ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2016年7月28日号)
◆新専門医制度、1年延期し2018年4月からスタート
日本専門医機構、医師不足、医師偏在解消に対応
――日本専門医機構
内科や外科、小児科などの専門医の質的向上を目指して専門医制度改革を主導する、第三者機関の日本専門医機構は7月25日、社員総会を開催した。理事会決定(同20日)を経て同機構が統一的に認定する新専門医制度について、制度開始を予定より1年延期し、2018年4月からとすることを正式決定したと発表した。
理事会としては、新専門医制度は19の基本診療領域の全てについて、2013年春に厚生労働省の検討会が報告書をまとめ、14年5月に中立的な第三者機関が統一的な基準で認定する新制度が創設され、20年度に新制度による専門医が誕生するという予定で進めていた。
新制度を巡っては、病院団体などからも研修の中心となる大病院に医師が集まる偏在化、地方の中小病院で医師の不足が進むなどと心配する声が上がっていた。例えば日本医師会会長の横倉義武氏は今年2月の定例記者会見で、新専門医制度について、「現状のまま改革を進めると、地域医療の現場に大きな混乱をもたらすことが懸念される」と憂慮した。その上で、「新制度が地域包括ケアシステム構築の阻害要因になってはならない」との危機感も示し、2017年度からの新制度開始については延期も視野に入れ、まずは地域で研修病院群を形成することが優先課題であると「拙速」を戒める主張をしていた。
日本専門医機構は今後、運営方法の見直しを議論するが、日本専門医機構理事長の吉村博邦氏は「機構の今後の対応では重点となるのは、2017年度の各基本診療領域の専門医養成の方針」を第一ステップとして挙げている。専門医の研修を受ける医師が、都市部の大病院に集中しすぎないようにするなど、施設ごとの定数を学会と調整するなどの対策が検討される。
7月25日に日本専門医機構の総会(各基本領域学会を含む全社員を集めた会議)では20日の理事会で示された開始時期の1年延期の方針が了承されたが、合わせて今後のスケジュールも発表された。
内容は次のとおり。
2017年度の専門医養成の方針、8月上旬までに集約(日本専門医機構、対応状況は9月上旬までに厚労省等に報告)
各学会の来年度の方針は7月末か8月上旬を目処にとりまとめる
総合診療専門医については、正式養成は見送るが、暫定的な措置を講じる方向で、今後理事会を開き検討
2018年度の新制度一斉スタートに向け、サブスペシャルティ、ダブルボード、身分保障、地域枠や自治医大卒医師などの扱いについて検討していく
人口動態や疾病構造の変化などを踏まえた、将来のあるべき専門医の姿について、9月以降、検討の場を別途設ける
同機構は、現時点ではできるだけ旧来の制度を継続するように求めているが、20日の理事会決定のあと、救急科、小児科では一次審査を通過した暫定プログラムを用いて来年度の研修を行なうことを表明している。他の学会の動きは理事会前の時点で、暫定プログラムで開始することを表明した学会(耳鼻咽喉科、眼科、病理科、麻酔科)、旧制度を継続すると表明した学会(精神科、脳神経外科、皮膚科)とに分かれている。
新専門医制度は、国家試験に合格し2年間の初期臨床研修を終えた医師が、外科や内科、小児科など19種類の基本領域のいずれか一つで原則3年間の研修を医療機関で受けて、専門医の認定を受ける。希望者はさらに、循環器や血液、腎臓といったより専門性の高い領域の専門医に進む。複数の病気を抱える高齢者らに幅広く対応できる総合診療科も基本領域に新設される。
◆多職種連携を促進する支払制度や直接補助の仕組み提案
政策コメンテーター委総会 医療・介護分野で政策提言
――内閣府
