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介護経営情報(2019年7月5日号)

2019/7/29

◆地域密着型通所介護、45.5%が赤字 福祉医療機構調査 特養併設型は加算算定率も収益も高い傾向

――独立行政法人福祉医療機構
福祉医療機構は6月28日、2016年度の通所介護事業所の経営状況に関するリサーチレポートを公表。地域密着型通所介護は45.5%と半数近くが赤字となっていることが判明した。設置形態別の比較では、特養併設型の要介護者利用割合や要介護度、主要な加算の算定率が高く、利用者1人1日あたりの収益も単独設置型に比べて高い傾向があることも明らかになっている。

福祉医療機構は、貸付先から提出された財務諸表データをもとに経営状況の分析を行っている。今回の調査の対象となったのは、4,238施設。そのうち72.0%が通常規模型で、利用定員18名以下の地域密着型は18.2%、大規模型(I)は6.4%、大規模型(II)は3.4%となっている。収益を示す「サービス活動収益対サービス活動増減差額比率」は、地域密着型が2.1%と4区分の中でもっとも低かった。ちなみに通常規模型は6.4%、大規模型(I)は11.8%、大規模型(II)は12.6%。一方で赤字割合は、地域密着型が前出のとおり45.5%、通常規模型が35.1%、大規模型(I)が15.8%、(II)が15.4%となっている。

つまり、事業規模が大きくなるほど収益が高くなり、黒字にしやすくなっているわけだ。では、通常規模型の“単価”が低いのかといえば、そういうわけではない。実は、“単価“にあたる「利用者1人1日当たりサービス活動収益」は、地域密着型が4区分の中でもっとも高い9,764円。通常規模型が9,202円、大規模型(I)が9,469円、大規模型(II)はもっとも低い9,173円となっている。では何が原因かといえば、“効率の悪さ”だろう。サービスに対してどの程度の労力を費やしているかを示す「利用者10人当たり従事者数」は、地域密着型が7.01人ともっとも高い。それに対して、赤字割合の低い大規模型は(I)が5.29人、(II)は4.94人となっている。ちなみに、人件費率は地域密着型が68.9%、通常規模型が66.3%、大規模型(I)が63.2%、大規模型(II)が60.4%。「従事者1人当たり人件費」は地域密着型が2,846円、通常規模型が3,350円、大規模型(I)が3,669円、大規模型(II)が3,654円となっており、構造的な問題であることがわかる。赤字施設のほうが「従事者1人当たり人件費」が高いことも明らかとなっており、経営改善にはより一層の効率化が不可避であることを如実に示している。冒頭で触れたように、特養併設型の収益が単独設置型よりも高いのも、人件費が嵩むことが主な要因となっている。現在、政府は社会福祉法人の連携推進に力を注いでいるが、裏を返せば、スケールメリットを活かさない限り、とりわけ地域密着型通所介護の経営は厳しさから逃れられないのではないか。

◆福祉施設の2018年度建設費、特養の平米単価は過去最高をマーク 東京五輪や相次ぐ自然災害の影響で施設整備を取り巻く環境は厳しい

――独立行政法人福祉医療機構
福祉医療機構は6月28日、2018年度の福祉・医療施設の建設費に関するリサーチレポートを公表。ユニット型特別養護老人ホーム(特養)の平米単価は過去最高となった。来年開催される東京オリンピック・パラリンピックや、首都圏を中心に再開発が進んでいること、地震や豪雨などの自然災害が相次ぎ資材が高騰していることなども影響しており、同レポートでは「施設整備を取り巻く環境は厳しい状況が続いている」としている。

このレポートは、福祉医療機構の貸付先データから、ユニット型特別養護老人ホーム、保育所および認定こども園、病院、介護老人保健施設(老健)の建設費の状況を取りまとめ、分析したもの。近年上昇傾向にある平米単価は、すべての施設で上昇していることが示されている。特養が29万1,000円(前年度比1万3,000円増)、保育所および認定こども園が33万6,000円(同7,000円増)、病院が36万5,000円(同1万9,000円増)、老健が31万2,000円(同3万9,000円増)。とりわけ首都圏の平米単価は高く、特養のそれは32万4,000円と前年度から1万9,000円増。地域別に見て平均値を上回っているのは首都圏だけだった。

