ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2017年3月2日号)
◆罰則付き受動喫煙防止策の骨子が固まる
施設管理者への罰金は最大50万円に
――厚生労働省
3月1日、厚生労働省は健康増進法改正案の骨子を発表。受動喫煙防止策について、医療機関は建物外での喫煙や喫煙室の設置も認めない「敷地内禁煙」の対象になり、違反した施設管理者には最大50万円の罰金が科せられる。喫煙者本人に科せられる罰金は最大30万円。罰金が適用されるのは、都道府県知事などからなされる勧告や命令に従わない場合。当然、患者が喫煙している場合も罰則の対象となるため、施設内外へのわかりやすい案内表示の設置といったコストが必要となることが想定される。
国が受動喫煙防止の強化策に力を入れているのは、2020年に東京オリンピック・パラリンピック開催が決まっているからだ。国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)が開催都市にスモークフリー(たばこの煙がない環境)を求めており、2008年の北京オリンピック開催以降、すべての開催都市で罰則付きの受動喫煙防止対策が実施されている。たとえばイギリスやアメリカのニューヨーク、カナダのバンクーバー、ブラジルでは教育機関、医療機関、官公庁をはじめ、ホテルや飲食店、バス、タクシー、鉄道、船舶まですべて屋内・社内禁煙を実施しており、喫煙専用室も設置していない。
塩崎恭久厚生労働相は、こうした世界の受動喫煙対策の現状を踏まえ、1月13日の大臣会見で「『受動喫煙は日本ではありません』という国に変えていかないといけない使命がある」と発言。また、東京オリンピック・パラリンピックの前年にはラグビーワールドカップが日本で開催されるため、そこまでに法整備を行いたい意向も示していた。通常、法律の公布から施行までは半年から1年かかるため、今国会で改正法案成立まで持っていければ2018年度中の実施に間に合うこともあって、この時期に具体的な骨子が発表されたと診るべきだろう。
急速に議論が進められ、来年度の施行まで視野に入ってきた受動喫煙防止の強化法案。すでに喫煙室が設置されている場合は、5年間継続できるという逃げ道が用意されているとはいえ、一般的には「医療機関は建物の外でも禁煙」と認知されることもあり、今のうちから対策を講じておく必要があるだろう。職員の喫煙もリスク材料となってくるため、採用や職員教育の見直しも視野に入れておいたほうが良さそうだ。
◆ヤマト、医療機関向け「カルテ保管サービス」を4月から開始
期間中保管から溶解処理まで対応 緊急時はデータ化して送信可能
――ヤマトロジスティクス株式会社
3月1日、宅配大手「クロネコヤマト」ヤマトホールディングス株式会社の子会社であるヤマトロジスティクス株式会社は、医療機関向けの「カルテ保管サービス」を4月1日から開始すると発表。保管対象は紙の診療録とエックス線写真のみ。保管だけでなく最終的な溶解処理まで一括で対応する。まだ電子カルテを導入していない中小規模の医療機関にとっては利用価値が高そうだ。
ヤマトロジスティクスは、もともと機密文書を専用書庫で安全・確実に保管したり回収・処理したりするサービスを展開してきた。その中で、中小規模の医療機関から、カルテの保管および、法令で決められた保管期間終了後は廃棄してほしいとのニーズが多数寄せられていたという。
しかし、医療機関で取り扱うカルテの保管に関しては、医師法を始めとする複数の関係法令・省令が存在するため、簡単に他者へ委託することはできない。そこで、ヤマトロジスティクスは「グレーゾーン解消制度」を活用して経済産業省へ事前照会を実施。今年1月27日付けで経済産業省および厚生労働省から、省令に抵触しないとの回答を得たため、「カルテ保管サービス」の提供に踏み切った。当初は東京エリアで実施し、その後順次エリアを拡大していく意向だ。
保管の契約期間は最大10年までとしており、契約途中で廃院したとしてもそのまま管理される。また、緊急にカルテが必要なときは、該当カルテをデータ化して送付するサービスも行うため、効率的な管理が可能だ。保管倉庫は指紋認証システムを導入しているほか、監視カメラも設置。保管期限が到来したら未開封のまま溶解処理工場で処分し、妖怪完了証明書を発行する。環境マネジメントにも対応しており、処理後は各種製品に再生される仕組みとなっている。
政府は電子カルテを積極的に推進しているが、現在の普及率はわずか3割程度。とりわけ、小規模の診療所では導入が遅れており、施設の大きさを考慮すれば保管用の設備に苦慮しているのが現実。そうした意味でも、省庁の“お墨付き”が得られたこのサービスは、小規模診療所の医療経営を効果的にサポートするのではないだろうか。