内閣府は7月20日、政策コメンテーター委員会の「2016年総会」を開催し、「経済財政政策における重点課題」などを議論した。委員会は経済の現状・見通し、経済財政政策に関する重要課題について、各界の有識者の意見を幅広くかつ定期的に収集・集約し、経済財政諮問会議に伝えている。政策コメンテーター委員会の設置は平成26年7月25日に開催された経済財政諮問会議において了承された。
この日、医療・介護分野について、財務省の「医療・介護に関する研究会」の座長も務める井伊雅子委員(一橋大学国際・公共政策大学院教授)が資料を提出して政策提言を行った。具体的には(1)新専門医制度の早急な導入、(2)多職種連携を促進する支払方式、(3)個人の負担能力の厳正な判断と低所得者への直接補助――などが提案された。
(1)に関し、「医師会・病院団体・知事会などからの反対が出ているが、医療費の無駄を省くために医師の質の担保が必須」として、早急な新専門医制度導入を求めた。
(2)に関し、政府が経済再生と財政健全化を両立させる政策として、政府がインセンティブ改革を強調していることについて、インセンティブの改革は健康な時から継続的に地域住民の健康状況を把握して、「地域住民が健康になることで医療機関が経営可能となる支払い制度」に改めるべきと主張している。
また、現在の日本の医療制度はフリーアクセスで出来高報酬と説明。住民1人あたりの受診頻度が高く、1人あたりの診療時間が短い中で、看護師や保健師の果たす役割は大きいとして、診療報酬を、多職種連携を促進する支払方式にするべきと述べている。
(3)に関し、国から保険者への財政支援として、給付の一定割合を事後的に公費負担する現在の仕組みについて、医療給付費に公費が連動することを問題視。このため、個人の負担能力を厳正に判断して、低所得者への支援に限定する仕組みが必要と主張した。このため、保険者ではなく、被保険者を直接補助する仕組みなどを求めている。
経済財政諮問会議では「2020年度財政健全化目標の達成に向けて」のテーマで、有識者(伊藤元重・榊原定征・高橋進・新浪剛史)の意見は、次のようにまとめられた。
この3年間の試算結果の推移をみると、以下の点を指摘できる。
①デフレ状況ではなくなったが、デフレを早期かつ完全に脱却する必要があること。
②これまで年度平均5-6兆円程度の追加的な公需(補正予算)で下支えしているが、実質成長率が伸び悩み、民需を中心に名目GDPの拡大には力強さを欠いている。
③その背景をみると、女性の労働参加は大きく拡大したが、投資活動やイノベーションの創造に力強さを欠いていることが挙げられる。
④財政面では、アベノミクスにより、デフレではない状況が生まれ経済が着実に底上げされ、また、企業の繰越欠損金の減少や納税企業数の着実な増加など税収の安定的増加を支える変化も生まれてきたこと、配当・株式譲渡益が増加したこともあって、税収が大きく増加。2015年度の半減目標を実現できる見込み(一方で、名目GDPに比して国民負担の割合が拡大していることにも留意が必要)。
こうした現状評価と今回の中長期試算で示された2020年度の財政状況を踏まえると、2020年度のPB(基礎的財政収支)黒字化実現に向けて、以下の取組を包括的に推進することが重要。
(1)足元では、①大胆な財政・金融政策を通じた消費や投資の喚起、②アベノミクスの成果等を活用した成長と分配の好循環の実現、③構造改革の大胆な推進を通じた潜在成長力の引上げに取り組み、2020年度に向け追加的な公需に依存しなくて済む力強い民需主導の経済成長を実現すること。
(2)「経済・財政再生計画」に基づく歳出改革を継続すること(これまでの安倍内閣の取組と同等の歳出・歳入改革努力、公的分野の産業化・インセンティブ改革・見える化等への取組を含めた改革工程表の着実な実施)。
(3)2018年度の中間評価を踏まえた歳出改革の加速、軽減税率導入時の安定財源の確保に取り組むこと。
(参考)労働供給・潜在成長率
