ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2017年5月25日号)
◆ 日立製作所、「簡便・無痛・高精度」な乳がん検診の新技術を開発 超音波を活用して360度計測 動物臨床で5mmの腫瘍検出に成功
――株式会社日立製作所
5月24日、株式会社日立製作所は新しい乳がん検診の超音波計測技術を開発したと発表。360度の方向から計測することで、検査者の熟練度に依存せず「簡便・無痛・高精度」な検診が可能になるという。イヌの臨床腫瘍を用いて5mmの腫瘍検出に成功しており、この4月からは北海道大学病院と共同でヒトの臨床腫瘍を用いた研究をすでに開始。今後、装置の実用化を目指していくとしている。
乳がんは、現在日本でも世界でも女性のがん罹患数第1位。日本人女性の11人に1人が乳がんを患っていると言われている。治療には早期発見が重要だが、乳がん検診受診率は非常に低く、厚生労働省「2014年度地域保健・健康増進事業報告」によればわずか26.1%。マンモグラフィによる検診には痛みを伴うことが、原因のひとつとされる。微量とはいえ、放射線被ばくを受けるのも、忌避材料となっていることは否めない。
また、マンモグラフィは発見できる病変の大きさに限度があり、1cm以下の病変を見つけるのは非常に困難。しかも、日本人を含むアジア人は高濃度乳腺(デンスブレスト)である場合が多く、マンモグラフィで撮影すると全体的に白い画像となってしまう。がんも白く写るため、乳腺に隠れて見えない可能性がある。
痛みを伴わず、デンプレストである場合にも適切な診断ができる方法として乳腺エコー(超音波)があるが、プロープを動かしながら動く画面を見て評価しなければならない。そのため、熟練した検査者でなければ病変を見つけられないという課題があった。
日立製作所が開発した新たな超音波計測技術は、そうした問題点をクリアする画期的なものだ。まず、従来は1方向から照射した超音波に対し、後方に反射した音波のみを取得していたが、360度の方向から照射・取得・解析。腫瘍の硬さや粘性、表面の粗さが計測可能となっており、腫瘍の特性を把握しやすくなったため、良性・悪性の判定精度も高められる。エコーでは難しいとされてきた乳腺内の微小石灰化も可視化できるようになっているほか、測定時間も1分程度と短い。
計測装置にも独自の工夫を凝らす。従来のエコーはプロープにゼリーを塗って乳房に押し当てていたが、効率的に計測を行うため水を満たした検査容器に乳房を入れる方式を採用。360度方向から超音波を照射して自動スキャンできる仕組みになっており、痛みを伴うこともない。複数の受診者が利用した場合の感染リスクを軽減するため、超音波デバイスと乳房を容器で分離する構造にすることで、消毒・殺菌の時間も短縮させている。
日立製作所は、この超音波測定装置を2020年までに実用化させたい意向。患者に負担をかけず、検査者の熟練度に依存しなくて済むため、乳がん検診の受診率を押し上げる検査機器になる可能性は十分にある。今のうちにリサーチを行い、実用化された際に導入するかどうか検討を進めておいてはいかがだろうか。
◆ 効率的な夜間往診を行う「スマート往診システム」を開発
往診の需要拡大と救急車の出動数を抑制する効果が期待できる
――株式会社シェアメディカル
5月11日、医療用チャットサービスを提供している株式会社シェアメディカルは、夜間往診サービスを手がける株式会社FastDoctorと戦略的提携を結んだことを発表。スマートフォンアプリを活用した往診システム「スマート往診」を8月までにリリースする予定。対象エリアは東京23区と千葉県の一部。2020年までに都内での夜間往診シェア30%を目指すとした。
「スマート往診」は、必要なときにアプリで医師を呼ぶことができるサービス。決済はクレジットカードで行う。患者はあらかじめ保険証やクレジットカードの情報を登録しておけば、診療後に保険診療の自己負担分と交通費が決済されるため、キャッシュレスで治療を受けることができる。つまり、医療機関としても未収金や釣り銭への配慮を行う必要がないというわけだ。
医師は、ドライバーの運転する車で患者のもとへ向かうため、移動中もチャットを活用して患者とコミュニケーションを図ることができる。到着予定時間が確認できるのも大きなメリットだ。カルテへの記載に至るまで「スマート往診」のアプリで完結できるため、医師にとっても活用しやすい仕組みとなっている。
個人向けだけでなく、法人・団体での活用が見込めるのも注目したいポイント。シェアメディカル社によれば、マンションデベロッパーに入居者向け付帯サービスとして働きかけているほか、高齢者見守りサービスを展開する介護事業者と連携して異常時に医師が駆けつけるサービスを展開することも視野に入れているという。
また、夜間の往診需要の掘り起こしが見込めるため、救急車の過剰出動を抑制する効果も期待できる。夜間に救急車で搬送する患者の95%は軽症者であるとの統計もあり、夜間往診の需要が増えれば、重症者の効率的な救急治療も可能となるのではないだろうか。さらに、家庭の事情や育児などで限られた時間しか働けない医師に対して、働き方の選択肢を提供することもできる。医療機関の経営方法の可能性を広げるという意味でも、今後の動きに注目したい新サービスと言えよう。
