ホーム > 新着情報 > 介護経営情報(2018年11月9日号)
◆消費税増税の臨時改定、前回増税時と同様の対応か 基本単位数への上乗せ、区分支給限度基準額の引き上げは了承される
―厚生労働省
社会保障審議会介護給付費分科会
厚生労働省は、11月12日に開催された社会保障審議会介護給付費分科会で、来年10月に予定されている消費税率引き上げへの対応策を提示。「基本単位数への上乗せ」と「区分支給限度基準額の引き上げ」については了承された。
介護保険サービスは非課税のため、仕入れに伴う消費税を控除する「仕入税額控除」を行うことができない。そのため、今まで消費税率がアップされた際には、介護報酬を引き上げることで対処してきた。2014年に5%から8%へと増税されたときには、0.63%の引き上げが行われている。
今回も、増税のタイミングである来年10月に臨時改定を実施して対応することが既定路線。基本単位数への上乗せも前回増税時と同様に、人件費その他の非課税品目を除いた課税経費(介護用品費、委託費等)の割合を、2017年度の介護事業経営実態調査の結果から把握。「課税経費割合×(110/108-1)」の計算式で上乗せ率を算出する(※)。
※課税経費割合は「人件費比率マイナスその他の非課税品目率」。(110/108-1)は税率引上げ分。
加算についても8%引き上げ時と同様で、課税費用の割合が大きいと考えられる加算については上乗せを行い、その他の加算は個々に上乗せするのが難しいため、基本単位数に上乗せする際に、これらの加算にかかわる消費税負担分も含めて上乗せする(8%に引き上げられたときは、所定疾患施設療養費、緊急時施設療養費が該当した)。すでに基本単位数で設定されている加算(特別地域加算や中山間地域等における小規模事業所加算など)や、交通費相当額で設定されている福祉用具貸与に関係する加算については、上乗せ対応しない。
前回増税時に据え置かれた食費や居住費などの基準費用額については、業界団体から引き上げを強く要望する声が寄せられている。厚労省も、2017年度の介護事業経営実態調査の結果から、基準費用額を超えているものがあることは認めている。この点については稿を改めてお伝えする。
◆業界団体、基準費用額の引き上げを強く要望
介護費増加への懸念から厚労省は慎重な姿勢
―厚生労働省
社会保障審議会介護給付費分科会
消費税増税に伴う介護報酬の臨時改定について議論が展開された11月12日の社会保障審議会介護給付費分科会。その中で、全国老人福祉施設協議会(全国老施協)は基準費用額の引き上げを強く要望した。厚労省は、介護費が増加することへの懸念から慎重な姿勢を崩していない。
基準費用額とは、国が定める利用者が負担する1日当たりの食費や居住費(水道光熱費含む)の標準的な金額。食費は1,380円、居住費は370~1,970円となっている。利用者の自己負担額(負担限度額)は所得に応じて4段階に分かれており、基準費用額との差額が事業者側に支払われる仕組みだ。
問題は、その差額が食材や水道光熱費の価格変動と連動していない点にある。負担限度額は食費が300~650円、居住費が0~1,310円となっているが、低所得者が多ければ当然事業者側が受け取れる金額は少なくなる。中でも特別養護老人ホームでは食費も居住費も高くなる傾向にあるため、差額の支給のみではまかなえず、事業者が実費を負担せざるを得ないケースが多い。食材のコストが上がっていることに加え、建物の修繕や補修は消費税増税の影響をもっとも受けるため、基準費用額を引き上げて経営への影響を少しでも減らしたいというのが、全国老施協をはじめとする業界団体の本音なのだ。
しかも、食費は2005年10月の改定以降、基準費用額が13年にわたって見直されていない(当時の消費税率は5%)。食材の一部が軽減税率の対象となるなど、複雑な問題も孕んでいるが、全国老施協は「利用者の栄養ケアの充実と食べる楽しさを支援する観点」から、増税分を介護報酬に充てるように要望。居住費については、修繕を賄うには足りないとし、増税分と修繕に伴う費用を見越して介護報酬に上乗せをするように求めた。全国個室ユニット型施設推進協議会も、10月の同分科会で行われたヒアリングで同様の要望を行っている。
ただ、基準費用額が広がれば事業者側へ支払われる介護費も増えるため、40歳以上が負担している介護保険料も間違いなく増えるだろう。健康保険組合が次々に解散危機を迎えている今、さらに負担をかける保険料の上乗せが実施されれば、制度そのものが破綻してしまうリスクもある。一方で、消費税が5%から8%に増加された2014年4月には、見直すほどコスト変動が起きていないことを理由に、基準費用額が据え置かれたこともある。厚労省は、7月に開催された同分科会で据え置きを念頭にした対応案を提示しており、来年10月の臨時改定はあくまで消費税増税対応のために行うという姿勢で一貫している。今回の業界団体の反発をいかに受け止め、納得が得られる対案が出せるのかどうか、議論の行方を引き続き見守りたい。
◆新在留資格による外国人受け入れ、14業種で介護分野が最多 2023年までの5年間で5~6万人 来年度は5,000人
―厚生労働省老健局老人保険課
政府は11月14日の衆議院法務委員会の理事懇談会で、新設を予定している在留資格による外国人受け入れ拡大策での受け入れ対象業種と、受け入れ見込み人数を明らかにした。受け入れ対象は介護、建設、農業、外食など14業種(※)で、来年度からの5年間で34万5,150人を見込んでいる。14業種の中で最多となっているのが介護分野で、5年間で5~6万人の受け入れ見込み。初年度となる来年度は5,000人を受け入れたいとしている。
