通常負担できる少額の「外来時定額負担」を導入する案を示した。少額の負担額とは「日常生活で負担できる少額」としている。
実施の時期は、16年末までに結論を得たうえで「遅くとも17年通常国会に所要の法案を提出する」とした。しかし外来時定額負担は過去にも検討されたことがあり、その時には日本医師会などが「本来必要な受診まで妨げてしまう」と反対し、断念した経緯がある。今回も相当な難航が予想される。
毎月の医療費負担に上限を設ける高額療養費制度について、同じ所得でも70歳以上の高齢者は上限が低くなっていることを問題視。16年末までに改革案の詳細を固めるべきだとした。
介護分野では、軽度の要介護者が利用する訪問介護サービスのうち、掃除や食事の用意といった生活援助が全体の約4割を占めていることを踏まえ、原則として自己負担する仕組みに切り替えるべきとも指摘した。
さらに現行で原則1割となっている利用者負担の2割への引き上げや、軽度者に対する掃除などの生活援助の原則自己負担化も求める。現役世代並みの所得がある高齢者には、基礎年金のうち国庫負担分(税金で賄われている部分)の給付を停止することも求めていく。
◇財務省の社会保障制度改革案
外来時定額負担の実現に向けた検討開始
高額療養費制度での高齢者の外来特例措置を廃止
介護保険の利用者負担を原則1割から2割に引き上げ
介護保険軽度者の生活援助や福祉用具貸与を原則自己負担化
市販品類似薬の保険給付見直し
年金支給開始年齢の更なる引き上げ
理由なく就労などを拒む生活保護受給者に対し保護停止などを可能に
マイナンバー活用による金融資産保有状況も踏まえた医療保険、介護保険の負担のあり方を検討
◆国民医療費、初の40兆円超え 2013年度、過去最高更新
厚労省 1人当たり2.3%増の31万4700円、7年連続増
――厚生労働省
厚生労働省は10月7日、2013年度(平成25年度)に病気やけがの治療で医療機関に支払われた国民医療費(確定値)が、前年度比2.2%増の40兆610億円だったと発表した。国民医療費は、保険診療の対象となるサービスに支払われた費用の総額。それ以外の健康診断や人間ドッグ、予防接種などは含まれていない。
年間の医療費が40兆円を突破するのは初めて。1人当たりでは2.3%増の31万4700円となり、医療費全体、1人当たりとも7年連続で過去最高を更新した。
高齢化の進展や医療技術の高度化などが増加の主な要因という。労災や全額自己負担の分を除く14年度の概算医療費(速報値)は39兆9556億円だったが、実際には13年度の段階で40兆円を超えていたことになる。
65歳以上の高齢者の国民医療費は23兆1112億円となり、全体に占める割合は57.7%(前年度56.3%)に拡大した。1人当たりでは72万4500円。これに対し65歳未満は17万7700円にとどまっており、約4倍の開きがある。
「平成25年度 国民医療費の概況」のポイント
◆平成25年度の国民医療費は40兆610億円
(前年度に比べ8,493億円、2.2%の増加)
人口1人当たりでは31万4,700円(同2.3%の増加)
◆制度区分別にみると、
「公費負担医療給付分」は2兆9,792億円(制度全体に占める割合7.4%)
「医療保険等給付分」は18兆8,109億円(同47.0%)
「後期高齢者医療給付分」は13兆821億円(同32.7%)
「患者等負担分」は4兆9,918億円(同12.5%)
◆財源別にみると、
公費のうち「国庫」は10兆3,636億円(財源全体に占める割合25.9%)
「地方」は5兆1,683億円(同12.9%)。
保険料のうち「事業主」は8兆1,232億円(同20.3%)
「被保険者」は11兆3,986億円(同28.5%)
その他のうち「患者負担」は4兆7,076億円(同11.8%)
結果の概要
1 国民医療費の状況(上記参照)
2 制度区分別国民医療費
制度区分別にみると、公費負担医療給付分は2兆9,792億円(構成割合7.4%)、医療保険等給付分は18兆8,109億円(同47.0%)、後期高齢者医療給付分は13兆821億円(同32.7%)、患者等負担分は4兆9,918億円(同12.5%)となっている。対前年度増減率をみると、公費負担医療給付分は3.0%の増加、医療保険等給付分は1.2%の増加、後期高齢者医療給付分は3.7%の増加、患者等負担分は1.3%の増加となっている。
3 財源別国民医療費
