ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2017年9月1日号)
◆介護予防サービス累計受給者数、初の減少
自治体への移行が要因 全体費用額は過去最高を更新
――厚生労働省
8月31日、厚生労働省は2016年度の「介護給付費等実態調査」(昨年5月審査分から今年4月審査分の1年間)の結果を発表。介護予防サービスの年間累計受給者数は128万8,580人となり、2006年度に調査を開始してから初めて減少を記録した(介護給付費等実態調査自体は2001年度から実施)。介護サービスの年間累計受給者数は494万1,390人で過去最高を更新している。
全体の年間累計受給者数は622万7,350人。累計費用額は9兆6,942億円。年間累計受給者数は16年連続、累計費用額は11年連続での過去最高更新となった。累計費用額は前年度比1,794億円増で、過去の調査で2番目に低い増額幅となっている。ちなみに、介護予防サービスの累計費用額は4,581億円、介護サービスの累計費用額は9兆2,343億円。今年4月審査分の受給者1人あたり費用額は月額16万400円で、前年同月比3,300円増となっている。
介護予防サービスの利用者数が初の減少と転じたのも、増額幅が低く抑えられたのも、介護予防サービスが自治体の事業に移行したことが要因とみられる。介護予防サービスには通所介護、通所リハビリテーション、訪問介護などがあるが、2015年度から通所介護と訪問介護が市区町村の事業となった。利用者にとっては、要介護認定を受けなくても、自治体の基本チェックリストの認定を受ければ通所介護および訪問介護が受けられるメリットがある。地域包括ケアシステムの構築を進めるうえでも、自治体が実情に合った対策ができるのは有効だろう。このままスムーズな運営が進めば、要介護度の低い利用者が多いサービスをさらに自治体の事業に移行していく可能性は十分にある。
しかし、自治体によって財政状況が異なるのは歴然たる事実。苦しい財政状況に陥った自治体で通所介護や訪問介護の体制が崩壊するリスクもある。自治体の介護に対する姿勢次第では、介護の質低下を招くおそれもあり、まだ推移を見守りつつ対応策を講じていく段階ではないだろうか。
◆厚労省が「囲い込み」を行っているサ高住事業者を牽制!
「入居者の選択・利用の自由確保」を登録基準とする可能性も示唆
――厚生労働省 老健局高齢者支援課
8月28日、厚生労働省老健局高齢者支援課は「介護保険最新情報Vol.603」を発出。いわゆる「囲い込み」を行っているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の事業者に対して警告を発した。今後、状況が変わらない場合は、登録基準の強化を実行する可能性も示唆。サ高住事業者は、入居者に対する“働きかけ”を控えるなど、接し方に注意を払う必要がありそうだ。
今回発出された通知で厚労省が伝えているのは、主に以下の3点。「必要な在宅サービス(訪問介護やデイサービス)を提供する事業所が地域に存在」、「入居者に近隣の在宅サービスの情報を広く提供」、「特定の事業者に利用を限定させる働きかけをせず、入居者の選択の自由が確保されている」。とりわけ、後ろの2点についてはサ高住の登録基準である「高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針」(基本方針)の五の4(※)を引いたうえで、囲い込みをせず他の医療・介護サービス事業者と連携することを促している。
サ高住の囲い込み問題が注目されたのは、今年2月に大阪府が公表した報告書がきっかけ。この報告書によれば、サ高住や住宅型老人ホームで、個々のひと月の支給限度額に占める実際の介護費の割合はサ高住が平均86.0%、住宅型老人ホームが同90.7%。要介護3以上の1人あたりの介護費はいずれも特養の入所者より高くなっていた。これを受けて財務省が4月の審議会で「実態調査を行ったうえで適正化に向けた対応を検討するべき」と厚労省に要求した。厚労省は同月の社会保障審議会介護給付費分科会で対策強化を検討していく方針を示しており、今回の警告に至った次第だ。
そもそも、サ高住は比較的介護度が低い人が対象。しかし、介護度が低いと介護報酬が低くなってしまうため、不要な介護サービスを受けさせることで売上向上を図っていると考えられる。周辺の事業者にも、サ高住を悪用しようという訪問診療サービスを実施している医療機関の中には、サ高住の紹介で礼金を払うケースもあり、適正化を求める声が高くなっている。次期介護報酬改定前のタイミングでもあり、サ高住関連の引き上げにつながる可能性は決して低くないといえよう。
※厚労省通知で引用されている基本方針五の4:
「高齢者居宅生活支援サービスの提供に当たっては、(中略)入居者からの相談に対応し、必要に応じて適切なサービスに繋ぐことができるよう、地域の保健医療サービス及び福祉サービスの提供主体と連携体制を構築することが望ましい」
「賃貸人又は登録事業者は、入居者が保健医療サービス又は福祉サービスを利用しようとする場合にあっては、賃貸人若しくは登録事業者が直接提供する保健医療サービス若しくは福祉サービス又は賃貸人若しくは登録事業者が委託し若しくは提携する事業者が提供する保健医療サービス若しくは福祉サービスに限定すべきではない」
