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医療経営情報(2018年7月12日号)

2018/7/25

◆来年度予算の概算要求基準を閣議了解         社会保障費は6,000億円の自然増を認める

政府は、7月10日に2019年度予算の概算要求基準を閣議了解した。年金や医療費などの社会保障費は31兆5,000億円で、高齢者の増加などに伴う自然増は6,000億円まで認めている。各省庁は、この概算要求基準に従って8月末日までに概算要求を提出する必要がある。

今年度予算で、厚生労働省は過去最大となる31兆4298円の概算要求を提出。社会保障費は6,300億円の増加を見込んでいた。しかし、財務省は5,000億円程度に抑制することを求めていたため、解決策としてひねり出したのが、診療報酬における薬価のマイナス改定だった。医科・歯科のいわゆる本体部分は、2016年度の前回改定の0.49%を上回る0.55%増となったが、薬価はマイナス1.7%となり、1,300億円の財源を確保。かろうじて自然増分を5,000億円以内に抑え込んだ結果となった。

しかし、高齢者の増加数を踏まえれば、自然増分をこれ以上抑制することが難しいのは、火を見るより明らか。そのため、今回の概算要求基準では「5,000億円」の目安を記載せず、昨年の厚労省の概算要求を踏まえて6,000億円とした形となった。しかし、それでも昨年度の額よりも300億円少ないため、厚労省は困難な調整を求められること必至。消費税率引き上げで得られる財源をどのように振り分けるかも見据え、熾烈な駆け引きが関係省庁間で繰り広げられることになる。

なお、来年10月に予定されている消費税率引き上げは「予算編成過程において検討」としており、今回の概算要求基準では考慮されていない。6月に閣議決定された「骨太方針2018」では、消費税増税によって確保される5兆円規模の財源は「教育負担の軽減・子育て層支援・介護人材の確保等」および財政再建に充当するとしているほか、2013年に制定された「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」では社会保障給付の重点化も盛り込まれている。増税分の活用法をめぐる議論の行方によって、診療報酬のあり方も変わってくるだけに、来年度予算の概算要求がどのような形になるか例年以上に注目を集めることとなるだろう。

◆医師の宿日直、「中間的な働き方」の創設を
日医主導の検討会が提言 厳密な労働時間管理には否定的

―厚生労働省 医師の働き方改革に関する検討会
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は、7月9日に「医師の働き方改革に関する意見書」を取りまとめた。医師の宿日直については、「中間的な働き方」を制度として創設することを提言。「患者対応を優先できる制度」にするのが目的で、厳密な労働時間管理には否定的な考えを示した。

医師の宿日直は、医療法と労働基準法で意味合いが異なる。医療法では「医師を宿直させなければならない」(第16条)となっているのに対し、労働基準法では「宿直又は日直の勤務で断続的な業務について(中略)これに従事する労働者を(中略)使用することができる」(第23条)となっているため、意見書では「宿日直」「許可を受けた宿日直」「通常業務と同じ宿日直」の3つを定義した。それによれば、「宿日直」は「夜間休日に何らかの業務のために病院に滞在すること」としており、「許可を受けた宿日直」は「監視的・断続的労働とされ、労働時間の適用除外とされたもの」、つまり法令上の宿日直を指すものとした。そして「通常業務と同じ宿日直」は、夜勤を含めて「業務内容が通常と同様であるもの」としている。

わざわざこのように定義したのは、宿日直と通常業務の境界線が曖昧になっている現実があるからだ。意見書では、全国医師ユニオンによる「勤務医労働実態調査2017」の結果を引用しているが、法令上の宿日直に該当する「通常業務ほとんどなし」との回答はわずか13.7%。それに対して、「通常と同じ」が34.5%、「通常より少ない」が47.2%を占めている。

意見書で「医師の宿日直は、入院患者の状態や救急患者の数で日々大きく変動」するとしているように、たとえ「通常より少ない」時間であったとしても、救急対応や入院患者の急変などによって、通常の労働にあたる業務を遂行する時間が発生する。現在の状況は、この時間を通常業務とも宿日直とも判別できないため、「中間的な働き方」としての制度を整え、曖昧な賃金体系から脱しようというわけだ。意見書では、「全拘束時間に占める労働時間の割合」をベースにした基準および賃金案も提示している。

一方、院外オンコール待機については、実際に対応した時間のみを労働時間とみなす考えを示した。裏を返すと、待機時間は労働時間とはみなさないという考えであり、医師の負担を考慮しているとは言い難い。6月29日に改正された「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」により、医療機関側は勤務間インターバルに取り組むことが義務付けられているなど、「医師の働き方」は徐々に見直されつつあるとはいえ、やはり「応召義務」を重視する考え方が変わらないことが浮き彫りになった。日本医師会常任理事の松本吉郎氏は、「時間外労働の上限を『過労死ライン』で設定すると救える患者も救えない」と記者会見で述べており、「中間的な働き方」を制度として創設しても、時間外労働を抑制しようとする意思がないことは明らか。こうした診療側の意見を受け、厚労省側がどのような指針を示すか、今後策定されるであろうガイドラインの内容が注目される。

