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介護経営情報(2016年7月22日号)

2016/7/29

◆後期高齢者の窓口負担で世代間負担など議論 医療保険部会
「骨太方針2016」実現に向け 「現役世代の納得」の視点必要

――厚生労働省
厚生労働省の社会保障審議会は7月14日、「医療保険部会」(部会長:遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)を開催し、国の「骨太方針2016」などに盛り込まれた医療関連の改革の具体化に向けた議論を開始し、見直しへ着手した。
議題は、高額療養費制度、後期高齢者の窓口負担、データヘルス計画の3つ。中でも見直しを急ぐのは窓口負担の割合で、6-69歳の人が3割なのに対し、高齢者は2割以下(所得が一定以上の場合は3割)で、後期高齢者は1割とされている。
医療保険部会はこの制度について、国は世代間・世代内で医療費の負担を公平にするため、見直しを検討することを決定している。高額療養費制度は高齢者の自己負担額の限度額が低く抑えられているが、これについては2016年内に、窓口負担の割合については2018年度末までに結論をだすことで部会では一致している。
14日の議論のまとめを一言でいえば「高齢者を支えている現役世代の納得感」の視点が必要ではないかという厳しい意見が多かった。ただし低所得者対応策を考慮するという条件も出たものの、自己負担を増やす方向での見直しに反対する意見は出なかったのが証しでもある。とりわけ高額療養費制度については、70歳以上と70歳未満では自己負担の限度額に差があることを重視し負担の公平性は不可避だ。

現行制度のこれまでの経緯をみると、2014年4月に75歳未満の70歳から74歳の人に関し、自己負担の特例措置が見直され、同年4月に新たに70歳になる人(69歳まで3割負担だった人)から、段階的に法定負担割合2割となった。他方、2014年3月末までに70歳に達している人は、特例措置1割負担を継続している。
これに対して、医療保険部会で委員からは「現役世代の負担の伸びを寝かせる・止めるという方向の制度改革が必要」、「高齢者は疾病数が増え長期化するという特性も踏まえながら、医療費を国民全体でどう支えていくか考えていくべき」、「現役世代が納得できる制度という視点を念頭に置かなければならない」などの意見が出されていた。
 
これらを受けて、今回、厚労省は参考資料を提示し、75歳以上の医療費が国民医療費の35%を占めていると説明した。また、2014年度の後期高齢者医療の伸び率は入院医療費が2.2%で、外来医療費が1.8%と、ともに鈍化する傾向にあると述べている。
年齢階級別では、1人あたり医療費は高齢になるほど上昇し、70歳代までは入院外の割合が高いものの、80歳代以降は入院の割合が高かった。また、年齢階級別の患者負担額に保険料を加えた負担額を見ると、現役世代の負担が大きい状況。
ただし、厚労省は、高齢期に増加する医療費が社会連帯の精神に基づく後期高齢者支援金を通じて、現役世代の保険料によって賄われていることによるものと述べている。

*「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2016」(2016年5月18日)
政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2016」の素案の内容―社会保障分野では、医療・介護提供体制の適正化、インセンティブ改革による生活習慣病や介護の予防、公的サービスの産業化、診療報酬や医薬品等の改革、負担能力に応じた公平な負担─といった44の改革項目の着実な実行を基本的な考え方として示した。改革に当たっては徹底的な「見える化」を行い、給付の実態や地域差などを明らかにするとした。
医療分野では、医療費の地域差を半減するため、入院・入院外医療費の推計方法、医療費適正化につながる具体的な取り組み内容を今夏をめどに示す。また、今年度末までに全ての都道府県で地域医療構想の策定が完了するよう必要な支援を行い、病床の機能分化・連携を推進する。
介護では、要介護度別認定率や1人当たり介護費などといった地域差を明らかにし、保険者の効果的な施策実施につなげる。また、介護保険事業計画のPDCAサイクル強化(継続的な改善行動)や保険者機能の強化、市町村による高齢者の自立支援・介護予防などを通じた給付の適正化へのインセンティブ付与などを提示。制度的枠組みを検討し、今年末までに結論を得ることなどが盛り込まれた。

◆16年がん罹患数100万超と予測 国立がん研
がん登録の精度向上で罹患数が大幅増

――国立がん研究センター
国立研究開発法人 国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都、略称:国がん)がん対策情報センター(センター長:若尾文彦)は7月15日、2016年に新たにがんと診断される数を示す罹患数と死亡数のがん統計予測を算出し、がん情報の総合サイト「がん情報サービス」にて公開した。

