ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2016年5月12日号)
◆地域創生に向け「全国財務局の地域連携事例集」を公表
介護施設整備の国有地活用など2015年版 財務省の支援
――財務省
財務省は地方財務局を経由し、定期借地権を活用した未利用国有地の貸し付けなどにより、保育・介護施設の整備や、地域・都市再生の街づくりを積極的に支援する方針を明らかにし、その第一弾として4月27日に「全国財務局の地域連携事例集(2015年度)」を公表した。
国有財産の概況(08年度末時点)によると、地域別の未利用国有地の規模では茨城県156.6万平方メートル(190件、333億円)、東京都108.7万平方メートル(382件、1482億円)、埼玉県90.3万平方メートル(528件、428億円)、千葉県82.8万平方メートル(482件、397億円)などが上位を占め、首都圏に集中している。
財務省の総合出先機関の財務局は2012年度から、地域の特性やニーズに応じた取り組みを強化している。2015年度からは地方創生に向けた取り組みへの支援・貢献を行っており、その一助となるよう地域連携事例集を取りまとめ、公表した。
医療・介護関連では、関東財務局、東京・横浜・千葉財務事務所が「介護施設整備に係る国有地活用の取り組み」を実施。政府の「1億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」(2015年11月)として、用地確保が困難な都市部などで国有地を活用して介護施設などを整備することが示されたことを受けて、関東財務局などは地方公共団体に対し介護施設整備での国有地の積極的な活用を要請。利用可能な国有地の情報をホームページで公表した。
また、初期投資の負担軽減を図るため、2016年1月1日以降、定期借地権による貸付契約を締結する場合、貸付始期から10年間、5割を限度として貸付料を減額。全国第1号案件として、東京都世田谷区に所在する財産について定期借地権設定契約を締結した。
このほか、北海道財務局が「社会保障と税の一体改革」に関する広報について、北海道財務局と北海道厚生局が分担して説明する「コラボ広報」を企画。厚生局が北海道庁・札幌市へ社会福祉関係団体のリスト化を依頼することで、財務局と関わりが浅かった社会福祉関係団体への広報活動の展開が可能になった。2015年度は札幌市内で3件の広報活動を実施した。
さらに、研修等で広報を実施する際、社会保障制度関係は厚生局の健康福祉課長が、財政関係は財務局の財務広報相談室長が講師をすることで、詳細な説明が可能になったと述べている。
◆医療・福祉の雇用誘引・成長で地域活性化を 日医総研報告
「医療・介護の経済波及効果と雇用創出効果」を具体的に
――日医総研
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は5月2日、日医総研ワーキングペーパーNo.362として、「地方創生にむけて医療・福祉による経済・雇用面での効果」(前田由美子氏・佐藤敏信氏)を公表した。日医総研ワーキングペーパーは、専門家による研究報告レポートである。
前田氏(日医研究部長)は、過去に「医療・介護の経済波及効果と雇用創出効果 -2005年産業連関表による分析-」を発表している。その概要は「医療は、他産業にもたらす生産波及の大きさ(逆行列係数)が他のサービス産業に比べて高い。介護は、生産1単位当たりの雇用者数(雇用係数)がもっとも大きい」というもの。
生産波及の大きさ(逆行列係数)だけ見れば、公共事業のほうが医療、介護よりも逆行列係数が大きい。ところが医療、介護は雇用係数が高いので、雇用係数に生産波及の大きさを加味した雇用誘発係数は、医療、介護のほうが公共事業よりも高い」と報告している。
今回のワーキングペーパーでは、「医療・福祉を含む社会保障費はコストとしての側面だけでなく、経済成長や雇用拡大に寄与する側面もある」との視点に立ち、これまでに集計してきたデータから、(1)総務省「産業連関表」にもとづく経済および雇用誘発効果、(2)地域における医療・福祉就業者と医療提供体制(診療所の例)――をまとめている。産業連関表とは、ノーベル経済学賞を受賞したレオンチェフが考案したもので、経済波及効果の計算などに利用されている。
経済波及効果とは、「ある産業の生産額や価格(単価)に変化が生じたとき、産業間の取引を通じて他の産業の生産額や価格(単価)に次々と影響を及ぼす効果のこと」をいい、大きく生産誘発効果と価格波及効果に分けることができる。
(1)と(2)を見ると、(1)総務省の計算では、医療・福祉分野の経済波及効果(ある産業で生まれた需要が、各産業の生産にどのくらい波及するか)は、ライフライン産業の電力より高く、建築や公共事業に近い高水準であると説明した。
さらに、医療・福祉分野の雇用誘発効果(ある産業の需要が生まれたとき、他の産業も含めてどのぐらい雇用が誘発されるか)についても、就業者数の伸びが製造業や卸売・小売業で停滞する中、医療・福祉分野は大幅に伸びており、効果は突出していると分析。
「労働力調査」でも医療・福祉分野の就業者数は2014年で757万人、就業者総数の11.9%を占めていると示した。日医総研では、「医療・福祉分野の就業者数は全体の1割を占めるが、給与が伸び悩み全産業平均給与を押し下げているため、診療報酬・介護報酬が抑制され、給与が伸びない循環に陥っている」と分析している。
また、(2)では市町村別の医療・福祉提供体制について、福祉分野の就業者数が2割程度を占める市町村も存在し、医療・福祉は地方の雇用の受け皿として大きな役割を果たしている一方、かかりつけ医がいる診療所が増加している地域と、減少していく地域の二極化が進んでいると報告。日医総研は「医療・福祉は、今後、需要が確実に見込める成長分野であり、医療・福祉の活力を高めることで地域活性化につながるのではないか」と述べている。
