ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2017年6月8日号)
◆「2025年問題」に向け都道府県の保健ガバナンスを強化
入院基本料、外来受診時の定額負担など見直しへ 骨太の方針素案
5月30日、「官民データ活用推進基本計画」が閣議決定された。現状は都道府県によって異なるレセプト審査のルールの統一を進め、医療保険業務の効率化を図る。不要な審査を排除することにより、約400億円のコスト削減を目指す。
「官民データ活用推進基本計画」は、閣議に先立って開催された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)と官民データ活用推進戦略会議の合同会議で策定された。レセプト審査ルールを統一させるため、全国共通の審査システムを2020年までに立ち上げ、各医療機関に審査ルールを公開する方針だ。併せて、レセプト審査機関である社会保険診療報酬支払基金の人件費も削減し、審査業務にかかるコストを圧縮していく。
現在、レセプト審査は年間で約20億件にのぼる。審査ルールが統一されていないため、地域差があるだけでなく、審査員によっても審査結果に違いが生じている。そのため、無駄な返戻が多いとの指摘が相次いでいた。差し戻しが増えれば、必然的に支払基金の作業量が嵩み、人件費が増えることにつながるわけで、効率化を図るためにも審査ルールの統一化が求められていた。
また、レセプトを医療ビッグデータとして活用するため、審査システムそのものをゼロベースで見直す方針がすでに決まっていることもあり、共通のシステムを立ち上げることになった次第だ。昨年12月には厚生労働省の「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」で提言が取りまとめられており、医療機関が事前にコンピュータチェックできるようになる見込みだ。社会保険診療報酬支払基金が一元的にシステムを構築し、各医療機関が活用できる仕組みにする方向のため、医療機関側が新たにシステム構築することにはならない。
レセプトの形式も、一元化したコンピュータチェックルールに適した内容へと見直される方向。具体的には、コンピュータチェックでエラーとなった請求項目のうち、詳細記述項目の内容をテキスト解析し、頻繁に記述される項目については、オプションとして選択式項目を用意する。医療行為を行った理由や対象部位などを選択して送付できるシステムとすることで、処理時間の短縮を図る。医療機関にとって、レセプト処理は時間と労力を必要とする作業のひとつだけに、実際にどのようなシステムが導入されるのか、レセプトの形式がどうなるかの動向は、今後も注視するべき事項のひとつと言えるだろう。
◆「7対1」施設の98%は昨年度改定後も継続
ただし一部を休床や「10対1」に転換した施設も
――厚生労働省
6月7日、厚生労働省の中央社会保険医療協議会は「入院医療等の調査・評価分科会」を開催。昨年度の「入院医療等における実態調査結果」を報告した。
昨年度の診療報酬改定前に7対1を届け出ていた施設のうち、昨年11月1日時点で変わらず7対1を届け出ている施設は98.0%あったが、そのうち一部を休床した施設が11.3%あったほか、一部または全部を地域包括ケア病棟入院料1もしくは地域包括ケア入院医療管理料1へと転換した施設や、10対1へと転換した施設もあった。
しかし、7対1から10対1への転換を視野に入れて、時限的に7対1と10対1が混在することを認める「病棟群単位の入院基本料届け出」を実施した施設はたった8施設にとどまった。今後も届け出予定がないとしている病院がほとんどであり、10対1への転換を促す施策として機能していないと言える。看護師の必要数が少なくなり、人件費を抑制できるのが10対1のメリットだが、肝心の売上が減少することを大多数の病院が嫌ったということだろう。
また、7対1を届け出ている全国271病院の在宅復帰率は平均92.5%。在宅復帰率が90%を超える医療機関は、全体の約75%を占めることも判明。在宅復帰率の基準値は80%に設定されているため、数字上は十分な成果が出ている。しかし、在宅復帰率には回復期リハビリテーション病棟へ転院した患者数も含まれるため、「自宅に戻った」数値とは言えず、同日の分科会では抜本的な見直しを求める声も上がっている。
なお、病床利用率を見ると、診療報酬改定前の2015年10月には79.0%だったのが、改定後の2016年10月には78.2%と減少。病床利用率は重症患者の数に左右されるため、競合の7対1病院との競争が激化していることも読み取れよう。前述したように休床の手続きをするなど、「その場しのぎ」の対応をするケースが増えてくることも予測される。
