ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2016年6月2日号)
◆医療事故届け出の基準統一へ、自民党が協議会案を提言
運用の見直し検討へ 日本病院会など4病協も動き出す
――自民党
昨年10月に始まった医療事故調査制度の見直しを検討してきた自民党の作業チームは5月24日、医療事故として届け出る基準や院内調査の進め方を統一するため、医師会や病院団体などと第三者機関「医療事故調査・支援センター」で連絡協議会を設けるなど5項目の提言をまとめた。厚生労働省は、実施状況も踏まえて6月までに運用の見直しを検討する。
提言は、▽「支援団体等連絡協議会」(仮称)の設置による医療事故の届け出基準などの統一化、▽医療機関の管理者が院内の全死亡事例を把握できる体制作りの明確化、▽支援団体や医療機関の研修充実や優良事例の共有、▽医療機関の同意を前提にセンターから院内調査報告書の内容の確認・照会を可能にする、などの内容となっている。
連絡協議会は各都道府県などに設けられ、厚労相が認める医師会や病院団体、学術団体などからなる支援団体とセンターが参加することとなる。医療事故に該当するかどうかの判断基準や院内調査の方法などについて、情報や意見交換をしながら統一を図る。
医療事故の届け出基準をめぐっては、医療・病院団体ごとに基準が異なっており、事故の届け出が想定より少ないという指摘があった。異状死の警察への24時間以内の届け出を義務づけた医師法21条については「議論は深まったが最終結論は出なかった」として、夏の参院選後に議論の進め方について作業チームで話し合うとした。
日本医療法人協会や日本病院会などで組織される四病院団体協議会(四病協)は、5月25日の総合部会において、6月下旬に迫る医療事故調査制度の見直し期限に向け、制度の現状や見直しに向けて話し合う検討会を内部に設置することを決めた。制度の見直しは、公布後2年以内に法制上、必要な措置を講じるとされている。
新たな医療事故調査制度の下で、第三者機関「医療事故調査・支援センター」を運営する日本医療安全調査機構は5月10日、4月に届け出があった死亡事故は34件で、制度開始から7カ月間で計222件になったと発表した。222件のうち病院からが202件、診療所は20件。診療科別では、外科が35件、内科が34件、整形外科が25件で上位を占めている。
制度開始以来の医療機関などからの相談件数は計1141件。内容ごとに見ると、死亡事故を報告するための「手続き」が330件で最も多く、報告すべきかどうかの「判断」(299件)と合わせ約半分を占めた。
◆受動喫煙で年間1万5,000人死亡 厚労省推計
女性が男性の2倍 屋内禁煙法制化へ加速か
――厚生労働省
他人、家族にかかわらず、喫煙者のたばこの煙を吸い込む「受動喫煙」によって肺がんや脳卒中などで死亡する人は、国内で年間およそ1万5000人に上るという推計を国立がん研究センターのグループがまとめた。死亡者のうち約1万人が女性で、男性の2倍に達している。また、男女ともに受動喫煙による死亡の原因疾患としては、脳卒中が5割を占めていたという。
この推計は、5月31日の世界禁煙デーにあわせて厚生労働省が東京・千代田区で同日に開いたシンポジウムで報告した。発表者は国立がん研究センターがん登録解析室長の片野田耕太氏。
報告によると、研究グループではまず、国内外の論文を参考に肺がんや心筋梗塞、それに脳卒中で死亡した人で「受動喫煙」があったかどうかを2つのグループに分けて比較した。
その結果、受動喫煙があった人の方がこうした病気で死亡する危険性が1.28倍高まっていることから、これを国内の統計に当てはめて計算した場合、受動喫煙が原因で死亡する人は年間およそ1万5000人に上るという結果が導かれた。
このうち、肺がんが女性でおよそ1850人、男性でおよそ620人、心筋こうそくが女性でおよそ2880人、男性でおよそ1570人、脳卒中では女性でおよそ5680人、男性でおよそ2320人が死亡したと推計されている。研究をまとめた片野田室長は「法律で公共の場所を禁煙にするなど社会全体で受動喫煙防止について考えていかなければならない」と「屋内禁煙の法制化」を強調している。
また、受動喫煙と病気の因果関係がわかっている4つの病気で、非喫煙者と比べたリスクや、職場や家庭での受動喫煙割合の調査などから年間死亡数を推計。病気別には、肺がん2484人、心筋梗塞(こうそく)などの虚血性心疾患4459人、脳卒中8014人、乳幼児突然死症候群73人。
男女別(乳幼児を除く)では、男性が4523人、女性が1万434人。女性が2倍以上となる理由について、片野田室長は「家庭内での受動喫煙率が、女性が圧倒的に高いため」と説明する。
世界保健機関(WHO)によると、2014年時点で英国、カナダ、ブラジル、ロシアなど49カ国が法律で公共の場所を屋内全面禁煙にしているとのこと。
◆第3期がん基本計画、策定に向け議論本格化
「難治性、希少、小児がん」とゲノム医療が柱
――厚生労働省
厚生労働省は5月27日、「がん対策推進協議会」を開催した。がん対策推進協議会は、2017年6月の次期がん対策推進基本計画の閣議決定に向けて議論している。