「定員1人当たり延べ床面積」は、全国平均は48.0平米と前年度から0.5平米増加しているが、首都圏は43.9%と前年度から1.9平米減少。1畳分以上が減っている計算であり、平均単価の上昇を受け、建設費を抑制するために1人当たりの面積を減らしている現状が浮き彫りとなった。一方で、「定員1人当たり建設費」は全国平均、首都圏ともに上昇。全国平均が1,343万8,000円と前年度比34万5,000円増、首都圏は1,368万3,000円と前年度比60万3,000円増となっている。

こうした状況について福祉医療機構は、前述したような東京オリンピック・パラリンピックや首都圏の再開発ラッシュによる建設需要の高まりとともに、建設業界で深刻化している人手不足問題や、高力ボルトなどの建築資材不足が目立ったことも要因に挙げた。また、2018年はこれも前述したように自然災害が多発。死者224人の「平成30年7月豪雨」や、最大震度7が観測され死者42人、負傷者762人を出し、大規模停電も起きた「北海道胆振東部地震」の復興のため、資材の高騰や工期の遅延が起きているのも大きい。しかし、今後さらに介護需要は高まることが予想されるため、耐震化工事をはじめとした施設整備は欠かせない。厳しい状況を踏まえたうえで整備計画を進め、資金調達を図っていく必要があるといえよう。

◆新たな介護データベース「CHASE」の収集項目、絞り込み案を提示    現場の負担軽減のため 夏頃までに最終版が提示される予定

――厚生労働省
科学的裏付けに基づく介護に係る検討会
 厚生労働省は、6月21日の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」で、2020年度から稼働する新たな介護データベース「CHASE」の収集項目の選定に向けたヒアリングを実施。3月に行われた同検討会の中間とりまとめでは、265項目のデータを格納する方針を固めていたが、さらなる絞り込みを行った。座長の鳥羽研二国立長寿医療研究センター理事長をはじめとする構成員4名がそれぞれの案を提示。厚労省が意見をとりまとめたうえで、収集項目の最終版を夏頃までに示す予定だ。

 収集項目の絞り込み案を提示したのは、鳥羽座長のほか松田晋哉産業医科大学公衆衛生学教室教授、海老原覚東邦大学医療センター大森病院リハビリ科教授、利光久美子愛媛大学医学部附属病院栄養部部長。

まず、松田構成員が「総論」項目について提示。骨折や誤嚥性肺炎などの感染症、認知症、褥瘡、脳卒中、虚血性心疾患など主要な既往歴は必須としたうえで、ADL、IADLについては類似項目が重複している点を指摘。介護報酬のADL維持等加算・通所リハビリマネジメント加算IVで共通指標として採用されているBarthel Index(BI)を最小限の項目としながら、評点の対応表を研究・作成する必要性があるとした。また、CHASEで収集するデータは個人レベルの科学的介護のみならず、地域単位の評価にも活用するべきとして、既存の公的仕組みの調査項目と類似した項目については同フォーマットにするべきだと訴えている。さらに、介護サービスの生産性向上には事務作業の省力化が不可欠として、外国人労働者が増加することを見据えた項目の絞り込みと、用語およびその評価の明確な定義付けが必要だとした。

 次に、「認知症」項目について鳥羽座長が提示。「スクリーニング」と「ケア」に関する項目を収集する必要があると整理したうえで、ケアの効果を判定する指標について注文をつけた。現在、認知症行動障害尺度(Dementia Behavior Scale: DBD13)および意欲の指標 (Vitality Index)が用いられているが、日常の評価に活用することを踏まえて「より簡易な評価指標をモデル事業等において検討していくべき」と提言。意欲や基本的ADLなどを7項目の質問および観察項目で行う「高齢者機能評価簡易版(CGA7)」や、22項目で構成される「Zarit介護負担尺度」を簡易的な評価指標の参考として示している。

 次に「口腔・嚥下」について提示した海老原構成員は、収集項目を3種に大別するべきと提言。「できるだけ多くの事業者から収集すべき項目」「加算対象など特定の事業者から確実に収集すべき項目」「収集項目として必要性があるものの、まずは、モデル事業等の対象とすることが必要である項目」に分けた。「口腔・嚥下」の「できるだけ多くの事業者から収集すべき項目」としては、「食事の形態」「誤嚥性肺炎の既往」を挙げている。とりわけ後者の誤嚥性肺炎の発症は、経口摂取の維持が困難と判断する基準となっているため重要なポイントといえる。また、モデル事業の対象とすべき項目としては、「主食、副食、水分の摂取形態」を挙げた。特に、「きざみ食」「とろみ」といった形態は施設によって基準が異なるため、用語の統一を含め、実際の利用状況を踏まえたうえで一定のコンセンサスを得なければデータとして活用できなくなると指摘している。