◆福祉用具貸与の商品コード、「5桁-6桁(半角・英数字)」に統一
コード未記載での介護給付費請求は10月貸与分から返戻される
――厚生労働省 老健局高齢者支援課
8月25日、厚生労働省老健局高齢者支援課は「介護保険最新情報Vol.602」を発出。介護給付費明細書に記載するレンタル福祉用具の商品コードを「5桁-6桁(半角・英数字)」に統一すると通知した。今年10月貸与分(11月の介護給付費請求分)から、コードの記載がない介護給付費の請求は返戻するとしている。
これは、介護給付費の適正化に向けての措置。一般的な水準よりも極端に高いレンタル価格が存在しているため、適切な価格を設定するために厚生労働省が各商品のレンタル価格を把握し、全国平均レンタル価格を公表。同時に、レンタル価格に一定の上限を設ける。上限は「全国平均レンタル価格+1標準偏差」とし、来年10月から施行する予定となっている。
現在、「福祉用具貸与」を介護給付費で請求する際には、介護給付費明細書に5桁-6桁(半角・英数字)のTAISコードもしくはJANコードもしくはローマ字によるメーカー名、商品名を記入するルールとなっている。しかし、JANコードやローマ字記入は一元管理されていないため、TAISコードと同様に5桁-6桁(半角・英数字)に統一し、レンタル価格分析を効率的に進めようとするのが狙い。さらに、JANコードとローマ字記入は「福祉用具届出コード」と定義付けを行っており、情報の的確な把握のために覚えておいたほうがよさそうだ。
同時に本通知では、福祉用具の製造事業者や輸入事業者に対し、9月30日までにTAISコードもしくは「福祉用具届出コード」のいずれかの取得を求めており、10月貸与分からはいずれかのコードを記載しなければならないとした。併せて、利用者が適切に福祉用具を選択できるように、各商品のレンタル価格だけでなく、仕様や機能に関する情報も広く提供することを呼びかけた。さらに、利用者や介護事業者に向けては、福祉用具の選定にあたって公益財団法人テクノエイド協会の福祉用具情報システム(TAIS)を積極的に活用することも求めている。全国平均レンタル価格やレンタル価格の上限については、来年春から夏にかけて公表される予定となっており、TAISを活用するとともに、公表される価格情報も参考にしていくべきだろう。
◆全国老施協、特養の本体報酬引き上げを厚労省に要望
基準費用額の増額も 食費は施設類型の実態に即した設定を求める
――公益社団法人全国老人福祉施設協議会
8月23日、公益社団法人全国老人福祉施設協議会(全国老施協)は厚生労働省に対して「我が国の高齢者の尊厳と自立をまもる介護・福祉の実現に向けた意見~2025 年における高齢者施設・事業所の供給体制確保に向けて~」と題した意見書を提出。来年度の介護報酬改定に向け、特別養護老人ホームにおける本体報酬の引き上げを求めた。基準費用額の増額も求めており、とりわけ食費は施設類型ごと、実態に即した設定が必要としている。
特養の本体報酬引き上げを求めた背景には、全体的に厳しい経営が続いていることがある。前回の2015年度介護報酬改定が9年ぶりのマイナス改定だった影響を受け、2015年度決算値で特養の赤字施設割合は3割以上となる32.4%に達した(全国老施協「介護老人福祉施設等平成27年度収支状況等調査結果」より)。これは、前年度と比べて4.5%アップと過去最悪の結果で、全国老施協は「新たな設備投資や介護従事者への労働環境、処遇改善等に支障をきたしている」と分析している。
また、全国老施協は報酬単価が改定ごとに削られていることも指摘。特養の多床室単価は、介護保険制度がスタートした2000年に比べると約7割程度となっており、これも赤字体質の要因となっているとした。
政府としては、社会保障費増加につながる報酬引き上げはなんとしても避けたいため、加算要件を追加する対応策をとることが考えられる。しかし、全国老施協はそうした対応を予測。加算要件には専門職種の配置を手厚く求めるものも多いことから、「加算額以上に人件費を拠出せざるを得ない」として、あくまで「本体報酬の単価増を求める」と強調している。
また、基準費用額の増額を要望する理由として、とりわけ食費は、物価高騰により事業者の持ち出しが続いていることを挙げた。実際、2015年度の利用者1人1日当たりの給食材料費や調理のための人件費、委託費が平均1,442円であるのに対し、食費収入は約1,375円。差額の67円は事業者が負担する状況となっている。全国老施協は、定員80名であれば年額195万円となることを指摘し、「増額を行うべき」と強く主張。さらに、厚労省の調査は全施設類型の平均値のため実態と乖離しているとして、特養、老健、療養の施設類型ごとに調査を行い、実態に即した基準費用額の設定を行うよう求めている。
その他、介護職員処遇改善加算については、介護職員以外の生活相談員や看護職員などの直接処遇職員にも適用するよう要望。看取りが増えていることも受け、介護職員が提供できる医療行為の拡大と、それに伴って報酬上の評価を行うよう求めた。看取りについては、看取り介護加算のさらなる充実や、配置医師への評価、死亡診断に関する柔軟な運用にも触れている。9月に入って、社会保障審議会介護給付費分科会では事業者団体ヒアリングが始まるなど、改定に向けた議論が本格化していく中で、これらの要望がどのような影響を与えるのか注目される。