ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2018年11月2日号)
◆予約診療で選定療養費徴収、708施設と2割以上増加 時間外診療も増加傾向に 200床以上病院の初診は微減
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会総会
厚生労働省は11月14日、中央社会保険医療協議会総会で「主な選定療養に係る報告状況」を提示。予約診療で選定療養費を徴収する医療機関は、2016年7月から2017年7月までの1年間で129施設と2割以上増えたことがわかった。時間外診療で選定療養費を徴収している医療機関も、やはり2割近く増えている。一方、200床以上の病院の初診はわずかながら減少した。
選定療養とは、全額自己負担の医療サービス。保険は適用外となる。いわゆる差額ベッド代や紹介状なしでの大病院の初診・再診、予約診療、時間外診療、180日以上の入院などが対象だ。紹介状なしの大病院の初診・再診をめぐっては、2016年度から定額負担が導入され、初診5,000円(歯科3,000円)、再診2,500円(歯科1,000円)が徴収されることとなっている。
予約診療の選定療養費を請求するには、いくつかの要件をクリアしなければならない。院内で内容や費用について掲示するほか、1人当たりの診察時間を10分以上とし、診療科ごとに全患者の診療時間の2割を予約患者向けに確保する必要がある。そうした要件をクリアした医療機関は、昨年7月1日現在で708施設。一昨年7月1日時点では579施設だったため、129施設増えた計算だ。ちなみに、2014年7月1日時点では447施設であり、3年間で361施設増えたことになる。予約料の平均は2,205円で、最低額は70円、最高額は54,000円となっている。
高額な予約料を徴収する医療機関は、たとえば待合室が特別仕様であるなど、環境面での差別化を図っている。対応施設が増加している状況は、快適性や利便性に対するニーズの高まりを受けて、「待ち時間なしで受診できる」だけでなく付加価値を創造して患者を確保しようという動きが加速していることを示しているといえる。
なお、時間外診療で選定療養費を請求している医療機関は、2016年から2017年の1年間で急増。2014年7月1日時点で323施設、2015年7月1日時点で342施設、2016年7月1日時点で357施設と緩やかに伸びてきたが、2017年7月1日時点では411施設と前年度比で2割近く増えている。徴収額の平均は2,789円で、最低額は200円、最高額は16,200円。緊急性の低い患者が時間外診療を希望するのを減らし、救急医療の機能向上をめざす動きが進んでいることが明らかとなっている。
◆「医療経済実態調査」、回答医療機関に経営状況をフィードバック
有効回答率アップのためのインセンティブ 回答負担軽減策も
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会 調査実施小委員会
厚生労働省は、11月14日の中央社会保険医療協議会の調査実施小委員会で、「医療経済実態調査」の有効回答率アップのため、回答した医療機関に経営状況をわかりやすくフィードバックする方針を明らかにした。複数の回答負担軽減策も提示している。
「医療経済実態調査」は、2年に1回実施されており、「医療機関等調査」と「保険者調査」の2調査で構成されている。「医療機関等調査」は、病院や一般診療所、歯科診療所および保険薬局の経営実態を明らかにするのが目的で、「保険者調査」は医療保険の保険者の財政状況を把握することが目的。いずれも、診療報酬を改定するうえで重要な基礎資料となる。
にもかかわらず、これまでの調査の有効回答率は決して高いとはいえない。2017年の調査では、回答率が65.8%、有効回答率は56.2%にとどまっている。これは一過性の現象ではなく、2015年調査の有効回答率は52.4%、2013年調査は53.1%とむしろ向上している。それでも6割未満というのは、標本調査と考えれば非常に低く、医業経営の実態を十分に反映しているとは言い難い。さらに、回答率と有効回答率の差が10ポイント近くあるのも見逃せないだろう。一概にはいえないが、1割近くの医療機関がいい加減な回答をしていると受け取れる状態だ。
とはいえ、診療などの業務に追われる医療機関にとって、項目数の多い調査に回答するのが面倒だというのは理解できる。そこで、回答の手間をかけるだけのインセンティブを用意しようというのが厚労省の考えだ。10月に開催された調査実施小委員会では、「経営状況を一般的な経営指標と比較して見える化する」といった意見も出されていたが、この日示された対応案では「経営状況を分かりやすくフィードバック」とするにとどめており、具体的にどのような形でフィードバックがなされるかは未知数。回答率アップとともに回答の精度を上げるためには、医療機関側にメリットを感じさせる設計とするのが求められるだけに、今後より詳細な内容が詰められることを期待したい。
また、回答負担軽減策としては、フォントやレイアウトを工夫して見やすく記入しやすい調査票にするほか、税理士や公認会計士に助言を求めて項目のブラッシュアップも実施。誤記入防止の意味も込めて電子調査票の利用も促していくとしている。
