ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2016年11月18日号)
◆2020年度までに医療・介護連結のICT環境の実現へ
AIやIoTを活用し、介護データベースも抜本的に見直す
――未来投資会議
11月10日に開かれた未来投資会議で、塩崎恭久厚生労働相は「科学的に裏付けられた介護」を推進すると表明。介護データベースを抜本的に見直したうえで、医療・介護を連結させた新たなICTインフラを整備し、2020年度までに本格稼働させたい意向を示した。
現在の介護保険総合データベースでは、サービス種別の記録にとどまり、提供されたケアの内容までは記録されていない。そもそも、介護保険法では「自立支援がその目的」と明記されているものの、実際は入浴や排泄、食事の介助が中心となっており、自立支援を目指す介護もそうでない介護も、一律に「通所介護」として記録されている。そのため、データベースを分析しても、どのようなケアが要介護者の自立につながるのかわからず、介護事業所間で事例を共有できないのが現状だった。
そこで、今後は提供されたケアの内容までデータベース化。並行して2017年秋までに「自立支援のための介護の構造化・標準化」を図り、自立支援を促す介護の取り組みを、現場の標準としていく。
同時に、2018年度の介護報酬改定で、要介護度を改善させた介護事業所には介護報酬をアップさせるインセンティブ制度も導入させる考え。逆に、標準化された自立支援の取り組みを行わない場合は、報酬を下げることも検討している。要介護度の高い利用者をできるだけ減らすことで、全体としての介護報酬の引き下げを目指し、社会保障費の抑制を図るのが狙いだ。
また、介護保険総合データベースは、医療等IDや医療連携ネットワークとも連結させる。介護現場のみならず、医療現場とも情報を共有することで、適切なサポートが受けられる体制を整える。また、被保険者もそれらの情報にアクセスできるようにし、自ら健康管理に役立てられるような仕組みにしていく方向だ。
塩崎恭久厚生労働相は、11月11日の厚生労働省での会見でも「ビッグデータ分析を含め、AIやIoTをフルに活用しながら、自立支援への取り組みを科学的に行っていく」と明言。それらを本格的に実施するため、インセンティブ付けをすることでバックアップを行い、国民的にも持続可能な医療介護制度に育てあげていきたいとした。事業所側にとっては、ICT導入もさることながら、自立支援を促す取り組みを本格的に開始しなければならない段階に突入したと言えそうだ。
◆摘便やインシュリン注射の補助など介護職員の「医行為」拡大へ
介護福祉士の上位資格創設や賃金水準アップにつながる期待も
――厚生労働省
11月14日、厚生労働省の社会保障審議会「福祉部会福祉人材確保専門委員会」が開かれ、介護職員の「医行為」の範囲を拡大することが提言された。介護福祉士の上位資格を創設する必要性にも言及されており、介護職員の賃金水準アップにつなげられる提言として期待が集まる。
現在、介護職員が医療行為を行うことを違反とされており、指で便を摘出する摘便やインシュリン注射の補助は禁止されている。しかし、利用者の要介護度が高まるにつれて、とりわけ特別養護老人ホームの介護職員は、医療ニーズへの対応が求められている現状がある。
同会合では、公益社団法人全国老人福祉施設協議会が同会会員の特別養護老人ホームに対して行った「今後の特別養護老人ホームに関する制度改正等に係るアンケート」を公表。介護職員が行う医行為の範囲の拡大について、「はい(拡大すべき)」「一定の要件のもとに拡大していくべき」の合計の平均が約9割に及んでいることを明らかにした。どの程度まで医行為の範囲を拡大するべきかについては、摘便やインシュリン注射の補助、人工肛門(ストーマ)、創傷処置、在宅酸素療法、褥瘡処置などを挙げている。
具体的にこれらの医行為を行うには、当然のことながら一定のスキルが必要だ。そこで、同会合では「一定の研修を修了した介護職員」を対象にするべきとし、現在行われている喀痰吸引の研修と統合した「医行為に関する研修」とした。
しかし、現実には喀痰吸引の研修も「シフトの調整が困難」として受講する介護職員が少ないのが現状。同会合でも、7割近い介護施設が研修を受けられないとし、座学で済む課程についてはウェブ研修も検討するべきとしている。
また、医行為の範囲を拡大することで、これまで以上のスキルが求められるため、上位資格を創設することの必要性にも言及。一定のスキルを得た介護職員の基本報酬を引き上げることも視野に入れ、関連審議会での対応を図るよう求めた。介護職員のステータスと賃金水準の双方を底上げできる可能性があるため、今後の推移に注目したい提言と言えよう。