財源別にみると、公費は15兆5,319億円(構成割合38.8%)、そのうち国庫は10兆3,636億円(同25.9%)、地方は5兆1,683億円(同12.9%)となっている。保険料は19兆5,218億円(同48.7%)。そのうち事業主は8兆1,232億円(同20.3%)、被保険者は11兆3,986億円(同28.5%)となっている。また、その他は5兆72億円(同12.5%)、そのうち患者負担は4兆7,076億円(同11.8%)となっている。
4 診療種類別国民医療費
診療種類別にみると、医科診療医療費は28兆7,447億円(構成割合71.8%)、そのうち入院医療費は14兆9,667億円(同37.4%)、入院外医療費は13兆7,780億円(同34.4%)となっている。また、歯科診療医療費は2兆7,368億円(同6.8%)、薬局調剤医療費は7兆1,118億円(同17.8%)、入院時食事・生活医療費は8,082億円(同2.0%)、訪問看護医療費は1,086億円(同0.3%)、療養費等は5,509億円(同1.4%)となっている。対前年度増減率をみると、医科診療医療費は1.5%の増加、歯科診療医療費は0.9%の増加、薬局調剤医療費は6.0%の増加となっている。
5 年齢階級別国民医療費
年齢階級別にみると、0~14 歳は2 兆4,510 億円(構成割合6.1%)、15~44 歳は5 兆2,004億円(同13.0%)、45~64 歳は9 兆2,983 億円(同23.2%)、65 歳以上は23 兆1,112 億円(同57.7%)となっている。人口一人当たり国民医療費をみると、65歳未満は17万7,700円、65歳以上は72万4,500円となっている。そのうち医科診療医療費では、65歳未満が12万2,100円、65歳以上が53万6,100円となっている。(中略)人口一人当たり国民医療費の対前年度増減率をみると、65歳未満は0.3%の増加、65歳以上は1.0%の増加となっている。(年齢階級別は省略)
6 傷病分類別医科診療医療費
医科診療医療費を主傷病による傷病分類別にみると、「循環器系の疾患」5兆8,817億円(構成割合20.5%)が最も多く、次いで「新生物」3兆8,850億円(同13.5%)、「筋骨格系及び結合組織の疾患」2兆2,422億円(同7.8%)、「呼吸器系の疾患」2兆1,211億円(同7.4%)、「損傷,中毒及びその他の外因の影響」2兆466億円(同7.1%)となっている。(年齢階級別・性別は省略)
◆訪問専門の診療所開設認定の方向へ舵切る 中医協総会
在宅療養支援診療所―在支診で患者の受け皿役果たす
――厚生労働省
厚生労働省は、医師が高齢者らの自宅を定期的に訪れて診察する「訪問診療」の専門診療所(在宅療養支援診療所―在支診)を認める方針を打ち出した。時期ははっきりしないが来年4月めどが有力だ。
中央社会保険医療協議会(中医協)総会が10月7日に開かれ、確認の必要な「要件付」ながら外来患者に対応する診察室や医療機器がなくても開設を認める方向が示され、中医協はこれを大筋で認めた。
現在、政府は急ピッチで高齢者が病院ではなく自宅で治療する地域包括ケアを推し進めている。訪問診療に専念する医師を増やし、外来で病院に行くことが難しい退院した患者の受け皿をつくる。
厚労省は今年3月、緊急時を含め容易に連絡を取れる体制を確保するなど、一定の条件を満たせば、「在宅専門クリニック」を認める方向で、2016年度診療報酬改定に向けて検討を進めることを提案したが、「なぜこの問題だけが突然出てくるのか」など、在宅専門クリニックだけを議論する進め方自体に、診療側と支払側から委員ともに疑義が発せられ議論沸騰し仕切り直しとなった経緯がある。
10月7日の中医協総会では、在宅医療を提供する医療機関(「在支診」)とその評価について、厚労省から新たなデータ・論点が示された。
厚生労働省は、訪問診療を中心に診療を行っている医療機関(769施設)では、居宅の患者を中心に診療している診療所(同一建物居住者割合5%未満)と、同一建物居住者に特化して診療している診療所(同95%以上)に二極化の傾向があると説明。
また、看取りを積極的に実施している医療機関(年間20件以上)と、看取りを実施していない(同0件)医療機関に二極化する傾向もみられた。また、訪問診療を行っている医療機関全体で、要介護3以上の患者割合は平均約60%だったのに対して、医療機関の中には要介護度の低い患者が多くを占める医療機関もみられている。