◆消費税増税に伴う来年度の臨時薬価改定は10月実施に一本化 4月と10月の「2段階改定」は行わず 新薬創出等加算も適用
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会薬価専門部会
厚生労働省は、11月14日の中央社会保険医療協議会薬価専門部会で、消費税増税に伴う来年度の臨時薬価改定を10月実施に一本化する方針を示し、了承された。新薬創出等加算も適用される方向で、改定時期は年末の予算編成を経て正式決定される。
現在、薬価の改定は2年に1回、4月に行われている。今年度実施されたため、通常ならば次回の改定は2020年4月となるが、消費税の増税が2019年10月に実施されることから、イレギュラーな臨時改定が必要となった。なぜならば、診療報酬は非課税のため、医療機関や調剤薬局は仕入税額控除を受けることができないからだ。運営上の仕入れでは消費税を負担しているため、それに相当する額をこれまでも診療報酬で補填してきた。
薬価は、より適切な値にするため市場の実勢価格を反映させており、通常は改定前年度の9月に薬価調査を実施してその結果を反映させている。10月の消費税増税の直前に薬価調査が行われることになるため、実勢価格を反映できない。そのため厚労省は、実勢価格を反映させた薬価改定を4月に済ませて、10月の改定では消費税分の上乗せのみの対応とする「2段階改定」の実施も視野に入れていた。
しかし、同一年度の「2段階改定」は、実勢価格を反映できない恐れも大きい。2020年4月に通常改定を控えているため、事実上1年間で3回の改定を行うこととなり、薬局のみならず医療機関側のシステムも更新しなければならず、かなりの負担が生じてしまう。実勢価格が固まるまでには、改定後ある程度の時間を必要とすることも踏まえれば、10月の臨時改定で実勢価格改定と消費税分の上乗せを同時に行うのが「自然である」というのが厚労省の意見だ。
そのうえで、臨時改定では「実勢価格に基づく薬価引き下げ」を補正するルールを適用する。後発品が出現するまで、あるいは上市から15年を経過するまでの医薬品が対象となる新薬創出等加算も、その対象となるため適用される。ただし、今年度改定以降に後発医薬品が収載されて対象外となった品目は「同加算の対象としない」としており、製薬会社に対して厚労省が配慮した形となっている。
◆「医療のかかり方ホームページ」は救急・小児の分野から着手 「どの医療機関にかかるべきか」判断できる仕組みの整備も検討
――厚生労働省
上手な医療のかかり方を広めるための懇談会
厚生労働省は11月12日、「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」で、適切な受診を国民に周知する情報をまとめるウェブサイトとして開設を予定している「医療のかかり方ホームページ(仮)」は、救急・小児の分野から着手する方針を明らかにした。また、医療機関に関する情報も掲載して「どういう症状の時にどの医療機関にかかるべきか判断できる仕組み」を整える意向も示している。
「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」は、安心して必要な医療を受けられる環境を整えることを目的として立ち上げられた。医療の質や安全性の確保を進めつつ、医療費の適正化を図るためには、医療機関向けの取り組みだけでなく患者側の「医療リテラシー」の醸成が必要との判断だ。10月に第1回会合が開かれ、第2回目の今回は、そのときに寄せられた意見をもとに方向性を示した形となった。
情報を不特定多数に伝達する媒体として、今やウェブサイトは必要不可欠な存在。そこで真っ先に着手するべき分野として救急・小児を挙げたのは、「時間外において小児の受診頻度が高いというデータもある」ことが理由だ。厚労省は、2016年度診療分のレセプト情報・特定健診等情報データベースを提示。時間外診療を受けた年代を見ると、0~4歳が約25万人、5~9歳が約16万人、10~14歳が約12万人。他でこれらを超えた年代はなく、70歳以上はむしろ少なめだ。一方、時間内診療ではもっとも多いのが80~84歳となっており、70~89歳のゾーンが多い傾向にある。
これは、乳幼児・小児が夜に発熱しやすい傾向にあることが関係していると思われる。実際には軽度の症状であっても、体温計が示す数値が高ければ心配になって救急窓口を訪れるのが親の心理であり、「どんな症状のときに救急受診すべきか」という目安を示す必要があるのは確かだ。そうしたことも踏まえ、厚労省は「すでにエビデンスが得られている情報」を整理して発信する方針も打ち出している。併せて「「どういう症状の時にどの医療機関にかかるべきか判断できる仕組み」も搭載すれば、緊急度の低い患者が時間外診療を受ける比率も減ることが期待できるというわけだ。
なお、ウェブサイト開設の前に、既存の相談窓口である「子ども救急電話相談事業(#8000)」と「救急相談センター(#7119)」の周知徹底に取り組む方針も確認された。電話をかけることにハードルを感じる人向けにアプリを活用する案や、これらの「緊急ダイヤル」をリスト化してマグネットにして「冷蔵庫に貼る」ことを推奨する案も出された。こちらはウェブサイトよりも直接的な啓蒙につながることが予想されるだけに、どのタイミングで具体化されるのか着目していきたい。