ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2018年1月18日号)
◆「ロボット支援下内視鏡手術」、大幅に保険適用範囲を拡大
胃がん、肺がん、直腸がん、子宮がんなど12の術式を承認
―厚生労働省 中央社会保険医療協議会総会
1月17日、厚生労働省の中央社会保険医療協議会総会は「ロボット支援下内視鏡手術」の保険適用範囲の大幅な拡大を決めた。胃がん、肺がん、直腸がん、子宮がんなど12の術式の保険収載を承認(※)。2018年度から適用される。
「ロボット支援下内視鏡手術」は、もともとアメリカが軍用に開発したもの。1999年にda Vinci(ダ・ヴィンチ)と名付けられた製品が完成し、翌2000年にFDA(アメリカ食品医薬品局)で承認された。日本ロボット外科学会によれば、2016年9月末現在で世界3,803台、日本では237台が導入されている。
ロボットを活用する最大のメリットは、低侵襲であるということだ。傷口は8~12mm程度で、最大で6カ所とされており、手術に伴う出血量をごく少量に抑えることが可能。必然的に痛みや合併症のリスクを軽減できる。10倍に拡大した3D画像をディスプレイで映し出すため、広い視野が確保でき、術者の負担も軽いとされる。
日本で初めて保険収載されたのは2012年。現在、保険適用されているのは腎がん(70,730点)および前立腺がん(95,280点)の2つのみとなっている。今ひとつ適用範囲が広がらなかった理由としては、既存の内視鏡手術と比べたときに明確な優位性を示すエビデンスがないのが大きい。とはいえ、前述したような安全性や操作性の高さが期待できることから、「効率的な医療」のために保険適用範囲を一気に拡大したのではないか。
優位性を示すエビデンスがない現状では、既存の手術と同程度の点数に落ち着く可能性もあるため、経営的にda Vinciの導入に見合う費用対効果が得られるかどうかは不透明だ。しかし、中長期的に見れば、今後低侵襲を実現するロボット支援手術にどんどんシフトしていくことは間違いない。少なくとも医師は、ロボット技術に対応した技術を習得しておくことが必須となっていくだろう。da Vinciを導入していることが病院のセールスポイントとなる日も遠くないかもしれない。
※2018年度から新たに保険収載されるロボット支援下内視鏡手術
・胃悪性腫瘍手術(全摘)(ロボット支援)
・胃悪性腫瘍手術(噴門側切除)(ロボット支援)
・胃悪性腫瘍手術(切除)(ロボット支援)
・肺悪性腫瘍手術 肺葉切除(ロボット支援)
・縦隔腫瘍摘出術(ロボット支援)
・肺悪性腫瘍手術 区域切除(ロボット支援)
・拡大胸腺摘出術(重症筋無力症に対する) (ロボット支援)
・子宮悪性腫瘍手術(ロボット支援、単純切除)
・ロボット支援下子宮全摘術
・ロボット支援手術(喉頭・下咽頭悪性腫瘍手術、中咽頭悪性腫瘍手術(前壁切除)、中咽頭悪性腫瘍手術(前壁以外))、内視鏡下手術用ロボットを用いた内視鏡下咽喉頭切除術
・ロボット支援直腸手術
・ロボット支援食道手術
・膀胱悪性腫瘍手術(回腸導管造設)(ロボット支援下)
・膀胱悪性腫瘍手術(代用膀胱造設)(ロボット支援下)
・膀胱悪性腫瘍手術(ロボット支援下)
◆厚労省、終末期医療ガイドラインの改訂案を提示
自宅や介護施設での看取りが増えることを意識した内容に
―厚生労働省 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会
厚生労働省は、1月17日に開催した「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」において、終末期医療ガイドラインの改訂案を提示。病院以外での看取りが増えることを想定した内容を盛り込んでいる。
終末期医療ガイドラインは、2007年に策定された。当初は「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」だったが、2015年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」へと名称変更。内容が大幅に変わるのは、策定されて11年目の今回が初めてとなる。
厚労省が内容変更に踏み切ったのは、自宅や介護施設での看取りが増えてきたことが背景にある。これまでは病院での活用を想定していたため、冒頭で「患者が医療従事者と話し合いを行い」としていたが、「患者が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い」と大幅に加筆。医療従事者以外が看取るケースに対応したガイドラインであることを示した形となっている。
また、患者が認知症を発症しているケースを想定した文言も盛り込んだ。「患者が自らの意思を伝えられない状態になる可能性がある」との文言が盛り込まれ、「患者は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことが望ましい」としている。つまり、事前に患者の家族などと繰り返し話し合うとともに、「何を望むか」「何が最善なのか」の意思決定者を決めておく必要があるというわけだ。患者本人のインフォームドコンセントを重視するだけでなく、その家族との合意形成が求められるため、よりきめ細かい対応が必要になるといえるのではないか。
なお、意思決定者の要件については言及されていない。ケースバイケースでの対応にならざるを得ないのが難点であり、今後は成年後見制度や特別代理人などの制度との連携が必要となってくる可能性もある。
この厚労省案に対し、会合に出席した構成員からは「アドバイスケアプランニング(ACP)」の文言を入れるべきとの意見も出た。ACPは、「意思決定能力の低下に備え、患者やその家族と治療の目標や治療内容について話し合うプロセス」のこと。厚労省案には「繰り返し話し合う」との文言は盛り込まれているが、平易な表現のため重要度が伝わりにくい可能性もある。終末期医療の質を向上させ、その精神を普及啓発させるためにも、ACPのように考え方を一言に集約させた表現は有効だろう。今後、パブリックコメントを募って2月末には内容を確定させるスケジュールとなっており、そのあたりがどのように反映されるか注視したい。