「国がん」の2016年のがん統計予測の結果は、罹患(りかん)数予測が101万200例で、100万例の「大台」を超える予測結果が算出された。男女合計の部位別の罹患数では、大腸(14万7200例)、胃(13万3900例)、肺(13万3800例)、前立腺(9万2600例)、乳房(9万例)の順となった。
2016年のがん死亡数予測は、37万4千人(男性22万300人、女性15万3千700人)と発表された。昨年の予測と比較すると、約3千人の増加となった。男女計では約2万8千例で、約2.9%「増加した。罹患数、死亡数とも増加の主な原因は日本の高齢者人口の増加と分析している。

「罹患数(りかんすう)」とは「その期間の間に新しくがんにかかった(=診断された)」という意味である。つまりこの「100万例」という数字は「2016年のうちに新しくがんにかかると予測される人数」で、日本の罹患数は統計が作成され始めた1970年代から一貫して増加している。死亡数は37万4千人で統計を取り始めてから戦後一貫して変わらず上昇し続けている。

「国がん」は、「全国がん罹患モニタリング集計のがん罹患数1975~2011年全国推計値」や「人口動態統計がん死亡数1975~2013年実測値」、「国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口」を基に、15年のがん患者数と死亡者数を推計している。
がん罹患数の前年(2015年)をみると10万例・約1割増の98万例、がんによる死亡者数は同じく4000人増の37万人になるとの推計値だった。具体的には、がん罹患数は男性が56万300例、女性42万1800例の合計98万2100例と予測された。14年の予測値に比べて約10万例、実測値に近い11年推計値に比べて約13万例増加した。
 
罹患数が大幅に増加する要因について、同センターは「高齢化」とともに「がん登録の精度の向上」を挙げている。がん登録推進法が13年12月に成立し、全国がん登録が16年1月からスタートしている。このため、がん登録の認知度が医療現場で向上し、データの精度が高まると期待され、これが罹患数を押し上げるとみられる。
「罹患数予測」という専門用語は一般には聞きなれない、がんの統計用語で、「罹患数」とは「その期間内に新しくがんにかかった(り患)」という意味。したがい「100万例」という数字は「2016年のうちに新しくがんにかかると予測される人数」のこと。混同されやすいが、「罹患数」という用語はあくまで新規にがんと診断された人数のことをさす。

2016年がん統計予測のポイント
がん罹患数予測
・2016年のがん罹患数予測は101万200例(男性57万6千100例、女性43万4千100例)。 2015年の予測(98万2千100例)と比較すると、男女計で約2万8千例増加。
・部位別では、大腸、胃、肺、前立腺、乳房(女性)の順にがん罹患数が多い(大腸、胃、肺はほぼ同数)。
・順位を2015年のがん統計予測[大腸、肺、胃、前立腺、女性(乳房)]と比較すると、上位5位のがんに変化はなかった。

がん死亡数予測
・2016年のがん死亡数予測は、37万4千人(男性22万300人、女性15万3千700人)
・2015年の予測と比較すると、約3千人の増加。
・肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の順にがん死亡数が多い。
・2015年の予測(肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の順)から順位の変化はなかった。

*がん情報(データベース)は「国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』」で見ることができる。
URL: http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html

◆高齢者の安全な漢方薬治療に初めての診療ガイドライン
東北大が世界初 エビデンスに基づいた漢方薬治療

――東北大学病院
東北大学病院漢方内科の高山真准教授らのグループは7月15日、日本老年医学会が作成した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の中の漢方薬部門を担当して、エビデンスに基づいた漢方薬治療が可能になる診療ガイドラインを世界で初めて発表した。
これまで漢方は西洋医学に比べて、診療効果の科学的根拠は少ないと考えられてきた。しかし臨床研究が進むと多くの治療効果が認められて評価されるようになった。そこで高山真准教授らは、報告されている様々な漢方薬での臨床研究の論文と、厚生労働省が出している「使用上の注意」、薬理学の研究成果、さらに価格なども加味して、高齢者に有効な漢方薬リストを作成した。これが初めての科学的根拠に基づいた診療ガイドラインとして発表されて、一般診療での漢方治療の手引きとなった。
現在かかりつけ医の94%以上が漢方薬を処方していると報告され、高齢者にも漢方薬が処方されることが多くなってきている。今回、漢方薬の使用についてのガイドラインが出たことで、適正な使用が行われること、漢方を専門としない医師でも必要に応じて漢方専門医に相談することなどが明確化された。高齢者の疾患にどんな漢方薬が有効か、使用する際に注意を払うべき含有生薬のリストなど薬名をあげて説明している。

