ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2016年10月13日号)
◆ 医療機関の全面禁煙が2020年までに義務化へ
違反の場合、施設管理者への罰則適用も視野
――厚生労働省
厚生労働省は10月12日、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた受動喫煙防止策の規制強化案を発表した。主な公共施設や医療機関、学校、飲食店などが対象で、違反した場合の罰則も設ける方針。早ければ来年の通常国会での法案提出を目指す。
この規制強化案では、施設の種類によって「敷地内禁煙」「建物内禁煙」「分煙」と義務付けのレベルを変える。医療機関は、建物内も含む敷地内のすべてで禁煙となる「敷地内禁煙」の対象。喫煙室の設置も認められない。小学校・中学校・高校も同様のレベルでの禁煙施設となる。
ちなみに、官公庁や社会福祉施設、競技場などは建物外の喫煙室設置が認められる「建物内禁煙」、ホテルや飲食店、駅、空港などは建物内の喫煙室の設置が認められる「分煙」の対象。喫煙室は、壁などで完全に仕切られたスペースのみに限られるため、現在駅の近隣などに多く見られる屋外の喫煙スペースは撤去される方向になりそうだ。
罰則は、禁止場所で喫煙した個人のほか、施設管理者にも適用したい考え。改善命令に従わない場合を想定している。罰則の内容は今後検討されるが、罰金になる見通しだ。
現在の健康増進法では、受動喫煙対策は努力義務にとどまっているが、新たに法制化することで実効性を高めるのが今回の規制強化案の狙いだ。また、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)が、オリンピック・パラリンピック開催都市にたばこの煙がない「スモークフリー」を求めていることも背景にある。厚生労働省は8月に「喫煙と健康影響に関する報告書(たばこ白書)」を15年ぶりに改訂し、日本の受動喫煙対策は世界最低レベルとしていたほか、10月6日の参議院予算委員会でも受動喫煙対策のための新法について、安倍晋三首相が「2019年のラグビーW杯を視野に検討を進めたい」と発言。早急に準備を進めたい意向を表明していた。
◆ 「禁煙外来」病院での職員喫煙で診療報酬返還へ
職員採用時の喫煙習慣チェックが必要に
――禁煙外来病院
禁煙外来を設けている複数の病院で、敷地内での職員の喫煙が常態化していたことが判明。禁煙治療の保険適用が認められなくなるとともに、過去に同治療で得ていた診療報酬の自主返還を決めた。
この問題が発覚した島根県の病院は、8月下旬に行われた厚生労働省中国四国厚生局の調査で職員の喫煙の事実が明らかとなり、同局から診療報酬の請求を辞退するよう指導された。それに伴い、9月末より禁煙外来を休診している。10月12日は、広島県の病院でも職員の喫煙が発覚。禁煙治療の保険適用を辞退し、診療報酬の返還に応じる意向を示している。
そもそも、病院や診療所が保険適用内での禁煙治療を行うには、厚生労働省が定めた施設基準をクリアしなければならない。「ニコチン依存症管理科に関する施設基準」には、「保険医療機関の敷地内が禁煙であること。なお、保険医療機関が建造物の一部分を用いて開設されている場合は、当該保険医療機関の保有又は借用している部分が禁煙であること」と明記されている。敷地内での職員の喫煙が発覚した2病院が、禁煙治療の保険適用が認められなくなるのは当然と言えよう。
政府もこの問題を重要視している。塩崎恭久厚生労働相は、10月4日の会見で「一言で言えばとんでもない。今後、病院に対し診療報酬の返還を含めて厳正に対処していく。医療に関係する人たちの意識をしっかりと作り変えてもらいたい」と述べている。厚生労働省は12日に医療機関の全面禁煙を罰則付きで義務化する規制強化案も発表。たとえ禁煙外来を設けていない医療機関であっても、敷地内での喫煙が不可能であることを職員に指導するとともに、今後は職員採用時に喫煙習慣の有無を確認する必要が出てくることも予想される。
◆ 急性期医療での入院時水道光熱費が患者負担へ
65歳以上が負担する額も値上げを検討
――厚生労働省
