ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2017年6月23日号)
◆次期介護報酬改定、通所介護は機能訓練の強化がポイントに
実施しない場合のディスインセンティブが厳しくなる可能性も
――厚生労働省
6月21日、厚生労働省は社会保障審議会介護給付費分科会を開催。来年度の介護報酬改定に向けて議論を展開し、通所介護については、機能訓練の強化を評価に反映する方針を示した。
通所介護は、前回(2015年度)の介護報酬改定で個別機能訓練加算が強化されたほか、延長加算の対象範囲が最大14時間まで拡大された。自立支援を促すとともに、家族介護者が仕事と介護を両立できるようにするのが目的で、後者はアベノミクスの第2ステージとして打ち出された「新3本の矢」のひとつとして、「介護離職ゼロ」という数値目標にもなっている。
これらの方針は、次期介護報酬改定でも引き続き焦点となる見込み。機能訓練の強化については、財務省が今年4月の財政制度等審議会財政制度分科会に提出した資料についても言及。「機能訓練などの自立支援・重度化防止に向けた質の高いサービス提供がほとんど行われていないような場合には、事業所の規模にかかわらず、基本報酬の減算措置も含めた介護報酬の適正化を図るべき」の文言を引用して資料を作成しており、ディスインセンティブが強化される可能性も十分にあるだろう。
なお、通所介護の事業所数は年々増加。介護保険制度がスタートした翌年度の2001年度末は9,726カ所だったが、2015年度末には43,440カ所と約4.5倍になっている。利用者数は2015年度末現在で約190万人となっており、介護サービス利用者全体(約518万人)の2.7人に1人が利用している計算となる。
サービス提供時間区分ごとの利用状況としては、「7時間以上9時間未満」が58%ともっとも多く、次いで「5時間以上7時間未満」が29%、「3時間以上5時間未満」が12%となっている(いずれも2015年度末のデータ)。サービス提供時間に関しては、通所リハビリテーションももっとも長い「6時間以上8時間未満」を算定している割合が高いため、通所介護との役割を明確化するべきとの指摘もある。昨年12月に開かれた社会保障審議会介護保険部会では、時間区分を通所介護と通所リハビリテーションで分けるといった特徴付けを行うべきといった意見も挙がっており、この点も見直しの対象となる可能性がある。
ただし、機能訓練の強化ばかりが重んじられると通所リハビリテーションとの役割分担が不明確になるばかりか、「介護離職ゼロ」を踏まえるといわゆるレスパイトケア(利用者の家族の身体的および精神的負担の軽減)の充実も図る必要がある。どこを線引きのポイントとするかが、今後の論点となってきそうだ。
◆通所リハビリテーション、短時間サービスの評価を高める可能性も
医療と介護の連携の円滑化を図るため、実施医療機関の増加も促す
――厚生労働省
6月21日の社会保障審議会介護給付費分科会では、通所リハビリテーションについても議論を展開。効果的・効率的な実施を促すため、通所介護との役割分担を明確化させるとともに、短時間サービスの提供を充実させたい考えが示された。また、医療と介護の連携を円滑化させるため、医師の関与を増やし、実施医療機関も増やしていきたいとした。
通所リハビリテーションのサービス提供時間でもっとも算定されているのは、もっとも長い「6時間以上8時間未満」。しかし、厚生労働省はADL向上の平均値を利用時間区分別に見たところ「有意な差は認められなかった」とし、短時間サービスを充実させる意向を明らかにした。介護給付費を減額させることが狙いであることは明らかで、そのためのインセンティブ的な扱いとして、短時間サービスの評価が見直される可能性もあるだろう。
また、前回の2015年度介護報酬改定では、医師による説明などを要件とした「リハビリテーションマネジメント加算(II)」が新設されているが、同加算の届出を行っている事業所は全体の38%と少なく、さらに、実際に算定しているのは全体の12~14%にとどまっていることも指摘された。加算を算定しない理由としては、医師に負担がかかるためリハ会議に参加できない、説明時間が確保できないなどが挙げられている。しかし、厚生労働省は「リハビリテーションの実施の有無のみの指示のものと、その他の詳細が含まれる指示がなされていたものを比較すると、詳細な指示を受けていたものでより大きい機能回復がみられる」と指摘。通所リハビリテーションに、より医師が関与するべきだとした。
医師の関与について、今回改めて言及された背景にあるのは、来年4月から医療保険の脳血管疾患等リハビリテーションと運動器リハビリテーションを受けている患者のうち約3.9万人が、介護保険のリハビリテーションへ移行されるからだ。患者目線で考えれば、リハビリテーションを受ける場所を変えたくないのは当然だが、当該病院に通所リハビリテーション施設がなければ、場所を移らざるを得ず、リハビリ計画の情報共有も難しくなる。そうした意味で、リハビリ関連の医療を実施する医療機関は、通所リハビリテーションも実施したほうがいいというのが厚労省の考えだ。