 最後に利光構成員が「栄養」項目について提示。身長・体重・提供エネルギー量・提供たんぱく質量・摂取主食割合・摂取副食割合・栄養補給法・食事の留意事項(内容、食形態等)・血清アルブミン値を必須としたうえで、「経口移行加算」「経口維持加算」の算定可否やフレイルチェックになる「指輪っかテスト」なども収集が望ましいとした。そのうえで、介護現場の視点として、事務処理に時間を要していること、評価基準が明確でないのに責任を課せられる現状を踏まえ、入力項目に不足があった場合はアラートが鳴る仕組みにすることや、入力データの評価が一目でわかるようにすることなどを提言した。

実際に「CHASE」が稼働し、介護事業所の入力が必要になれば、介護報酬でそのインセンティブが検討される可能性が高い。現在、通所・訪問リハビリテーションを対象とするリハビリテーションマネジメント加算IVでは、通所・訪問リハのデータ収集事業である「VISIT」へデータを提出すると通所リハで900~1,220単位/月、訪問リハで420単位/月が算定できる(3ヶ月に1回の算定まで)。同水準の加算ができることが期待できるため、収集項目がどこまで抑えられるかは介護事業所にとっても関心を寄せるべき事項だろう。

◆居宅介護支援事業所の約9割が「介護離職防止はケアマネの役割」と認識    居宅サービス利用の柔軟性を高めるべきとの意見も多数 日経調調査

――一般社団法人日本経済調査協議会
 日本経済調査協議会(日経調)は6月24日、「『介護離職』防止のための社会システム構築への提言~中間提言~ケアマネジャーへの調査結果から」と題した調査報告を公表。居宅介護支援事業所の89.4%が「介護離職防止はケアマネジャーの役割」と認識していることが示された。また、介護離職防止を支援するうえで改善が必要と思うことについての設問では、92.0%が「居宅サービスの利用を柔軟にできるようにすべき」と回答。これらを踏まえ、日本経済調査協議会の研究班は、家族介護者への支援を介護保険制度の目的として位置づけるとともに、一定規模の企業には、介護と雇用継続を支える「産業ケアマネジャー」の存在が必要であると提言した。

 政府は成長戦略のひとつとして「介護離職ゼロ」を掲げているが、総務省の「平成29年就業構造基本調査結果の概要」によれば、9万9,000人が介護離職している(男性が2万4,000人、女性が7万5,000人)。では、実際にケアマネジメントを利用した家族介護者の状況はどうか。今回の日経調調査によれば、70.0%の事業所が「介護離職者はいない(いなかった)」、30.0%の事業所で「介護離職者がいる(いた)」と回答している。

この30.0%という数字をどう捉えるかは認識の分かれるところだろうが、「その方の働き方を変えたら、介護離職を防げたと思われるケースがあったか」との設問に42.6%の事業所が「可能性があった」と判断している点に注目したい。これを踏まえると、「介護離職防止はケアマネジャーの役割」と考えている事業所が約9割に達していることの意味が重みを増してくる。また、「介護離職防止はケアマネジャーの役割とは思わない」と回答した10.6%が、その理由について「家族間の問題に介入する責任は持てない」「他の業務が多く離職防止まで対応できない」と回答している点に、ケアマネジャーが現場で抱えるジレンマを読み取ることができよう。

これらの調査結果を踏まえ、日経調の研究班は現行制度の問題点を指摘。介護保険制度が介護必要度のみに焦点を当てて給付額を調整する仕組みのため、家族介護者の健康や就労状況、ダブル介護を含む介護困難性が勘案されず、家族介護者を支援するレスパイト機能が弱いとして、前述したように制度の改善を求めている。介護離職防止をケアマネジャーが支援するうえで「居宅サービス利用の柔軟性を高めるべき」と回答している事業所が92.0%もいるのも、家族介護者の負担軽減のために必要だとケアマネジャーの視点で痛感しているからではないか。

なおこの調査は、日経調の研究班である介護離職問題調査研究会(主査:結城康博淑徳大学教授)によって行われた。千葉県内にあるすべての居宅支援事業所(1,866事業所)を対象とし、有効回答率は42%だった(783事業所)。

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