政府は同時に、各業種でどの程度人材が不足するかの見込み数も提示。それによれば、介護は今年度6万人、5年後の2023年度には30万人不足するとの試算になっている。単純に計算すれば、そのうち5分の1を外国人材で賄おうということだ。安倍晋三首相は、この数値を上限として運用すると発言したが、山下貴司法務相は15日の参議院法務委員会で、この見込み数について「あくまで各省庁で積算した現時点の見込み」と言及。経済情勢の変化などで例外的に対応を迫られる場合があるとしており、上限数に変更が生じる可能性も匂わせている。
なお、新設が予定されている在留資格には、通算5年を上限として家族の帯同も認められない「特定技能1号」と、熟練者向けで在留期間の上限を定めない「特定技能2号」の2つがあるが、受け入れ見込み数を示した今回の試算は「特定技能1号」のみの数値。菅義偉官房長官は、「特定技能2号」の対象業種は現時点で「建設と造船・舶用工業のみ」であることを明らかにしている。「特定技能1号」は、「相当程度の知識又は経験を要する技能を要する業務に従事する外国人」が対象とされているが、「相当程度」の基準は示されておらず、介護をはじめとした各業種の業務を担えるスキルを有しているとは限らない懸念もある。ちなみに根本匠厚生労働相は、15日の参議院厚生労働委員会で「国内人材の確保や生産性向上の取り組みを尽くしたとしてもなお必要」とし、外国人材のみに頼らず国内人材の確保に全力をあげる考えを示している。
政府・与党は外国人受け入れ拡大を今国会の最重要法案と位置づけており、11月2日の閣議で、出入国管理法改正案を閣議決定している。しかし、現行の技能実習制度で外国人実習生が失踪するケースが増えている理由について、法務省の実施した調査にミスがあることが判明。野党がそのミスを突くことで審議入りが遅れるなど、波乱含みの展開となっている。
※新在留資格による外国人受け入れ対象業種
介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造、外食
◆介護付きホーム協会、日本語能力検定の要件を設けないよう要請 新たな在留資格で 技能実習制度の受け入れが進まないことも背景に
一般社団法人全国介護付きホーム協会
一般社団法人全国介護付きホーム協会(代表理事:遠藤健SOMPOケア代表取締役社長)は11月12日、11月8日付けで根本匠厚生労働相あてに意見書を提出したと公表。新設を予定している在留資格では、日本語要件に日本語能力検定の「N4」「N3」といった要件を課さず、受け入れ介護事業所の判断に委ねるような制度設計にすることを求めた。
同協会は、外国人材の日本語能力について「ある程度の日常会話ができ、生活に師匠がない程度」があれば、OJTの中で介護現場に必要なコミュニケーション能力を養成できるとの考えを提示。また、認知症などの疾病を抱える入居者が増えていることを踏まえ、現場では「言葉に偏ったコミュニケーションではなく、ユマニチュード(※)に代表されるアイコンタクトやスキンシップ、笑顔などの非言語のコミュニケーションが重視」されていると言及。日本語能力試験は「介護現場におけるコミュニケーション能力を直截的に図るものではない」とした。
ここまで同協会が踏み込んだ考えを露わにするのは、昨年11月に技能実習制度の対象職種に「介護」が追加されながら、1年を経過した現在となっても受け入れが進んでいない事実が背景にある。技能実習制度では、要件として日本語能力検定の「N4」「N3」が盛り込まれた。「N4」は「基本的な日本語を理解することができる」レベルで、「基本的な語彙や感じを使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解できる」「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼできる」とされている。「N3」はさらに高いスキルで、「新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる」「日常的な場面で目にする難易度がやや高い文章は、言い換え表現が与えられれば、要旨を理解することができる」「日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて、話の具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる」ことが求められる。相当に日本語を学ばなければ到達できない水準であることは明らかで、確かに受け入れ数が伸びない要因のひとつではあるだろう。
同協会は、深刻の度合いを増し続ける介護分野の人手不足について、とりわけ大都市部の要介護高齢者の急増を支えるには外国人材の受け入れが必須と訴えている。実際、介護の有効求人倍率は大都市部で跳ね上がっており、厚労省の昨年5月のデータによれば、全国平均が3.15倍であるのに対し、東京都は5.40倍、愛知県は5.30倍となっている。そのため、とにかくまずは人手を確保したいという現場の痛切な本音が、今回の要請という形で表れたといえるだろう。
※ユマニチュードとは
認知症ケアの技法のひとつ。言葉や身振り、目線などを用いた包括的なコミュニケーション法。フランスで生まれた技法で、日本の医療機関や介護施設でも普及しつつある。