ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2019年7月4日号)
◆「骨太の方針」を閣議決定 給付・負担問題は来年度へ先送り 参院選を見据え、賛否が分かれる部分は盛り込まれず
政府は6月21日、いわゆる「骨太の方針」を閣議決定した。これまで経済財政諮問会議で再三打ち出してきた医療・介護費の自己負担割合の見直しについては、来年度の「骨太の方針」で取りまとめると明記。国民の負担が増すことがストレートに伝わる施策を先送りにしたことで、政府・与党が7月21日に投開票となる参議院議員選挙への影響を考慮し、必要以上の反発を避けたいとの意向を持っていることが透けて見えた形だ。
今回の「骨太の方針」の正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society5.0』への挑戦~」。しかし、内実は「挑戦」とはほど遠い。自己負担割合の見直しを先送りにしただけでなく、最低賃金引き上げでも具体的な年率目標を明示せず、当初は盛り込まれる予定だった私的年金の活用後押しについても、「老後2,000万円問題」を受けて表現を削除した。「骨太の方針」は年末に向けて行われる予算編成の土台となるわけだが、少なくとも来年度予算は新味に乏しい内容となりそうだ。
診療報酬に関する部分も、参議院議員選挙を意識してか、与党の大票田となる日本医師会に配慮した形となっている。全75ページの中で、「診療報酬」が登場するのは8カ所のみ(介護報酬は1カ所)。「適切に改善を図るとともに、適正化・効率化を推進」としたほか、「診療報酬・医薬品等に係る改革」との項目では、「高齢者への多剤投与対策、生活習慣病治療薬の費用面も含めた適正な処方の在り方については引き続き検討を進める」と触れたのみ。むしろ、薬価・調剤報酬の引き下げを行いたい意向をにじませている。
診療報酬でわずかに改革への姿勢を示したのは、オンライン診療と地域独自の診療報酬についてだ。オンライン診療については、「診療報酬での対応を検討」とより手厚い評価にすることを匂わせており、地域独自の診療報酬については「都道府県の判断に資する具体的な活用策の在り方を検討」としている。しかし全体的には、次期改定を迎える年度の予算編成の土台としての役割を果たせる内容とはなっていない。茂木敏充内閣府特命担当相が「給付・負担の検討は概算要求後に」と述べたように、参議院議員選挙後の状況を踏まえたうえで、8月下旬以降の動きに注目する必要があるだろう。
◆日本産科婦人科学会、新型出生前診断の新指針運用を見送り
要件緩和による施設増加に厚労省が「待った」 今秋に審議会設置
――公益社団法人日本産科婦人科学会
日本産科婦人科学会は6月22日、同日に決定予定だった新型出生前診断(NIPT)の新指針の運用開始を見送ると発表。新指針の運用が開始すれば、検査の認可施設が大幅に増加する見込みだったが、前日の21日付けで厚生労働省から「国においてもNIPTに関する審議会を設置し必要な議論を行うので、(新指針運用開始の)実施についてはその議論を踏まえて対応されたい」との要望書が届いたことで方針を変更した。
新型出生前診断(NIPT)は、妊婦の血液から胎児のDNAを分析し、ダウン症など染色体数の異常が原因となる疾患の可能性を調べる。従来、主流だった母体血清マーカー検査は妊娠15~17週の間に実施していたが、NIPTは10週前後から検査可能で、流産の危険性もないとされている。認可施設は日本産科婦人科学会が指針を策定した2013年には15施設だったが、現在は92施設まで広がった。
一方、高齢出産の増加によるニーズの高まりを受け、無認可施設での診断が横行しているのが実情だ。学会の指針に違反しても罰則がないため、強制力が働かないことがその背景にある。また、自費診療で自由に価格が定められるほか、実際の業務は採血とカウンセリングのみにもかかわらず“相場”が20万円程度と比較的高額なこともあり、参入者が増えている。中にはカウンセリングを行わず診断結果のみが送られてくるクリニックもあり、問題となっていた。
日本産科婦人科学会が新指針を策定に踏み切ったのは、こうした状況を受けてのものであり、ニーズに対応しつつ、診療の質を担保するのが目的だった。しかし、昨年9月までに認可施設で「陽性」が確定した886人のうち、9割以上が中絶を選択していることもあり、施設増加を促す内容に対して「命の選別を助長する」と日本小児科学会や人類遺伝学会が反発。そこでようやく厚労省が重い腰を上げた格好だ。根本匠厚労相は、6月25日の閣議後会見で「関係学会の意見が分かれることになれば、妊婦等への不安が広がりかねない」として、今秋に審議会を設置してNIPT検査に必要な議論をしていくと明言している。一方で、いつまでに結論を出すといった目途については明確な回答をしておらず、生命観の根幹に関わる繊細な問題だと認識していることが窺える。とはいえ、無認可施設での検査を取り締まることもできない状況がいつまで続くのか、不透明なままで済まされるはずもないため、審議会での議論の行方に注目したい。
◆MRIの共同利用はわずか6% 約4割が「今後も意思なし」 医療機器の効率利用を進めるため単独利用の撮影料引き下げも
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会総会