現状も、通所リハビリテーション事業所の約半数は医療機関だが、通所リハビリテーションの施設基準に適合している医療機関のうち、それを実施しているのは病院の38%、診療所の26%に過ぎない。しかも、将来開設する意向がないとしている医療機関が全体の約9割を占めている。専従する人材や場所が確保できない、利用者の送迎体制を整えることができないなどが、開設意向のない理由として挙げられており、簡単に解決できないレベルの問題であることが窺える。
しかし、地域包括ケアシステムの構築が進められていけば、医療と介護のスムーズな連携が重要なポイントとなっていくことは間違いない。通所リハビリテーションの利用者数は年々増加しており、2025年問題の到来を考えても「成長市場」であることは明らかだ。もちろん、短時間サービスが重視される傾向は勘案しなければならないが、施設基準をクリアしている医療機関は、通所リハビリテーションの開設を検討する価値があるのではないだろうか。
◆介護保険制度の運用は、PDCAを推進して保険者支援機能を強化
ICT利活用を踏まえたビッグデータ活用も明記 介護計画の基本指針案
――厚生労働省
6月21日、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会は、介護計画の基本指針(案)を発表。「介護保険制度の立案及び運用に関するPDCAサイクルの推進」という新たな項目を追加したほか、ICT利活用を踏まえた医療・介護のビッグデータ活用についても複数箇所に明記した。
基本指針は、市町村および都道府県が介護保険事業支援計画を立案する際のガイドラインとなる。介護保険事業支援計画は3年に1度見直され、今回案が示された基本指針は第七期(2018年度から2020年度まで)の策定のために定められる。
前回の基本指針からの変更点として注目されるのは、PDCAサイクルの推進が明記されたことだ。PDCAは「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)」の 4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善させるための手法。介護保険事業支援計画を策定するうえでは、高齢者の自立支援や重度化防止の取り組み推進が「Plan(計画)」にあたる。今年5月に改正された介護保険法では、高齢者の自立支援や重度化防止の取組に関する目標を計画に記載するとともに、目標に対する実績評価及び評価結果の公表を行い、実績評価を厚生労働大臣に報告することとなっている。
このPDCAサイクルについて、新たに項目を設けて明記したことは、介護サービスを実施する事業者側にも影響をおよぼすことは間違いない。すでに法改正によってその義務が生じているが、自立支援や重度化防止の取り組みについてより明確に記録する必要が生じたということだ。ひいては、それらの取り組みを重点的に行う必要があるということでもある。次期介護報酬改定で、実施しない事業所に対するディスインセンティブが強化される布石とも受け取れる内容と言えよう。
なお、この日の介護保険部会で提示された資料では、自立支援や重度化防止についての指標について、「今後、通知等で示してまいりたい」との方針を明らかにしている。事業者側としては、どのような指標が策定・定義されるのか、随時チェックして対応していく必要があるだろう。
◆介護給付費、初めて9兆円を突破 15年連続の増加
増加率は2.2%増と前年度の4.6%増に比べて減少
――厚生労働省
6月20日、厚生労働省は年報としては最新のデータとなる2015年度の「介護保険事業状況報告」を発表。介護給付費は9兆976億円と初めて9兆円を突破した。2000年度に介護保険制度がスタートしてから15年連続の増加となるが、増加率は対前年度比2.2%増と、2014年度の4.6%増に比べて減少した。
給付費の内訳を見ていくと、1カ月平均の数値で居宅サービスが3,906億円(54.8%)、施設サービスが2,374億円(33.3%)、地域密着型サービスが842億円(11.8%)。2006年度の数値と比較すると、訪問介護や通所介護などの居宅サービスが49.0%、認知症高齢者や中重度の要介護者が対象となる地域密着型サービスが6.8%だったのが年々増えているのに対し、44.2%だった特養などの施設サービスが年々減らしてきている。
1人あたりの給付費は、2014年度が27万円だったのに対し、26万9,000円と1,000円減少した。減少したのは2006年度以来9年ぶりとなる。2015年度からの介護報酬引き下げや、2015年8月から高所得者の自己負担割合が2割に引き上げられたことが要因となっているのは明らかだ。
なお、要支援・要介護認定者数は2015年3月末で606万人だったのが、2016年3月末時点で620万人に増えており、過去最高を記録。そのうち、第2号被保険者(40歳以上65歳未満の医療保険加入者)は14万人となっている。65歳以上の第1号被保険者のうち、要支援・要介護認定者の占める割合は全国平均で17.9%。地域別に見ていくと20%以上の認定率を記録したのは10県。もっとも高いのは22.2%の和歌山県、次いで21.7%の長崎県だった。逆にもっとも低いのは埼玉県の14.3%、次いで14.9%の千葉県、茨城県だった。
要支援・要介護の区分別に見ていくと、要支援1から要介護2までの「軽度」の認定者が全体の約65.3%を占める(要支援1:89万人、要支援2:86万人、要介護1:122万人、要介護2:108万人)。要介護4は74万人、もっとも重い要介護5は60万人で全体の9.7%だった。