ホーム > FAXレポート > 医院レポート > 医療経営情報(2019年7月25日号)
◆次期診療報酬改定に向けた議論の第1ラウンドが終了 「定額負担の対象病院拡大」「働き方改革の扱い」が焦点に
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会 総会
厚生労働相の諮問機関である中央社会保険医療協議会は、2020年度の診療報酬改定に向けた議論の第1ラウンドを終えた。7月24日に開かれた総会では、第1ラウンドの内容を整理。秋からの第2ラウンドで、「定額負担の対象病院拡大」「働き方改革の扱い」などが議論の焦点となることが改めて浮き彫りとなった。
第1ラウンドの議論は、大きく分けると患者の疾病構造や受療行動を踏まえた「年代別の課題」と「昨今の医療と関連性の高いテーマ」の2点から行われた。「年代別の課題」は、「乳幼児期~学童期・思春期」「周産期」「青年期~中年期」「高齢期」「人生の最終段階」に分けて議論。その中でも「働く世代」「高齢者」の2つがクローズアップされ、前者ではこれまで重視されてきた生活習慣病対策以外に「女性に多く見られる疾患」への対応や、「働きながら治療ができるようにすること」を重要視。安倍晋三首相が参議院議員選挙後の会見で「70歳までの就業機会を確保する」と述べたが、社会保障制度を維持するための方策として現役世代の底上げを図る狙いがあるのは明らかであり、それを医療体制でもバックアップすることにつながりそうだ。
「昨今の医療と関連性の高いテーマ」として取り上げられたのは、以下の8項目だ。
・患者・国民に身近な医療の在り方
・働き方改革と医療の在り方
・科学的な根拠に基づく医療技術の評価の在り方
・医療におけるICTの利活用
・医薬品・医療機器の効率的かつ有効・安全な使用
・地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方
・介護・障害者福祉サービス等と医療の連携の在り方
・診療報酬に係る事務の効率化・合理化及び診療報酬の情報の利活用等を見据えた対応
いくつか注目ポイントをピックアップすると、「患者・国民に身近な医療の在り方」では医療機能分化・連携を強化するため、定額負担の対象病院のさらなる拡大が議論の俎上に載せられた。その背景には、紹介状なしで大病院を外来受診する患者が減っている現状がある。昨年度の改定で定額負担の対象は500床以上から400床以上に拡大したことによってその傾向に拍車がかかったこともあり、次期改定でさらなる見直しがなされる可能性が高い。むしろ焦点は病床数で、200床以上まで一気に拡大するのかどうか注目される。
「働き方改革と医療の在り方」では、診療報酬によって推進することに対する反対意見も出された。しかし、これまでも人員配置基準や医師事務作業補助体制加算などで事実上評価してきた実情もあり、加算の新設や要件の見直しなどを進めてタスク・シフティングの推進や書類作成など事務負担の軽減を図っていくことになるだろう。また、救急や小児科、産科など過重労働を強いられている診療領域への配慮として、現在凍結されている妊婦加算の見直し・名称変更も行われる方向で議論が進められている。
そのほか、「医療におけるICTの利活用」ではオンライン診療の対象拡大が議論されており、「医薬品・医療機器の効率的かつ有効・安全な使用」では、稼働していない医療機関もあるCTやMRIの共同利用推進のための加算要件見直しがなされる情勢となっている。
◆DPCから地域包括ケア病棟への転棟、“点数稼ぎ”のタイミングが多数
今後医療機関ごとの調査分析を実施 次期改定で点数設定見直しへ
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会 入院医療等の調査・評価分科会
厚生労働省は、7月25日の中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」で、より高い点数になるタイミングでDPC病棟から地域包括ケア病棟へ転棟する事例が多くなっていることを明らかにした。厚労省は今後、医療機関ごとに細かく状況を調査・分析していく方針を示すとともに、次期改定でDPCの点数設定を見直す必要性を示唆した。