◆ 厚労省、度重なるクレームを受けて「脱毛施術」に警告
十分なインフォームド・コンセントと広告への指導を徹底
――厚生労働省
55月11日、厚生労働省医政局は都道府県の衛生主管部(局)に対して、脱毛施術に対する指導を徹底させるよう事務連絡を行った。具体的には、十分なインフォームド・コンセントがなされるように指導すること、法律に抵触したり消費者に誤認を与えたりするおそれのある広告・ホームページに対して指導することを求めている。
この事務連絡は、同日に発表された独立行政法人国民生活センターの「なくならない脱毛施術による危害」を受けてのもの。同センターは、医療機関やエステサロンで脱毛施術を受けた人を対象にインターネットアンケート調査を実施。その結果、回答者の約4分の1が脱毛を受けたあとに「やけど、痛み、ヒリヒリ感などの身体症状が生じた経験がある」と回答。それを受け、行政に対して「脱毛を行う医療機関において十分なインフォームド・コンセントがなされるよう、指導を行うこと」「法律に抵触するおそれのある医療機関の広告について、指導を徹底するよう要望、また、消費者に誤認を与えるおそれのある医療機関のホームページについて、指導を行うこと」などを要望した。
いわゆる医療脱毛は、医療レーザー機器を使用できるため、1回の施術による効果が高いとされる。それだけに強力な負荷を皮膚に与えるため、ある程度の痛みを伴うほか、やけどを負ったり炎症を起こしたりする可能性もあり、施術前のインフォームド・コンセントが欠かせない。しかし、今回、改めて厚労省から指導の徹底が通知されたということは、「十分なインフォームド・コンセントを受けていない」と感じている患者が多いことを意味しており、トラブル防止のためにも事前説明の徹底と同意を取り付ける必要性が求められていると言えよう。
また、厚労省は事務連絡の中で「医師でない者が診断を行っている等の医師法(昭和 23 年法律第 201号)に違反する行為に関する情報に接した際には、適切な指導等を行うほか、必要に応じて、警察等の関係機関と適切な連携を図られるようお願いいたします」としている。つまり、医師以外のスタッフがレーザー機器を使用して施術した場合、警察への通報を行うべきだとしているわけで、より注意を払う必要がありそうだ。
さらに、広告のみならずウェブサイトの表現にも言及している点も見逃せない。雑誌やウェブなどの広告に関しては、代理店や媒体社が法律に抵触しないよう注意しているが、医療機関自身が運営するウェブサイトに関しては、それぞれが配慮しなければならない。どの程度ならば誤認を与えると指摘されないのか、外部の専門家などの意見を取り入れることも視野に入れる必要があるのではないだろうか。
◆ クラウドプラットフォームを活用した遠隔地医療研修ソリューションが登場
時間や場所の制約を受けずに、臨床実習の研修受講が可能に
――株式会社日立産業制御ソリューションズ
5月22日、株式会社日立産業制御ソリューションズは、遠隔地での医療研修受講が可能なソリューションの提供を開始したと発表。時間や場所の制約を受けず、効率的に臨床実習の研修を受講できる環境を実現させる。地方での分院展開を目指す医療法人にとっては、人材育成コスト削減に役立ちそうだ。
このソリューションは、日本マイクロソフト株式会社のクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上にSaaS型医療研修基盤クラウドとして構築した研修教材やライブ配信などの各種機能と連携。医療研修センター内に設置したカメラや生体情報モニター、プロジェクター、電子黒板などの各種機器を統合管理したうえで運用する。つまり、研修センターから離れた場所にいても、センターで実施する研修をアクティブ・ラーニング形式で能動的に受講できるというわけだ。
もちろん、実習の映像を研修後に閲覧することもできるため、研修センターで受講したとしても復習効果による理解向上へとつなげたり、現場での知識共有へと活かしたりすることもできる。
臨床技術の地域格差は近年問題視されており、効率的かつ均一な学習環境の整備が求められている。2023年からは、世界医学教育連盟などの認証がない医学部の卒業生は米国医師国家試験受験が認められなくなることから、日本でもグローバルスタンダードの適用が必要だとする、いわゆる「2023年問題」の対策のためにも、臨床技術向上は欠かせない。
クラウドによるシステムのため、管理者側のマネジメントが容易なのも注目ポイントだ。受講者がそれまでにどのような研修を受け、今後どのような研修を受ける必要があるか実績管理ができるため、適切な研修計画の作成にも役立つ。すでに複数の施設を有していたり、今後分院展開を考えていたりする医療法人にとっては、人材育成を効率的に行うことも可能となるだろう。日立産業制御ソリューションズに限らず、今後2023年問題の解決を視野に入れた研修ツールが次々に登場することも予測されるため、医療機関としては今のうちに検討を進めておいて損がないと言えそうだ。