2013年8月の中長期試算と比較すると、労働参加率は上昇(男女計:59.3%→59.6%)。特に女性で大きく上昇した。
◆拡大治験として未承認医療機器などの提供を説明 厚労省
人道的見地から実施される治験の実施について通知
――厚生労働省
厚生労働省は、7月21日付で各都道府県衛生主管部(局)長等に宛てて「医療機器及び再生医療等製品における人道的見地から実施される治験の実施」に関する通知を発出した。2016年7月21日から、「治験の組入れ基準から外れる、被験者の組入れが終了している等の理由により当該治験に参加できない場合がある」(同通知)患者に対して、「人道的見地から」治験制度の枠組みの中で実施するというもの。通知は、くりかえして「人道的見地」を強調しているのが目立つ。
こうした医療上の必要性は高いものの、国内では承認されていない医療機器や再生医療製品について、治験に参加できない患者に対しては、拡大治験(人道的見地から実施される治験)として、治験制度の枠組みの中で未承認機器を提供できる方策を実施することを通知で周知している。有効な既存の治療法が存在しない疾患の患者にとって、未承認機器等が最後の望みになることも想定されることなどに対応した。
通知では、(1)制度の対象範囲、(2)臨床試験の位置付け、(3)拡大治験の実施に係る考え方、(4)検討要請と実施の可否決定、(5)治験実施計画書、(6)対象患者、(7)実施施設、(8)治験にかかる費用負担―などを説明している。
この中で制度の全体が分かる「概要」や「対象患者」の項目では次のように説明してある。
(1)制度の対象範囲
本制度においては、未承認機器等の使用により、患者が享受できると期待されるベネフィットの蓋然性が比較的高いと考えられる、開発の最終段階である国内治験(当該治験の結果をまとめた後、その結果をもって承認申請を予定している治験、以下「主たる治験」という)の実施後あるいは実施中(組入れ終了後)の治験機器又は治験製品(以下「治験機器等」という)を対象とする。
拡大治験の実施については、主たる治験の円滑な実施に好ましくない影響を及ぼすことにより、当該医療機器等の開発を大幅に遅延させるおそれがあることから、あくまでも主たる治験に影響を及ぼさないことを前提とする。
未承認機器等を使用するリスクと期待される有効性のベネフィット(患者にとっての価値)における、ベネフィット・リスクバランスの観点から、原則として、当該医療機器等の主たる治験の実施段階から承認までの期間を待つことが出来ない、生命に重大な影響がある疾患であって、既存の治療法に有効なものが存在しない疾患を適応の対象とした治験機器等を対象とする。
(2)臨床試験の位置づけ
国内で承認されていない未承認機器等の使用における安全性確保の観点から、機器GCP省令又は再生GCP省令が適用される治験の枠組みの中で実施する。
拡大治験は、次に掲げる取扱のうち、治験実施者が効率的な治験が実施できる方を選択する。
主たる治験とは別に、人道的見地から新たな治験を実施する。
実施中の主たる治験の計画を変更し、人道的見地から患者を追加する。(この場合、人道的見地から追加された患者に関連する治験の範囲を拡大治験、それ以外の患者に関連する治験の範囲を主たる治験とする。)
対象患者
拡大治験の対象は、参加を希望する患者にとっては治療機会の有無を決定する重要なものである一方、主たる治験における組入れ基準を満たさない患者を拡大治験の対象患者に含められるかどうかについては、安全性確保の観点から、合併症、疾患の病期、重篤性等の項目について慎重に検討する必要がある。このため、実施済みあるいは実施中の主たる治験の実施計画書の組入れ基準の各項目に関して、組入れ基準を緩めても医学的に許容可能であると判断される範囲の患者とすべきである。
◆進む保険者による予防・健康づくり、「日本健康会議2016」
健康経営138社達成 糖尿病性腎症の重症化予防、118市町村