厚生労働省は、6月26日の中央社会保険医療協議会総会で、MRI機器の共同利用の現状を把握するため実施した厚生労働科学研究の調査結果を公表。MRIの共同利用を行った医療機関が6%にとどまったことが明らかとなった。共同利用を行わなかった医療機関の約4割は「今後も施設共同利用を行う意向はない」と回答しており、高額医療機器の効率的な運用が進んでいない現状が浮き彫りとなった。
政府および厚労省は、地域包括ケアシステムを構築するうえで、病床の機能分化と連携を進めて効率的な医療提供体制の実現を目指している。高額医療機器の適正利用も重要なテーマのひとつで、「地域ごと」「医療機器ごと」の必要台数を把握し、医療機器を持つ医療機関を地図情報にして可視化する取り組みを行う方針も固められている。
こうした取り組みを行う背景にあるのが、CTやMRIの非効率な活用状況だ。OECDの2018年調査によれば、日本のCTおよびMRIの「1台当たり検査数」は先進国最少。つまり、設置台数は先進国の中でも多いといえる。しかし、2014年の医療施設調査によれば、マルチスライス型CTや1.5テスラ以上のMRIを設置していながら、1カ月当たりの検査数がゼロの医療機関も少なくない。まさに“宝の持ち腐れ”ともいえる状況となっているのである。
そこで、共同利用を促すことでリソースを有効活用しようと考えた厚労省は、2016年度の診療報酬改定で、CTおよびMRIを共同利用した場合に加算される仕組みを導入。ただ、CTもMRIも20点しか加点されなかったことや(64列以上のマルチスライス型機器の場合1,000点→1,020点、3テスラ以上のMRIの場合1,600点→1,620点)、MRIの場合3テスラ以上でなければ加点されない要件がハードルとなり、活用が伸び悩んだと思われる。
今回、厚労省は「共同利用を推進するにはどのような対応が考えられるか」と投げかけるにとどまったが、前述した状況を踏まえれば、方策は「3テスラ以上」の要件を緩和するか、共同利用の加点を増やすしかない。日々進化している医療の現状を鑑みれば前者を選ぶ可能性は低く、共同利用を手厚く評価する方向になると考えるのが自然だろう。しかし、医療費の抑制が至上命題となっているため、一方だけを上げる落着はありえず、単独利用の診療報酬を引き下げることになる。そうなると、救急医療や急性期医療にしわ寄せがいく形となるため、どのあたりで線引きをはかるのか、厚労省の舵取りが問われることになりそうだ。
◆医薬品のフォーミュラリー、次期改定で作成へ 診療報酬での評価は診療側・支払側とも否定的
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会総会
厚生労働省は6月26日の中央社会保険医療協議会総会で、医薬品の「フォーミュラリー」を2020年度の次期診療報酬改定で作成する方針を提示。診療側委員・支払側委員ともに診療報酬で評価する点についてはともに否定的な姿勢を示したものの、「フォーミュラリー」を作成する方針自体は支持した。
日本ではまだ定着していない「フォーミュラリー」。アメリカの病院薬剤師会では「疾患の診断、予防、治療や健康増進に対して、医師を始めとする薬剤師・他の医療従事者による臨床的な判断を表すために必要な、継続的にアップデートされる薬のリストと関連情報」と定義されている。それを受け、厚労省は「一般的には『医学的妥当性や経済性を踏まえて作成された医薬品の使用方針』を意味する」としている。要するに、「医学的にも経済的にも妥当性の高い医薬品のリスト」ということになろう。
厚労省は、資料として「院内フォーミュラリー」「地域フォーミュラリー」の事例を提示。「院内フォーミュラリー」としては浜松医科大学医学部附属病院と聖マリアンナ医科大学を挙げている。
浜松医科大学医学部附属病院は、経済性のみならず採用薬の治療効果や注意事項を事前に評価することで、簡便かつ効率的な治療を目指している。これまで、抗インフルエンザウイルス薬や経口抗菌薬など13薬効群で院内フォーミュラリーを作成した。聖マリアンナ医科大学は、既存治療のある薬剤についての費用対効果を重視。採用品目の絞り込みによって薬剤費を抑制できるほか、重症例や難治症例に対して有用な新薬を使用できる環境の維持につなげたいとしている。
いずれも興味深い取り組みで、院内ということもあってアプローチしやすいのが特徴だ。一方で、院内フォーミュラリーは地域の他病院や診療所、保険薬局との連携まではカバーできないのが難点でもある。そこをフォローしているのが、「地域フォーミュラリー」を作成している日本海ヘルスケアネットだ。興味深いのは、日本海ヘルスケアネットが山形県酒田市の地域医療連携推進法人であること。枠組みとして同意形成がしやすい連携法人であるからこそ、地域でのフォーミュラリー作成が可能となっているのである。実際、導入効果は出ているとのことで、ポリファーマシーの削減により医療費が減り、必然的に患者の自己負担額も減少。また、基幹病院が地域フォーミュラリーに参加することで、「紹介・逆紹介」を経て薬剤の使用品目が収束し、患者管理がしやすくなっているという。結果的に薬剤費用も在庫も減らすことができ、経営改善に寄与している。
また、病院薬剤師と薬局薬剤師の「薬薬連携」が密になり、服薬指導も効率化。そして、多品種少量在庫が解消し、薬剤購入の計画性も向上しているという。薬剤そのものに関する経済性にとどまらず、医療機関全体の経営につながり、また地域での連携の軸ともなりうるだけに、「フォーミュラリー」は今後の医療経営の重要なキーワードになるかもしれない。