◆介護の新たな入門研修制度の時間数は約65時間に
上位資格の受講科目の読み替えも可能とする方向
――厚生労働省
11月14日、厚生労働省の社会保障審議会「福祉部会福祉人材確保専門委員会」が開かれ、介護の仕事が未経験な人を対象にした新たな入門研修制度について検討が行われた。従来、介護の入門資格として位置づけられている「介護職員初任者研修」(130時間)の半分程度の時間数となる見込みで、「介護職員初任者研修」や「介護職員実務者研修」などの資格へとステップアップしやすくするため、受講科目の読み替えも可能とする仕組みにする。
また、新たな入門研修制度は、未経験者が敷居の高さを感じている部分の払拭に重きを置いた内容とすることも確認された。具体的には、介護保険制度の基礎知識や、トイレへの誘導などの移動、衣服の着脱といった基本的な介護の方法、認知症に関する基本的な理解、緊急時の対応方法など。必要最低限の知識・スキルが得られることを目標とし、幅広い人材の参加を促す。試験は課さずに、研修を受ければ「研修修了者」として認定され、事業所で就業した際、有資格者に次ぐ待遇が受けられる制度設計を行う。
こうした入門研修制度を新たに創設するのは、深刻化する人手不足が背景にあるのとともに、仕事を離れた中高年世代や、子育てが落ち着いて時間に余裕ができた女性の働き場を確保したいとの狙いもある。しかし、介護職は難易度が高いとのイメージが定着しているため、資格取得のための所要時間の長さに難色を示している向きも多い。
さらに、実際は特別養護老人ホームなどの介護施設でも、有資格者以外が働くことは可能だが、最低限の知識と経験が求められるため、未経験者にとっては求人に対して安易に応募できない。アクシデントなどのリスクを考慮し、未経験者を雇いたがらない事業所も多く、人手不足解消の有効な施策がないのが現状だった。しかし、今回の新制度では、研修を実施する事業所へ当該費用を助成することも検討されているため、事業者側にとっては低リスクで人材教育のノウハウを高め、人材確保へとつなげることもできる。働き場所を求めている人にとっても、介護スキルを短時間で得ることができ、上位資格へとステップアップもしやすいため、新たな介護人材を増やす施策となることが期待される。
◆定期昇給およびキャリアアップ促進の取り組み実施で
介護職員の賃金をさらに引き上げ 2017年4月から
――厚生労働省
11月16日、厚生労働省の社会保障審議会「介護給付費分科会」が開かれ、2017年4月から行う介護職員の賃金引き上げに関して、「処遇改善加算」を拡充する方針を固めた。勤続年数が長い介護職員や、介護福祉士などの資格を取得している職員に対して、確実に給与アップを実現させる。定期昇給を行っていない、あるいはキャリアパスの仕組みを整えていない介護事業所は、基本報酬の加算率が減る仕組みとなる。
2017年4月から、介護職員の賃金は約1万円引き上げられる。これは、政府が目指す「介護離職ゼロ」実現のため、人材の確保および定着を図ることを目指し、今年6月に閣議決定されたもの。次期介護報酬改定は2018年度だが、その前に緊急で引き上げを行うことで、深刻化する介護業界の人手不足を早期に解消するのが狙いだ。一部では、基本報酬を底上げするべきとの意見もあったが、改定時期ではないこともあり、既存の枠組みを維持することを優先。処遇改善の加算という方法を選択した形だ。
具体的には、要件を新たに設けて加算が適用される基準を底上げ。従来の加算は4段階だったが、5段階に積み増しとなる。具体的には、「経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること(就業規則等の明確な書面での整備・全ての介護職員への周知を含む)」との要件が追加された。つまり、資格や経験に応じた昇給だけでなく、定期的に昇給する報酬システムを整備しなければならないということだ。
これに加えて、従来の要件である「職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること」、「資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること」、そして職場環境等要件として「賃金改善以外の処遇改善を実施すること」のすべてを満たしていれば、月額3万7000円相当が加算される仕組みだ。 厚生労働省によれば、今回の拡充はあくまで臨時の施策とのこと。2018年度の介護報酬改定までに、新たな枠組みが決定する可能性もあるが、被雇用者のキャリアアップや昇給の保証を求める流れには変わりがないものと思われる。雇用主である事業所側としては、早急な人材マネジメントシステムの整備が求められると言えよう。