――日本健康会議
経済団体、保険者、自治体、医療関係団体などで組織する日本健康会議は7月25日、第2回「日本健康会議2016」を開催し、「健康なまち・職場づくり宣言2020」の達成状況を報告した。糖尿病性腎症などの重症化予防については118市町村が実施、後発医薬品の使用割合向上に積極的な全国健康保険協会(協会けんぽ)では62.5%の支部が取り組み、「差額通知サービス」が薬剤費の大幅削減につながるなど、一定の成果を挙げていることが報告された。そのほか、インセンティブの仕組みで、一般住民を対象とした予防・健康づくりとその効果も報告された。
この日は、去年宣言した「健康なまち・職場づくり宣言2020」の達成状況が報告され「健康経営に取り組む企業を500社以上」では達成した企業は138社もあったことは驚きの声で称賛された。
その好事例として紹介されたコニカミノルタ(電気機械)は、社員に歩数計を支給し、健康維持の目標を達成するとポイントがもらえるシステムを導入。ためたポイントを東京ディズニーリゾートの入場割引券と交換することもできる。またコニカミノルタは、それまで別々だった会社と健保の健康管理活動を一体化する「コラボヘルス」と呼ばれる体制を2012年から採用し、特定保健指導の対象者の数を減らすなど大きな効果を挙げている。
コニカミノルタの取組分野
体力増進・食事・生活習慣改善・疾病予防・早期発見
メンタルヘルス・その他(過重労働対策、感染症対策、健康応援サイト「KENPOS」導入、中国従業員に向けたケアなど)
■実施内容
①体力増進
チーム対抗でのウォークラリー・外部インストラクターによる運動講習会
②食事・生活習慣改善
食堂でのヘルシーメニューの提供・管理栄養士によるセミナー開催
③疾病予防・早期発見
定期診断により従業員の健康度を示す指標を設定(健康の「見える化」による健康意識向上)
従業員とその扶養家族に対して、生活習慣病予防のための特定健診を毎年実施
産業保健スタッフによる個別指導の強化
④メンタルヘルス
全従業員を対象としたストレスチェック(年2回)・職場別の分析結果を各組織長にフィードバックし、ストレス度の高い職場については改善策を実施・リハビリ勤務制度を導入(フル勤務が可能となる正式復職までの間に最大3ヵ月のリハビリ勤務期間を設置。再発防止のフォローアップ)
⑤その他
過重労働対策(残業月次60時間以上の抑制/30時間以上の超過者に抑制指導メール/長時間勤務過多部署に人事指導)
感染症対策(インフルエンザの流行情報提供や予防接種の呼びかけなど)
健康応援サイト「KENPOS」導入(検診結果の閲覧/行動目標の設定、チェックなど)
中国従業員に向けたケア(「コニカミノルタグループ健康宣言」の中国語訳作成)
■実施効果事例
特定保健指導対象者数が、2008年度比で18.6%減少(2013年)・リハビリ勤務制度の導入により、復職後のメンタル不調での再休務者数が、制度導入後の2012年度に対前年度比で半減・メンタル休職者数は、2015年4月1日時点で、2013年度同時期に比べ、42.5%減少
*「日本健康会議」は、少子高齢化が急速に進展する日本において、国民の健康寿命の延伸と、医療費適正化について、行政のみならず、民間組織が連携し実効的な活動を行うために組織されている。経済団体・保険者・自治体・医療関係団体など民間組織が連携し、厚生労働省・経済産業省の協力のもと、具体的な対応策を実現していくことを目的としている。
昨年の発足式では、塩崎恭久厚生労働大臣も出席し、「日本は国民皆保険のもと、世界最高水準の保健医療制度を確立しているが、今後はさらにこの保健医療システムを進歩させ、予防や健康づくりを意識し、国民の健康寿命を延伸させることが重要。健康先進国を目指し、20年後には、人々の主体的な健康づくりを社会で確立している日本を目指したい」とあいさつした。