問題となったのは「胸椎、腰椎以下骨折損傷(胸・腰髄損傷を含)手術なし(160690xx)」。DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟のタイミングで突出して多かったのが「入院9日目」だった。DPCは診断群分類ごとに入院期間に応じて3区分の点数が設定されており、「胸椎、腰椎以下骨折損傷(胸・腰髄損傷を含)手術なし」でもっとも点数が高いのは8日の「期間I」で3,014点。9日目以降は「期間II」となり、2,271点と743点も下がってしまう。しかも地域包括ケア病棟入院料は、入院14日まで2,708点であり、DPCの「期間II」よりも437点高い。つまり、入院してから8日間はDPC病棟で、9日目以降は地域包括ケア病棟で入院料を算定するのがもっとも“効率的に高点数を狙える”わけだ。
しかし、当然のことながら同じ「胸椎、腰椎以下骨折損傷(胸・腰髄損傷を含)手術なし」であっても、すべての患者が同様のタイミングで回復するとは限らない。高点数を狙うあまり、患者の状態を二の次にして転棟を決めているといわれても仕方のない状況といえる。厚労省は、分科会に提出した「DPC/PDPS等作業グループの分析についての報告」の中で、「DPCの点数設定方法により、入院期間が短くなる場合や、逆に長くなる場合があるのではないか」としており、点数設定の見直しをする必要性があることをにじませた。
とはいえ、入院期間をもとにした区分で点数に差をつけていることから、いくら設定を工夫しても同様のことは起こりかねない。そしてそもそも、地域包括ケア病棟の入院料が適切なのかという問題もある。新たに要件を設けるなどの策が講じられる可能性はあるが、結局は“いたちごっこ”になるだろう。ただ、SNSの普及で誰もが情報発信できる時代であることを踏まえれば、患者が恣意的な理由で転棟させられたことを広めるリスクも想定でき、このような目先の利益を追うやり方が取り返しのつかない事態に発展する可能性もある。同様の手法を用いている医療機関は、今回の問題提起を契機に見直しを図ったほうがベターではないだろうか。
◆地域包括ケア病棟入院料1・3の実績評価、見直しへ 「在宅患者訪問看護・指導料」などほぼ取得されていない要件が判明
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会 入院医療等の調査・評価分科会
厚生労働省は、7月25日の中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」で、昨年度の診療報酬改定後の地域包括ケア病棟入院料1・3の実績要件である在宅医療の提供状況を公表。「在宅患者訪問看護・指導料」「開放型病院共同指導料」を満たしている施設が極めて少ないことを指摘した。地域包括ケア病棟入院料1・3では、在宅医療に関する4つの要件のうち、少なくとも2つを満たさなければならないことになっているが、最低限の要件のみをクリアしている施設が大半であることが明らかとなり、実績評価そのものを見直す可能性が高まった。
入院料別の届出施設数・病床数を見ると、飛び抜けて増加傾向にあるのが地域包括ケア病棟入院料1だ(13対1、在宅復帰率7割以上、室面積6.4㎡以上。地域包括ケア病棟入院料3は在宅復帰率および室面積の要件がない)。そして、届出施設の約8割が急性期一般入院基本料を届け出ている。それ自体は、地域包括ケア病棟の役割のひとつが「急性期治療を経過した患者の受け入れ」である以上必然的ともいえる。しかし、昨年度の診療報酬改定では、「在宅で療養を行っている患者の受け入れ」、いわゆるサブアキュート機能を強化するため報酬体系の見直しを実施。以下の4点を「実績部分」として、満たした病棟を手厚く評価することになっている。
・自宅等から入棟した患者割合(1割以上)
・自宅等からの緊急患者の受入(3月で3人以上)
・在宅医療等の提供
・看取りに対する指針
今回、問題視されたのは「在宅医療等の提供」だ。これは、以下4項目のうち2項目を満たすことが求められている。
(1)在宅患者訪問診療料の算定回数が3月で20回以上
(2)在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料または精神科訪問看護・指導料Iの算定回数が3月で100回以上(2-1)、同一敷地内の訪問看護ステーションにおいて訪問看護基本療養費または精神科訪問看護基本療養費の算定回数が3月で500回以上(2-2)
(3)開放型病院共同指導料IまたはIIの算定回数が3月で10回以上