◆医療文書を安全に交換できる「メドポスト」を4月から提供開始
2016年度診療報酬改定で追加 電子紹介状に関する加算にも対応
日本医師会は3月1日、同会が企画・開発した文書交換サービス「MEDPost」(メドポスト)を4月1日から提供開始すると発表。日本医師会標準レセプトソフトのORCAプロジェクトを運営する日本医師会ORCA管理機構株式会社の新事業として展開される。
メドポストは、医療機関同士が安全に医療文書を交換できるクラウドサービス。かかりつけ医と病院との間での電子紹介状のやりとりなどに活用できる。紹介状は個人情報のかたまりでもあるため、とりわけ安全性に配慮。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(安全管理ガイドライン)に準拠した設計となっている。
たとえば、文書の送受信に際してはもちろん、クラウド上で保管する際も暗号化。サービス利用の本人確認には、日本医師会が発行する医師資格証(HPKIカード)を活用することでユーザーを限定。安全性を確保している。また、注目したいのは、送信待機時間を設定できる点。送信ボタンを押しても実際にはすぐ送信されないため、誤送信の軽減が期待できよう。送受信のアラート機能が装備されているのも便利。ファイルが届くと登録されたメールアドレスに着信通知が送付され、送信者はファイルがダウンロードされたこを確認できる。
このようなクラウドサービスを日本医師会が企画・開発したのは、2016年度の診療報酬改定で電子紹介状に関する加算が新たに収載されたことが背景にある(検査・画像情報提供加算が退院患者の場合200点、電子的診療情報評価料が診療所の場合30点)。これらの加算の算定要件として、タイムスタンプ付きの電子署名や、安全管理ガイドラインに準じた通信環境が必要なため、要件をクリアできるサービスを企画・開発したというわけだ。
現在は、電子紹介状の利用が主になるが、従来は紙ベースだった医療文書も今後は電子化されていくことが想定される。在宅医療が推進されている状況も考え合わせると、スムーズかつ安全に医療情報をやりとりできる環境が必要になってくることは間違いないため、利用を検討するに値するサービスではないだろうか。なお、現時点のサービス利用料は、医師資格証を持っている医師ならば初期費用無料、月額利用料は1000円からと格安になっている。
◆2015年度の国民健康保険、2,843億円の赤字
後期高齢者医療制度の保険給付費は過去最高 同時改定への影響も
――厚生労働省
2月28日、厚生労働省は2015年度の国民健康保険が2,843億円だったと発表。また、後期高齢者医療制度の保険給付費は14兆455億円と過去最高を記録し、収支は268億円の黒字だったものの、前年度よりも6,166億円も増えている。政府が掲げる「持続可能な社会保障制度」の確立のためには、抜本的な改革が必要なことが浮き彫りとなった。
国民健康保険の赤字額は、2014年度よりも243億円の削減に成功している。しかし、これは約1,700億円の財政支援が行われたためで、実質的な赤字額は1,500億円近く上乗せした数字と判断できる。2016年度も約1,700億円、2017年度以降は毎年約3,400億円の財政支援が決定しており、単年で数字だけを見れば赤字額が解消される可能性もあるが、国の財政に負担がかかっている状況は変わらない。
また、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度は、現役世代の拠出金を増したことで給付費の伸びを抑えている。しかし、今後はさらに加入者が増えていくため、高齢者負担の見直しが進められることは確実だ。
これらの状況を踏まえると、今年集中的に進められる2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に向けての議論の内容が、大きな意味を持ってくる。安倍晋三首相は、2月17日の衆院予算委員会で「医療・介護の同時改定は重要な分水嶺」と述べたが、同時改定の議論の焦点は、膨れ上がる社会保障費をいかに抑制するかの一点に絞り込まれると言っても過言ではないだろう。
医療の現場が特に注目しておきたいのは、在宅医療。2025年には国民の3分の1が65歳以上となる「2025年問題」を考え合わせれば、これらが今後の医療の中心を占めることは間違いないため、診療報酬体系がどのように変わるのかは、今後の医療ビジネスに大きく影響してくる。また、在宅医療が増えれば地域の医療機関の連携の重要性も高まるため、前回の診療報酬改定で増えた地域医療の報酬がどうなるかも、見逃せないポイントだ。