厚生労働省は、10月12日に開かれた社会保障審議会医療保険部会で、急性期医療での入院時に、水道光熱費を患者負担にする検討を開始した。年末までに結論を出し、2017年通常国会で法案を提出したい方針。
ケガや病気の中でも、急性期医療に該当する急性疾患や重症の患者が入院する、いわゆる「一般病床」では、今まで患者に水道光熱費の負担を求めてこなかった。しかし、主に高齢者が長期入院している「療養病床」では、65歳以上を対象に自己負担としており、両者の負担を公平にする。
さらに、負担額自体も値上げを検討している。現在、療養病床を利用する65歳以上は、1日320円を負担しているが、直近の家計調査を踏まえた平成27年度の介護報酬改定で居住費(水道光熱費に相当)が1日370円に見直されたことを踏まえ、同額となる可能性が高い。つまり、一般病床で1カ月入院した場合、1万円以上を新たに負担しなければならないことになる。
なお、食事代については1994年から患者負担が始まり、2015年度までは1食あたり260円だった。今年4月から100円増の360円となり、2018年度にはさらに100円増の460円となる。水道光熱費が1日370円になると仮定すると、2018年度からは1カ月の負担額が24,900円となる。ちなみに、患者負担額は増えるがもとの基準額は変わらないため、医療機関側の受取額に変化はない。
こうした方針の背景にあるのが、年々膨らみ続ける医療費だ。2015年度は41兆円を突破し、13年連続で過去最高を更新している。そのうち入院にかかる費用は、全体の4割ともっとも多い。しかも、今まで水道光熱費の患者負担がなかった一般病床は約89万床と、全国の病床数の5割以上を占めており、即効性の高い施策として政府が早急な検討を進めている理由が見えてくる。食事費が段階的な値上げをすでに決定しているように、水道光熱費や他の費用についても、今後さらに患者負担額が増加していく可能性も高いと言えよう。
◆ 過去よりも現在の運動習慣が肥満・健康に影響
生活習慣改善の指導にもつながる調査結果
――スポーツ庁
スポーツ庁は、10月9日に「平成27年度体力・運動能力調査の結果」を公表。学生時代、運動部に所属していなくても、現在運動習慣を身につけていれば、健康に良い影響を与えていると分析した。糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病が増加傾向にある現在、医療機関での生活習慣改善指導においても活用できるデータと言えそうだ。
調査は「国民の体力・運動能力の現状を明らかにするとともに、体育・スポーツの指導と行政上の基礎資料を得る」ことを目的として、昨年5月から10月の間に行われた。対象となったのは、6歳から79歳の65,904人。このうち、運動・スポーツの実施率が比較的低い30~40代の「成年」について、学生時代(中学~大学)に運動部での活動経験がある場合とない場合のBMI(肥満度を表す体格指数)を調べた。
その結果、学生時代に運動部経験があり、現在も週1日以上運動する人の79.9%が普通体重だった。一方、運動部経験がなくても週1日以上運動する人も、79.7%が普通体重と、両者にほとんど差はない。
また、「運動しているのが週1日未満」だと運動部経験がある場合で74.0%、ない場合で73.7%が普通体重だった。運動習慣がある人に比べれば肥満度が高いが、それが過去の経験の有無によるものではないことがわかる。スポーツ庁が「運動習慣は生涯を通じて持ち続けることが重要であるが、過去の運動・スポーツ経験がない人でも、現在実施することにより体力や健康によりよい影響を与えることができると言える」と調査報告書をまとめているように、過去よりも現在の運動習慣が肥満解消に役立つと言えよう。
同庁の鈴木大地長官も、「これまでスポーツから遠ざかっていた人も、健康のため、仲間づくりのためなど、それぞれの目的に合わせて、ぜひ今日からスポーツを始めていただきたいと思います」と生涯スポーツの意義についてコメントしている。たとえ過去に精力的な運動をしていても、現在していなければ健康に悪影響を及ぼす可能性もあるため、生活習慣病予防のための運動指導を行う医師や医療機関にとっては、適切なアドバイスにつなげられる調査結果ではないだろうか。