(4)介護保険における訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、介護予防訪問看護または介護予防訪問リハビリテーション等の介護サービスを同一敷地内の施設等で実施していること
昨年度の診療報酬改定後、この4項目の実施状況はどうなっていたのか。それを明確にしたのが、今回厚労省が提示した「平成30年度入院医療等の調査(施設票)」である。それによると、地域包括ケア病棟入院料1で(1)を実施した施設は86.6%。(4)は88.1%。それに対し、(2-1)は7.5%、(2-2)は16.4%、(3)は10.4%と少ない。この傾向は他区分でも同様で、地域包括ケア病棟入院料2は(1)が93.9%、(2-1)が15.6%、(2-2)は6.7%、(3)が0.0%、(4)が72.0%。地域包括ケア病棟入院料3は(1)(4)が100%、(2-1)(2-2)(3)が0.0%。地域包括ケア病棟入院料3は(1)(4)が50%、(2-1)(2-2)(3)が0.0%となっている。
つまり、同一敷地内で訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、介護予防訪問リハビリテーションの事業所を展開している医療機関が、地域包括ケア病棟入院料を算定していると判断できる結果となっているのだ。在宅患者への訪問診療を3カ月に20回以上行えば実績評価部分をクリアできるのだから、そうした医療機関にとってはまさに“渡りに船”だろう。しかし、診療報酬の設計としては不備があるのは明らかだ。サブアキュート機能を強化するためにも、要件の厳格化に踏み切ることになるのではないだろうか。今後の焦点は、現状の「4項目のうち2項目を満たす」から「3項目以上満たす」にするか、「在宅患者訪問看護・指導料」「開放型病院共同指導料」の取得を要件とした設計になるかに絞られることとなりそうであり、医療機関側は今から対策を講じておく必要があるだろう。
◆回復期リハ、「退棟後の医療提供」の手厚い評価を検討 入院料1での管理栄養士の配置は義務化の方向か
――厚生労働省
中央社会保険医療協議会 入院医療等の調査・評価分科会
厚生労働省は、7月25日の中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」で、回復期リハビリテーション病棟を退棟したのちの医療提供を手厚く評価する方針を示した。また、回復期リハビリテーション病棟入院料1は管理栄養士の配置が「望ましい」となっているが、次期改定で義務化したい意向もにじませている。
厚労省はこの日の会合で、昨年度の診療報酬改定後の回復期リハビリテーション病棟の状況を報告。ほとんどの施設で改定によって見直された要件がクリアされていることが明らかになった。要件が70%以上となっている在宅復帰率もおおむね高く、とりわけ回復期リハビリテーション病棟入院料1・2では85~90%がもっとも多いという結果になっている。入棟から退棟時のFIM(機能的自立度評価表)得点の変化を見ても、脳血管疾患患者で1~10点、多発骨折の発症患者は11~20点がもっとも多く、回復期リハビリテーション病棟におけるリハビリテーションが一定の効果を発揮していることが示された。
一方で、退棟後のリハビリテーションの必要性については、厚労省が実施した「平成30年度入院医療等の調査」によれば、回復期リハビリテーション病棟の約6割が「必要性あり」と回答。実際、約5割の病棟が退棟後1週間以内にリハビリを実施している。ADL維持・改善のためには継続したリハビリが必要であることは言うまでもないが、退棟後の対応は外来診療や介護保険サービスになるため、診療報酬上で十分な評価がなされているとは言い難い。今回、こうした実情が俎上に載せられたことで、次期改定で手厚く評価する方向で検討されることは間違いなさそうだ。
管理栄養士については、昨年度の改定で、回復期リハビリテーション病棟入院料1は「専任の常勤管理栄養士が1名以上配置されていることが望ましい」とされた。努力義務が課された格好だが、改定後の配置状況は82%に達している。配置要件がない入院料2~4でも約50%が配置されており、積極的な雇用が進んでいることが明らかになっている。この状況を踏まえ、この日の会合では「入院料1では義務化するべき」との意見も出された。点数の高い入院料1への算定ハードルを上げ、医療の質を上げることにもつながることから、義務化される可能性は高そうであり、入院料2~4でも努力義務が課せられることになるのではないか。