◆医師の労働時間短縮に向け「緊急的な取組」の骨子案まとめる
勤務間インターバルや完全休日の設定、複数主治医制の導入なども
――厚生労働省 医師の働き方改革に関する検討会
厚生労働省は、1月15日の「医師の働き方改革に関する検討会」で「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」の骨子案を提示。勤務間インターバルや完全休日を設定するほか、複数主治医制の導入などを推し進めていく方針を明らかにした。
提示された骨子案は「(1)医師の労働時間管理の適正化」「(2)36協定の自己点検」「(3)既存の産業保健の仕組みの活用」「(4)タスク・シフティング(業務の移管)の推進」「(5) 女性医師等に対する支援」「(6)医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組」の6項目。
(1)は、在院時間の客観的な把握を求めており、ICカードやタイムカードなどが導入されていない場合は、出退勤時間の記録を上司が確認するなどの手立てが必要としている。(2)の36協定(さぶろくきょうてい)は、労働基準法36条に基づく労使協定のことで、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働を命じる場合に必要。36協定を時間外労働の限度時間は1カ月45時間、1年間360時間となっており、その時間数を超えていないかどうかを点検し、必要に応じて見直すことを求めている。
(3)は、各医療機関が設けている産業保健の仕組みが活用されていない現状を踏まえての取り組み案。(1)(2)の把握をしたうえで見直す必要性を提示したものだ。(4)のタスク・シフティングは、医師の業務負担軽減のための取り組み。労働時間の長い医師の業務内容を再検討し、関係職種で可能な限り業務分担することを求めている。この項目については、他の病院団体よりも大学病院でタスク・シフティングが進んでいない現状が明記されているのが目を引く。今後、大学病院での勤務実態に行政の監視が厳しくなることを示唆しているといえよう。そして(5)は、女性医師が出産・育児などのライフイベントでキャリアの形成が阻害されないことを目的としている。
ここまで紹介した5項目は法で定められているため、厚労省も「当然取り組むべきもの」との認識を示した。これらを改めて提示しなければならない医療界の現状は、医療従事者の「働き方」が一般社会とかけ離れていることを表していよう。むしろ最後の「(6)医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組」こそが、医師の働き方改革に向けた新たな取り組みといえる。(6)で示したのは「勤務時間外に緊急でない患者の病状説明等の対応を行わない」「当直明けの勤務負担の緩和(連続勤務時間数を考慮した退勤時刻の設定)」「勤務間インターバルや完全休日の設定」「複数主治医制の導入」の4点。しかし、これらは十分な人材確保がなされてはじめて取り組める内容でもあり、単に提示するのみでは形骸化する恐れもある。同省は2月に予定されている次回会合で議論を深める方針だが、現場で医療に従事している構成員からどのような意見が出されるのか注目したいところだ。
◆医療制度への満足度、約4割が不満 日本政策医療機構の世論調査
「セルフメディケーション税制」の認知度は約1割にとどまる
――特定非営利活動法人日本医療政策機構
特定非営利活動法人日本医療政策機構は、1月18日に「2017年 日本の医療に関する世論調査」の結果を発表。医療制度に対する満足度について、約4割が不満を感じていることがわかった。また、2017年1月からスタートした「セルフメディケーション税制」については、約9割が詳しい内容を知らないことも明らかとなっている。
医療制度に対する満足度に関する設問で、「全般的な満足度」に対しては「やや不満」「大いに不満」と不満を示している回答が計39.7%にものぼった。一方で「大いに満足」「やや満足」が計47.0%と約半数あり、満足している層と不満を感じている層で二極化していることが浮き彫りになっている。これは、日本の医療の特徴であるフリーアクセスに関しても同様であり、「医療機関を自由に選ぶことができる」の回答で「大いに満足」「やや満足」が計53.7%であるのに対し、「やや不満」「大いに不満」が計32.5%、「わからない」が13.8%だった。
これらの結果から読み取れるのは、医療制度に対する理解が進んでいない状況ではないだろうか。それが顕著になって表れているのが「セルフメディケーション税制」に対する認知度の低さだ。「セルフメディケーション税制」は、健康診断を受けている人が市販薬を購入すれば所得控除を受けられる仕組み(年間1万2,000円を超えて購入した場合に、超えた金額が控除される。上限は8万8,000円)。ある程度健康である人にとっては、年間1万2,000円というのは市販薬に費やすには大きい金額である可能性があることや、従来の医療費控除と併用できないことも、周知が広まらない要因とかんがえられるが、それにしても低い認知度だといえよう。受診頻度を高めるためにも、健康診断を実施する医療機関が広報に努める必要があるのではないか。
なお、日本医療政策機構では、「国民が求める医療や医療政策課題等に関する国民の意識・意見を把握」することを目的に、2006年から世論調査を行っている。今回の調査は2017年11月に、全国の20歳以上の男女1,000人を対象として実施。同機構はインターネット調査について「回答者がインターネットを使用できる人に限定されることや、インターネットリテラシーと教育水準に相関があることなどから、一定のサンプリングバイアスが生じることが指摘」されていることに言及し、今回の調査の解釈についても「こうした限界に留意する必要がある」としている。