この日は、まず「がん対策推進基本計画の見直し」について議論の進め方が確認された。基本計画の枠組みについては、①大項目の構成を見直す必要があるか、②各項目の内容を変更・追加する必要があるか、③領域ごとに集中的な議論を順次開始してはどうか、の3点について意見が交わされた。
その結果、5カ年の計画の重点施策は「小児がん、希少がん」などのゲノム医療を中心に置くことで一致、今後の議論の進め方としてまとまった。
第3期基本計画は、2017年度からの5カ年の計画。スケジュールについては、まず基本計画の枠組みを議論し、その後、分野ごとに集中的な議論を重ねて次期基本計画の骨子案を2017年1月に提示、2017年3月に基本計画を諮問・答申、パブリックコメントなどを経て同年6月の閣議決定を目指すなどと確認された。
今後のがん対策の方向性は2015年6月に意見を取りまとめているが、がん対策推進基本計画に明確な記載がなく、今後、推進が必要な事項として以下の3項目を挙げている。
①将来にわたって持続可能ながん対策の実現
少子高齢化等の社会・経済の変化に対応する社会保障制度の改革、地域医療介護総合確保推進法に基づく地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保等
がん患者を含めた国民全体が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができる体制の整備、各施策の「費用対効果」の検証、発症リスクに応じた予防法や早期発見法を開発・確立することによる個人に適した先進医療の推進、がん医療の均てん化と集約化の適正なバランスに関する検討、がん登録情報を活用した大規模データベースの構築等
②全てのがん患者が尊厳をもった生き方を選択できる社会の構築
がん患者が「自分らしさと尊厳」を持ってがんと向き合って生活していくためには、がんに関する正しい情報を獲得することが重要
「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんと共に生きることができる社会」の実現、障害のある者に対する情報提供、意志決定支援、医療提供体制の整備、難治性がんに対する有効で安全な新しい治療法の開発や効果の期待できる治療法を組み合わせた集学的治療の開発等
③小児期、AYA世代(15歳から29歳までの思春期および若年成人層)、壮年期、高齢期等のライフステージに応じたがん対策
総合的なAYA世代のがん対策のあり方に関する検討(緩和ケア、就労支援、相談支援、生殖機能温存等)、遺伝性腫瘍に対する医療・支援のあり方に関する検討、認知症対策と連動した高齢者のがん対策のあり方に関する検討等
◆法人代表者等の自らの事業場の産業医兼任を禁止
安衛則改正案要綱が諮問・答申 厚労省規則改正
――厚生労働省
厚生労働省は、平成29年4月より「法人代表者」や「個人事業主」が自らの事業場の産業医を兼任することを禁止する事務連絡を日本病院会などに対して行い、厚労省のホームページでも禁止を周知している(平成28年3月公布)。産業医は、労働者のメンタルヘルスや健康管理を担い、事業者に対し労働者の健康にかかわることについて勧告を行うことができる。この規則改正は、労働安全衛生法(安衛法)の改正に伴うもので「事業者が産業医を選任するにあたって、一定の制限を設けることを定めた」内容に改められる。
規則改正の経緯としては、3月8日に塩崎厚労相が、法人の代表者などが自らの事業場の産業医を兼任することを禁止する「労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要綱」の労働政策審議会を諮問したことに始まる。諮問を受けた同審議会は、下部組織の安全衛生分科会で検討し、諮問案を「妥当と認める」とする答申を取りまとめて厚労相に提出。厚労省は、この答申を踏まえ、省令の改正作業を急いで進めていた。改正省令の施行日は、平成29年4月1日と予定されている。
労働安全衛生法は、規模50人以上の事業場に対し、医師のうちから産業医を選任することを義務付けている。一方、産業医として選任することができる者の事業場等における役職については法令上の制限は設けられていない。
今回の改正(案)は、法人の代表者や事業経営者、事業場においてその事業の実施を統括管理する者が産業医を兼任した場合、労働者の健康管理よりも事業経営上の利益を優先して産業医の職務が適切に遂行されない恐れが考えられるため、これら法人の代表者等の産業医の兼任を禁止することにした。
産業医に求められる役割は、「第三者的立場の中立の目線で、事業主と労働者の中間のポジションに立ち職務を果たすこと」が最重要とされるからだ。
産業医として選任できなくなるのは、①事業者が法人の場合は当該法人の代表者(代表取締役、医療法人・社会福祉法人の理事長など)、②事業者が法人でない場合は事業を営む個人、③事業場においてその事業の実施を統括管理する者(病院・診療所の院長、老人福祉施設の施設長など)となっている。
改正省令の施行を1年先としたのは、現在の産業医体制はどのようになっているかをチェックするための時間枠とみられている。改めて「産業医」というものの役割を、ゼロベースでチェックする時間を考慮したと言えるだろう。
厚労省はホームページ上で「医療法や病院などで代表や理事長・院長などが自ら産業医となっている事業所は注意が必要です」と、あえて注意書きを付け加えて「選任の資格」を厳しく線引きしている。