これらを踏まえて、厚労省は、診療報酬の評価の高い在宅医療を専門に行う診療所を保険指定に認めることに関し、次のような新たに論点を示した。
①フリーアクセスを確保しつつ適切な在宅医療の推進を図るため、医療機関側が患者を選別することのないよう、提供地域、対象患者、被保険者への周知に関する一定の要件や、医療機関の管理体制、随時の相談体制、緊急時の対応体制等の確保など、どのような要件を設けるべきか。
②在宅医療を中心に行う医療機関の機能に大きな差異があることを踏まえ、在宅療養支援診療所(在支診)が在宅医療を専門に行う場合に、たとえば、同一建物居住者の割合、要介護度別の患者の割合、看取り件数など、機能の差に着目した指標に基づく評価を行うべきではないか。
在宅医療を専門に行う在支診を認める厚労省の論点内容は、いわば「厳しい」条件に関し、委員からは、かかりつけ医の外来の延長に位置づけることで大きな異論は出ず、白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)は「同一建物専門で訪問診療するところは除外するのが望ましい。要介護度、看取り件数、同一建物の患者比率などいくつか要件を設定すべき。仕組みをつくり2年くらい効果を見た上で、拡大などを検討した方がよい」と主張。
中川俊男委員(日本医師会副会長)は「かかりつけ医を補完する位置づけを明確にすべき」と述べている。在宅医療専門の医療機関に関しては、引き続き、中医協総会で議論されるが、反対意見はなかったことから既存診療所も適合条件をチェックし、「保険指定」の方向に傾いている。
◆6つの自治体や団体から歳出効率化事例をヒアリング
内閣府会議 優良事例から市場創出効果を検討する
――内閣府
内閣府は10月6日と10月7日の両日、「歳出効率化に資する優良事例の横展開のための健康増進・予防サービス・プラットフォーム」を開催し、主に中国地方を中心に優良事例からのヒアリングを、計6つの自治体や企業、団体を対象に実施した。
この「健康増進・予防サービス・プラットフォーム」は、内閣府特命担当大臣のもと、「経済財政運営と改革の基本方針 2015」に盛り込まれた「歳出改革」の実行が目的で、省庁横断的な政府側窓口の会議として、調整や進捗管理、フォローアップをする。
具体的な目的は、医療保険者によるデータヘルスや生活習慣病の重症化予防、企業による健康経営などをはじめ健康増進・予防サービスに関連する分野を取り扱うと同時に、これらの取り組みによる市場創出効果について検討する。
今回、ヒアリングの対象となった自治体、企業、団体は次の通り。優良事例4つ⇒・呉市国民健康保険(広島県) ・株式会社データホライゾン(広島市) ・株式会社DPPヘルスパートナーズ(広島市) ・協会けんぽ広島支部(広島市)
この中で民間企業の2社の特徴は次の通り。
(株)データホライゾンは、レセプトデータを宝の山にするための考え方–特許技術を使った課題の解決を発表。傷病名と投薬や検査などの診療行為を正しく紐づけたデータベース(280万規模のレコード数)により、高精度でレセプトデータを分析する技術⇒傷病名毎の医療費の把握が可能としている。東京支社含め従業員150名。
(株)DPPヘルスパートナーズは広島大学発ベンチャー企業として平成22年設立、東京支社、大阪支社がある。事業内容は慢性疾患管理指導、糖尿病性腎症の透析移行予防、受診勧奨、慢性疾患再発予防など、従業員90名。
初日(10月6日)は、広島県呉市(取り組んでいるテーマ=国民健康保険事業の取り組み)/データホライゾン(同=データヘルスを支えるICT技術)/DPPヘルスパートナーズ(同=重症化予防指導事業 糖尿病性腎症の透析移行予防)/全国健康保険協会(協会けんぽ)・広島支部の取組み(同=ヘルスケア通信簿)の発表が行われた。
2日目の10月7日は、花王健康保険組合(事業主と健保とのコラボヘルスの推進)/全国健康保険協会・大分支部(中小企業を対象とした、県と協会けんぽが連携した健康経営促進事業)の発表が行われた。
このうち、広島県呉市の取り組みでは、対象者のQOL(生活の質)の維持や医療費の高額化の防止を目的とする「糖尿病性腎症等重症化予防事業」の一環として実施された予防プログラムの結果、2013年度の参加修了者の約87%で、血糖値のコントロールが維持改善したことなどが示されている。また、全国健康保険協会・大分支部の取り組みでは、同支部と大分県の連携による「健康経営事業所認定制度」が2014年9月にスタートし、5社が顕彰されたことなどが紹介された。