6月2日に発表された「骨太の方針」では、入院基本料の見直しも俎上にのせられることが明らかになった。前回の診療報酬改定でも7対1の認定基準が厳しくなったが、さらに基準が厳しくなる可能性もある。そうした状況を踏まえれば、7対1の維持を目指すだけでなく、根本的に経営を見直して効率化を図るのもひとつの選択肢になってくるのではないだろうか。
◆左心耳閉塞用クリップ使用の場合、2,500点を算定
潰瘍性大腸炎や悪性腫瘍組織検査の算定も一部変更
――厚生労働省
5月31日、厚生労働省保険局は診療報酬の算定方法や点数の改正について2通の通知を発出。大動脈瘤切除術などで左心耳閉塞用クリップを使用した場合に2,500点を算定することや、悪性腫瘍組織検査、潰瘍性大腸炎などの検査の算定方法が変わることを明らかにした。
これらを通知したのは、「『診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について』等の一部改正について」および「検査料の点数の取り扱いについて」の2通。いずれも6月1日から適用されている。
まず、「『診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について』等の一部改正について」では、左心耳閉塞用クリップについて言及。1個を限度に「自動縫合器加算」の所定点数である2500点が算定され、これまで算定対象の手術に含まれていなかった大動脈瘤切除術などが適用される。診療実態に合わせて診療報酬の取り扱いを変えたというわけだ。さらに、「特定保険医療材料の定義について」として、血管内手術用カテーテルの機能区分を一部変更していることも通知。「下大静脈留置フィルターセット(1区分)」を「下大静脈留置フィルターセット(2区分)」に改めている。
「検査料の点数の取り扱いについて」では、複数の検査の算定方法が変わったことを通知している。まず、悪性腫瘍組織検査については、肺がんの検査として行うROS1融合遺伝子検査を、EGFR遺伝子検査(リアルタイムPCR法)の所定点数に準じて算定するとしている。これは、患者1人1回に限り算定され、検査の結果と選択した治療法を診療報酬明細書の摘要欄に記載する必要がある。
潰瘍性大腸炎の病態把握を目的とするカルプロテクチン測定は、抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)の所定点数に準じて算定される。3カ月に1回が限度としているが、医学的な必要性から3カ月に2回以上行う場合は、詳細な理由と検査結果を診療報酬明細書の摘要欄に記載しなければならない。その場合も、1カ月1回を限度としている。
◆改正医療法成立 ウェブサイトの表記にも規制
違反した場合6カ月以下の懲役もしくは30万円の罰金
6月7日、参議院本会議で改正医療法(医療法等の一部を改正する法律案)が全会一致で可決され、成立した。医療機関のウェブサイトで虚偽・誇大な治療効果を謳うことが規制されることになる。
これまで、ウェブにおいてはバナー広告のみが医療広告規制の対象となっており、各医療機関が開設しているウェブサイトは規制の対象外だった。そのため、治療効果や料金など、医療広告では表現できないことも、ウェブサイト上では自由に掲載できていた。
厚生労働省も、ウェブサイトを「情報提供媒体」と受け止めており、積極的な対策をしてこなかった。2012年に「医療機関ホームページガイドライン」を策定したものの、自主規制の域を出ず、罰則規定もなかったため実効性はほとんどなかった。テレビやラジオ、雑誌とした既存のマスメディアは独自に審査機能を設けているため、ある程度の歯止めが期待できたが、ウェブサイトは各医療機関が独自に制作するため、野放しの状態だったと言える。
一方、現在のスマートフォン普及率は7割を超えていると言われており、ウェブサイトを閲覧して受診先を決める患者は増えるばかり。とりわけ、脱毛や脂肪吸引といった美容医療の分野で、健康被害や契約トラブルが続出していた。今後は、自治体が医療機関のウェブサイトを監視し、違反を指摘していく。指導に従わない場合は、罰則の対象となる。特に、美容皮膚科や美容外科といった美容医療を手がけている病院、診療所のホームページは厳しくチェックされる可能性がある。具体的な掲載基準や、改正法の施行時期は今後定められるが、遅くとも来年6月までには施行されるため、できるだけ早くウェブサイトの表現を適正なものに修正しておく必要がある。どの程度の内容ならば掲載可能なのか、厚生労働省の「医療広告ガイドライン」などを参考にして対策を進めておきたい。