◆特に医療・介護給付に注目 「日本の財政関係資料」公表
2025年度の医療費は1.54倍、介護費は2.34倍 財務省
――財務省
財務省は5月9日、「日本の財政関係資料」を公表した。社会保障分野など各歳出分野の課題や一般会計予算・国債残高などの財政状況を説明している。
財務省は、社会保障給付が高齢化で今後も急激な増加が見込まれるうえ、団塊の世代全員が75歳以上になる2025年に向かって、特に医療・介護分野の給付は大きく増加していくと指摘。2025年度には2012年度に比べ、医療費は1.54倍(54.0兆円)、介護費は2.34倍(19.8兆円)になると推計を示した。そこで、2020年代初めまでに、受益と負担の均衡が取れた社会保障制度を構築していく必要があると述べている。
年齢別で見ると、75歳以上は他の世代に比べ、1人あたり医療費や1人あたり介護給付費が大幅に上がり、1人あたり国庫負担も増大すると解説した。75歳以上は65歳~74歳に比べ、医療で1人あたり国民医療費が約1.6倍、1人あたり国庫負担が約4倍で、介護で1人あたり介護給付費が約9倍、1人あたり国庫負担が約9.5倍。今後も高齢者人口割合が増えていくため、医療・介護分野の給付の効率化・重点化に取り組んでいく必要があるとしている。
さらに、国民医療費の財源は保険料負担が約5割、税負担が約4割、患者負担等が1割強で、医療費のうち約5割が医師らの人件費に充てられていると説明。都道府県別に見ると、人口あたりの病床数が増えるほど医療費も増える傾向で、病床数が医療の需要を生んでいると指摘している。また、平均在院日数が長く、人口1,000人あたりの病床数が多いと指摘し、医療の質を維持しながら患者負担と税・保険料負担を軽減する観点の改善が必要としている。
他方、介護保険に関し、財務省は制度創設15年で費用が3倍近く(2016年度10.4兆円)になっており、費用の適正化が不可欠と強調。介護保険制度を採用している日本、ドイツ、韓国の主要3カ国のうち、ドイツ、韓国では要支援者、要介護1、2の軽度者は対象外となっていると説明している。
◆“介護職員の賃上げ、来年度予算で財源を確保”
安倍首相の「明言」に対し塩崎厚労相が正式表明
――厚生労働省
塩崎恭久厚生労働相は、4月28日の記者会見で、安倍晋三首相が来年度から実施すると明言した介護職員の賃上げにかかる費用について、来年度の予算で工面する方針を正式に表明した。
財源を安定的・継続的に確保する観点から、補正予算ではなく当初予算のメニューの中に盛り込む。年末にかけての議論のプロセスでは、必要なおよそ1,000億円をどう捻出するかが大きな焦点のひとつになりそうだ。会見で「競合他産業との賃金差を解消する観点でさらなる処遇改善を実施する。具体的な方策や財源は、来年度予算の編成過程で検討していきたい」と説明。加えて「賃上げだけで万全ということでは決してない。キャリアアップの支援や業務負担の軽減、生産性の向上といった対策を総合的に打っていかないといけない」と決意をみなぎらせた。
安倍首相の「明言」とは、4月26日に開催された政府の「1億総活躍国民会議」で、介護現場の深刻な人手不足の解消を目標とする「介護離職ゼロ」につなげるため、「競合他産業との賃金差がなくなるように介護職員の処遇を改善する」と打ち出したことに基づく。月額で約1万円程度の賃上げを行い、月収の平均を対人サービス業と同じレベルにもっていくとしている。キャリアや職務に応じて違いが出るようにし、将来の展望を描きやすい仕組みとする構想も示した。
政府は今後、最終的に結論を出す年末に向けて財源をめぐる調整を進めていく。自民党は4月26日にまとめた提言で、税収の上振れ分など「アベノミクス」の成果を活用すべきと主張。官邸が主導する「経済財政諮問会議」でも、民間人の有識者から同様の意見が出ている。一方で、歳出の膨張によって財政の健全化が遅れてしまうことを懸念する声も根強い。消費増税を断行するかどうかの判断も、その後の展開に影響を与えそうだ。
4月28日、塩崎厚労相の記者会見は次の通り(要約)
(記者)一億総活躍の会議で、介護士や保育士の待遇改善について方針を示されましたが、これで十分な人材を確保できるようになったと思われますでしょうか。
(大臣)総理の方から御発言がありました。その前に私ども、昨年末の一億の「緊急対策」によって、保育や介護の整備拡大の具体化を図ったわけでありまして、それに伴って人材確保が極めて重要な問題ということでありました。
26日の一億総活躍国民会議においては、私からも職員の資質向上、キャリアパス形成の仕組みの構築を促していくと表明しましたが、まずは競合する他産業との賃金差を解消するという観点を踏まえて、更なる処遇改善を実施することが第一だと思います。賃金の引上げに加えまして、職員の資質向上、キャリアアップの支援、業務負担の軽減、生産性向上を図ることなどを合わせて、総合的に人材確保の対策として打っていかなければならないと思います。
そういったことで総理からも御指示を頂いたわけでありまして、これを実現するために、今後、具体的な方策を検討していかなければならないわけでありますが、処遇改善などにかかる具体的な金額や予算規模、財源などについては、来年度予算の編成過程で検討してまいりたいと思っています。今回、総理が発言された処遇改善のことは極めて大事な指示でありますけれども、これだけで人材確保が万全ということでは決してなく、今申し上げたように総合的に対策を打っていかなければならないということで、これからもずっと続けていきたいと思っております。