高山真准教授らのグループは、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」の漢方薬の章では、高齢者医療における、漢方薬・東アジア伝統医薬品(漢方)についてまとめている。主に後期高齢者または虚弱な高齢者全般に用いる漢方薬について、英文誌はMEDLINEとCochrane、 和文誌は医中誌の検索システムを用い、2013 年末までの期間で、図 1(省略)に示すキーワードをもとに論文検索を行った。
ヒットした 503件の論文を詳細に調べ、その内容を吟味して57 件の論文を抽出し、これに直近発表のものを加えた64 件の論文の研究内容を評価した。そして、薬剤効果のバランスやコストなども勘案し、「高齢者に有用性が示唆される我が国の医療用漢方 製剤のリスト」を作成した(図 2=省略)。
また、厚生労働省から出された「使用上の注意」のほか、伝統学の知見、薬理学の知見など種々の根拠に基づいて「高齢者に漢方を使用する際注意を払うべき含有生薬のリスト」(図 3=省略)を作成した。
近年では統合医療として欧州や米国で積極的に取り入れられている漢方薬治療であるが、高山教授らは「漢方を専門としない一般医家が高齢者に漢方を処方する際に知っておくべき科学的根拠に基づく情報のリストとして広がっていくことを期待します」と述べている。

◆高齢者に多い「室内熱中症」を防ぐ対策とは
今年上旬で2,000人以上が熱中症で搬送

――トレンド総研(東京都渋谷区)
トレンド総研(東京都渋谷区)は7月15日、高齢者の「室内熱中症」に関するレポートを発表した。トレンド総研は、トレンドに関する調査・研究、情報発信を通じて、企業の商品開発やマーケットの活性化に貢献することを目的に設立した研究機関。主に、生活者のライフスタイルや趣味・嗜好、消費動向などを調査・研究している。

総務省消防庁の調査によると、今年6月27日から7月3日に熱中症で搬送された人は2,000人を超え、前年同期の540人を大幅に上回っている。これからさらに猛暑となることが見込まれており、熱中症予防の重要性が高まっている。なかでも近年、家の中で起こる「室内熱中症」が注目を浴びている。特にシニア層、高齢者に多く、重症化する傾向があるので十分な注意が必要だ。
今回トレンド総研では、シニアの「室内熱中症」対策をテーマに、シニア世代250名と、「シニア世代の親」と離れて暮らす子世代250名を対象としたアンケートを実施した。    アンケート結果の主な内容は次の通り。
▼シニアの「室内熱中症」認知率は96%! 対策が必要な「気温の感じ方の鈍り」は4割超が認識
▼シニア世代」に水分をこまめにとる、室内気温の管理などの実施率は69%。(「シニア世代」の約3人に1人が、自分では「室内熱中症対策」を行っていないという結果だった。
▼8割の子どもが「シニア世代」の「室内熱中症」対策の必要性を実感。一方「同居予定」は23%のみ

今回のレポートでも、シニアの「室内熱中症」対策をテーマに取り上げられており、高齢者世帯と子世代を対象としたアンケートのほか、昭和大学教授・救命救急センター長 三宅康史氏による「室内熱中症」対策についての解説も紹介されている。
三宅氏によると、高齢者は代謝(消化能力)の低下に加え、エアコンを使わない習慣によって、室内熱中症にかかりやすい傾向にあるという。とにかく「エアコンを使って、室温を下げよう」と強調している。
三宅氏は、室内熱中症の対策としては、室温が高くない状態や喉が渇いていなくても、こまめな水分補給や、適切な室温に保つことがポイントとなるという。キュウリやトマト、スイカなどの夏が旬の食べものには水分が多く含まれているので、献立に積極的に取り入れたい食物の常備も欠かせない。市販の「塩飴」なども廉価だから常備したい。
 
親と離れて遠距離で暮らす子供世代は、こまめに親に電話をかける習慣をつけたい。体感温度ではなく居間の温度計の表示温度を確認してエアコンのスイッチを入れてもらうように促そう。また、社会や近隣とのつながりも重要で、役所や社会福祉協議会など公的な見守りサービスを利用するのも有効だ。子供世代は、福祉関係とのコンタクトを密にとることも不可欠なアドバイスだ。

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