◆協会けんぽ、8年連続の黒字 黒字額は4,486億円           社会保険の適用拡大を受けた加入者数の増加が要因

―全国健康保険協会
 全国健康保険協会(協会けんぽ)は、7月6日に2017年度の決算見込み(医療分)を発表。収入が9兆9,485億円、支出が9兆4,998億円で、4,486億円の黒字であることがわかった。黒字は8年連続で、過去最高だった2016年度の4,987億円に次ぐ額となった。

「協会けんぽ」は、中小企業が主に加入している公的医療保険。2009年度に5,000億円近い赤字決算となったことから、国庫補助割合や保険料率の引き上げといった特別措置がとられ、翌2010年度から黒字に転換している。

2017年度の収入は2016年度から3,265億円増加。これは、主に保険料収入の増加によるもので、同協会は「保険料を負担する被保険者の人数が3.9%増加した」ことと、「被保険者の賃金(標準報酬月額)が0.6%増加」したことが要因だとしている。とりわけ大きいのは被保険者数の増加だが、その背景にあるのは2016年10月からの社会保険の適用拡大だろう。それまでは、「週30時間以上」の勤務が社会保険の加入要件となっていたが、「週20時間以上」「月額賃金8.8万円以上」へと変更された。格差是正や女性の就業意欲を促進するなどの狙いによるもので、加入者数が87万4,000人増えた要因のひとつとなっている。

一方で、支出も3,765億円増えている。これは、保険給付費の増加が要因で、2016年度に比べて2,366億円伸びている。伸び率は4.2%で、過去最高の黒字をマークした2016年度の伸び率3.2%を上回った。同協会は、2016年度の黒字が同年度に実施された診療報酬のマイナス改定の影響によるものと分析しており、一時的に抑制された伸びが回復したとみられる。

注目したいのは、支出の4割を占める拠出金だ。高齢者医療にかかわるもので、2016年度に比べて1,235億円増加。高齢者数が増えているのに加え、2017年度はマイナス精算(拠出金の概算納付分の戻り)の影響がなかったことが要因となっている。今後、高齢者数は増加の一途をたどるため、拠出金も増えていくことは確実であり、同協会の収支構造に大きな影響を与えることが予想される。

なお、大災害など不測の事態での保険給付費の支払いに備え、積み立てが義務付けられている準備金は、2兆2,573円に達した。これは法定の1カ月分を大きく上回り、約3カ月分となっているため、国庫補助割合や保険料率見直しの対象となる可能性がある。

◆今年度診療報酬改定の影響を2年間で調査 新設の急性期一般入院基本料など、見直しの成果を確認

――厚生労働省 入院医療等の調査・評価分科会
 厚生労働省は、7月12日に開かれた「入院医療等の調査・評価分科会」で、今年度実施された診療報酬改定の成果を2年間かけて調査すると明らかにした。再編・統合によって新たに設けられた急性期一般入院基本料などの成果を確認するための作業で、調査の結果は2020年度の次期改定に影響すること必至だ。

 今年度の診療報酬改定では、旧7対1、10対1が再編・統合された急性期一般入院基本料のほか、地域一般入院基本料、療養病棟入院基本料などが見直された。また、旧7対1は重症患者割合25%以上という施設基準があったのに対し、10対1は重症患者割合に応じた看護必要度加算を設定と、評価基準が統一されていなかったが、「診療実績」として評価されるようになった。それに伴って「重症度、医療・看護必要度II」が新設されるなど、大幅な改革が実行された。その影響が、実際の現場でどのように出ているか確認する今回の調査は、非常に重要なものとなる。

 調査は、入院料の届出状況や職員体制、そして重症度、医療・看護必要度の該当患者割合の状況、そして各入院料における患者の状態や医療提供内容、平均在院日数、入退院支援、退院先の状況など多岐にわたる。調査を2年間かけて行うのは、改定の影響や効果を検証するのに1年ではデータ量が足りないのと、経過措置が設けられている項目があるからだ。

いずれにしても、煩雑な作業となることが想定されるとあって、分科会自体も組織の再編・統合に踏み切っている。「DPC評価分科会」を「入院医療等の調査・評価分科会」に統合。さらに、下部組織として「DPC/PDPS等ワーキンググループ」「診療情報・指標等ワーキンググループ」と2つのワーキンググループを新設し、実作業を託すとともに、専門的な視点からの調査・分析を進める体制にすることも決定。DPCデータを含めて診療報酬の評価・検討を行う組織となるため、より注目すべき会合となることは間違いないのではないか。

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